ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜   作:ぞうきん

6 / 10
第6話

 

 未だ鳴り響く、地を震わすような音。天幕の布が細かに揺れている。

 

 手早く軽鎧を身に着けた俺は、ベッドに立てかけていた長剣を手に取った。

 

「お前もついてこい、ヒュプノ。離れてる方が危ない」

 

「は、い……。で、でもクレバーさんっ。やっぱり逃げませんか……? 危ないですから……!」 

 

 不安そうな顔をして。俺のことどれだけ弱いと思ってるんだ? ほら、行くぞ。

 

 俺は天幕の入口をめくって外に出る。

 

 月と星明りだけの薄暗い世界。普段なら音だってほとんどないはずなのに。

 

 俺は地響きのもとへと視線を向ける。そして、そこに見えたのは――

 

「――……魔物の群れ……か?」

 

 月明かりに照らされて見えるのは……広範囲で舞い上がる土煙だな。それに、土煙の中に、らんらんと光るいくつもの眼が見える。

 

 その数は目算で……百は下らんな。まだ距離はあるけど、あと数分もしたらここに到達しそう。

 

「っひ、あんなに、たくさん……!?」

 

 うん。まあ、たくさんだなあ。

 

「グラム兄さんじゃない、ですけど……! あんなにいっぱい来たらやられちゃいます! 逃げなくっちゃ!」

 

 うーん。そうだなあ、多いよな。

 

「クレバーさん……!?」

 

 そうかあ。うーん、そう。…………魔物かあ。

 

 ……え、なんて? ヒュプノ。

 

「だから……! 逃げなきゃです、クレバーさん! このままじゃわたしたち踏みつぶされちゃいます!」

 

「ああ…………そうだな、まあ。うん」

 

「な、なんで急にそんなやる気をっ?」

 

 いや別に、やる気ないことはないよ。ただ、魔物ってアレだよな。駆け引きもなにもないただのケモノ……。

 

 それだったらもう、俺じゃなくって。

 

「――他のやつらに、やってもらうか」

 

「ほ、ほか? 他ってなんですか、クレバーさんっ? そんなことより早く逃げないと……!」

 

 焦るヒュプノは必死に俺の手を引っぱる。ははは、ひ弱すぎて一歩も動かんわ。

 

 それに、俺たちが逃げる必要なんてない。だって、ほら――

 

 

 

「――来たぞォ! 魔物だ!」

 

「よっしゃあああ! 稼ぎ時じゃぁッ!」

 

「狩って狩って狩り尽くせぇぇぇ――!」

 

 

 

 どこからともなく現れた、厳つい男たちの集団。大声をあげながら、剣を振りかざして駆けていった。

 

 その方向はもちろん――土煙を上げながら迫る、魔物の大群。

 

「え? ……な、なんですか!? きゃっ」

 

 怯えたヒュプノは俺の影に隠れようとする。しかし男たちはそのまま俺たちを素通りしていった。

 

「あ……え……?」

 

 俺は言った。

 

「だから言ったろう。面白くもない魔物どもなんて、あいつらに任せておけばいい。また魔族が来たら呼んでくれ……」

 

「ぇ……えええ……!?」

 

 目をパッチリ見開いて驚くヒュプノ。

 

 魔物へ向かう男たちは途切れない。俺は通り過ぎる冒険者たちを見送りながら、混乱しているヒュプノに説明を始めた。

 

 

 

「――だから。どうせギルドが俺たちに……というより、グラムの再来に対して監視をつけることは分かっていたんだ」

 

「そう、だったんですね」

 

 ギルドは馬鹿じゃないからな。俺が失敗して、かつグラムが気まぐれに街を破壊しようと思い立ったときの想定はしてる。

 

 そしてさらに。

 

「ここフダイセンは元魔族領と面する魔境だ。魔族領が帝国に占領された今でも、他の場所よりはかなり危ない。やってくる冒険者や傭兵は、腕に試しがあるか、大きな稼ぎが欲しいやつ……あるいはその両方か。とにかく――――頭のネジが数本飛んだやつらばかりということだな」

 

 多いんだよな、血の気が。

 

 だから。そういうやつがたくさん控えてるの分かってたから、俺は何もしなくていいってわけだ。らくちんらくちん。

 

 ……なんて思っていると。

 

「――おい。見ろよ、あれ!」

 

「ああ……『狂い脚』だなッ。イカれた自殺志願者……」

 

「一緒にいるガキはなんだ? 都市中の猛者に喧嘩吹っ掛けて、もうターゲットが残ってないからって……とうとう自分で育てだしたかァ?」

 

「狂人の考えは分からんな! それより俺らは――ハッハァア! 魔物討伐だァ!!」

 

 ひそひそ話しながら通り過ぎていく冒険者や傭兵たち。

 

 失敬だな……人を頭がおかしいみたいに。というかなんだ、ヒュプノを育ててるって。ほぼ純粋な善意だぞこれは。まあ、ちょっとだけ私情(ED治療)も挟んでいるけども。

 

 ……お。そろそろ第一陣が魔物とぶつかりだしたか。ここからでも剣戟が聞こえる。

 

「す、すごい。魔物の侵攻が……止まってます……」

 

「心配なかったろ。うちのギルドは現実主義なんだ。俺一人の言葉を信じて、備えもなくいるはずがない。……――だろう? カンナ」

 

 俺はそう、暗闇の向こうに向かって問いかけた。すると……闇から滲むように現れたのは、黒髪をきちっとまとめた生真面目そうな女。

 

 カンナはどこか苦い表情で口を開く。

 

「全部お見通し……ですか。クレバーさん」

 

「ああ。都市の安全を守るギルドとして、俺のような木っ端ひとりを信頼しきるわけもないからな」

 

「っ、違いますよ、それは。私たちはクレバーさんのことを高く評価しています……! だからこそ、こんなところで、っこんなことのために――貴方が命を落とすことはどうしても避けたかったんです!」

 

「……ふむ。まあ……悪いな。実際助かった」

 

「! い、いえっ! これも貴方の専属である私の仕事ですから!」

 

 むふんと豊かな胸を張るカンナ。

 

 聞こえの良いこと言ってるが怪しいもんだな。都市のこと考えてやってるだけだろどうせ。まあいいけど。

 

 そんなカンナにヒュプノもなにか感じてるのか、ギュッと俺の服の裾を引っ張って不満を表明してる。

 

 なんか君ら仲悪いよな。なんで?

 

 俺を挟んだふたりは、またなにやらくだらない言い争いを始める。やれ「付き合いが長いのは私」だの、「一緒に寝た」などと。

 

 ただ、そんなことを言っているうちに。

 

 ……冒険者・傭兵たちはかなりの速度で魔物を討伐したらしいな。戦闘音はほぼ止んで、土煙も落ち着きだす。

 

 俺はふたりに声を掛けて、大丈夫そうならまた天幕に帰ると、そんなことを言った――――その時だった。

 

 ざわ、と。

 

 前線に行った者たちの間に、なにやら緊張感が走るのが分かった。

 

「なんだ? 魔石の配分でもめてでもいるか?」

 

 呑気にそんなことを口にしていると。

 

「!」

 

 ……ちょうど今、タイミングよく見えた。冒険者や傭兵の間から……倒れ伏す魔物たちの中に人影が見える。

 

 それはまだ小さい、子どものような大きさで。しかし、頭部から長く伸びる一本角が見えて。

 

 ……って、角ッ――

 

 

 

「――魔族……しかも新手!」

 

 知らんやつだが構わんぞぉ! ダッシュで向かう!

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。