ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜 作:ぞうきん
繰り返す破裂音。
皮膚を掠める鬼の爪。
――何度も鬼に突き刺さる、俺の拳。
「ッく、そぉ! 当たらない、どうして当たらないんだぁ!」
「殺気がビンビンに肌を刺すからなァ……! たまらん」
「はぁ? 殺気って、そんなふんわりしたものでこうも……ッ!」
そうか? ようく分かるぞ。殺気は口ほどに物を言うってな……!
ほら、それこそ昔勇者のやつも同じことしてたし。
ただ一つ、難点があるとしたら……。
「――分かりやすすぎて、すこしつまらんかァ?」
「ッ!? こ、の、! 下等なニンゲンの分際で……!」
おぉ。怒りでさらに力と速度が上がったなァ。いいぞ!
「そのニヤケ面を止めろぉ!」
回転率の上がった攻撃を、それでもなお捌く、捌く、捌く。いかに分かりやすくとも、これほどの密度の攻撃を避け続けるのは至難だ。
しかし、だからこそ――燃えるってもんだろ!
鋭すぎる上段の蹴りを僅かに退いて避ける。次いで、逃げた先に突き出される貫手は、腕の側面を叩きつつ身を捩って回避。シュテンは腕が流れる向きに回転して裏拳を見舞ってくるので、しゃがんで避けつつ鳩尾に拳を叩き込んだ。
「ぐ、ぶ……ッ」
ううむ。身体強化は使えなくなったから、風を破裂させて威力を上乗せしたが……やっぱりどうも効きがイマイチだな。シュテンに触れれば触れるほど魔力操作がおぼつかなくなってくし。
「効かない、ねぇ……! らぁッ!」
「おぉ、っと」
避けては反撃、避けては反撃、その繰り返しだ。
目玉への攻撃は、とっさに閉じた瞼に弾かれる。
顎への打撃は、身体能力に差がありすぎて脳が揺れなかったぽいな。
喉元はすこし効果あり。一瞬息が詰まって動きが止まったから、その隙に何連撃か入れられた。
あと……一番効いたのは金的だな! 男には共通の痛みだ。ショックで俺みたいにEDになっちまえ。
……と、そんなことを繰り返していると。
「――は、……ッハハハ! どうしたニンゲン、どんどん動きが鈍くなってくじゃないか! お前の攻撃なんて、もうひとつも効きやしないぞ!」
「さっき効いてたぞ。金的」
「う、うるさい! よくもあんな卑怯な手を……!」
あ、ちょっと距離取るな。
「ッうわ! ついて来るなぁ……!」
「俺の攻撃なぞ効かんのじゃないのか?」
「き、効かないとも! それにそんな鈍い動き、僕の攻撃を避けきれなくなるのも時間の問題だろッ」
「道理だな。だというのに、なぜそう恐れる?」
「ッそ、それは…………――お前、ずっと急所ばっか狙ってくるじゃないか! ニヤニヤ笑いながら、僕の攻撃にも構わずで、なんだか首筋がゾクッと…………ッハ! まさかこれが殺気!?」
図らずも敵を成長させてしまった。ただ、それでさらに質の良い戦いができるならいいんだが――
「――ぅ、だ、だから近づくなぁ……!!」
一歩前に踏み出しただけでこれじゃん。もう俺、風の魔術すらまともに使えんぞ?
完全に心折れとる……。
「いや、もともとこの下衆の心を折ることが目的だったから、別にいいのか……。ただ問題は――」
それでこいつが帰ってくれるのかということだな。
俺の勝利条件はヒュプノの安全確保だ。しかし心は折れたものの、いま俺たちがまともに戦闘続けたら負けるのは……。
そう、考えていた時だった。
どこか僅かに震える声で、シュテンが言ったのだ。
「もう、お前はいいッ! これ以上結果が見えてる戦いなんて意味ないだろ! だから――――さっさとヒュプノだけ寄越して、消えていなくなれ!」
……。そうなるよなあ。
「もし言うことを聞かないなら、僕はこの場のニンゲンを無差別に殺す! お前みたいに狂ったニンゲンは……い、一番最後だ! もう僕にも追いつけない体で、お仲間が死んでいくのを見ていることしかできないぞッ!」
ほんとに最後、俺に向かってきてくれるのかは別にして。それ以外でこいつが言ってることはたぶん正しい。
さっき俺が助けた冒険者は、たまに倒れてる他の冒険者たちを引っ張ってってるけど、それでもこの戦場にはいる。
気を失ってるか怪我してる冒険者多数に、戦闘職がメインじゃないカンナ。魔術をほぼ使えなくなった俺じゃシュテンを止めることはできん。俺以外を殺すことは容易いだろうな。
じゃあどうするかって話だけど。
…………。
……よし、決めた。
俺は完全に及び腰になってるシュテンから視線を外して、背後のヒュプノへと目を向ける。
「!」
俺と目があってビクリと震える桃色の頭。どこか伏し目がちで、それでも縋るように俺を見る。
「……クレバーさんはぜったい、わたしのこと見捨てたりなんかしないんですから。だってクレバーさんは……っクレバーさんだけが! わたしのこと……!」
小声で、自分に言い聞かせるようなセリフ。
会って間もない俺に、そこまでの感情を向けるなんて。いったいヒュプノはこれまで、どれだけの悪意に晒されてきたんだろうな。
ヒュプノがさっきからシュテンに向けているその感情。巨大な恐怖と、それに紛れる確かな――憎悪。
一転、俺に向ける感情は親愛と心配、そして……特大の信頼。瞳の奥にはどこか粘着質な光が見えて、執着のようなものまで感じられる気がする。
いや、そこまで? とは思うけども。これから俺がやること見たら、そういう感情も無くなっちゃうだろうなあ、なんて思いながらも。
それでも俺は。
……視線の先の少女に言うのだ――
「ヒュプノ。――シュテンのところへ行け」