ED傭兵、清純系幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、硬派で誠実と勘違いされドロドロに執着されるし〜 作:ぞうきん
それは偶然だった。
ちょっとした依頼を終えて、ギルドに寄って報酬を受け取り、家路について。
それで……同じ依頼を受けていたカップルの冒険者を見て、なんだか気分が沈んだんだよな。目の前でイチャイチャしてさ。当てつけかって。
……だから今日は早く帰りたくて、いつもは通らないスラムの路地を通り抜けようとして。
そして、それを見つけた。
「――ぃ、イヤっ……。来ないで……っ!」
「ハ……いや、いや、無理だろ……。こんなとこで淫魔見つけるなんて、俺もついてらぁ……!」
あれは。地面に尻餅をついたまま、必死に後ろへ下がろうとしてる桃色の髪の少女。それと、好色な表情を隠そうともせずに近づく汚らしい男が。
ッチ。おいおい、気分が悪いぞ。白昼堂々女を襲うって? それも相手はまだ……子どもだぞッ。
だが良かった、まだ決定的なことに及んではない。見たところ男は一人みたいだし、目立つ武器も持ってないし。
……よし。それじゃあ――
「――おい、そこの男」
「きひッ、淫…………ん? 淫魔じゃない? ……だれだァ!?」
「……淫魔? 俺がエロい女に見えるって? 冗談は顔だけにしろよ、下衆……ッ」
「あんだとぉ!?」
背後から声をかけた俺に振り向く男。
ていうか、大丈夫かこいつ? なんか目が血走ってるし、口の端から涎垂らしてるし。やばい薬でもやってる?
まぁ、いい。ただの強姦魔でも、薬物中毒の強姦魔でも、俺がやることは変わらん。
「おい、お前。さっさとここから去れ」
「……は?」
「聞こえなかったか? 去れ、と言っている。これ以上俺の前で見苦しい真似をするなら、その股間に風穴開くことを覚悟しろ」
腰の剣に手を添える。チャキ、と金属が擦れる音を聞いて、男の顔色が変わった。
「てめぇ冒険者か? いや、どっちかってえと傭兵か、その堅気じゃねえ雰囲気は。……へへぇ、その物騒なモノは抜かないでくれよ。なんだ、もしかしてあれか?」
「……?」
「おいおい、惚けやがって。そうだ、そうなんだろッ? お前も混ざりてえんだろ? ――この淫魔とのパーティによぉ!」
なんだ、こいつ? 淫魔ってさっきからなにを……って、もしかして。
俺は男の言葉に、その下卑た欲望に塗れた視線の方に、目を動かす。
そこにいるのは、スラムのチンピラに襲われかけて怯えているいたいけな少女が――
「巻き角に、尻尾……ッ!」
少女は、ただの人間の少女じゃなかった。
見た目、歳の頃は十三か十四くらいか? 肩口で揺れるザンバラ髪は、人間には珍しいピンク。角と尻尾は獣人なら珍しくもないが、どうも形が……その、確かに淫魔のソレと酷似してる。
極めて珍しい種族の、それも子どもがこんなところに?
「な? こんな珍しいこたぁねえぜ! スラムに淫魔のガキなんて、普通ならとうに人買いに連れ去られてる。だってのに俺たちの前に現れたからにはァ――――犯すしか、ねェよな!」
「ヒッ……!?」
涙に濡れた紫の瞳が俺を見る。そこにあるのは純粋な絶望。自らの運命を悟って、それでも受け入れられない、幼い少女の嘆き。
「さあ、ほら旦那ァ! 仕方ねえから一番は譲ってやるよ! 旦那みてえにデカくてゴツい男に暴れられちゃあ、俺じゃひとたまりもねえからなあッ」
「……」
俺は、男と少女の顔を一度ずつ見て。もう一度、ニタニタと気色の悪い笑みを浮かべる男に視線を戻すと。
――思い切り、拳を振り抜いた。
「ガ、ぁ!?」
吹っ飛ぶ男に、目を丸くする少女。
ハハ。スッキリするな、クズ野郎を吹っ飛ばすのは。
しばらく様子を窺うが、すっかり伸びて気を失ってるみたいだ。
それじゃあ、と。
「おい。娘」
「! なっ、なんですか……! あなたもわたしの……体を狙ってるんですかッ?」
違うわ。子どもは趣味じゃないし、仮にそうだとしても俺の体じゃ……いや、それはいい。それよりも。
「今のでちょっと目立っちまった。そこの男の言葉じゃないが、お前をここに置いておくのは危険すぎる」
「っ。それは……」
「少しだけ我慢しろ」
「え? ――ぁ、きゃあっ?」
少女を抱き上げる。
ちっさい体だ。もしかしてろくにメシも食えてないか? ……とりあえずは安全なところに連れていく。
ということで。
「ちょっ、と! 離してください! 下ろして――」
「しっかり掴まっていろ」
「え、きゃ、あ――」
力強く踏み込んだ足で、そこらの建物の屋根に上がる。そこからは簡単、ただ屋根の上を駆けるだけだ。
すでに周囲からいくつも視線を向けられてたからな。派手な音を出し過ぎたのもあるけど、もしかすると初めから様子を伺うハイエナどもがいたかもしれない。
だから、ひとまずは安全を確保できる場所――昔俺がスラムに住んでた頃の拠点へ。
そうして、胸の中で悲鳴が上がるのを聞きながら空を駆けることしばらく。見覚えある建物を見つけて、屋根の上から飛び降りる。
はぁはぁと息を荒らげる少女を下ろして言った。
「ここは、俺の昔の家だ。もともと人が少ない場所だし、さんざん周囲の奴らを脅したからな。誰も寄り付かん」
「!」
「来い。案内してやる」
お。素直に言うこと聞くな。なんか、やけに悲壮な顔してるのが気になるけど。
まあいいか。それじゃあ――
「入口はここだ。中に入ったら……あっちに家具を置いたリビングが、そっちは小さな竈もある調理場、でこっちは――」
部屋を巡って教えてやる。
でも、よかった。昔使ってた時とほとんど変わってない。そりゃ多少埃に塗れちゃいるが、家具とかはそのまま使えるし、隠してた非常食もいけそうだ。
とりあえずあの場では少女を助けたが、放っておいたらまた危ない目に遭うのは見えてた。だから。
「――これで、全部か。……この家は好きに使っていい。非常食も食えばいい」
「え……。いいん、ですか……?」
「あぁ。お前、家族は? いるなら、ここで一緒に住んだっていい」
「家族は……おかあさん、だけです。でも、もう……」
「……そうか。悪いことを聞いたな」
悲壮感が追加されちまった。いやごめん、スラムにいるんだから訳アリとは思ったけど、一応聞かんわけにもなあ。
しかし、親もいない幼い淫魔か。確かにひどく痩せぎすで、服もボロボロで、まともな生活できてなさそうだったが。
……こいつ放っておいて大丈夫かな。ちょっとした仕事くらい斡旋してやるか? いやでも淫魔だしな、そういうこと気にしないやつは誰だったか……。
そんなことを考えていた時だった。
少女の顔に、なにやら決意の色は灯る。幼くして悲壮な決断を下したような、そんな色が――
「あ、の……! どうか、わたしの面倒を見てくれませんか? その――――わ、わたしの体なら! 好きにしていただいて、構いませんので……っ!」
そんなことを言う少女の表情は、恥じらい、屈辱、恐怖、そんな感情がないまぜになったもので。まだ子どもながら、将来とんでもない美人になると約束されたような整った顔で俺を見つめていて。
それこそ、さっきのあいつみたいな少女趣味の男なら垂涎ものなんだろうな。淫魔は男を誘惑する特殊な魔力を持ってるはずだし、言われてみればこの少女もどことなく怪しい雰囲気が。
下手したら俺も、趣味じゃなくたって魅了されていたかも。そう思わされるだけの力が、この娘には確かにあった。
……ただ。ただし、だ。
現実に俺は、この少女に心を奪われてなどいない。そりゃ可愛いとは思うけども、さっきの男みたいに下卑た欲望になんか、まったく支配されちゃいない。
なぜならば。
いいか少女よ。いまお前が自分の体を売ると言った男はだな。
非常に、男として情けないことなんだが。
………………不能、なんだよ。
だから。
「分かった。……面倒は、見てやる」
「ほんとう、ですかっ。ありがとうございます……!」
「ただし、だ」
「! …………っわかってます。わたしから言ったんです。なんでも、言うことききます。……なんなら今からだって……っ」
「――いらん」
「………………え?」
「だから、それだ。お前の言う、体。それはいらんと言っている」
「!? 淫魔の、この幼くも蠱惑的な肢体が必要ないと? そう言うのですかっ?」
なんだその言い方。だから、もらったってなんもできないんだよ。んなこと本人には言わんが!
「た、たしかに。言われてちゃんと見てみれば…………わたしに、欲情している臭いが一切しない……! この人、本当に純粋な善意でわたしを……?」
欲情の臭い? そんなの分かるのか淫魔は! こわっ。
「こ、この世界にそんな男の人がほんとうに……? いえ、でも、たしかに目の前にいるこの人は……!」
なんか小さく早口でなんか言ってるけども。言った通り、俺は体目的で面倒を見ると言ってるわけじゃないの。……いや、そりゃ淫魔と仲良くなれば、あわよくばその力でED治して貰えないかなとか思ってはいるけど。
でもそれより…………親を亡くして、生きる宛もない子どもを目の前にして、放っておけなかった。
世界にこんなやつはごまんといるし、偽善だってのは分かってるけど。少なくとも、俺から手を出した以上、求められれば責任は全うせねば。
ということで。
「俺は、クレバー。傭兵のクレバーだ」
そう、名前を告げると。少女はどこかドキマギした様子で俺を見て。
「わ、わたしはっ。ヒュプノ、です!」
ヒュプノ、か。……なんか顔赤くしてるけど大丈夫か?
なんて思っていると。ヒュプノは依然取り乱した様子で、声を裏返しながら言うのだ。
「ふ、ふ――――不束者ですが! どうか、よろしくお願いします……っ」
……。
それ、嫁に入る時に言うやつな。まあ、いいけども……。
と、そうして。
一切の女っ気がない俺のもとへ、ちまっこい淫魔の少女がやってきて。
それがどれだけ大変なことなのか。俺がいったいどれだけヤバいもんに手を出したのか……それを自覚することもなく。
一人の傭兵が、幼い淫魔とともに暮らすことになったのだ――