ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜 作:ぞうきん
逸る心が俺の体に力を込める。
視線の先の強敵に、俺は思わず地を蹴り駆けだそうとして。……しかし、その時。
「――ま、待ってください! クレバーさん……っ」
「ヒュプノ?」
なんだ? どうせあいつもヒュプノを連れ帰りに来た魔族じゃん。じゃあさっさと倒すべきだ。だろ?
そんな思いを不満とともに視線に込め、ヒュプノを見返すが。
ヒュプノは気にした風もなく、ひどく焦った様子で言ったのだ。
「あのひとは…………――――グラム兄さんの上司、シュテンさまです!」
…………なに? グラムの上司? ……とすると、あいつよりさらに強いってことか!
「――食い応えありそうすぎるな……ッ」
「た、食べごたえ……? ……っあ、いえ、それより! あのひとは……っ鬼系魔族でいちばん強いんです! 戦ったりしたらクレバーさんも……っ」
「ほう……!」
ほうほうほう! 鬼? その中で一番? よしきた、それじゃあ――
「――く、クレバーさん!? だから向かっちゃダメなんですよ!? 聞いてますかわたしの話!」
「もちろん聞いていた。だからこそだ――」
「だからこそ!? わ、わかりません!」
ヒュプノは必死に俺の服を掴んで引き止める。
しかし、そんなヒュプノに言葉を投げかけたのは――
「――貴女こそなにを言っているのですか……っ。クレバーさんは貴女を救うために、この街の外で危険な魔族を待っていたのですよ! 他の冒険者たちだってすぐに動くでしょう。それが嫌なら――クレバーさんに頼らず、大人しく連れ帰られたらどうです……!」
「そ、それはっ、でも……ぅう……!」
こらこら、カンナ。虐めてやるなよ。
ヒュプノはもともと、グラム戦を見越して俺を強化しようとしてたくらいだからな。あのシュテンってやつが俺より強いなら、そりゃ今の状態で戦っても勝機はないと思えるんだろ。
ただ……正直、グラムってそこまで強そうに思えなかったからなあ。悪魔系ってことは基本的に魔術メインだろうし、俺とはけっこう相性いいはず。そんなこと思ってるところに現れたのがグラムを超える魔族ときた。
やっぱり、俺はあいつと戦うぞ……! できれば一対一がいいが、まあぜいたくは言わん。だから今すぐにと、ヒュプノの制止を振り切る。
「あっ、ダメ……!」
心配してくれてるとこ悪いな。でも、これもお前の身の安全を守るためなんだからさ。それで、ついでと言っちゃなんだけど――俺に、生を実感させてくれよ……!
そう、高ぶる感情を笑みの形でこぼしながら。俺が強く地面を踏み込もうとした、その時だった。
――――眼前で、シュテンに集っていた冒険者たちが一斉に吹き飛んだ。
「ッぐ、ぁあ!?」
「うごぁ……ッ!」
直後、地面に叩き付けられる音と、苦悶の声。
三十人はいた冒険者に傭兵が、一人残らず……!
「――見えた……! その小さな体の細い腕を、薙ぐように振り払っただけで、そのたった一振りで……全員をッ!」
目にもとまらぬとはまさにこのことだ! 完全武装の戦士を一息に。それも………………うん、やっぱりそうだ。――ただの一人も命を奪うことなく!
これは期待以上。……ああ、滾ってきた。後詰が全滅したのはまずいが、どのみち俺のやることは変わらん。
――じゃあ、さっさとシュテンのもとへ行くか……!
そう、すぐにでも開かれるだろう俺とやつの戦端に思いをはせつつ。再び足を蹴り出そうとすると。
「――――久しいじゃないか、ヒュプノ」
まるで少年のような高い声。その主はすぐに分かった。だって、ガン見してたし。
すなわち……俺の視線の先にいた、シュテンその人。
まるで子どものような顔に体躯。でも、ただの子どもじゃないのは見れば分かる。赤みがかった皮膚に、黒い髪の間から伸びる深紅の一本角。
すぐそばで俺と一緒にやつの声を聞いたヒュプノは――即座に地面に膝をつき、頭を下げた。
「……クレバーさんとカンナさんも! シュテンさまの機嫌を損ねちゃダメです……っ」
ほう、俺たちも?
えーどうしようか。俺いまからあいつ殴りに行こうとしてたしな。
俺の安いプライドなんてどうでもいいけど、だまし討ちみたいになるのは避けたいし、むしろ敵対してるポーズは必要では。
なんて理由で(カンナは知らないが)、なんら体勢を変えない俺たち。
しかし、シュテンは俺たちをなんら気にしていない様子で口を開く。
「ああ……もう楽にしていいぞ、ヒュプノ。話をしよう」
「っは、はい……!」
俺たちのことは無視か。視線すら向けてこん。
ほらヒュプノ、怖かったら俺の背中に隠れてもいいぞー。……あっ、伸ばした手を振り払ってきた。
ぶるぶる震えてるけど、もう少し頑張るのか?
「アハハ。ひどい表情だね、ヒュプノ。どうも勘違いしてるみたいだから、初めに言っておこうか。――べつに僕は、君を魔王城へ連れ帰るために来たわけじゃないよ」
「え……?」
「アハハハ! おっかしいな、その顔! ……ああ、ごめんごめん。それより、やっぱり勘違いしてたんだ。僕が君をまたあそこに閉じ込めるんじゃって」
ふむ……。目的が不確かだし、いちおうもう少し聞こうか。
「……ぁの。わたしを魔王城に帰さないなら……シュテンさまはいったい、なんの目的で私のところに?」
「うん、当然気になるだろう。別に隠してることじゃないから話すよ」
そうして。
シュテンは、一見人好きのする笑顔を浮かべて……言ったのだ。
「――僕は、君を保護しにきたんだよ」
「え……保護、ですか……?」
「そうさ、保護だ。……うーん。その様子、どうも僕の言葉を疑ってるみたいだね?」
「っい、いえ! そんなことないです! ただ…………理由くらいは、知りたくって……」
「ふむ、構わないとも。ありていに言えばね…………反省だよ」
「反、省」
シュテンは続ける。
「ほら、アレだよアレ。君のお母さん。――――壊れちゃったのが、もったいなくてね」
「!」
ヒュプノの母? もう亡くなったっていうあの……。
「君のお母さんさ。陛下がお亡くなりになってからは、もうほとんど時間も相手も問わず使われてたでしょ。それで最期は体力的にも精神的にも……ってね。僕はそれがとても惜しくてね。淫魔なんてもう、君たち母娘を除いて一人も見つからないのに」
「……」
「それで、君が魔王城を抜け出したと聞いたときに決めたんだよ。他の誰かに見つかる前に僕が保護して…………僕の屋敷で、規則正しく健康的な生活を送ってもらおうってね」
ほう。それはつまり……シュテンは、ヒュプノの敵じゃないってことか? なら……戦えないな……。
ヒュプノもさっきまでの怯えが一転、シュテンの言葉を深く吟味しているような表情だ。
俺がちょっと肩を落としてると。隣まで来たカンナが俺に耳打ちする。
「……クレバーさん、どうも戦う気を失くしているみたいですが。まだ、どうか気は抜かないようにお願いします……っ」
「うん? 話を聞くに、大丈夫そうだが。もちろん真偽の確認はいるだろうが」
「いえ…………それは、どうでしょうか。だってあの男……――」
カンナは珍しく嫌悪感が露わな視線をシュテンに向けて。そして言うのだ。
「――――あの目……女をモノとしか思っていない権力者のそれです」
そんな、カンナの直感にも似た推測は。……果たして、誤っていなかったのだろう。
シュテンはその子どもの顔に見合ったにこやかな笑みを浮かべて、そして言ったのだ。
「さあ、ヒュプノ。いまここで――――僕に奉仕をするんだ」
……奉仕? 男が淫魔に頼むそれは、つまり……。
「ぇ、あの……それは……?」
「ん? なんだい、急にかまととぶって。聞いたよ。ヒュプノ、城を出てから淫魔としての力に目覚めたんだろう? ならやることは一つだ」
「ぁ、……う……っ」
「そうさ。君のお母さんと同じく――――売春婦としての役割、きちんとまっとうしてもらわないとねぇ……! 淫魔の力で強い子も産んでもらう。――そら……いつも君のお母さんにも上げてた
嗤うシュテンから、なにか立ち昇る力を感じる。魔力でもないあれが……精気? 俺が感じたのはその程度のものだったが、ヒュプノにとっては違ったらしい。
隣から聞こえる、はぁはぁと荒い息。視線を向けると、頬をわずかに赤くしたヒュプノが見る先には精気を放つシュテンが。
そして……ヒュプノは俺が自身を見ていることに気づいて。途端に声を上げ狼狽した。
「――っち、ちがうんです! ちがう! わたし、こんな……! ただ、その、ちょっとだけ当てられただけで!! わたしは……売春婦なんかじゃ、ないぃ……ッッ!」
途端に崩れ落ち、俺に縋りつこうとして…………まるで自分の手が汚いものだと言うように歪んだ表情で見つめて、力なく垂れる。
それを見てさらに嗤うシュテン。
「ち、ちがう、ちがう、わたしはちがう……。やらしい種族なんかじゃない……っ。わたしはちゃんと、温かいひとを好きになって、好きなひととだけ…………ぁ、うぅぅ……――」
ヒュプノ……。目も虚ろになって……。
…………で。その原因になったお前は、なんだ? 俺のことは眼中にないみたいに、いまだに視線一つ向けず。嫌がる少女に下衆な言葉を投げかけて。
見ろよ…………泣いてるぞ、ヒュプノは……!
ああ。もう、分かった。今回だけは、死地に切り込むひりつきを楽しむ戦いなんかじゃない。これはただ――――
――――シュテンの心を折るためだけの、躾だ。