ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜 作:ぞうきん
ん? いまこいつ、王女と言ったか?
俺は背中のヒュプノへと視線を向ける。
「ぁ……ぅ、う」
こいつ。見るからに「バレた……!」って顔してる! ええ――?
「王女……なのか? まさか、魔王の……」
思わず問いかけると、ヒュプノの顔はそれはもう面白いくらいに青くなる。
いやマジか。本当に魔王の……娘。これは俺の胸に留めておかないとまずいぞ。
魔王――――十年以上前にはなるものの、俺たち人類を追い詰めた魔族軍の長。ただでさえ強い魔族を力で束ねた豪傑で、人類にとっては恐怖の象徴でさえあった魔族だ。
当時の俺はまだ若造で、故郷の村のちゃちな戦士団にいたから、戦ったことどころか会ったことすらないが。それでも、人類側が魔王を殺すためにいったいどれだけの犠牲を払ったかは伝え聞いてる。
そんな、人類にとっては鬼門とも言える存在の娘。
「誰にも漏らせんぞ、そんな事実……」
思わずつぶやくのも仕方ないだろ。それだけの驚きがあったんだ。
でも、それを聞いたヒュプノの反応は顕著だった。青かった顔は、もはや血の気が引いて真っ白に。色濃い絶望が顔全体を覆い、ふるふると身体が震えてる。
「……ぁ、どうか……」
「……ん?」
「み、――見捨てないで、ください……っ! 隠していて、ごめんなさい! でもわたし、クレバーさんに捨てられたらもう、……っどこにもぉ……!」
ヒュプノの震える叫び。もはや膝から崩れ落ちて、それでも縋るように俺から視線を外さない。伸ばした手が一瞬のためらいの後、俺の服を掴む。
こいつ、いったいどんな境遇で。魔王の娘なら厚遇を受けていたのかと思いきや、これまで接した感じからも、今のこの様子からも、むしろひどい扱いを受けてきたことは想像に難くない。
しかし、ふむ。この子もしや、俺がこれで手を引くと思ったのか。
……まあ確かに、魔族を拾ったってだけでわりとヤバいのに、それが魔王の娘とくればなあ。普通に考えたらとんでもない厄ネタだわ。
俺は涙さえ零し始めたヒュプノの顔を一瞥して…………ズボンを握るその小さな手を取って開かせる。
「――ぁ、あぁ゛、ぅああ……っっっ!!」
俺の足が自由になると同時。この世の終わりかってくらいの、絶望の声が。
だがしかし。
誤解するなと、俺は口を開いた。
「ヒュプノ、いいか。俺は、一度交わした約束を違えはしない」
「……………………え?」
「昨日言ったろ。――面倒を見ると」
「っ!?」
絶望するのは早いぞ、ってな。
大きく目を見開いたヒュプノが何か言おうとして、しかしその前に俺は後ろを振り返る。
――目前に迫る手刀を、腰から抜いた長剣で受け止めた。
「は。この程度なら止められるか、ニンゲン」
「さすがにな。だが、なんて固さだ。魔力で強化しただけで鋼と打ち合えるとは」
「当然だ……。我は、貴様ら劣等種族とは違うのだからな――!」
おぉ! 片腕だけでなんて力だ! 弾き飛ばされる……!
飛ばされついでに、ヒュプノを抱きかかえながら後ろへ下がる。
「クレバーさん……!」
「ああ、気にするな。どこも怪我はない。お前の面倒を見ると言ったからな」
ヒュプノの心配をよそに……俺の意識はもはや、眼前の宙に浮く魔族へ集中していた。
背中には大きな蝙蝠のような羽。肌が青く、頭からは二本のまっすぐな角。
典型的な悪魔系の魔族だな。それも、見た感じけっこう若いぞ。しかしそれでも――
「――強力な膂力に、湧き上がる魔力。さすがは魔族だ……!」
「ふん、当然だ。ニンゲンに褒められたところで嬉しくもなんともないな」
「ハ……それは悪かったなァ」
うーんなるほど、これが魔族か……! ヒュプノはなんというかこう…………世間一般的な魔族のイメージと乖離してるからな。一方でこの新手はまさに魔族って感じだ!
いやあ、俺実は魔族戦うのって初めてなんだよな。高位の者なら一騎で人類の一軍を倒すとまで言われる上位種族だ。こいつは果たしてどれくらいの位置に……と。そう思った時だった。
「おい、ヒュプノ。――無駄なことはやめて、さっさとこちらに来い」
……お? ここまで来て、戦闘じゃないの?
「そこの男を誑しこんで手駒としたのは理解した。ニンゲンにしてはマシな反応をすることもな。だが、それだけだ。まともにやって我に勝てようはずもない」
「……っ」
俺の腕の中でヒュプノが身を強張らせる。敵魔族は続けた。
「いいか。我の目的は貴様を連れ帰ることだ。別に、こんな街で取るに足らないニンゲンを殺すことではない。だからそちらから来いと言っているのだ」
ふうむ。この魔族、意外と穏健か? ……確かにさっき俺とヒュプノが会話してる間も、最後の最後になるまで手を出してこなかったしな。
でも、なあ――
「――寂しいことを言うな。戦ろうじゃないか……!」
俺はヒュプノを下ろして長剣を構える。魔力もまとって身体強化も。
だが……それを見た魔族の反応は良くなかった。
「はぁ……。見ろ、ヒュプノ。なにを勘違いしている知らないが、身の程知らずのニンゲンがやる気を出している。うまく誑し込んだものだ」
「っちが! わたし、そんな……っ」
「違うものか。ニンゲンが魔族を守ろうとするなど。だがしかし、それは悪手だぞ」
ん? 悪手……?
「見たところ。……ヒュプノ、貴様とうとう――――淫魔としての力に覚醒したな」
「っ!!」
魔族がそんなことを言った途端。
――ヒュプノは一瞬俺を見て、顔を真っ赤に染めた。
またぷるぷると震え出したのは……恐怖からじゃなく、恥辱か?
「当たりだろう。おかげでその男を物にできたというわけだ」
「……ち、違います! わたし、クレバーさんに力を使ったりなんて……!」
「違うはずがあるものか。いいか? 我が今日貴様の居場所を察知してここに来られたのは、貴様の力の発露を感じ取れたからだ。そうでなければもっと時間がかかったことだろう」
「そ、……そんな……」
言葉を失うヒュプノ。
ふむ。なんかよく分からんが。要は、ヒュプノはこれまでこの魔族? あるいはそれが属する組織、おそらくは魔族軍残党から逃げていたと。そして、淫魔の能力とやらに目覚めていなかったおかげで、隠密行動が可能になっていたわけだ。
その前提が崩れた――つまり力に目覚めたのがここ最近……もしかして俺に会ってから、ってことなのか?
ヒュプノに視線を向けると、小さく「ちがう、ちがいます……」と繰り返し呟きながら、体を縮こまらせている。魔族を俺のもとに呼び寄せてしまったことを申し訳なく思ってでもいるのか。
……ただ、ヒュプノよ。これは俺にとって非常に都合がいいことだぞ。
――なんせ、俺は目覚めたヒュプノの力で、この忌まわしいEDの治療を行うことができる! エロに特化した種族だ、期待値はかなり高いぞ!
それに。
「追手の魔族との戦闘も、なかなか乙なものだ……!」
「……このニンゲン。さっきから、我に一切怯えていない?」
当然! 戦うことを怖がってて傭兵として飯を食えるかってな!
「く、クレバーさん……っ。こんな……わたしのために、そこまで……!」
いや別に、ヒュプノのためだけじゃないけど。いろいろ都合いいんだよ、俺にとっても。
なんて、そんなことをいちいち口にすることもなく。俺は力を充溢させ、戦いの火ぶたが切って落とされるその時を待つ。
敵魔族も腹を決めたのか、面倒そうに、しかし確かに冷酷なその瞳を俺へと向けて。
高まる緊張が、いつの間にか人っ子一人いなくなった露店街に満ちた――――――その時、だった。
俺と魔族は同時に感じ取る。……この場に、一度消えたはずの人間の気配がどんどん近づいてくることに。
「…………。ッチ……時間をかけすぎたか」
「みたいだな。冒険者に傭兵たち……すぐにでもここに来るみたいだ」
来たる激戦に先立って、俺は周囲へ魔力の警戒網を撒いていた。それに引っかかったわけだ。一対一が良かったんだけどなあ。
そう思っていると。
「――――今日のところは、退くとしよう」
えー。
「この街は、ニンゲンの中ではマシな方が集まっていると聞く。それでも我が負けることなどあり得んが、無駄な怪我をするのもな……」
「それに」と、魔族は続ける。
「ヒュプノ……貴様はもう、我から逃げることはできん。その目立つ力、どこにいてもすぐに見つけ出せるだろう」
「っそ、そんな……」
「逃げることは無駄と知れ。しかるべき準備を終えれば、再び貴様の前に現れるとしよう。それまで少しの間だけ――」
そう、言い残すと。魔族は背中の羽を大きく羽ばたかせて…………最後に一度俺を睨むと、そのまま空高く舞い上がり、高速で街の外へと飛んでいくのだった。
「行ったか……」
残念。でも、ヒュプノといればまたじきに……。
そんな期待に胸を躍らせる俺は、今のうちにとヒュプノの手を取り引き寄せる。
「ぁ、えっ? ここでですか――っ!?」
なにが? さっきまで暗い顔してたのに急に。
と……時を置かずして。立ち並ぶ露店の間や通りの先から――――数えきれないほどの冒険者や傭兵が殺到し出す。
「! な、なんですか……!?」
すぐこうなると分かってたから、引き離されないようヒュプノを寄せたんだよな。だってほら、そうしないと……。
「――いたぞ! だが、あの長身と強面…………『狂い脚』のクレバーか!?」
「一緒にいるのが……魔族!?」
「馬鹿、あんなにちっさいもんかよ! さっき一瞬見えたぞ、すげえ速度で飛び去ってく影を!」
な? こうして、すぐもみくちゃに――――