ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜 作:ぞうきん
チュン、チュン、と。軽やかな鳥の鳴き声で意識が浮上する。
……まだ眠いな。けど、閉じた瞼の裏に朝日が透けて見える。もう起きねばと、気だるい寝起きの体に鞭打って、ぱちりと目を開く。
視界に映った天井はどこか懐かしいそれで、おまけにいつもよりちょっと高く感じた。
……ああ、そうだ。ここはスラムの拠点で、昨日俺はベッドじゃなく床に敷いた襤褸切れで眠りについたんだ。
そして、なぜそんなことになっているかというと。
俺は少し離れたところのベッドへ視線を向けて――
「!?」
――――じぃっと、俺のことを瞬きもせず見つめる紫の瞳。
怖い怖い怖い。ヒュプノのやつ、なんでこんな目ぇかっぴらいて俺のこと見てるん!?
ベッドの上で体起こして、目の下に隈もできてるし。……え? こいつもしかして、一晩寝ずにずっと俺のこと見てた?
「……………………。!? あっ、おはようございます……!」
やっと気づいた。えー。ちゃんと寝ろよな子どもは。
「……よく眠れたか?」
「は、はい。……それはもう、しっかりと。こんなにふかふかのベッド、初めてでしたから……」
嘘だろ絶対。そんなぼろいベッドのお世辞まで。ったくもう、俺昨日ちゃんと言っただろ? 今日は用事あるから、しっかり休めって。
俺の責めるような視線に気づいてるのか、ヒュプノはそりゃもう気まずそうな表情だ。
「ご、ごめんなさい……。ほんとうは、一睡もできませんでした」
……だと思ったわ。
「はぁ……。じゃあもう、用事は明日にするか。その状態で外出は辛いだろう」
「! い、いいです、予定通りでへいき……! わたし、これでも体はすごく丈夫なんですっ。魔族だから!」
うーん。確かに、魔族は人間よりよほど丈夫だろうけども。
「ほんとうに大丈夫なんです! これ以上クレバーさんにご迷惑おかけするわけには……! ……夜になっても襲ってこない、いい人なんですからっ」
襲うわけない。俺のイチモツじゃ物理的に襲えないし。……自分で言ってて悲しくなってきたわ。
というか、もしかしてそれ警戒して一晩中起きてたのか?
「…………はぁ。分かった。なら今日は予定通りついてきてもらおう。あとから泣き言は言わんでくれよ」
「は、はいっ! その……ご迷惑おかけして……疑ったりして……ごめんなさい……」
「いい。べつに」
ほんとはちょっぴり悲しいが。まあ、淫魔ってこともあって警戒してたんだろ。昨日も襲われかけてたし。そんなに気にしてないよ。
……さて、それじゃあヒュプノから了解も得たことだし。
さっさと朝飯食って出かける準備をと、床から立ち上がって非常食を漁りに行こうとして――
「………………ほんとうに、こんな男の人がいるんですね。わたしに欲情しないし、襲わない。ちょっぴり怖いけど、とっても優しい……。――なんだかお腹が、きゅんきゅんする……?」
ヒュプノに背中を向けたあと、なんかちょっと聞こえた気がしたけど。
まあ、気のせいか。
ということで。
その後、拠点を出た俺たちはスラムの道を目的地に向かって進んでいく。
俺は隣を歩く小柄な少女を見て――――その角と尻尾をすっぽり隠す大きな外套に、うむ、と頷いて見せる。
「……? ど、どうかしましたか?」
「いや。上手く隠せてるなと思っただけだ」
「はい……。すみません、またご迷惑を。わたしが淫魔だってバレたら、騒ぎになってしまうので……」
そりゃただの魔族でも大騒ぎになるのに、それが淫魔ってなったらさらにな。でもそんなにしょんぼりされると、姿を隠すよう言った俺が悪者みたいだろ。
まあ、言っても仕方ない。それよりさっさと目的地へ、と。スラムの住民からいくらか好奇の視線を向けられつつ進む。やがてスラムを抜けて市街区へ入り、物珍しそうにきょろきょろするヒュプノを気にしながら歩くことしばらく。
到着した場所は。
「わぁ、すごい……。こんなにたくさんのお店……!」
市街区の住民たちが日常的に買い物をする露店街だ。通りの左右に色とりどりの露店が連なってる。
しかし、こんななんでもない光景に目を輝かせるなんて。ヒュプノ、お上りさんみたいだな。魔族の街にはこういうのがないのか、あるけど
「かわいい飾り! あれは美味しそうな……お肉の串? それにあっちは……こんなの初めて見ました……!」
まあどっちにせよ、ちょうどよかったじゃないか。なんせここを来た目的は――
「――さあ、ヒュプノ。行くぞ」
「えっ。もう、ですか……? ……っあ、違いますなんでもないんです! いつでも行けますから……!」
「? なにを勘違いしてる。行くというのは――――今からここで、買い物をするということだ」
「! ここで……!?」
はは、そんな見るからに顔明るくして。今日の目的はヒュプノ用の日用品を揃えることなんだから。
さあ、遠慮せず存分に買い物を楽しんだらいいさ――
そうして……露店街を巡り始めてから早二時間が経過して。
俺はいくつもの買い物袋を抱えて、昨日会ってから一番うきうきしたヒュプノを見下ろす。
「次はどこへ行こう」と楽し気に視線を巡らせてるけど。え、これまだ終わらんの? 人間でも淫魔でも女の子が買い物好きなのは変わらんのか……。
なんて、ちょっとだけウッとした表情をしてたからか。気づけばヒュプノが俺を見上げて、「しまった」と言わんばかりの顔を。
「…………ご、ごめんなさい。わたし、はしゃぎすぎてました。クレバーさんを疲れさせてしまって……」
「ああ、いや…………必要な物がまだあるのなら、買い物を続ければいい」
正直疲れてはいるけど。女の子に何が必要かなんて俺には分からんからな。よっぽどの高級品じゃなければ欲しい物買えばいいさ。
ただ、どこかで一回休憩を挟んだ方がいいかもな……。
「あのっ、ほんとうにごめんなさい……! もう、これでも十分すぎるくらいです! こんなの全部、前いたところじゃもらえませんでしたから……っ」
「そうか? であれば、買い物はこれで終わりでいいな?」
「………………………………はい」
長かったな、間が! どんだけ買い物楽しかったんだ……! 顔にもはっきりと「まだ帰りたくない」って書いてあるぞ。
まあ、必要なものは最低限揃ったってのは嘘じゃないみたいだし――
「別に、明日からもうここへ来られないわけでもなし。――楽しかったのなら、また連れて来てやる」
「! ほんとうですか……っ?」
「嘘はつかん」
「……っっっ! ありがとうございます……!!」
よっぽど嬉しかったんだな。両手を胸の前で握って、頬まで赤らめて、ヒュプノは俺に頭を下げた。
……しかし。いったいヒュプノはこれまでどんなところにいたんだ? どうもスラムに来たのはまだ最近みたいだが。
さっきも「前にいたところ」なんて言ってたが、深く聞いていいものやら。母親の話みたく、触れちゃいけないところに触れるのはイヤだぞ。
なんて、そんなことを思っていた時だった。
…………なぜか突然、首筋にゾクリと悪寒。眼前から妙なプレッシャーが――
「――ヒュプノ?」
さっきまで俺に感謝して頭を下げてた少女が、今は顔を上げて俺を見つめていた。
フードから覗く瞳はなんだかぬるりと濡れているように妖しくて、瞬き一つせず、どこかうっとりしてる。あとなんか、口元からよだれが一筋垂れてるけど。
ヒュプノは俺の呼びかけにも答えず、十秒くらいの時間が過ぎて。気づけば、彼女の異様な雰囲気はなくなっていた。
……首筋の鳥肌が収まったぞ。目も……うん、いつも通りだ。よだれのあとはまだ残ってるけど。いまなら声も届くか?
「おい。ヒュプノ。……大丈夫か?」
「……えっ。あっ! ………………いまちょっと、ぼうっとしていたみたいです」
んん、それだけ? ぼうっとしてただけって?
うーん。確かになんか妙なプレッシャーと、あとは……かすかに魔力も感じたんだけど。
ほんとになにもないのかと、首を傾げながらヒュプノ視線を向ける。返ってくるのは申し訳なさそうな視線だけ。
「………………まあ、いいか」
本人はなにもないと言ってるし。ここで考えたところで分かることじゃないし。
ただなんか今度はヒュプノじゃなくて、露店街にいる他のやつらから妙な気配を感じるが。ほら――
「――あー。なんか今日、仕事する気なくなってきたなぁ。……娼館でも行くかな」
「ギャハハ、お前こんなところでアソコおっ勃ててるぞ!? 欲求不満もほどほどにな!」
「なんだろ? なんだか今日は、妙にその…………ムラムラするわ……ッ」
うーん、なんだコイツら。そのアソコの固さ、俺にくれませんかね。
なんてな。まあいいや。それより、買い物も終わったから今は拠点へ、と。ヒュプノに声を掛け、来た道を帰ろうと思った時だった。
――――遠方から、突然の爆発音。次いで音の方で天んへ立ち昇る土埃や煙が。
「なんだ……!?」
周囲も色めき立つ。しかも……爆発音と舞い上がる煙が違づいてくる。かなりの速度で!
いったい何が現れた!? 新手の魔物か、それともテロか。どちらにせよこの規模、速度。かなりの強敵だァ!
俺は腰につるした剣の柄に手を置く。
どうだ、来るか? ここに来るってのか? いいぞ、来たらやってやる。久々の強者、腕が鳴るなァ!
鼓動を早めながら、近づいてくる何者かを待っていると。――とうとう、この露店街の中で爆音と衝撃が。商品ごと露店がいくつか吹っ飛んでくのが見えた。
そして――
「――あぁ、臭い臭い、ニンゲン臭い……! 弱いとはいえこれほどの数、鬱陶しいことこの上ない!」
そんな、明らかに人類というカテゴリに含まれないだろう人物の声。さらに、露店街中に舞っていた土埃がやっと晴れて、その姿を現した。
……あの男、宙に浮いてやがる! それにあの頭は――角! 魔族かッ!
俺は剣を抜いて、体の魔力を励起する。角アリの魔族とくれば相手に不足はなし。知らず口角が上がる。
だが、俺の思いは一方通行だった。魔族の男は俺なんかには目もくれず、その視線が向かう先は一つ。
それすなわち…………俺の後ろに隠れようとしていたヒュプノで――――
「やっと見つけたぞ――――王女よ。まったく、面倒をかけてくれる……」