無職転生~異聞 月下の剣士   作:彼岸花さつき

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第九月 師匠の秘密

 師匠の秘密

 

 白い空間だった。

 

 そこへ、わざとらしい後光を背負った何かが降りてきた。

 翼まで付いている。

 

 おお、天使。

 ついに俺にも救いが――と思ったところで、下半身の辺りに見覚えのあるモザイクがちらついた。

 

 台無しである。

 

 顔までよく見えないくせに、笑い方だけは妙に腹が立つ。

 あの自称神だと分かった瞬間、夢の景色が霧みたいに崩れた。

 

「……朝から縁起でもない」

 

 目を開ける。

 

 昨日は暗くてよく見えなかったが、夜が明けた魔大陸は想像以上に荒れていた。

 地面は赤茶け、岩壁があちこちから突き出している。平らな場所を探す方が難しい。遠くまで見渡しても、森らしい森はない。

 

 ロキシーから聞かされた話が、今さら実感を伴って蘇ってくる。

 魔物が多い。土地は険しい。中央大陸へ戻るには、とんでもなく長い距離を歩かなければならない。

 

 要するに、遠足気分で帰れる場所ではない。

 

 さて。

 この現実を、うちのお嬢様へどう説明したものか。

 

「ルーデウス!」

 

 振り向く。

 エリスは高い岩の上へ登り、朝日に照らされた荒野を見回していた。

 

「ここ、全部が魔大陸なのよね!」

 

「少なくとも、僕の知っている地図ではそうなっています」

 

「じゃあ、これからずっと知らない場所を歩くのね!」

 

「まあ……そうなりますね」

 

「最高じゃない!」

 

 両手を腰へ当て、満面の笑み。

 

 心配した俺が馬鹿だった。

 この人に長旅の苦労を説いても、今は冒険という二文字に変換されるらしい。

 

 少し離れた場所では、コジローが岩の縁に立っていた。

 群青の髪が乾いた風に揺れている。

 

「どうです、初めて見る魔大陸は」

 

「荒れてはいるが、悪くない」

 

 それだけ言って、東の空へ目を細める。

 朝日でも眺めていたのだろう。

 

 こんな場所に飛ばされた翌朝に景色を楽しめる辺り、この男も相当図太い。

 いや、エリスとは別方向に。

 

「出るぞ」

 

 ルイジェルドが槍を持ち上げた。

 

 俺たちは、彼が世話になっているという集落へ向かった。

 

     ◇

 

 昨夜の出来事が嘘だったみたいに、エリスはルイジェルドへ話しかけ続けていた。

 

 ロアの屋敷のこと。

 魔術の授業のこと。

 ギレーヌにどれだけ剣で叩きのめされたか。

 そして、最近はコジローにも相手をさせていること。

 

「それでね! コジロー、絶対にまともに受けないのよ!」

 

「当たらぬ所へ立っているだけだ」

 

「それを卑怯って言うの!」

 

「ほう。ならば次は、私が避けられぬ一太刀を持ってくるがよい」

 

「言ったわね! 次は絶対に当てるんだから!」

 

「それは楽しみよな」

 

 エリスが拳を握る。

 コジローは少しだけ笑った。

 

 ルイジェルドはそんな二人のやり取りを聞きながら、ときどき短く相槌を返している。

 あれほど怯えていた相手に、もうこの距離だ。

 

 子供の適応力というのは凄い。

 いや、エリスだからかもしれない。

 

「二人は血縁なのか?」

 

 不意にルイジェルドが聞いた。

 

「は?」

 

 エリスが振り返る。

 

「同じグレイラットを名乗っている。兄妹ではないのか」

 

「違うわよ!」

 

「では親戚か」

 

「そうだけど、兄妹じゃないわ!」

 

「そうか」

 

 ルイジェルドは一度頷き、それから俺とエリスを見比べた。

 

「なら、なおさら互いを大事にしろ。故郷から遠い場所では、身近な者が頼りになる」

 

「それぐらい分かってるわよ!」

 

「分かっているならいい」

 

 エリスは何か言い返しかけたが、結局口を閉じた。

 

 珍しい。

 言い負かされたというより、言っていること自体には反論できなかったらしい。

 

 隣を見ると、コジローがこちらを見ていた。

 目が合うと、ほんの少し口元が緩んでいた。

 

 笑うな。

 

 俺だって、家族扱いされたこと自体は嫌ではない。

 

 歩き続けるうち、道はさらに険しくなった。

 岩と岩の間を抜け、段差を越え、時には人一人が通れる程度の隙間を進む。

 

 地図があったとしても、俺だけなら確実に迷う。

 

 そんな道中、ルイジェルドは何度か足を止めた。

 

「ここで待て」

 

 それだけ言うと、槍を持って岩の向こうへ消える。

 

 戻ってくる頃には、槍の穂先に新しい血がついていた。

 

 最初の二回は何も聞かなかった。

 三度目で、さすがに気になった。

 

「先に何かいるんですか?」

 

「ああ、魔物がな」

 

「毎回?」

 

「この辺りは多い」

 

 短い。

 説明する気がほとんどない。

 

 だが、コジローは別のところを見ていた。

 ルイジェルドが戻ってくるたびに、通ってきた岩場と槍の位置を見比べている。

 

「なるほど」

 

「何がです?」

 

「いや」

 

 コジローはルイジェルドへ視線を向けた。

 

「見事なものよな」

 

しばらくして、ルイジェルドが戻った時、コジローがそう呟いた。

 

「何がだ」

 

「この岩場で、童らに敵の姿すら見せぬ。土地を知る者の戦いよ」

 

「俺の目があれば難しいことではない」

 

「力を持つことと、使いこなすことは別であろう」

 

 ルイジェルドは返事をしなかった。

 

 ただ、コジローを見る目から、僅かに警戒が薄れたように見えた。

 

「ねえ、どうして分かるの?」

 

 今度はエリスが食いついた。

 

「何がだ」

 

「岩の向こうに魔物がいるってことよ。見えてないじゃない」

 

 ルイジェルドは前髪を持ち上げた。

 額の赤い器官が露わになる。

 

「これで周囲を探れる」

 

 なるほど、あれは周囲を探るレーダーのような役割を持っているらしい。

 そういえば、ロキシーからもらった本にも、そんなことが書かれていた。

 

 エリスは一瞬だけ肩を強張らせた。

 だが、昨日のように逃げはしない。

 むしろ数歩近づき、宝石でも見るように覗き込んだ。

 

「それ、痛くないの?」

 

「生まれた時からある」

 

「外せる?」

 

「外さん」

 

「ちょっと触っても――」

 

「だめだ」

 

「まだ何もしてないじゃない!」

 

 残念そうに頬を膨らませる。

 

 昨日まで泣いていた相手の額へ手を伸ばそうとするとは。

 慣れるのが早すぎる。

 

「便利そうですね」

 

 俺が言うと、ルイジェルドは少しだけ表情を曇らせた。

 

「便利なだけのものではない」

 

 その声には、それ以上聞くなという響きがあった。

 

 俺は口を閉じた。

 聞きたいことはある。

 けれど、出会って一日も経っていない相手の傷を、興味本位でほじくる必要はない。

 

 代わりに別のことを聞く。

 

「この辺りの魔物って、かなり強いんですよね?」

 

「場所による。今通っている辺りなら、俺が先に処理できる」

 

「もし手が必要なら言ってください。魔術なら使えます」

 

 ルイジェルドは俺を見下ろした。

 

「お前はエリスのそばにいろ」

 

「え」

 

「俺が前を見る。お前は後ろを見ればいい」

 

 なるほど。

 単に子供扱いされたのかと思ったが、役割分担の話らしい。

 

「分かりました」

 

「ルーデウスに守られなくても平気よ!」

 

「なら、お前がルーデウスを守れ」

 

「もちろんよ!」

 

 即答だった。

 

 俺の立場は。

 

「コジロー」

 

 ルイジェルドが呼んだ。

 

「何かな」

 

「後ろを頼めるか」

 

 コジローが僅かに目を細める。

 

「心得た。先は土地を知る者に任せるのがよかろう。ならば私は殿を務めよう」

 

「頼む」

 

 短いやり取りだった。

 

 それだけで話は決まったらしい。

 

 ルイジェルドが先頭。

 その後ろに俺とエリス。

 最後尾をコジロー。

 

 前には三叉槍を持ったスペルド族。

 後ろには、馬鹿みたいに長い刀を背負った剣士。

 

 ……改めて考えると、とんでもなく物々しい。

 

「なんだか僕たち、護送されてるみたいですね」

 

「誰が護送されてるのよ!」

 

「僕とエリスですよ」

 

「私は守られなくても平気だって言ってるでしょ!」

 

 エリスが唇を尖らせる。

 

 後ろから小さな笑い声がした。

 

「何がおかしいのよ、コジロー!」

 

「いやなに」

 

 振り返ると、コジローはいつもの飄々とした顔をしていた。

 

「前には槍、後ろには刀。それでもなお、自分で戦うと言う。頼もしい小娘よな」

 

「当然よ!」

 

 褒められたと思ったらしい。

 エリスは胸を張った。

 

 たぶん、半分ぐらいからかわれている。

 

 俺には分かる。

 

「小僧も安心して守られるがよい」

 

「やっぱり俺もそっち側なんですか?」

 

「子供だからな」

 

 前からルイジェルドが答えた。

 

「…………」

 

 前後から確定された。

 

 確かにこの体は十歳児なので反論できない。

 

 仕方なく歩き出す。

 

 少し先をルイジェルド。

 少し後ろをコジロー。

 

 昨日会ったばかりの二人なのに、妙に収まりのいい並びだった。

    

 ◇

 

 集落が見えた頃には、足がかなり重くなっていた。

 

 三時間ほど歩いたはずだが、直線ならそれほど離れていないらしい。

 魔大陸の地形は、距離という概念へ喧嘩を売っている。

 

「着いたぞ」

 

 ルイジェルドの先に、低い柵で囲われた小さな集落があった。

 十数軒ほどの住居と、小さな畑。

 遠くから見る限り、豊かには見えない。

 

「村ね!」

 

 エリスはまだ元気だった。

 

 俺は疲れているがコジローは平然としている。

 

 理不尽である。

 

 入口へ近づくと、青い髪の男がこちらへ出てきた。

 見た目だけなら俺たちより少し年上程度にしか見えない。

 

 ただ、立ち方や目つきは子供のものではなかった。

 

「ルイジェルド。その者たちは?」

 

 魔神語だ。

 

 聞き取れた。

 ロキシー先生、あなたの授業は魔大陸でも通用しています。

 

「昨夜の流星で落ちてきた子供たちだ。この男も一緒だった」

 

 ルイジェルドが俺たちを示す。

 

 男の視線が俺、エリス、コジローの順に動いた。

 特にコジローの背中の長刀で止まる。

 

「そいつらを里へ入れるわけにはいかん」

 

「理由は」

 

「正体が分からん。突然空から来た人族を、そのまま通せるわけがないだろう」

 

 言っていることは正しい。

 

 だがルイジェルドは正しくないと思ったらしい。

 顔が険しくなる。

 

「子供を外へ置いておけと言うのか」

 

「そうは言っていない!」

 

「同じことだ」

 

 空気が重くなった。

 

 昨日の焚き火では見せなかった顔だ。

 ルイジェルドが一歩出るだけで、門番の肩が強張った。

 

 これはまずい。

 

「ルイジェルドさん」

 

 俺は袖を引いた。

 

「この人は里を守る役目なんでしょう。知らない人を止めるのは普通です」

 

「だが」

 

「こういう時は責任者に判断してもらえば済みます」

 

 青髪の男を見る。

 

「長の方とお話しできますか?」

 

 男は少し不満そうだったが、頷いた。

 

「長を呼ぶ。そこで待て」

 

 そう言ったきり、動かない。

 

「…………」

 

 十秒。

 二十秒。

 

 歩き出さない。

 

 横ではエリスが首を傾げている。

 コジローも男を見た。

 

「ルーデウス」

 

「はい」

 

「あれは、もしや待てと言ったのではなかったか」

 

「そう聞きました」

 

「ならば、なぜ本人も動かなんだ」

 

 ごもっともである。

 

「ルイジェルドさん?」

 

「念話だ」

 

「念話?」

 

「ミグルド族は、近しい相手なら声を使わず話せる」

 

 ああ。

 

 そこで、記憶が繋がった。

 ロキシーからもらった本に、同じ話があった。

 

 ミグルド族は離れた相手とも意思を交わせる。

 ただし、ロキシー自身にはその力がなかった。

 

 だから故郷では周囲の会話へ入れず、外へ出た――そんなことが書かれていたはずだ。

 

 つまり。

 

「ここ、ロキシーと同じ種族の里なんですね」

 

「ああ」

 

 胸元のペンダントが急に重くなった気がした。

 

 もしかしたら名前を出せば話が早いかもしれない。

 けれど、ロキシーが故郷をどう思っているのか、俺は知らない。

 

 家出同然だった可能性だってある。

 

 ……いや。

 可能性どころか、念話が使えず村を出たと書いてあった。

 

 余計なことは言わない方がいいか。

 

「話は通った。長がこちらへ向かっている」

 

 青髪の男が目を開いた。

 

 やがて家々の間から、小柄な三人が姿を現した。

 先頭の一人だけが杖を持ち、後ろに青い髪の女性が二人続いている。

 

 そして、全員小さい。

 

 老人らしい仕草をしているのに、顔だけ見れば若い。

 

 なるほど。

 ロキシーが何歳なのか分からなかった理由が、少しだけ見えた気がする。

 

「お待たせしたの」

 

 杖の男が俺たちの前で止まった。

 

「この里の長、ロックスじゃ」

 

「ルーデウス・グレイラットです」

 

 俺は頭を下げた。

 

 エリスが横から小声で聞いてくる。

 

「今なんて言ったの?」

 

「村長さんだそうです。挨拶してください」

 

「魔神語なんて話せないわよ?」

 

「いつもの礼で大丈夫です。僕が通訳しますから」

 

 エリスは少し迷ってから背筋を伸ばした。

 

「エリス・ボレアス・グレイラットよ。迎えてくれるなら、礼を言うわ」

 

 うん。

 かなりエリスらしい挨拶である。

 

 俺が少し柔らかくして訳すと、ロックスは愉快そうに笑った。

 

「元気なお嬢さんじゃ」

 

 エリスへ目をやり、少しだけ声を落とす。

 

「そこまで訳さなくても大丈夫です」

 

「何よ! 何て言ったの!」

 

「褒めてました」

 

「ならいいわ!」

 

 ちょろい。

 

「それから、こちらはコジロー。僕たちと一緒に転移してきた旅人です」

 

 ロックスへ魔神語でそう説明し、コジローには視線を送る。

 意図を察したコジローは、静かに一礼した。

 

 ロックスも同じように頭を下げる。

 

「随分変わった剣を持っておるな」

 

「本人も変わっていますが、信用できる人です」

 

「小僧」

 

 人間語で呼ばれた。

 

「何でしょう」

 

「今、要らぬことを足したであろう」

 

「気のせいですよ」

 

 魔神語が分からなくても、この辺りの勘は鋭い。

 

 ひとまず挨拶は済んだ。

 

「僕たちは里へ入れていただけますか?」

 

「ふむ……」

 

 ロックスはすぐには答えず、俺たちを順に観察した。

 やがて俺の首元へ目を戻し、何かに気づいたように僅かに身を乗り出す。

 

「少年。その首飾りを、少し見せてもらえるかの」

 

「これですか?」

 

 ペンダントを指で持ち上げる。

 

「誰から受け取った?」

 

「僕の魔術の師匠です」

 

「名は?」

 

 隠す理由を考えた。

 

 さっきまでは、あえて伏せようと思っていた。

 だが、これはロックスの方からペンダントについて聞いてきたのだ。

 

 なら、誤魔化す方が不自然だろう。

 

「ロキシー・ミグルディア」

 

 その名を口にした瞬間だった。

 

「ロキシー!?」

 

 門にいた青髪の男が、さっきまでの警戒を忘れたように駆け寄ってきた。

 

「今、ロキシーと言ったな!」

 

「はい」

 

「どこにいる! 無事なのか!」

 

 いきなり両肩を掴まれる。

 

 後ろで空気が変わった。

 ルイジェルドだ。

 

 コジローも黙ったまま、こちらを見ている。

 

「大丈夫です」

 

 俺は二人へ手を上げ、それから目の前の男を見る。

 

 怒っているわけではない。

 顔にあるのは、焦りと期待だ。

 

「すみません。あなたはロキシーと、どういう関係で?」

 

「父親だ!」

 

「……父親」

 

 男を見る。

 

 若い。

 どう見ても若い。

 

 ロキシーの父親というより、親戚の兄ちゃんと言われた方がまだ納得できる。

 

「本当に?」

 

「こんなことで嘘をつくか! 俺はロインだ。あの子が故郷を離れてから二十年以上、一度も消息を掴めていない!」

 

 二十年以上。

 

 ちょっと待て。

 

 俺はずっと、ロキシーの年齢を曖昧なままにしていた。

 本人があの見た目なので、深く考えるのを避けていたともいう。

 

「一つだけ確認させてください」

 

「何だ!」

 

「ロキシーって、今いくつです?」

 

 ロインが固まった。

 

「……そんなことを聞いている場合か?」

 

「僕には結構大事なことなんです」

 

 人生観に関わる。

 

「四十四のはずだ」

 

 四十四。

 

 俺の前世と大差ない。

 

 妙な親近感が湧いた。

 

「ミグルド族は、どれぐらい生きるんです?」

 

「長ければ二百年ほどだ。それよりロキシーは!」

 

「あ、はい。すみません」

 

 これ以上焦らすのはさすがに悪い。

 

「最後に消息を知ったのは半年前です。その時はシーローン王国にいました。そこから手紙も届いています」

 

「手紙……」

 

「人間語も書けます。僕が弟子になった頃には、もう普通に読み書きしていました」

 

「生きているんだな?」

 

「今この瞬間までは断言できません。でも、僕が最後に連絡を取った時点では元気でした」

 

 ロインの手から力が抜けた。

 

 俺の肩を離し、その場へ座り込む。

 

「……そうか」

 

 何度か同じ言葉を繰り返した後、両手で顔を覆った。

 

 泣いている。

 

 エリスが俺の袖を引く。

 

「どうしたの?」

 

「師匠のお父さんです。ずっと娘の消息を知らなかったみたいで」

 

「ルーデウスの師匠の?」

 

 エリスは目を丸くした。

 それからロインを見て、珍しく何も言わなかった。

 

 コジローも黙っている。

 こういう時に余計な言葉を挟まないのは、この人らしい。

 

 俺はロインを見ながら、パウロの顔を思い出した。

 

 俺たちが消えてから、どれだけ心配しているだろう。

 ゼニスも、リーリャも、シルフィも。

 

 無事だと知らせたい。

 

 帰るだけじゃない。

 途中で手紙を出せる場所を見つけなければ。

 

「ロックスさん」

 

 俺は長へ向き直った。

 

「改めてお願いします。少しの間、里で休ませてもらえませんか」

 

 ロックスは泣いているロインを一度見てから、穏やかに頷いた。

 

「二十年ぶりの便りを運んできた客人を、外に立たせたままにはできん。中へ入りなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 こうして、俺たちはミグルド族の里へ迎えられた。

 

 ロキシーの故郷。

 念話を使う一族。

 そして、四十四歳の師匠。

 

 最後の情報だけ、妙に頭へ残った。

 

 ……今度会ったら、年齢の話はしないでおこう。

 

 

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