侵入と変装
荒野の果てに見えていた町は、近づくにつれて、その異様な全貌を現した。
リカリスの町。
魔大陸に三つある大都市の一つであり、かつて魔界大帝キシリカ・キシリスが本拠地としていた場所だ。
町は平地に築かれているわけではない。
巨大なクレーターの底に、建物が密集するように並んでいる。
周囲を囲む切り立った岩壁は、そのまま天然の城壁として機能していた。外から入れるのは、岩壁が裂けた三か所の入り口だけ。空でも飛べなければ、別の場所から侵入するのは難しいだろう。
町の中央には、半ば崩れた黒い城が見えた。
旧キシリス城。
ラプラス戦役で破壊されてから長い年月が経っているというのに、今なお荒野を睥睨するようにそびえている。
「ほう」
コジローが岩壁を仰ぎ見た。
「随分と大きな穴へ、町を築いたものよな」
「昔は城塞都市として使われていたそうです」
「四方を岩壁に囲まれ、出入り口はわずか。攻める者には難儀な地であろう」
戦場を見るような目で町の構造を確かめた後、コジローの視線が中央の古城へ移る。
「あれほど崩れながら、なお立ち続けるか。城というものも、存外しぶといものよ」
古城については、俺も同じような感想を抱いた。
だが今の俺たちにとって重要なのは、城よりも町の入り口だった。
クレーターの裂け目には、二人の門番が立っている。
武器を持ち、町へ入ろうとする旅人を一人ずつ確認していた。
俺は隣にいるルイジェルドを見上げた。
緑色の髪。
額の赤い宝石。
顔を縦断する大きな傷。
どこからどう見ても、伝説に語られるスペルド族そのものだ。
「ルイジェルドさん」
「なんだ」
「この町へ入ったことはありますか?」
「ない」
「近くまで来たことは?」
「何度かある」
「その時は、どうなりました?」
「門番が俺を見て叫んだ。しばらくすると、大勢の冒険者が出てきた」
実に分かりやすい。
入場拒否どころか、その場で討伐隊を組まれたらしい。
魔大陸なら、スペルド族への恐怖も人族の領域よりは薄いのではないかと思っていた。
だが、ミグルド族の里で聞いた話を思えば、そんな都合のいいはずもない。
「では、変装した方がよさそうですね」
そう言うと、ルイジェルドは眉を寄せ、俺を見下ろした。
「変装だと?」
声も表情も険しい。
スペルド族であることを隠せと言われて、気分を害したのだろうか。
「落ち着いてください。まずは町へ入らなければ、何をすることもできません」
「いや」
ルイジェルドは首を振った。
「変装とは、なんだ?」
「……知らないんですか?」
「ああ」
怒っていたわけではなかったらしい。
変装という言葉そのものを知らず、意味を問い返しただけだった。
文化の違いだろうか。
いや、変装を知っていたなら、三百年の間に一度くらい町へ入れていたかもしれない。
「外見を変えて、別の人物に見せることです」
「ほう」
ルイジェルドの表情から険しさが消えた。
むしろ、少し興味を持ったように見える。
「どうやってやる?」
「そうですね……まずは、髪と額、それから顔の傷を隠しましょう」
俺はその場へしゃがみ、地面に手をついた。
◇
「できました」
ルイジェルドは、俺が土魔術で作った兜を被っていた。
頭をすっぽりと覆う、岩石製のフルフェイスヘルメットである。
目の部分にだけ細い隙間を作ってあり、緑色の髪も額の宝石も、顔を走る傷も完全に隠れていた。
槍の穂先にも布を巻き、遠目には長い杖のように見せている。
少なくとも、スペルド族には見えない。
その代わり、かなり怪しい。
「重くありませんか?」
「問題ない」
ルイジェルドが首を左右へ動かす。
石同士が擦れ、ゴリゴリと鈍い音を立てた。
エリスが兜の前へ回り込む。
「それで前が見えるの?」
「ああ」
「息苦しくない?」
「問題ない」
「暑そうね」
「問題ない」
何を聞いても問題ないと返ってくる。
頑丈な男である。
コジローはルイジェルドの背後へ立つと、兜の後ろを軽く指先で叩いた。
「音が籠もるな」
「ああ。後ろの音は拾いにくい」
「ならば、町へ入るまでは私が後ろを見よう」
「助かる」
必要なことだけ確認し、会話が終わる。
こういう時、この二人は話が早い。
「それと、門番とは魔神語で話します」
俺はエリスとコジローへ伝えた。
「何か聞かれても、僕が説明するまで黙っていてください」
「分かったわ」
「承知した」
準備を整え、俺たちはリカリスの入り口へ向かった。
◇
「止まれ!」
予想どおり、門番に呼び止められた。
一人は蛇の頭を持つ男。
もう一人は、豚のような顔をした男だった。
蛇頭の門番が腰の剣へ手を添え、俺たちを順番に睨む。
「何者だ。何をしに来た」
俺は一歩前へ出た。
「旅の者です。町で食料を整えたいと思いまして」
「冒険者か?」
「いえ。まだ違います」
「まだ?」
「これから登録しようかと考えています」
門番の視線が、俺の後ろにいる三人へ移る。
まずエリス。
次にコジロー。
最後に、石の兜を被ったルイジェルドで止まった。
「そこの男はなんだ」
当然の疑問である。
「兄です」
「兄?」
「旅の途中で拾った兜を試しに被ったところ、外れなくなりまして」
兜の中で、ルイジェルドがわずかに動いた。
何か言いたいのかもしれないが、今は我慢してほしい。
「この町なら、外してくれる職人がいるかもしれないと思って、ここまで来ました」
門番は数秒、ルイジェルドを見つめていた。
やがて蛇頭の男が、噴き出す。
「拾った物を頭から被るとは、とんだ間抜けだな!」
豚頭の門番も腹を揺らして笑い始めた。
ルイジェルドは黙っている。
兜のおかげで顔は見えないが、機嫌がよくないことだけは分かった。
「道具屋の婆さんなら、何とかできるかもしれん」
「ありがとうございます」
どうやら、話を信じてもらえたらしい。
この世界では兜を被った者など珍しくないのか。それとも、子供を連れていることで警戒が薄れたのか。
門番の視線が、今度はコジローの背中へ移る。
「そっちの男が背負っているのは剣か?」
「はい。この人の得物です。長い剣を使う剣士なんです」
「随分と長いな」
門番はコジローへ魔神語で何かを尋ねた。
コジローには通じていない。
それでも問いかけられたことは分かったらしく、穏やかに一礼した。
「人間語しか話せません」
「そうか」
門番はコジローの立ち姿をしばらく観察したが、やがて興味を失ったように視線を外した。
「町で騒ぎを起こすなよ」
「もちろんです」
どうやら通してもらえそうだ。
「そうだ。一つ聞いてもよろしいですか?」
「なんだ」
「この町で、旅人が金を稼げる場所はありますか?」
「金?」
「兄の兜を外すのに、いくら必要になるか分かりませんから」
蛇頭の門番は、納得したように頷いた。
「それなら冒険者ギルドへ行け。よそ者でも仕事を受けられる」
「場所は?」
「この道をまっすぐだ。大きな建物だから、すぐ分かる」
「ありがとうございます」
「登録しておけば宿も少し安くなる。しばらく滞在するなら、やっておいて損はないぞ」
有益な情報である。
俺たちは門を通りかけ、俺はふと思い出して足を止めた。
「ところで、今日は警備が厳しいようですが、何かあったんですか?」
「最近、この辺りで『デッドエンド』が目撃されたらしい」
「デッドエンド?」
「知らないのか。出会えば死ぬと言われている、スペルド族の悪魔だ」
「それは恐ろしいですね」
「ああ。見かけても絶対に近づくな。すぐに衛兵か冒険者ギルドへ知らせろ」
「分かりました」
俺たちは門を通過した。
背後から、石兜の男について笑う声が聞こえてくる。
しばらく歩き、門から十分に離れたところで、俺は人間語へ戻した。
「無事に入れました」
「何を話していたの?」
エリスが尋ねる。
「ルイジェルドさんは僕の兄で、拾った兜を被ったら外れなくなった、と」
「それを信じたの?」
「信じました」
エリスがルイジェルドの兜を見上げる。
「そんなことをする人に見えたのかしら」
「兜を被っている姿が、十分な説得力を持っていたのであろうな」
コジローが答えた。
「どういう意味だ」
兜の中から低い声が響く。
「さて。門を越えられたのだから、よしとすべきであろう」
ルイジェルドは何も言わなかった。
「まだ兜は外さないでくださいね」
「分かっている」
声が少しだけ低い。
「それから、門番が言っていたんですが」
俺はルイジェルドへ顔を向けた。
「この近くで『デッドエンド』が目撃されたそうです。何のことか知っていますか?」
「俺のことだ」
「……はい?」
「俺は一部の者から、そう呼ばれている」
出会えば死ぬ。
デッドエンド。
てっきり危険な魔物の名前だと思っていた。
まさか、目の前の男の二つ名だったとは。
「格好いいじゃない!」
エリスが弾んだ声を上げた。
「どこがですか。町中が警戒している原因ですよ」
「強そうでいいじゃない!」
「実際に強いから、余計に困るんです」
コジローは兜を被ったルイジェルドを眺め、静かに目を細めた。
「名を聞いただけで門を閉ざされるか」
「ああ」
「敵を退けるには便利であろうが、旅をするには難儀な名よな」
まったくである。
だが、悪いことばかりでもない。
ルイジェルドという名が知られていないのなら、一から広めなければならない。
しかし、デッドエンドはすでに広く知られている。
問題は、その名に恐怖しか付随していないことだ。
ならば。
その意味を少しずつ変えていくことはできないだろうか。
◇
リカリスには、ロアと比べて背の低い建物が並んでいた。
道を歩く者の姿も様々だ。
獣の頭を持つ者。
背中から翅を生やした者。
下半身が蛇の者。
ロアでは見たこともない姿が、当たり前のように通りを歩いている。
「あれ見て、ルーデウス! 羽が生えてるわ!」
「指をささないでください」
「あっちの人、足がないわよ!」
「大声もやめてください」
エリスは遠慮なく首を左右へ振っている。
言葉が通じていないのが救いだが、態度だけでも十分に失礼かもしれない。
コジローも周囲へ目を向けていたが、珍しい見世物を眺めるような無遠慮さはなかった。
時折、露店に並べられた武器や、行き交う者の装備を確かめる程度だ。
「門番から、冒険者ギルドを勧められました」
俺は三人へ説明した。
「登録すれば仕事を紹介してもらえるそうです。宿も少し安くなるとか」
「冒険者!」
エリスの目が輝いた。
「なるわ!」
予想どおりの反応である。
ギレーヌから冒険者時代の話を何度も聞いていたのだろう。以前から少なからず憧れていたらしい。
「ルイジェルドさんは、冒険者登録をしたことがありますか?」
「ない。冒険者ギルドのある町へ入れなかった」
「そうでしたね」
俺はコジローを見る。
「コジローは?」
「さて」
コジローは、少し記憶を探るように間を置いた。
「路銀に困った折、冒険者として二つ三つ仕事を請けたことはある」
「登録したんですか?」
「中へ入れば分かろう」
詳しい話は、冒険者ギルドへ着いてからでいいだろう。
いずれにせよ、先に片づけなければならない問題がある。
俺はルイジェルドの兜を見上げた。
門を越えるだけなら役に立った。
だが、町の中で人助けをするには向いていない。
表情が見えない人物は、それだけで警戒される。
せっかく善行を積んでも、岩の兜を被った怪しい男という印象しか残らないだろう。
「まずは、もう少し自然な変装に変えましょう」
「自然な変装?」
「髪の色を変えます」
◇
冒険者ギルドへ向かう前に、俺たちは露店を回った。
必要なのは染料。
頭を隠せる衣類。
そして、髪の色を抜くために使えそうな、酸味の強い果実だ。
通りには、魔物の牙や毛皮、見慣れない果実や染料が所狭しと並べられている。
俺は何軒かの店で値段を尋ね、商品の質を確かめた。
会話はすべて魔神語なので、エリスとコジローには内容が分からない。
だが、俺と店主が値段を巡って何度も言葉を交わしていることは伝わったようだ。
染料と果実、それからフードを買い、旅の途中で手に入れた魔物の素材の一部を売った。
相場に詳しくないので、こちらが得をしたのか、店主が得をしたのかは分からない。
少なくとも、最初に提示された値段よりは安く買えた。
「随分と口が回るものよな」
店を離れたところで、コジローが言った。
「交渉しないと、食費がなくなりますから」
「剣で斬り結ぶより、よほど疲れそうだ」
「ははは…僕は逆です」
人気の少ない裏通りへ入る。
ルイジェルドに岩兜を外してもらい、買ってきた果実の汁を髪へ塗った。
「目に入らないようにしてください」
「ああ」
「動かないでくださいね」
「分かった」
エリスが、すぐ近くから興味深そうに覗き込んでいる。
「私もやる!」
「これは遊びではありませんよ」
「分かってるわよ。塗るのを手伝うの!」
少々不安なので、エリスには染料を混ぜる係を任せた。
果汁で緑色を薄くしてから、青い染料を髪へ塗り込んでいく。
ルイジェルドは、されるがままだ。
しばらく待ち、余分な染料を洗い流す。
仕上がった髪は、ミグルド族のような鮮やかな青にはならなかった。
暗く、やや濁った青色である。
染まり方にも少しむらがある。
綺麗とは言い難い。
だが、少なくとも緑色には見えない。
「どうだ?」
ルイジェルドが尋ねた。
「スペルド族には見えません」
「では、何に見える?」
俺は少し離れ、全体を確認した。
長身。
額の赤い宝石。
顔を走る大きな傷。
青い髪だけでミグルド族に見えるかというと、かなり無理がある。
「……変わったミグルド族です」
「今、わずかに目を逸らしたな」
コジローに見抜かれた。
「一瞬でも判断を迷わせられれば十分です」
「ふむ……」
コジローはルイジェルドの髪を眺めた。
「髪の色一つで、人の目とは変わるものか」
「人は最初に見た特徴から相手を判断します。その後で、理由を後付けすることも多いんです」
「難儀なものよな」
ルイジェルドは自分の髪へ触れ、感心したように指先を見た。
「髪の色を変えるとは、面白いものを考える」
さて。
ここからが本題だ。
「ルイジェルドさん。町の中では、自分の名前を隠さないでください」
「変装したのにか?」
「はい。ルイジェルドと名乗ってください」
ルイジェルドは眉を寄せた。
「俺だと知られれば、追い出されるのではないか」
「今の姿を見て、本物のデッドエンドだと思う人は少ないでしょう」
「どういうことだ」
「青い髪の男が、スペルド族のデッドエンドを名乗る。周りは、本物ではなく、名前を借りて威張っている偽物だと思います」
ルイジェルドの顔が険しくなる。
「俺の名を騙る者か」
「本人ですけどね」
「……」
「周囲が勝手に偽物だと思うんです」
どうにも説明がややこしい。
俺は地面へ線を引き、簡単な図を描きながら続けた。
「まず、偽物のデッドエンドだと思わせる。その偽物が町で人を助ける。すると、『デッドエンドを名乗る変な男は、意外といい奴だ』という話になります」
「偽物の評判がよくなるだけではないのか」
「最初はそれで構いません」
「構うだろう」
「最後まで聞いてください」
ルイジェルドが黙る。
「噂というものは、広まるうちに細かな部分が抜け落ちます。青い髪だったとか、本物ではなかったとか。最後には、『ルイジェルドという男が誰かを助けた』という部分だけが残る可能性があります」
「本当にそうなるのか」
「確実とは言えません」
ここで断言するのはよくない。
評判など、こちらの都合どおりに動くものではない。
「ですが、何もしなければ今のままです。まずは名前を聞いても逃げられない状況を作り、その上でルイジェルドさんの行いを見てもらいます」
「俺は嘘をつくのか?」
「いいえ。名前を聞かれたら、本名を答えてください。種族を聞かれても、正直に答えて構いません」
「なら、なぜ俺が偽物になる」
「あなたは偽物になりません。周りが勝手に勘違いします」
「俺が俺を名乗り、俺を偽物だと思わせるのか」
「そうです」
「……分からん」
ルイジェルドが難しい顔になった。
演技や駆け引きには、あまり向いていないらしい。
「名も行いも偽らず、他人の早合点だけをしばし借りる、ということか」
コジローが静かに言った。
「そういうことです」
「俺は、普段どおりにしていればいいのか」
「はい。説明と演技は僕が担当します」
ルイジェルドはしばらく考え込んだ。
やがて、青く染まった髪へ触れ、俺を見た。
「三百年、何も変わらなかった」
短い言葉だった。
「なら、お前のやり方を試す」
「ありがとうございます」
ひとまず、作戦の第一段階は成功である。
俺は首から下げていた物を外した。
ミグルド族の守護を象った首飾り。
ロキシーから卒業祝いにもらった、大切な品だ。
「これを着けてください」
「ミグルド族の御守りか」
「はい。青い髪と合わせれば、ミグルド族に関係する人物だと思ってもらえるかもしれません」
ルイジェルドは、すぐには手を伸ばさなかった。
「大切な物だろう」
「大切だからこそ、なくさないでください」
「お前が持っていた方がよいのではないか」
「必要だから渡すんです」
俺は首飾りを差し出したまま、手を引かなかった。
ルイジェルドは両手で受け取ると、慎重に首へ掛けた。
「必ず返す」
「絶対ですよ」
「ああ」
その手つきを見る限り、心配はいらないだろう。
「次はエリスです」
「私も髪を染めるの?」
「いえ。赤い髪を隠してください」
俺は買ってきたフードを広げた。
そこで、初めて妙な形をしていることに気づいた。
頭頂部に、二つの袋が付いている。
恐らく、獣族の耳を収めるためのものだ。
人族が被れば、猫の耳のように見えるだろう。
「これは……」
エリスは獣族を好んでいる。
だが、自分が獣族の真似をすることまで好むかは分からない。
ボレアス家で教わった、あの独特な挨拶を思い出す。
「別の物を探した方が──」
「それ、私の?」
「え?」
「私が被るんでしょ?」
エリスの目が輝いていた。
「まあ、そのつもりでしたが」
「早く貸しなさい!」
フードを奪うように受け取ると、すぐに頭から被った。
二つの耳袋が、ぴんと立つ。
エリスは自分では見えないため、両手で触って形を確かめていた。
「どう?」
「似合っていますよ」
「本当?」
「はい」
「コジローは?」
エリスが振り返る。
コジローは、猫耳のようなフードを被ったエリスを眺めた。
「獅子が猫を装うか」
「何よ。似合ってないの?」
「いや」
口元に、ごく薄い笑みが浮かぶ。
「実によく似合っておる」
「そうでしょ!」
エリスは満足そうに耳袋を揺らした。
「コジローは変装しないの?」
「私はスペルド族ではないのでな」
「その長いカタナ、すごく目立つわよ」
「隠すには、少々長すぎよう」
布を巻いたところで、背中へ異様に長い物を負っている事実は変わらない。
「まあ、コジローはそのままでいいでしょう。目立つ人が一人ぐらい増えても、今さらです」
「一人どころじゃないわよ」
俺は改めて三人の姿を確認した。
暗い青色の髪に、額の赤い宝石を持つ長身の男。
猫耳のようなフードを被った赤髪の少女。
杖を持った十歳の人族。
そして、背中へ異様に長いカタナを負った群青髪の剣士。
冷静に考えると、全員が目立っている。
しかし、逆に都合がいいかもしれない。
特徴が多すぎれば、どこを警戒すべきか分からなくなるものだ。
「これで準備は整いました」
俺は三人を見回した。
「まずは冒険者ギルドへ行きましょう」
「冒険者ね!」
エリスが嬉しそうに耳付きフードを揺らす。
ルイジェルドは首元の御守りを確かめた。
コジローは背中の長刀を負い直す。
俺たちは裏通りを抜け、人通りの多い道へ戻った。
通りの先に、周囲の建物よりも一回り大きな建物が見えた。多くの者が絶えず出入りしている。
門番の話どおりなら、あれが冒険者ギルドだろう。
転移されてから、まだ数日しか経っていない。
魔大陸を横断する方法も、アスラ王国までの道筋も、まだ何一つ見えていない。
それでも、金を稼ぐ手段ぐらいは見つかりそうだ。
俺は建物の前で、一度だけ息を整えた。
前世から数えて、およそ四十四年。
ついに俺は、自分から仕事を探すための扉を叩こうとしていた。