ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜 作:ぞうきん
――淫魔であるヒュプノ・アンジェラは、魔王の娘である。
強大な力を持つ種族がゆえに、明確な国を持たない魔族。それを力で統べたのが魔王だった。そして、そんな魔王はすでに、人類との争いに負け命を落としている。……微塵も悲しくなどないが。
ヒュプノは己に与えられた天幕のうちで、これからのことを思う。
「……まさか、グラム兄さんが来るなんて。わたしじゃ到底敵いません……」
グラムは見ての通り高位の魔族だ。ヒュプノにとっての異母兄で、魔王と、そして戦闘に特化した悪魔系魔族の血を引いている。まともにやって撃退できるとは思えない。
「クレバーさんが、とっても強かったら…………ううん。そんなの、ムリですよね……」
魔族と人類の間には大きな壁がある。時に、魔王を討った勇者のように極めて優れた個体もいるようだが、いわゆる突然変異のようなもの。魔族と比べると、人類の戦闘力の平均値はかなり低い。
しかしだからこそ…………その戦力差を理解しつつ、ヒュプノを捨てなかったクレバーの。……その、気高さに救われたのだ。
「……最初は、利用できるかなって思っただけだったのに」
暴漢に襲われそうな非力な魔族。普通なら捨て置くヒュプノを救ったクレバーは、しかしその見返りを何も求めようとはしない。
そしてそれは、グラムという強力な魔族を前にしても変わらなかった。
しかし。ならば、クレバーのためを思い身を引くか? 大人しくグラムに捕らわれ、魔族たちのもとへ帰るのか?
――その答えは、否だ。
「……やっと、温かい人を見つけた。信じられるかもしれない人を。……っもう、あんなところに帰りたくありません」
地獄だった。希少種族淫魔の、その
強さを至上とする種族の中にあって、直接的な戦闘能力を持たないことは罪だった。毎日誰かに蔑まれ、殴られ、尊厳を奪われた。
味方は唯一母だけだったが、もう……。
母のことを思うと涙で視界が滲む。二度と愛しい母には会えないと、そう思うと。
だがしかし。思い出せ、最期の母の言葉を。「貴方はもっと、私よりも強く生きて。そして、力を得たらいつか――」と。
そうだ。ヒュプノはもう、自分だけのために生きているわけではない。失意のうちに死んでいった母の、その想いを抱いて生きている。
その大義は…………「ヒュプノがそうしたい」という、ヒュプノにとってはクレバーのために無視しうる思いよりもさらに強く、彼女の行動を縛った。
そして。その結果――
「クレバーさんに――――え、えっちなことを……しますっ!」
そういう、実に淫魔らしい結論へと至ったのだ。
……どういうことだ? なんか息苦しくて目を覚ましたら――俺の上に少女が乗っている。しかも半裸で。
なんで?
「…………おい。ヒュプノ。いったいどういうつもりだ……?」
問いかけると返ってくる視線……。その紫の瞳には、やけに熱がこもっている気がする。頬も赤い。
なんだかまるで、桃色の髪から揮発した桃色の蒸気が辺りに漂っているかのような。
……え? もしかして、そういうこと? ヒュプノのやつ――――俺を性的に襲おうとしてる!?
「く、クレバーさん……っ」
余裕の無さそうな声。なんか心無し……腹の上に感じる熱を、前後に揺さぶっているような。
え、これ大丈夫? 俺捕まらない?
「あの、その、……ふ……っ。ごめんなさい、こんな遅い時間に……」
問題は時間じゃないわ。
確かにその、淫魔の力でED治せたらなんて思ってたけどさ。なんかこう……実際こういう場面にあったら罪悪感がすごいわ。だって、まだ子どもじゃんこの子。
だから――
「――ストップだ、ヒュプノ。一度その腰を止めろ」
「ぁ……え……?」
俺の言葉に、潤んだ瞳のヒュプノが動きを止める。幸い(なのか、不幸なのか)俺の股間は微動だにしていない。
俺は言った。
「いったい、なんのつもりでこんなことを。あー…………こういうことはまだ早いだろう。ヒュプノには」
「っ!」
「こういうつもりで拾ったんじゃないのかよ」と自分で突っ込みたくなる俺の指摘。しかしそれを受けたヒュプノは、見事に顔を真っ赤にした。シュボッ、と煙が出るくらい。
「ち……ちがいます! わたし、そんな、まるで我慢できないメスみたいな! 淫魔の本能におぼれてるとか、そういうのじゃないですから……!?」
「そこまでは言ってないが。……で? なら、どういう意図だ」
「そ、それは……」
お。ちょっと正気に戻ったか。
さっきまでのヒュプノ、こいつの言葉通り本能に溺れてるような感じだったもんな。昼の魔族が言っていた「淫魔として覚醒」ってのが関係してるのか?
そんな俺の疑問に対して、ヒュプノは少し言い淀む様子を見せるが……口を開いた。
「……――精気を、移そうとしていたんです。クレバーさんに」
「なに? 精気だと?」
「はい……。わたしたち淫魔は、なんと言うか……生命力みたいなものを操作する力があるんです。相手から奪って自分のものにしたり、逆に相手に与えて強化したり」
「ほう」
魔力とはまた違うようだが、なんかそういう力があるんだな。なんとなく雰囲気は分かった。
で……。
「ヒュプノはその力を俺に与えて――――俺を強くしようとしていたと。そういうことか?」
「はい……」
なぜ? ……いや、聞かなくても分かるぞ。ヒュプノが俺を強くしたい理由、そんなもの――
「――お前を狙う魔族を、確実に撃退するためか」
ヒュプノは気まずそうに視線をさまよわせて。そうして、最後には眉尻を下げ、ちいさく頷いた。
「……わたしを連れ帰そうとしていたあの魔族……グラムというんですけど。本当に、強いんです。魔族の中でも最上位の、お父さんの血を引いているから……」
「なに? ということは、あいつはヒュプノの兄で、魔王の息子と言うことか……!」
また重要情報! 人類最大の敵だった魔王の子がこうも立て続けに。
分かった。だからヒュプノは心配しているのか。淫魔と違って戦闘能力を持つ魔族、それも魔王という特上の力を受け継ぐグラムが迫っていること――――俺が、負けるということを。
……しかし。そうか、そうか。つまりなんだ。ヒュプノは――
「――俺のことを、舐めていると。そう言うんだな?」
「!」
ガバっと顔を上げたヒュプノが慌てて首を振った。
「ちが、ちがいます! ほんとうに、グラム兄さんは強いんです……! ニンゲンだと、勇者だとか剣聖だとか、そういう最上位のひとたちしか敵わないくらいに!」
「やはり、舐めてるじゃないか。俺はそいつらより下だ、と」
「そっ……! それは……」
言葉に詰まるヒュプノ。
……そりゃ俺が勇者より強いか、つまり人類最強かなんて聞かれたら、答えは否だ。
しかしそれにしても、だ。魔王の息子といえど、さすがに人類側で敵う者が勇者の周りにしかいないなんてことはない……。
そして。それが俺じゃないなんて、ヒュプノには分からないだろ――?
…………と、ヒュプノに力を込めた視線で訴えかけたものの。
「……――すまん。大人げなかったな」
「!」
俺は眉根から力を抜いて、謝罪する。つい熱くなりすぎた。
いや、だって。ヒュプノはこう言ってるんだろ? 「お前じゃ敵わないから、ドーピングしろ」って。
……せっかく魔族の強者と真っ向から戦える機会だってのに、それじゃあんまりにもなあ。俺だってこの歳になるまでさんざん鍛えてきたんだぞ? やっぱりグラムには、素の力で挑ませてほしいっていうか……。
なんてことを考えていると。
「――じゃあ。……精気、渡していいんですねっ?」
俺の上にまたがったままだったヒュプノが、また怪しい目つきに。体からは妙な熱気を放ち、無意識にかペロリと舌で唇を舐める。
……こいつ、やっぱり本能に負けてないか? 自覚ないの?
そして、淫魔に誘われている状況でもやっぱり一切反応しない俺のイチモツ。虚しさが込み上げる……。
「……ヒュプノ、止まれ」
「えっ? ……また、ですか?」
「残念そうにするな」
「! だ、だから違います! わたし、その、邪な思いなんて一切……っ」
……そんな風に。どこか弛緩した空気が流れ始めた、その時だった。
忘れてはいけない。俺たちはいま、喉元に刃を突きつけられているも同然の状態だってことを。
――――天幕の外から、なにか地響きのような音が聞えた。
「なんだ……ッ?」
「こ、この音……」
グラムか……? いや、あいつは翼で高速移動できる。こんな派手な音なんて。
だが、このタイミングで起きたことだ。あいつと無関係とは思えない。
一瞬でいろいろな考えが頭をよぎる。そして感じるのは……腹の上で、微かに震えるヒュプノの体温。
…………。
ヒュプノの体を抱き上げて、優しく横に下ろす。
「……っく、クレバーさん?」
そして。
安心させるように、ヒュプノの頭にぽんと手を置いて。
俺は言った。
「――――まあ、見てろ。お前を拾った男が、案外頼りになるところを」