【完結済】機動戦艦ナデシコ 前日譚 プラネテス 最後のデブリ屋 ―木星蜥蜴になった人々―【ナデシコ30周年&佐藤竜雄監督追悼作品】 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
地球圏。
ネルガル重工が木星から決定的な技術を盗み出したことで、皮肉にも、木星圏の「隔離」はより完璧なものにしなければならなくなった。
ネルガルと地球連合は、周到で大掛かりな情報操作に着手した。
ニュースキャスターは悲しげな、しかしどこか作り物めいた表情で報じた。
「木星開拓団は、原因不明の大規模な事故と未知のウイルスの蔓延により、その全員の死亡が確認されました。人類は、勇敢な開拓者たちを失いました」
それは完璧な、そして悪意に満ちた嘘だった。
地球連合軍のコウイチロウ提督は、この「偽りの荘厳な発表」を、苦い思いで見つめていた。
彼は真実を知っていた。
そして何より――彼の手元には、あの匿名の男が密偵船に忍び込ませた、木連誕生の記録の要約版が、届いていたのだ。
コウイチロウは、その暗号化データを、幾晩もかけて解読した。
そこに記されていたのは、公式発表とは正反対の真実だった。
すべてが、克明に、まるでその場に居合わせた者の目線で、記録されていた。
「……やはり、そうだったのか」
コウイチロウは、震える手で、そのデータを閉じた。
「木星の……見捨てられた同胞たちよ。すまなかった。本当に、すまなかった」
彼の瞳に、涙が滲んだ。
だが、コウイチロウは、動けなかった。
上層部からは、木星の件について、個人に対する厳重な緘口令が敷かれていた。
「木星の件は忘れろ、提督。……君の、家族のためにも、な」
それは明白な脅しだった。
だが、コウイチロウは、屈しなかった。
むしろ、この脅しこそが、彼を動かした。
彼は、その夜、密かに決意を固めた。
いますぐには、動けない。
だが、この真実は、決して闇に葬らせはしない。
彼は、受け取った記録を、幾重にも暗号化し、誰にも見つからぬ場所に、深く、深く、隠した。
そして――彼は、あの匿名の男から得た「ネルガル役員会の議事録」を切り札に、水面下で、着々と手を打ち始めた。
ネルガルの資金の流れを追い、横領の証拠を集め、そして密かに「同志」を増やしていく。
「待っていろ。……いつか、必ず。俺は、ただ待つだけの男じゃない。貴様らが油断しきったその日に、この牙を、喉元に突き立ててやる」
1方、その頃、木星圏では。
自分たちが地球で「すでに死んだこと」にされたと知ったレオは、報告を聞き、静かに笑った。
「そうか。……俺たちは、もう死んでいるのか。あの地球の連中の、心の中では」
彼はゆっくりと、居並ぶ感情を失った義勇軍の兵士たちを見渡した。
「なら――ちょうどいい。死者が、地獄の底から甦るんだ。悪の帝国に、忘れた頃の報いを、受けさせるために」
彼はその細い指を、チューリップの起動シークエンスへと、静かに伸ばした。
準備は、着々と整いつつあった。
あとは――最初の標的を定めるだけだった。