冒険者の宿
冒険者ギルドの掲示板には、数え切れないほどの依頼書が貼られていた。
俺たちが受けられるのは、FランクとEランクの依頼だけである。
倉庫の荷物運び。
食堂での皿洗い。
店の掃除。
害虫の駆除。
迷子になったペットの捜索。
内容だけを見れば、危険な仕事はほとんどない。
その代わり、報酬も安かった。
「討伐依頼はないの?」
エリスが不満そうに掲示板を見上げた。
もちろん、彼女には依頼書に書かれた魔神語は読めない。隣にいるルイジェルドへ、先ほどから一枚ずつ内容を尋ねていた。
「討伐依頼は、ほとんどがCランク以上だ」
「ゴブリンとかは?」
「この大陸に、そこまで弱い魔物はいない」
「つまらないわね」
魔大陸基準では、ゴブリンは初心者用の相手にすらならないらしい。
ルイジェルドが掲示板の上部を指さした。
「あれなら、竜の討伐だ」
「竜!?」
エリスの目が輝いた。
「受けましょう!」
「Sランクだ」
「読めないんだから、分かるわけないでしょ!」
逆に怒られている。
ルイジェルドも大変だな。
コジローは二人の会話を聞きながら、依頼書が並ぶ板を静かに眺めていた。
「随分と細かく仕事を分けるものよな」
「勝手に仕事を取り合うよりは、揉め事が少なくなるんでしょう」
「なるほど。腕のみならず、信用も売る場所というわけか」
冒険者ギルドの仕組みを、早くも大まかに理解したらしい。
もっとも、今の俺たちに信用などない。
あるのは、先ほど作ったばかりの笑い者としての評判だけだ。
「おいおい、デッドエンドの皆さんよ」
背後から、聞き覚えのある声がした。
振り向くと、先ほどペルトコを止めた馬頭の男──ノコパラが立っていた。
俺たちを見下ろしながら、相変わらず笑いを噛み殺している。
「竜退治は、あんたらにゃ少し早いんじゃねえか?」
「分かってますよ」
「そう怒るなって。親切に、似合いの仕事を教えてやろうと思ってな」
ノコパラは掲示板から一枚の依頼書を剥がした。
迷子のペット捜索。
報酬は屑鉄銭一枚。
依頼主はメイセルという少女らしい。
自分の小遣いを使って依頼した、と書かれている。
「兄貴の額にある目は、飾りじゃねえんだろ?」
ノコパラが、ルイジェルドの宝石を指さす。
「町がいくら広かろうが、デッドエンド様ならペットの一匹ぐらい、すぐ見つけられるんじゃねえのか?」
助言の形をした嫌味である。
本物のスペルド族ではないと思っているからこそ、そんなことが言えるのだろう。
「余計なお世話です」
「へえ、そいつは残念だ」
ノコパラは依頼書を掲示板へ戻した。
俺たちをからかうだけからかうと、笑いながら仲間のいる席へ帰っていく。
腹の立つ男だ。
だが、言っていることには一理ある。
ルイジェルドの索敵能力なら、町中にいる動物を見つけるのも難しくないかもしれない。
ペット捜索なら人助けにもなる。
とはいえ、今日は登録を済ませたばかりだ。
土地勘もなく、宿すら決めていない状態で仕事を始める必要はない。
「今日は帰りましょう」
「依頼は受けないのか?」
ルイジェルドが尋ねる。
「明日からでいいでしょう。今日は顔を覚えてもらえただけで十分です」
覚えられた理由には、あまり触れたくない。
俺たちが出口へ向かうと、背後から再び笑い声が上がった。
「もう帰るのかよ!」
「さすがデッドエンド様は余裕だな!」
「仕事なんて選び放題だもんな!」
ルイジェルドが、これで本当にいいのかと問いかけるような視線を向けてくる。
俺は小さく頷いた。
恐れられるより、笑われる方がまだいい。
少なくとも、デッドエンドという名を聞いた者たちは、逃げずにこちらを見ていた。
最初の一歩としては、悪くない。
◇
冒険者ギルドを出ると、町はすでに薄暗くなっていた。
見上げれば、空にはまだわずかに明るさが残っている。
だが、リカリスはクレーターの底に築かれた町だ。周囲を囲む岩壁によって日差しが遮られ、地上よりも早く夕闇が訪れるらしい。
「宿を探しましょう」
「町の外で寝てもいいんじゃないの?」
エリスが言った。
「町に入れたのですから、今日ぐらいは屋根の下で寝ましょうよ」
野宿に慣れつつあるのは頼もしい。
だが、せっかく町へ入ったのに、わざわざ外へ戻る理由もない。
何より、寝ている最中にルイジェルドが魔物と戦い始めるのは、心臓に悪い。
コジローも特に異論はないようだった。
「野で眠るのも嫌いではないが、寝床を選べる時まで苦労を買うこともあるまい」
「コジローもこう言っています」
「そう?」
エリスは納得しきっていない様子だったが、それ以上は反対しなかった。
「ねえ、ルーデウス! 見て!」
不意に、エリスが岩壁を指さした。
クレーターの内壁が、淡い光を放ち始めていた。
夕闇が濃くなるにつれ、その光も次第に強くなっていく。
やがて日が完全に沈むと、岩壁に埋め込まれた無数の光が、町全体をぼんやりと照らし出した。
「すごいわ!」
エリスが歓声を上げる。
夜の底へ沈んでいた町が、一斉に姿を現した。
その中央には、光を受けて浮かび上がる半壊した旧キシリス城。
昼間に見た時よりも、はるかに幻想的だ。
「あれは魔照石だ」
ルイジェルドが言った。
「魔石の一種で、昼間に日の光を蓄え、暗くなると光を放つ」
「便利ですね。アスラ王国では見たことがありません」
「希少な物だ。あれほどの量を集められる者は、そう多くない」
ルイジェルドによれば、魔照石を集めさせたのは、かつてこの城に住んでいた魔界大帝らしい。
目的は、夜の城を美しく見せるため。
町の者の生活を便利にするためではない。
「城一つを飾るためだけに、これほどの石を集めたのですか?」
「ああ。魔界大帝は自堕落で、己の欲望に忠実だったと聞く」
「ほう」
コジローが、暗闇の中に浮かぶ古城を眺めた。
「夜を灯してまで、己が城を飾るか。何とも酔狂な主よな」
「今では、町の役に立っているみたいですけどね」
「本人にそのつもりがなくとも、後の世に何かを残すことはあるか」
コジローはそれ以上何も言わず、しばらく光の中に浮かぶ城を見つめていた。
「お城に行ってみたい!」
エリスが言った。
「今日はやめておきましょう」
「なんでよ!」
「もう遅いですし、僕も少し疲れました」
「大丈夫なの?」
それまで不満そうだったエリスの表情が、すぐに心配そうなものへ変わる。
「慣れないことが続きましたからね。休めば治ります」
「……そう。なら今日は我慢するわ」
我慢。
以前のエリスなら、なかなか出てこなかった言葉だ。
俺の知らないところで、少しずつ成長しているらしい。
◇
俺たちが選んだのは、
初心者の冒険者を主な客としているらしく、建物は古いが料金は安い。
一室、一泊石銭五枚。
部屋の寝台数にかかわらず、値段は同じ。
同じパーティーの者が二人以上で一室を使えば、朝と夜の食事も付くという。
「四人で一部屋。まずは三日分お願いします」
「あいよ」
愛想のない店主へ石銭を渡す。
四人で泊まっても値段が変わらないのはありがたい。
宿の入り口は、食堂を兼ねた小さな酒場になっていた。
客のほとんどは若い冒険者だ。
その中でも、ひときわ若い三人組が、俺たちをじろじろと眺めていた。
一人は、額に一本の角を持つ白髪の少年。
一人は、太い腕を四本持つ少年。
もう一人は、嘴と羽毛を持つ鳥のような少年。
三人とも、今の俺より少し年上に見える。
店主から宿の説明を聞いていると、角の少年が立ち上がった。
真っすぐエリスへ歩み寄っていく。
「き、君も新人の冒険者なのか?」
魔神語で話しかけている。
そうはいってもエリスには通じていない。
「俺たちも新人なんだ。一緒に食事でもどうだ?」
角の少年の声は、わずかに震えていた。
どうやら、ナンパらしい。
意を決して声を掛けたのだろう。
だが、相手が悪い。
「…………ふん」
エリスは顔を背けた。
言葉が分からないだけなのだが、角の少年には完全に無視されたように見えたらしい。
「依頼の選び方とか、教えられると思うんだ」
さらに話しかける。
エリスは彼を一瞥すると、興味がないとでも言うように、静かにその場を離れようとした。
ボレアス家で習った、相手にしたくない者を避ける作法だろうか。
実に自然な無視だった。
「待てよ」
角の少年は苛立ったように、エリスのフードを掴んだ。
そのまま強く引っ張る。
エリスの体はほとんど動かなかった。
代わりに、フードの縫い目から、小さな音がした。
布が裂けた。
「……え?」
エリスが破れた箇所へ触れる。
ほんのわずかな裂け目だ。
縫い直せば済む程度の傷。
しかし、それを見たエリスの顔から、すべての表情が消えた。
まずい。
「何すんのよ!」
振り向きざまの拳が、角の少年の顔面へ突き刺さった。
少年の体が回転しながら床へ転がる。
「なっ──」
四本腕の少年が立ち上がる。
エリスはその腹へ蹴りを叩き込み、前屈みになった顎を膝で跳ね上げた。
二人目も倒れる。
鳥の少年が混乱しながら腰の剣へ手を伸ばした。
その瞬間、コジローの視線が鋭くなる。
だが、刀へ手を掛けるより先に、エリスの拳が鳥の少年の顎先を打ち抜いていた。
三人が、ほとんど同時に床へ倒れる。
速い。
いや、感心している場合ではない。
エリスは最初に倒した角の少年へ歩み寄ると、その腹を蹴り上げた。
「これはルーデウスが初めて買ってくれた服なのよ!」
怒りの理由は、そこだったらしい。
あんな安物を、大切にしてくれていたのか。
少し嬉しい。
だが、今は感動している場合でもない。
角の少年は頭を抱えて丸くなっている。
それでもエリスは蹴るのをやめなかった。
「一生後悔させてやるわ!」
「エリス、待ってください!」
俺は後ろからエリスへ抱きつき、必死に引き止めた。
「放しなさい、ルーデウス!」
「僕が縫います! ちゃんと元に戻しますから!」
「でも、こいつが!」
「もう十分です! それ以上は、本当に洒落になりません!」
エリスはしばらく俺の腕の中で暴れていたが、やがて大きく鼻を鳴らし、動きを止めた。
俺から離れると、破れたフードを握りしめたままルイジェルドの方へ歩いていく。
ルイジェルドは椅子へ座り、一連の出来事を静かに見ていた。
「ルイジェルドさんも止めてくださいよ!」
「子供同士の喧嘩だろう?」
「一方的すぎます!」
コジローも、いつの間にか元の穏やかな立ち姿へ戻っていた。
「お嬢」
「何よ」
「怒るのはもっともだが、これ以上は喧嘩ではなくなる」
「……分かってるわよ」
分かっている者の顔ではなかったが、エリスはそれ以上少年たちへ近づこうとはしなかった。
◇
「大丈夫ですか?」
俺は倒れた三人へ治癒魔術を使った。
角の少年が恐る恐る体を起こす。
「あ、ああ……」
「すみません。彼女は魔神語が分からないんです」
「な、なんで、あんなに怒ったんだ?」
「フードを大切にしていたんですよ。それと、しつこくされるのが嫌いなんです」
エリスを見る。
彼女は破れた箇所を睨みつけ、今にも再び暴れ出しそうな顔をしていた。
「謝りたいなら、今は近づかない方がいいですよ」
「そ、そうする……」
「それから、仕返しも考えない方がいいです。今度は、僕が止められるとは限りません」
半分は脅しだ。
だが、残り半分は本気である。
角の少年は何度も頷いた。
「俺はクルト。あっちはバチロウとガブリンだ」
四本腕がバチロウ。
鳥のような少年がガブリン。
三人は少し距離を取りながら並び、妙な構えを取った。
「三人揃って、トクラブ村愚連隊だ!」
正直に言えば、格好悪い。
だが本人たちは真剣だ。
「僕はルーデウス。あの赤髪がエリスです」
「二人でパーティーなのか?」
「いいえ」
俺はルイジェルドとコジローを指さした。
「あの二人も一緒です」
少年たちはルイジェルドを見た後、コジローの背負う長刀へ目を向けた。
「長い剣の人も?」
「コジローという戦士です。彼も魔神語は話せません」
名前を呼ばれたと気づいたコジローが、三人へ軽く頭を下げる。
三人も、釣られるように頭を下げた。
「パーティー名は?」
「デッドエンド」
三人の表情が揃って固まる。
この町では有名になるつもりなのだとクルトは言った。
いずれ自分たちの仲間になりたいと言っても入れてやらない、とも。
エリスに一瞬で倒された直後とは思えない自信である。
「魔大陸の平原でも、同じことを言えるぐらい強くなってください」
「今のは油断してただけだ!」
実に将来有望だ。
俺たちは彼らと別れ、夕食を済ませて部屋へ向かった。
◇
部屋には、毛皮を重ねた寝台が四つ並んでいた。
狭くはあるが、野宿と比べれば十分だ。
俺は店主から針と糸を借り、破れたフードを縫い直した。
エリスは隣へ座り、作業する俺の手元を黙って見ている。
「こんなものでどうでしょう」
縫い目は少し不格好だが、穴は塞がった。
エリスは受け取ったフードを何度も裏返し、満足そうに頷く。
「悪くないわ」
「次からは、もう少し手加減してくださいね」
「あいつが掴まなければよかったのよ」
反省はしていないらしい。
コジローは部屋の入り口に近い寝台へ腰を下ろしていた。
「ほう針仕事まで心得ておるとは、器用なものよな」
「必要に迫られただけです」
「必要に迫られれば、存外なんでもできるものか」
俺は自分の寝台へ腰掛けた。
今日一日で、妙に疲れた。
歩いた距離なら、魔大陸の荒野を進んでいた日の方が長い。
だが、人に見られ、笑われ、警戒され、芝居を続けたせいで、精神的な疲労が溜まっている。
しかし、休んでばかりもいられない。
俺は手持ちの金を取り出し、寝台の上へ並べた。
1人一泊、石銭五枚。
食事代は宿泊費に含まれる。
それだけならまだ安い。
だが、染料、衣服、旅の道具、消耗品。
町を出た後の食料も必要になる。
Fランクの仕事を一日一件こなしたところで、宿代を払えばほとんど残らない。
四人で仕事を分担すれば稼げるだろう。
だが、エリスとコジローは魔神語を話せない。
ルイジェルドを一人で行動させれば、正体が露見する可能性もある。
何より、別々に働いていては、ルイジェルドの評判を変えるという目的を果たせない。
冒険者ランクが上がれば、報酬の高い仕事を受けられる。
だが、討伐依頼を受けられるようになるまでには時間が掛かる。
今の手持ちでは、何も稼がなければ二週間ともたないだろう。
平原へ出て魔物を狩り、素材を売る方が早いかもしれない。
しかし、それではデッドエンドの名を広められない。
金を稼ぐ。
ランクを上げる。
ルイジェルドの評判を変える。
三つを同時に進めなければならない。
考えれば考えるほど、思考が同じ場所を回り始める。
「難しい顔をしているわね」
エリスが言った。
「今後の予定を考えているんです」
「明日、仕事をすればいいじゃない」
「それだけで済めばいいんですけどね」
エリスは俺に任せきっている。
そう思うと、少しだけ苛立ちが湧いた。
だが、それは違う。
彼女が考えていないのは、俺を信じているからだ。
慣れない土地で、言葉も通じない。
それでも不安を表に出さず、俺の方針へ従っている。
むしろ、俺が気づいていないだけなのかもしれない。
俺は金を袋へ戻した。
今夜考え続けても、答えは出そうにない。
体も重い。
明日になれば、何か思いつくかもしれない。
俺は寝台へ横になり、目を閉じた。
◇
白い場所だった。
何もない。
地面も空も、境目すら見えない。
そして目の前には、相変わらず輪郭の定まらない白い人影が立っていた。
「やあ」
軽い声。
聞くだけで腹立たしい。
ヒトガミだ。
「そんな顔をしなくてもいいだろう? 前の助言は役に立ったじゃないか」
確かに、ルイジェルドを頼ったことで町までたどり着けた。
だが、それだけで信用する理由にはならない。
「随分と彼を信頼しているんだね」
当たり前だ。
少なくとも、ルイジェルドは子供を守るために行動している。
「それなら、次の助言も聞いておくといい」
白い人影は、芝居がかった仕草で両手を広げた。
「ルーデウスよ、明日ペット捜索の依頼を受けなさい……」
どうしてだ。
「それであなたの不安は解消されるでしょう」
それだけ言うと、白い世界が遠ざかっていった。
声だけが、妙に耳の奥へ残る。
◇
夜中に目が覚めた。
嫌な夢だった。
いや、夢と呼んでいいのかも分からない。
ヒトガミは、こちらが弱っている時を狙って現れているような気がする。
人の不安へ、必要そうな答えを差し出す。
やり方が気に入らない。
だが、ペット捜索は元々候補に入れていた。
ノコパラに言われたとおり、ルイジェルドの能力とも相性がいい。
今回は、助言に乗ってもいいかもしれない。
俺は部屋の中を見回した。
ルイジェルドは寝台を使わず、部屋の隅で槍を抱えるように座っている。
眠っているのか起きているのか分からない。
コジローは入り口に一番近い寝台へ横になり、長刀を手の届く位置に置いていた。
静かな寝息さえ聞こえない。
そしてエリスは、窓辺の寝台に腰掛けていた。
膝を抱え、暗くなった町を眺めている。
俺は音を立てないように起き上がり、彼女の隣へ座った。
「眠れないんですか?」
「……うん」
昼間の威勢が嘘のように、か細い声だった。
「ねえ、ルーデウス」
「はい」
「私たち、帰れるのかな」
胸の奥が痛んだ。
エリスは、冒険を楽しんでいるのだと思っていた。
魔大陸の景色を見て喜び、魔物との戦いにも怯えず、町へ入れば珍しい物へ目を輝かせる。
だから不安など感じていないのだと、勝手に決めつけていた。
そんなはずはない。
家族と離れ、知らない大陸へ飛ばされ、言葉も通じない場所を旅している。
怖くないはずがない。
今日の喧嘩も、積み重なった不安が原因だったのかもしれない。
「帰れますよ」
俺はエリスの肩を抱いた。
彼女の頭が、そっと俺の肩へ乗る。
「必ず帰りましょう。フィットア領まで、僕が連れて帰ります」
「……任せても、大丈夫よね?」
「安心してください」
根拠はない。
道筋すら分かっていない。
それでも、今ここで迷うわけにはいかなかった。
「何としても帰ります。だから、今は休んでください。明日から仕事を始めますよ」
「うん」
エリスの頭を軽く撫で、俺は自分の寝台へ戻った。
その途中で、ルイジェルドと目が合った。
起きていたらしい。
だが何も言わず、すぐに目を閉じた。
コジローは身じろぎ一つしない。
眠っているのか、聞こえないふりをしているのかは分からなかった。
俺は毛皮へ潜り込み、改めて目を閉じる。
帰らなければならない。
エリスを故郷へ送り届ける。
ルイジェルドの名誉を取り戻す。
コジローも含め、四人でこの大陸を越える。
そのためには、まず明日を生きるための金が必要だ。
ペット捜索。
ヒトガミが何を考えているのかは分からない。
だが明日は、あの依頼を受けてみよう。
こうして、デッドエンドの冒険者としての最初の一日は、静かに終わった。