拙作を今後とも応援して頂けると幸いです。
俺には両親がいない。というより捨てられた。
幼少期の頃の記憶はぼんやりとしており、気付いた時には爺さんと二人で暮らしていた。
うっすらと両親の顔は覚えているが、物心付いた時にはいなくなっていた。
なんでも優秀だった双子の姉だけ連れて行ったと聞いている。
それを寂しいと思ったことはあったが、悲しいと思ったことはない。
何故なら、俺には爺さんがいたから。
鍛冶場で鉄を打つ爺さんが好きだった。
危ねぇから離れてろ、なんて言いつつ追い出さないでいてくれる爺さんが好きだった。
作品ができて子供が宝物を自慢するように目を輝かせる爺さんが好きだった。
その歳の子供は特撮のヒーローに夢中になっていたが、俺にとっては爺さんがそれだった。
顔も知らない初代の技より、幼い頃からずっと見てきた爺さんの背中の方が、ずっと輝いて見えた。
鍛冶をする時、爺さんは口癖のように――鉄の声に耳を傾けろ、鎚に情熱を乗せろ、と俺に語りながら技を仕込み、そしてどこか申し訳なさそうだった。
爺さんは俺が鍛冶の家系に生まれたから、やりたいことを我慢していると思っているみたいだが、そんなことはない。
俺は誰よりも爺さんに憧れたんだから。
だから、爺さんが負傷して金槌を握れなくなった、あの日――俺は言った。
──俺が爺さんを超える鍛冶師になってやるよ。
今思えば、生意気だったと思う。
爺さんがそこに至るまで、どれだけの研鑽を重ねたかも理解していない子供の戯言。
でも、爺さんは優しく微笑んで、頭を撫でてくれたことを覚えている。
その日から、俺の夢は始まった。
――――――――――――――――――――――――
「随分と仲が良いんだね。良いお爺さんじゃないか」
「仲が良いのは否定しねぇがな。良い爺さんかって言われると返答に困るぞ。とっくの昔に婆さんに逃げられてるらしいし」
工房からの帰り道。
ひょっこりと現れたキュゥべえと話しながら、工房から家までの短い距離を歩く。
神出鬼没なのは今更なので、もう気にしないことにした。
「それで? まだ諦めてねぇのか。そろそろ帰らねぇと巴先輩が心配するかもしれねぇぞ」
「マミには伝えてあるから大丈夫だよ。それより、契約について前向きに考えてくれたかな?」
「ちっとも。契約は慎重にってのが爺さんの教えでな。お前さんはちと、胡散臭え」
「酷いな。僕は君の願いを叶える手伝いをしたいと言ってるんだよ?」
「その代価は、命懸けの戦場なんだろ? 一体、巴先輩にはどうやって契約を迫ったんだか……」
「マミは自分の意志で契約してくれたよ。契約を強制はできないからね」
自分の意志で、ねぇ……。
こんな胡散臭い小動物がいきなり現れて、あんな契約を考えなしに結ぶような人じゃないのは、今日の短い時間でもよくわかる。
そこまでして叶えたい願いがあったのか、或いは……契約しなきゃならねぇ土壇場の状態だったのか。
本人に筋を通さねぇで内容を聞くのは不義理だと思うし、辛いことがあったってんなら、本人に聞くのも憚られる。
いつか、向こうから言ってくれる日を待つしかないだろう。
「君が願えば君の祖父は再び鍛冶師として活動できるだろうね。君にはその力がある」
「……………………いやいや駄目だ。爺さんはそんなこと望まねぇ。しかし、お前さんもそろそろいい加減に……あぁ?」
「どうしたんだい?」
「いや……そろそろ家に着いていい頃なんだがな」
家から工房までは大体二百メートル程しかない。
とっくに着いてていい頃だというのに、一向に家が見えて来ない。
不審に思って、懐から鑽を取り出し、木に傷を付ける。
そして、しばらく進むと――傷を付けた木があった。
「おいおい……冗談だろ?」
異変に気づいて周りに意識を向けると、いつも聞こえる鳥や虫の鳴き声が聞こえず、ペタペタと不気味な音が聞こえる。
だが、振り返ってもそこには何もいない。
歩くスピードを速めても、現れるのは傷を付けた木だけだ。
辺りを見回しても何もいない。
だが――俺が傷つけた木に、爺さんの首筋にあった痣と同じ模様が刻まれていた。
「──!」
本格的に嫌な予感がして俺は思わず、工房へと引き返した。
爺さんの身に何かあったんじゃないかと、無事でいてくれと、心の中で柄にもなく祈っていた。
もと来た道を疾走し、工房に近づく程、顔に熱を感じ、パチパチと焚き火のような音がした。
「──そんな」
目の前の光景に目を疑った。
数年前と同じように、工房が燃えていたのだ。
「爺さん‼︎」
次の瞬間――俺は燃える工房に飛び込んでいた。
扉を蹴破り、炎が肌を焼くのも気にせず、寝室を目指して駆け抜ける。
半狂乱になりながら、寝室のドアを乱暴に開ける。
幸い寝室には火の手が伸びておらず、爺さんも無事だった。
安心して崩れ落ちそうになるが、ここに火の手が上がるのも時間の問題だ。
爺さんを抱き上げると、窓のガラスを蹴破り、何とか脱出する。
足の裏にガラスが突き刺さって、血が流れているが、そんなことより、爺さんの安否だけが俺の思考を支配していた。
不自然なまでに目を覚さない爺さんの顔を覗き込み、呼吸と脈を確認し、彼の生存を確認すると、今度こそ安堵の息を吐いた。
そして、視界の端に爺さんの首筋の痣が見えた。
不気味なそれは、きっと今回の事と無関係ではない筈だ。
「魔女の口づけだね」
「キュゥべえ! 悪い、完璧に忘れてた……ってこれが、魔女の口づけってことは、爺さんは魔女に狙われてんのか⁉︎」
「そういうことになるね。魔女の口づけは魔女に狙われた者に浮かび上がる目印だ。それを横取りした君は――魔女の怒りを買ってしまったようだ」
「――――――‼︎」
その瞬間――大地が揺れて、地面から現れたのは、クラゲのような化け物。
おそらくこれが魔女なのだろう。
「あれは『暗闇の魔女』だね。その性質は妄想。灯りの多い現代においてそれほど脅威になる魔女じゃないけど、それは魔法少女ならの話だ」
キュゥべえが淡々と魔女を紹介してくれる。
某知育菓子のコマーシャルの魔女をイメージしていた俺は、どうみても化け物じゃねぇか、とか、女の要素が皆無じゃねぇか、とかツッコミ所があり過ぎて、言葉に詰まってしまった。
一体、これを最初に魔女なんて呼んだ奴はどんな感性してやがる!
いや、違う。俺が考えるべきなのは、ここからどうやって爺さんを逃すか、だ。
爺さんが狙われてるという話だが、その爺さんを横取りした俺の方に怒りが向いている。
何とかして、この化け物を爺さんから遠ざけることができれば……!
魔女を油断なく見据えながら、思考を回転させる。
「————!」
魔女が吼えて、触手がブレた。
次の瞬間には、視界を揺るがす衝撃が来た。
右腕が軽くなった。何かが宙を舞った。
火傷の跡。無数の切り傷。
それは、俺の右腕だった。
「ぁ──」
現実を認めるのに僅か一瞬。
次の一瞬で、残っている俺の右腕の断面が灼熱となって燃え上がった。
「──ぁがっあああああああああああああああ!?」
思わず絶叫が迸る。
止まっていた時を打ち砕くように、露出した右腕の肉から血液がぼたぼたと吐き出される。
神経が焼き切れるほどの激痛に思わず叫んだ。
こいつ……やべえ! このままじゃ……死ぬ。
「爺さ……! 逃げっ……!」
俺に覆い被さる巨大な影が蠢く。
腕を押さえ、みっともなく後退りながら、横目で爺さんを見るが、爺さんは未だに目を覚さない。
いよいよ、絶望感に押し潰されそうになったその時。
「村正。このままじゃ、君も君の祖父も死んでしまうだろうね」
「あ、あぁ……? この期に及んで、何言ってやがる……!」
「でも、君なら運命を変えられる」
キュゥべえは、俺の目の前に座り込む。
その赤い瞳からは、何の感情も感じない。
「避けようの無い死も、不幸も、君が覆せばいい。そのための力が君には備わっているんだから」
「魔法……少女か」
「その通り。君も祖父も助かる道はたった一つだけさ。だから村正――僕と契約して魔法少女になってよ」
こいつが部屋に現れてからというもの、今に至るまで、しつこいくらいに聞いたその言葉。
こいつはこんな時でも何も変わらねぇことが、少しだけおかしくて。
「ははっ……」
「どうして笑うんだい? 何かおかしなことを言ったかな?」
「いや、あの聡明そうな巴先輩が契約した理由って、こういうことかもなって思ってよ……いいぜ、契約しようか」
すると、キュゥべえの無機質な目が妖しく輝いた。
可愛らしい筈の外見も、今となっては魔物にしか見えなくなった。
「さぁ、君はどんな願いでソウルジェムを生み出すんだい? 初代の技かい? それとも、祖父の腕の治療かい?」
「……どっちでもねぇよ。俺の願いは……もっと別にあるんだ」
「おや、違うのかい? なら、君は一体何を願うのかな?」
脳を支配する激痛を堪え、息を吸う。
「俺だけの工房をよこせ。これが俺の願いだ」
その言葉を口にした瞬間、自分でも理解していた。
馬鹿げた願いだ、と。
祖父が失った腕を取り戻すこともできる。
初代の途絶えた技術すら手に入るかもしれない。
なのに俺は道具を願った。場所を願った。積み重ねるための未来を願った。
考え得る限り最低の選択だろう。
もしかしたら親不孝者と罵られるかもしれない。
——だが、それでいい。
完成品よりも炉を愛し。結果よりも過程を愛し。
奇跡よりも、積み重ねた時間を信じる。
自分の信念や矜持を誇っていた。
少なくとも俺が憧れた背中は、ずっとそうだった。
だから——奇跡なんて願わない。
願うのは、奇跡に届くための
キュゥべえが、初めて黙った。
「……そんな願いでいいのかい? 君なら、祖父を救うことだってできる」
「違ぇよ」
喉が焼けていた。肺が軋んでいた。
それでも、声だけは折れなかった。
「爺さんは——俺に助けられたいんじゃねぇ」
あの人は、いつだってそうだった。
鉄を打つ背中で語っていた。
職人は、願いで手を伸ばすんじゃない。
自分の手で、届かねぇ場所まで鎚を振るうんだと。
「俺ができるのは、今ここで爺さんを超えて見せることだ」
超える。
口にするのは簡単だ。
技術。誇り。願い。失敗。後悔。愛情。
それら全部を受け継いで、それでもなお前へ進むこと。
それが継承で。それが弟子で。それが家族ってもんだろう。
だから俺は立つ。右腕を失っても。血が尽きても。この魂が燃え尽きても。
爺さんが人生を賭けた炎だけは、絶やさないために。
——瞬間、胸の奥に火が灯った。
燃える。魂が燃える。
失ったはずの腕に熱が戻り、首に赤い手拭いが巻かれる。
黒い着物の上に、白い羽織が翻った。
胸元に、真紅の宝石が浮かぶ。
「親が子を育てるのが務めなら──」
あの背中が教えてくれた。
鉄は、願えば形になるんじゃない。
打つから形になるのだと。
「——子は親よりでかくなってやるのが務めだろうが!」
瞬間──炎が噴き上がる。
俺と爺さんを包み、世界を塗り替える。
次の瞬間――そこに工房があった。
ソウルジェムが魔法の使い方を教えてくれる。
魔力というエネルギーで形になった炉がある。鎚がある。鉄がある。
爺さんが教えてくれた全てが、ここにある。
——なら、やれる。千子村正は鉄を打てる。
俺は赤い手拭いを解き、額に巻いた。
これは儀式だ。
俺が、鍛冶師になるための。
「――鍛造開始」
炉に火が入る。紅蓮が吼える。
外では魔女が魔法の障壁を叩き、工房が軋んでいた。
透明の障壁に亀裂が入り、広がっていく。
あれが割れたが最後、無防備に鉄を打っている俺も、爺さんもあっという間に殺されるだろう。
——知ったことか。
今、俺が聞くべき音は一つだけだ。
鉄の音に耳を傾けろ。鎚に情熱を乗せろ。
爺さんの声が、耳の奥で響く。
鎚を振るう。火花が散る。もう一度、振るう。鉄が鳴る。
打つ。打つ。打つ。
凄まじい打撃音が鳴り響き、鉄の調べは力強く。
これは救いのための刃じゃない。
これは復讐のための刃でもない。
憧れを、超えるための刃だ。
鉄がその姿を変えていき、俺の意志に呼応するかのように構造を変え、刀の輪郭を作っていく。
灼けた刀身が、朝焼けよりも赤く輝いた。
「ォオオオオオオオオオ‼︎」
魔女の一薙の触手によって障壁が砕ける。
忌々しい障壁を破壊した魔女は唸り声を上げ、怒りの形相で俺を見ていた。
「――――!」
「おう、かかってこい化け物! 千子村正なめんじゃねぇぞ!」
左手が握り締めるのは解かれた手拭。
そして右手が持つのは、紅く、燃えるような一振りの刀。
鍔も柄もない、ありのままの刀身。
『──オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
直後、魔女が破壊の本能を取り戻す。
襲い来る魔女を前に、剣の切っ先を地面に向ける。
これは、俺の始まり。
至高の領域に至るまでの第一歩に過ぎない。
だから胸を張って、告げる。
その武器の『銘』を。
「『一心』」
灼熱の炎の如き刃を振るう。
魔女がその一刀のもと、『両断』された。
何の手応えもなく、豆腐に包丁を通すかのように『あらゆる硬さ』を無視するかのように。
真っ二つになった魔女の亡骸が地面に落ちて黒い霧となった。
周りの景色が元に戻ったのを見て、終わったかと息を吐いた瞬間、鮮血が散った。
「――あ?」
右脇腹から左肩にかけて刀で斬られたような赤い一線が走り、そこから血が噴き出ていた。
何故――混乱する頭の片隅で、昔、爺さんに教わったある伝説を思い出した。
それは『妖刀村正』の伝説。
曰く——使い手すら傷つける、呪われた刃だと。
眉唾だと思っていた。今、この瞬間までは。
遠くなる意識の中で、頭に声が響く。
「村正。君はどうして死にそうになっているんだい?」
「……この傷と血が見えねぇのか、クソッ……俺も焼きが回ったかねぇ……」
激しい出血と激痛に喘ぎ、地に倒れ、視界が暗くなっていく。
すると、そんな俺を見てキュゥべえが心底不思議そうな顔をする。
「君のソウルジェムは無事だ。君はソウルジェムさえ無事なら死ぬことはないんだよ」
「おい、今なんつった」
聞き捨てならない言葉を聞いて、思わず聞き返した。
「うん、君の体は心臓を潰されようが、体からありったけの血を抜かれようが、ソウルジェムさえ無事ならすぐに修復できるんだ」
「おい……そりゃ、俺の体は化け物になったってことか⁉︎」
「脆くて弱い人間のまま戦ってくれなんて無茶なこと、とてもお願いできないよ。実際、君は魔女に歯が立たなかっただろう? 僕の役目は契約の時、体から魂を抜き取ってソウルジェムに加工することなんだ」
俺は、ある疑問を問いかける。
後悔するとわかった上で、キュゥべえに尋ねた。
「……巴先輩は、それ知ってんのか?」
「うーん、知らないと思うよ。知らないままでも問題ないしね」
「言うなよ。巴先輩には……絶対、言うな」
問題の先延ばしにしかならないと分かっている。
でも、あの人がこんな事を知ったら、正気じゃいられない気がした。
「って。やべ!……爺さん、無事か!」
慌てて爺さんの元に駆け寄った。
外傷はない。しかし、顔からは生気を感じられない。
呼吸はある、心臓も動いてる。
しかし、一向に目を覚さない。
「――! そうだ、これならどうだ!」
ソウルジェムを翳すと、そこから暖かい光が溢れる。
その光に当たった爺さんの顔色が徐々に良くなり、そして。
「――村正?」
「目ぇ覚めたか! この寝坊助め!」
爺さんが目を開く。
溢れそうになる涙を堪え、つい憎まれ口を叩く。
「村正……その刀は?」
「ん? ああ、俺の作品だ」
「よく、見せてくれんか? おぉ、美しい刃紋だ……!」
「褒めんなよ。こんなもん通過点だ」
爺さんは、記憶の中のどんな時よりも嬉しそうに目を輝かせる。
その顔は穏やかで――何故か死を連想させた。
「免許皆伝だ。村正」
「何言ってんだ……爺さんの技は、こんなもんじゃ……」
「いいや──儂には、こんな刀は打てなかった」
爺さんは、子供みたいに笑った。
その声が、やけに遠く感じる。
魔女の口づけを受けた者は生命力を吸い取られるとキュゥべえは言っていた。
そして魔女が狙うのは絶望を抱えた人間達。
数年前の火事で腕を怪我をして、鍛冶師としての人生を奪われたあの日、相当打ちのめされていた。
おそらく、俺が気付かなかっただけで魔女は長いこと爺さんに取り憑いていたのかもしれない。
俺の回復魔法は体の傷を癒すことはできても、寿命まで延ばすことはできないらしい。
「気づかねぇ内に、でかくなったなぁ……」
「爺さん……」
「村正。覚えてるか。儂の願いを」
「……人を助けろってやつか」
「そうだ」
爺さんの目が細くなる。
穏やかな顔だった。記憶にあるどんな顔よりも、ずっと。
「最期にたくさんの人に悲しまれるような、良い奴になれ」
雫が落ちた。雨が降った。
おかしい。天気予報は晴れだって言ってたはずだ。
「儂は嬉しいよ。最愛の孫が、泣いてくれた」
爺さんは、満足そうに息を吐いた。
それを最後に二度と息をしなくなった。
「……おやすみ、爺さん」
たった一人の家族も、爺さんが人生を捧げた仕事場も、この世から消えた。
「それで、これからどうするんだい?」
「魔女を倒す。鍛冶師として高みに至る。どっちもやってやるさ」
朝日が昇る。
まっすぐ――道を照らす。
泣き尽くしたわけじゃない。悲しみが消えたわけでもない。
英雄になりたかったわけじゃない。誰かを救える男になれと、そう言われただけだ。
ただ、爺さんが最後に照らした道から、目を逸らす気だけはなかった。
これは英雄譚じゃない。
鍛冶師が、剣を握っただけの話だ。
「さあ――千子村正を始めようか」
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夜が更け、月が高く昇るころ。
千子一心の灰となった鍛冶場のある広場は、戦いの傷跡を痛々しく刻んだままだった。
——そこに踏み込んでくる『巫女』がいた。
無人の夜に、静かな足音が響く。人影の進む先、黒い宝石——グリーフシードが落ちていた。
それは、魔女を退治した後、村正が拾い忘れた戦利品。
巫女はそれを拾い上げると、誰に知られることもなく、夜闇に消えた。
冷めた月光だけが、全てを見つめていた。
ちなみに村正の固有魔法は工房ではありません。