【完結済】機動戦艦ナデシコ 前日譚 プラネテス 最後のデブリ屋 ―木星蜥蜴になった人々―【ナデシコ30周年&佐藤竜雄監督追悼作品】   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

18 / 25
ネルガルの影

木星圏の外縁部に突如として現れた船影――それは、ネルガル重工が密かに放った隠密調査船だった。

 

表向きは木星圏を完全に見捨てたはずのネルガル。

 

だがその裏では、木星で「何が起きているのか」を執拗に探ろうとしていた。

 

厄介者は切り捨てる。

 

だが、そこから絞り取れるものがあるのなら――話はまったく別だった。

 

密偵船は、木星圏の遠距離観測に成功し、命からがら持ち帰った情報は、ネルガル本社の重役たちを震撼させた。

 

空を埋め尽くす無人兵器の大群。

 

空間そのものを歪める正体不明の巨大装置。

 

ネルガルの上層部は、まず深い恐怖に駆られた。

 

だがその恐怖を上回る勢いで、彼らの中に抑えがたい欲望が頭をもたげた。

 

「奪え」役員会は冷酷で迷いのない決定を下した。

 

「木星の技術データを、可能な限り盗み出せ。手段は1切問わない」。

 

密偵船は危険を冒し、木星圏の通信網のほんの1部に電子的に潜り込み、断片的な技術データの窃取に成功した。

 

だが――その細心の動きは、すでにレオたちに完全に察知されていた。

 

「追撃しますか?」

 

側近が問うた。

 

だがレオは、意外にも、ゆっくりと首を横に振った。

 

「かまわない。……いや、むしろ好都合だ。逃がしてやれ」

 

彼は、狂気の中に奇妙な余裕を湛えた笑みを浮かべた。

 

「地球の傲慢な連中が、俺たちの技術を必死に真似て、震えながら対抗兵器を作り上げる。だが、しょせんは魂のこもらない真似事。そのまがい物が、俺たちの本物の正義の前に、どれほど無様に砕け散るか――それを、思い知らせてやる」

 

クリスは、この1部始終を記録装置に収めながら、深く戦慄した。

 

だが、彼には、まだやるべきことがあった。

 

彼は、この密偵船の存在を、密かに逆用することを思いついた。

 

もし、この船が地球へ帰るなら――クリス自身の記録の1部も、この船に〝相乗り〟させて、地球へ送れるかもしれない。

 

彼は、保守用の抜け穴回線と、あの25年前の発信機を使い、密偵船の通信バッファに、ごく小さな暗号化データを、そっと紛れ込ませた。

 

宛先は、ミスマル・コウイチロウ。

 

内容は、木連誕生の、これまでの全記録の、要約版。

 

それは、危険な賭けだった。

 

もしネルガルに発見されれば、クリスの正体も、記録の存在も、すべて露見する。

 

だが、彼は賭けた。

 

放っておけば、地球はただ木連の技術を盗み、対抗兵器を作るだけだろう。

 

だが今回は、その盗んだ船に、真実の欠片が、1つ、こっそり乗っている。

 

時代の大河は変えられずとも、その水面に、彼はまた1つ、小さな石を投げ込んだ。

 

「頼む。届いてくれ」

 

盗み出された技術の断片的な設計図が、地球のとある秘密の造船ドックへと運び込まれていく――その同じ船倉の片隅で、クリスの真実もまた、静かに、地球への帰路についていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。