ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜 作:ぞうきん
「ぅ、うあぁ……」
ヒュプノ……。
「おい、……おい。ヒュプノ――」
「っ! ち、ちが! ちがうんですクレバーさん! わたしそんな、やらしくなんかない……! ッちゃんと、クレバーさんのこと…………ぅう!」
「ああ……分かってる。俺はお前をそんな風に思わない」
そのうちED治療に協力してもらおうと思ってたことなんて言えなくなったわ。
俺には分からんが、たぶん種族のことでこれまで酷い扱い受けてたんだろうな。これからは俺も気をつけるし……シュテンのことは俺に任せろ。
「下がってろ、ヒュプノ」
「ぁ……、クレバー、さん……?」
「ヒュプノを頼んだぞ、カンナ。あいつは――――俺の敵だ」
「……っもう、クレバーさんは言っても聞かないでしょうから! ただ――相手は魔族、どうかお気をつけて……!」
よし。それじゃあ俺は……。
「――【強化】、と……【風の奔り】」
一瞬で巡らせた小さな魔力。詠唱を省略して発動した魔術。
「ん? なんだい、そこのニンゲン。そんな貧相な魔力で僕とやるつもりかい?」
は、そうだろうな。どっちの魔術も、強大な魔力を持つ魔族にとっては取るに足らないもの――そう、見えるだろ。
あからさまに俺を見下してる小さな鬼に向かって、ゆったりと歩を進める。
「……お前たち魔族は、立派な魔力を持ってるな」
「そりゃあ下等なニンゲンなんかとはつくりが違うからねえ。それに、こう見えて僕は魔族軍の幹部だよ? いいのかな、逃げなくって」
「魔族軍? ……あぁ――――人類に負けた、敗残兵のことを言ってるか?」
「ッ、! お、まえ……! 敗残兵だと!? 脆弱なニンゲンの分際で……!」
ははは。どうしたシュテン。余裕ぶってた態度、崩れてるぞ。元から赤い顔がさらに真っ赤になって、はははは!
「怒ったか? いいぞ、その調子だ。もっともっと頭に血を上らせてくれ」
「ッ? ニンゲンお前、なにを……ッああ、いいよ! そこまで死にたいって言うなら、望みどおりにしてあげるよ! 魔族随一のこの剛力で――ぐちゃぐちゃに!」
眼前のシュテンから魔力が噴き上がる。
鬼って言ってたし、素の身体能力に【強化】を重ねての力押しか? いいなそれ、やっぱり戦いっていったら肌がひりつく白兵戦……っと、そういうのは今回なしだった。
でもまあ、都合いいのは変わらんな。非力なニンゲンが力でも魔力でも勝る鬼に挑む……そういう構図が相手の油断を生む。おまけに今は頭に血が上ってるときた。
俺はゆっくりと前進しながら……わずかな魔力で、空気を圧縮した小さな球を足の裏に。剣はまだ抜かない。
そうして、次の瞬間。
「……バースト」
地を蹴った俺は、足元の破裂音を置き去りに――――爆発的な推進力で、シュテンの頬に固い拳を叩きつけた。
「ッご、ぶぉ!?」
ひじの後ろでも破裂音。加速した拳を振り抜いて……シュテンが後方に吹っ飛ぶ。何度も地面にぶつかりながら、砂埃を巻き上げながら。
は、ざまあみやがれ!
「剣を抜かなかったことに感謝しろ。――のろまな鬼さんよ」
――それから。
都市の外の荒野にて、月明かりのもと激しい戦闘音が響く。
「……ッく!? この、ニンゲン! そんな貧弱な魔力で、どうやってそこまでの速さを!」
「少ない魔力でも使いようだ。無駄に垂れ流してるお前よりずっと上手く扱えてるってことだな」
「ックソ、いちいち癪に障る言い方を……!」
言い争いながら戦う二人を外野から見るのは――――ギルド職員のカンナに、淫魔の少女ヒュプノ。
カンナはクレバーの言いつけ通りにヒュプノをそばに置きながら、視線の先で繰り広げられる戦いに思わず呟く。
「……さすがですね、クレバーさんは。自分よりはるかに魔力も身体能力も高い魔族相手に、一歩も引いていません」
最初の交錯以降、クレバーは剣を抜いている。シュテンはそれを【強化】した肉体で迎え撃っているようで、驚くことに金属同士がぶつかるような音を響かせながら戦っていた。
そしてその速度は、離れたこの場所から見てもときおり動きを見失うくらいで。
カンナの隣で、ヒュプノが感動しているように声を漏らす。
「――す、すごいです……。あのシュテンさまに引けを取らない……いえ、むしろ押してる……!? すごい、ほんとうにすごい……っ!」
カンナがちらりと視線を向けると、ヒュプノは目を輝かせてクレバーを見ている。その様子はまるで王子様に夢中の少女そのもので、興奮からか尻尾をぶんぶん振っていた。
それに、なんだか…………この子から甘い香りが強く立ち昇り始めた。くらくらする……。
なぜだか強い危機感が胸に去来する。くらくら、むずむずするこの香り。
「……いえ! クレバーさんは成熟して落ち着いた大人の男性です。このような小娘に目がくらむことなどあるはずもない」
「……?」
「なんです? なにか言いたいことでもッ? 言っておきますが、私は貴女よりもずっとクレバーさんと付き合いが長くて、信頼もされていますので!」
「な、なんですか急に……?」
「いえ。ただ、私の方が……――クレバーさんの女として優秀であると。それだけお伝えしたく」
「!!」
言ってから、なにを子どもにムキになって……と自己嫌悪。ただ、ヒュプノは子どもとはいえ淫魔だ。警戒しておくに越したことはない。
そして…………そう思ったのは、実際杞憂でもなんでもなかった。
急にむっとした表情になったヒュプノが口を開く。
「わ、わたしだってもう…………――クレバーさんと、同衾したんですから!」
「ッな、……ぇ、あぁ、ぇえ!? どどどど同衾!?」
なんという衝撃発言! え、同衾? 嘘でしょう? あのクレバーさんがこんな子ども相手にそんなことをするなんて……!?
「クレバーさんの体、すごくゴツゴツしてて、でも……あったかくてっ。わたしついきゅんきゅんして、その、腰がかってに動いちゃって…………あぁ、思い出したら――」
「ええええ!? ダメダメ、ダメですよそんな! 貴女何歳ですか!? 犯罪ですよそれ!」
なんという……信じられない!
しかし、とカンナは思う。今のヒュプノの顔を見れば分かる。子どもだなんだなんてことは関係がない。
頬は赤らみ、目はとろんと蕩け。ともすれば、わずかに開いた口の端から透き通った銀の雫が垂れそうな。
これはまさに――メスの顔だ!
「ええええええ……本当に? いえでも、本当ですか? あのクレバーさんがそんな、子どもに手を出すなんてとても信じられません……! …………ッは、そうか、まさか! 淫魔としての力か何かで……?」
そうだ。きっとそうに違いない!
淫魔とは男の精気を吸い取り生きる種族と聞いたことがある。さらに、効率的な
な、なんという強力なライバルが。
「……これは、私ももっと本腰を入れてアプローチしないと!」
カンナはそう決意を固める。
……カンナとクレバーとの付き合いは長い。カンナが新人としてフダイセンのギルド支部で働き始めてからだから、もう二年近くになる。
初め、カンナはクレバーのことを少し怖く思っていた。だって二つ名が『狂い脚』だ。体も大きく、強面で、おまけに寡黙。ヤバいやつである。
しかし、そんな印象は彼との付き合いができ始めると一転した。そもそも初めの出会いが、カンナが依頼関係のミスをして怒られていたところを、彼がフォローに入ってくれたことによるものだ。
さらに。他の冒険者や傭兵と違って、問題を起こすことは一度もなく、真面目で誠実で大人の落ち着きがあって。実力は銀等級の中でも二つ名がつく上澄み。
ただ、唯一その…………二つ名の由来にもなった戦闘における悪癖が気になるものの。それだってむしろ、きっと彼になにか悲しい過去があったことを想起して、彼より歳下ながら母性をくすぐられる……。
つまり、ありていに言えば。――受付嬢カンナは、ずいぶん歳上の傭兵であるクレバーに特別な感情を抱いている。
だからこそ、淫魔の少女という男にとってのある種の理想を前にして決意したのだ。
この戦いが終わったら、私もクレバーさんへのアタックを……と。
……そんな、フラグのようなことを考えていたからなのかどうか。
一時意識を外してしまった戦場は――――いつの間にか、クレバーにとってのピンチに。
「――――さあッ! 雑魚どもの命が惜しいなら! さっさとその、猪口才な魔術を解くんだね!」
「お前いわく下等なニンゲンを相手に人質とはな。敗残兵幹部のプライドはないらしい」
「ッちょ、やめ、『狂い脚』! やめてくれぇ! 頼むから挑発しないで!」