ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜 作:ぞうきん
眼前には土で汚れた小柄な鬼に、フダイセンの間抜けな冒険者。
地面に散らばる冒険者たちを背景に、運のないそいつが首に手を回され、まさに命は風前の灯ってか。
「さぁ! とっとと魔術を解いて武器を捨てろ!」
「ぁああ頼むぅ……従ってくれ『狂い脚』ぃ……」
泣くなよ大の大人が。というか、その半ばあきらめたような絶望顔が癪に障るわ。見捨ててないからな、別に。
ったくしゃーない……。
「……――どうだ、これで。【強化】も風も解除した。武器も捨てる」
がらん、と剣が落ちる音。
「ダメです、クレバーさん……!」
「すぐに剣を拾って、その冒険者は捨て置いてください! 彼と貴方とでは……価値が違うんですよ!」
ははは。この場にお前の味方はいなさそうだぞ。俺以外は。
「クレバーさん……!?」
魔術も武器も捨てた無防備な姿。魔族なんて一級品の相手を前に。いつぶりだろうなァ、こんなのは――!
「と、止まるんだ。僕はこっちに来いとは言ってないよ」
「ぅおおい! 『狂い脚』、おい、なに考えてる!? まさか俺ごと斬り捨てるつもりじゃないよな!?」
おいおい、反応が過剰じゃないか? 今の俺は丸腰みたいなもんだろ。
「……お、俺、お前が笑いながら戦闘するとこ何回か見てるんだよ! 命の危険があるような強大な相手に、ゾッとするような鋭い剣で、狂ったみたいに突っ込んで……! やめてくれぇ、俺犠牲になりたくねえよ!」
はっは。そんな、頭のおかしい自殺志願者みたいなことするわけ……………………いや、あの時のことか? それともこっち――ま、いいや。
それより今はシュテンだろ。なァ?
「おい……おい! 僕はこっちに来るなって言ってるんだ! この人質は脅しじゃない! これ以上勝手な行動をするなら……!」
「ひぃいぃぃいい!!」
シュテンは指の先の鋭い爪を冒険者の首に食い込ませる。
……うーん、ここらが限界か? でも、剣捨てたおかげでだいぶ近づけたしな。よし、それじゃあ――
「あぁ、分かった。だから、そいつを殺すのはよせ」
「……。ハ、やっと言うことを――」
「ここからはもう、煮るなり焼くなり好きに…………――――ッさせてもらおうかァ!」
「!?」
俺の体が爆発的に加速する。
すでに、シュテンとの距離はだいぶ縮まってた。武器を捨てて魔術も解除して、一見無防備な状態に見せていたからこそ。
しかし実際は…………シュテンにバレない程度にごく少量、風の魔術だけはこっそり準備してたってわけだ。
魔力をまとう【強化】はバレるから使えない。【風の奔り】も普段より少ない魔力でやらなきゃいけない。それでも、極限まで魔力操作の無駄を減らして空気の圧縮を突き詰めれば、気取られずに意表を突けるくらいの出力は――
「――出せるんだよ! ッらァ!」
「ガッ……!」
「……よし、さっさと逃げろ! できればそこらで伸びてるやつらも引きずっていけッ」
「は、はいぃぃぃいい!!」
人質は逃せたな。ただ、【強化】もない状態じゃ大したダメージにはならなかったか。
「お、まええぇぇえッ!」
「ははは。だまし討ちで悪いが、人質を取るような卑怯者にはお似合いだろ!」
「黙れ! もう許さない……! 八つ裂きにしてやるッ」
「はっはァ!」
いいな、盛り上がってきたなァ! 戦いってのはこう、互いに滾る思いをぶつけないと!
「それじゃあ――――第二戦の開始だッ!」
月明かりに照らされた荒野に、風を切るような異様な音が鳴り続けている。
一つは、シュテンが振るう剛腕の音。そして、それを避ける俺の移動音も。
「――ッそら、どうしたんだ! 逃げるだけ!?」
「いやァ……反撃の機会はうかがってるんだが。ッどうも、隙が無くてなァ!」
いままた交わした腕が、空気を巻き込んで豪風を起こす。
こんなもん生身で当たったら終わりだな! 剣があるか、あるいは【強化】を使えてれば……。
俺は自身の体をちらりと見る。【強化】のため体表に魔力を循環させているが、いつもの滑らかさは見る影もない。歯抜けのようにガタガタで、そのせいで強化倍率も魔力効率もぐっと下がってる。
これは予想外だな……! まさか、ただの力馬鹿かと思ったあいつにこんな特殊能力があるとは。
そう――――一度、剣無しでシュテンの攻撃を受け止めて以降、うまいこと魔力が操れない。シュテンのあの妙にざらついた魔力で、俺の魔力生成器官を削られたかのような……。
しかし。そこ、ッ隙だ!
「ッぐ! でも――軽い軽い軽い! こんな攻撃、僕を倒したいならあと一万回は打ち込むことだねぇ!」
また殴られそうになったから急いで飛び退る。
うん、まるで効いてない! 剣はない、【強化】は中途半端じゃ、強力なフィジカルを持つシュテン相手に決定打にならない。
かといって、いまはどっちもどうしようもないからなあ。
じゃあ――――このままやるしかないわ。
「あははは! 無駄だって分からないの!? そんな調子じゃいつまでたってもどうしようもないよ!」
「そうだな、一発じゃな……!」
「え? ……そうだねえ、アハハハハハ! じゃあなにかい、効くまで何度でも当てるって!?」
「――そうなるなァ!」
「……? そんな、僕の一撃を受けただけで終わってしまう身体で、何十、何百、何千と!? よくもそんな現実的じゃないことを…………ははははは!」
……ん、なんで笑ってる? 俺おかしなこと言った? いや……言ってないよな。
だって――
「そこッ」
「グ……ッ、効かないねえ!」
「お、足元がお留守だなァ!」
「うわ! 、と……!」
「そんな乱暴に腕振り回したって当たらん! むしろほら、隙だろ!」
「ぐぅうぅぅうう!」
――距離を取ることもなく、俺たちは何度も何度も交錯する。凄まじい剛力が何度も体をかすめて、しかし一撃をもらうことはない。
一方で俺の攻撃は……もう何回だ? 数十回は通したぞ!
いやあ、シュテンの攻撃パターンもけっこう分かってきたし。この調子ならそろそろクリーンヒットの率も上げられそうだな!
「…………――――お、おかしい。どうしてだ! どうして僕の攻撃が当たらない!?」
「避けてるからなァ!」
「ッぐ、うぁ! ……だから! なぜこうも避けられるんだ! こっちは一回、たった一回当てたら勝ちなんだよ!? そんな緊張と恐怖でいっぱいの中、どうしてミス一つせずこんな……! 恐怖で目でもつぶってくれれば、次の瞬間にはひき潰せるのにッ!」
ん? 緊張と、恐怖? ………………ハハハ、そんな感情――
「――――ある、わけがない! 近接、白兵、刹那の交錯! こんなにひりつく戦いはそうないぞッ!」
目を閉じる? なにをバカな。この時間を最後まで楽しむにはそんなことしてらんないだろ。
今回はヒュプノのための戦いだけど、やっぱこれだけは我慢できん。ヒュプノを助けるのが一番の目標なんだから、ついでに俺がちょっと趣味に走るくらいいいよなァ。
眼球すれすれまで迫った拳を潜るそのスリル! ――たまんねぇ!
「こ、こいつ……本当に瞬き一つしない……? 僕の拳に、風を使ってむしろ突っ込んできて…………――――ッ狂ってる……!」
狂ってるって? ハハハ、そりゃ誉め言葉!
なんせ……俺は周りから見たら、魔術使ってまで狂ったように敵へ足を向ける――――『狂い脚』、らしいからなァ!