夏目アンアンが死んだ。
その死体の第一発見者となった私は気づいてしまう。
彼女の立てた計画とその覚悟を……
私は、二階堂ヒロは半ば日課となっている牢屋敷内を見回りしていた。
牢屋敷の一階を見回り中、医務室を確認しラウンジに向かおうとするところで
ドスン!
という鈍い音が響いた。
(中庭の方からか……?)
私はその音の出どころを確かめる為中庭に向かった。
中庭はいつもと変わらない光景だった。
───ただ一つを除いて。
「アンアン……?」
中庭の中心、噴水の近くには夏目アンアンが倒れていた。その体の中心に鉄柵を生やした状態で、周囲に赤い水たまりを作りながら。
「ッ!」
急いで私はアンアンの側へ駆け寄った。
鉄柵が生えているアンアン、どう見ても致命傷を受けているがそれでも私は信じられず彼女の手を取り脈を確認してしまう。
「……これは」
「やあヒロくん先程何か大きな音がした気がしてね。様子を……見に来たんだ……が」
その時、間が悪いことに蓮見レイアが私と同じく音を聞きつけてやってきてしまった。
彼女からは血塗れのアンアンの近くで跪く私の姿がその目に見えたことだろう。
君はついにやったのか。そんな事を言われてしまうのではないかついこの状況で思わず身構えてしまう。
しかし聞こえてきたのは全く別の言葉だった。
「大丈夫かいアンアンくん!それにヒロくんも!」
彼女はアンアンだけでなく私も含めて心配している様子でこちらに駆け寄ってきた。
「───疑わないのか?この状況で怪しいのは私だろう」
「無論、怪しいのは当然だ。けれど怪しいだけで疑う……それがナンセンスだと言うのは君も身にしみて分かっているんじゃないかな」
これまで起きた二つの事件は時に真実よりも心証が重要な問題になっていた。どちらの事件でも中心人物の一人だった私は確かに疑いだけで犯人を決めつける危険性を身にしみて理解していた。
「すまないが……アンアンの検死をしてくれないか。こういうのは私よりレイアの方が向いている」
「了解したよヒロくん。……!なっ……そうか……アンアンくん……」
「私は現場の周囲を確認させてもらう。何か証拠が残っているかもしれない」
レイアに検死をさせながら私は周囲の状況を調べる。
いつもと変わらない中庭、水を湛えた噴水、壊れたハンモック……
(そういえばここは上にもベランダがあったな)
一通り現場を調べた上で二階を見上げた私は目が合ってしまった。
二階のベランダで力の抜けたように座り込む桜羽エマの姿を。
「ッ!レイア、この場所を任せていいか!?」
「あ、ああ任せたまえヒロくん、殺人事件の完璧な現場保存をしておくよ!!」
私は急いで中庭を飛び出しエマがいる場所、アトリエへ向かった。
アトリエについた時もエマは全く同じ姿勢で固まっていた。
このままでは中庭についた他の人物にも気づかれてしまう。そう考え私は無理矢理エマをアトリエの中に引っ張り入れた。
「ヒ……ヒロちゃん。ボク……アンアンちゃんを……」
「違う!エマ!エマは殺していない!!これは……」
その時スマホの通知音が鳴り響いた。ゴクチョーの死体発見のアナウンスだ。
少し考えエマを支えながら立たせ中庭へ向かう。
今ここで言い合いをして集合が遅れるよりもできるだけ早く集合したほうが心証はいいだろう。
「とにかく……エマは殺していない。それは私が保証する」
「ありがとう……ヒロちゃん」
そうして私達二人は階段を降りラウンジへ向かった。
ラウンジにはすでに皆が集合していた。
「そんな……嘘だよねアンアンちゃん」
現実を受け止められないミリア。
「ふざけんな!せっかく……せっかくお前ら皆で劇しようって盛り上がってただろ……!」
怒りを露わにするアリサ。
「……アンアンちゃん」
ポツリと呟くノア。
この場にいる全員がこの事件を受け止めきれずにいるようだった。
そしてゴクチョーがラウンジに舞い降りる。
「やれやれ……起きちゃいましたね、殺人事件。ここしばらくは平和だったのに……やっぱり抗えないんですかねえ」
その時私の目線が自然とレイアに向いた。
レイアが魔法を使いコンタクトを取ったのだろう。
私はこっそりと私自身を指差す。それを見たレイアは小さく頷いた。
エマよりも私が疑われるべきだ。
「さて……それでは今回も事前投票をしてもらいましょうか」
「その前にいいだろうか」
レイアが声をあげた。
「……なんですのレイアさん」
「今回私は中庭でアンアンくんの死体を見つけた。しかしその時入れ違いで中庭を出ていく人の姿を見ているのだよ……何か言い訳はあるかい?ヒロくん。」
「ヒロ……ちゃん?」
横にいたエマは驚いて私を見る。
「どういうことですの!?」
「まあ単純に考えてヒロさんが犯人ってことでしょうね」
皆の視線が私に集まっていく。
怒り、疑心、悲しみその視線に込められた感情は様々だが今の私にとっては気にするほどではなかった。
「待ったよヒロちゃん!それはおかしいよ……!だって、だって」
「ふん、桜羽エマ。今更味方のつもりをするのか?言っただろう、私は君が嫌いだ。……早く事前投票を終わらせてくれ、私も覚悟はできてる」
それでも何か言おうとするエマをレイアが落ち着かせるために向こうへ連れて行った。
(そうだ、これでいい。こっちの方が都合がいいだろう)
事前情報の結果はやはり私となり、私は懲罰房に入れられることになった。
懲罰房に入れられた私は大人しく捜査時間が終わるのを待っていた。きっとレイアがうまいことやってくれているだろう。
そんな時懲罰房の重い扉が開いた。
やってきたのは蓮見レイアと桜羽エマだった。
「エマくんがどうしても君と話したいと言っていてね。流石に一人にはできなかったから私も同行する形で連れてきたんだ」
「……すまない、現場は大丈夫か?」
「ノアくんが協力すると言い出してくれてね。ノアくんもアンアンくんと親しかった。だからだろうね」
するとそれまで黙っていたエマが口を開いた。
「どうして……?どうしてなのヒロちゃん……私が……私がアンアンちゃんを突き落としたのに!」
エマは大きな声を上げた。
レイアはその言葉を聞いてようやく合点がいった様子だった。
「ああ、ヒロくんが中庭から出ていったのはそういう理由だったのか……ヒロくん、きちんと彼女と話し合ったほうがいい。流石にこのままではエマくんが可哀想だ」
レイアから指摘を受けた。確かにその発言は正論だろう。
このまま何も言わないのは正しくない、それはわかっている。
(思えば前回の裁判の私とエマの騒動を止めたのもアンアンだったな)
奇妙な偶然かもしくは運命のようなものか。
アンアンが繋いだその縁を今度は、今度こそ失わないように私はエマにあの時現場を調べてわかったことを話した。
「桜羽エマ、君は夏目アンアンを殺していない」
私は彼女に真相を話した。
この魔女裁判を終わらせる重要な作戦の詳細を。
「そっか……そうだったんだ……」
全てを聞いたエマはようやく安心した表情で安堵の声を漏らした。
そのままぺたりと懲罰房の床にへたり込んでしまう。
きっとそれまで張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったのだろう。
「ああ、だからエマは気に病む必要はないんだ。後はこのまま裁判がうまく行けば……全てを終わらせられる」
「そうだね。アンアンくんが決死の覚悟で繋いでくれたこのバトル。私達がしっかりと受け継がなければいけない」
その時牢屋敷に鐘の響いた。捜査時間が終わり魔女裁判が始まる合図だ。
私達三人は改め顔を見合わせ頷き合い裁判所へ向かった。
裁判所には当然全員が揃っていた。
私達はあくまで自然に、普通の……と言っていいかはわからないが普通の魔女裁判のように所定の位置についた。
「魔女裁判って言ってもさぁ……いつも通り怪しい奴がいんじゃん。ヒロっちが犯人ってことでいんじゃないの?」
「待ちたまえココくん、例えそうであれ裁判は行うべきだ」
「そうだよ、ヒロちゃんが犯人でも犯人じゃなくても裁判をしっかりやって真実を見つけなくちゃ!」
「わかってるって言ってみただけだっつーの」
裁判前の軽い応酬が起こる。
この応酬もいつもの事、ゴクチョーは我関せずといった様子でこの言い合いを眺めていた。
「ふむ、とりあえず反対意見はないようだし……ゴクチョーま、魔女裁判を開廷してもよろしいかな?」
「え、ああはい開廷して構いませんよ。時間もないのでさっさとお願いしますね」
「ではこれより魔女裁判を開廷する!───これでどうだいヒロくん?」
「ああ、これで……ゴクチョー!私は証人の入廷を要請する!」
「はあ……証人も何も今ここにいるのが全員ですよね?誰を入廷させるって言うのですか……?」
「
その瞬間裁判所の閉じられた筈のドアが外から開かれた。
コツコツと音を立てながらいつもの証言台までやってくる。
「嘘……」
「な、これは夢じゃねぇだろうな……?」
周囲もまたその証人の登場に驚いている。
何故ならばその証人……彼女は先程まで死んでいたはずの少女だったからだ。
「なっ……何故貴方がここに!?」
ゴクチョーも思わず焦った声でその少女の方を見ている。
その少女、夏目アンアンはニヤリと笑い証言台に立った。
「告発しよう。ゴクチョー、貴様ら牢屋敷の管理能力の問題についてを」
「ククク……ハハハ!!見事に私たちに騙されたようだねゴクチョー。この事件は全て夏目アンアンくんによる狂言だったのだよ!」
「狂言……!?」
アンアン、レイア、エマ、私の四人、そして気がつけばやってきていたもう一人の協力者ノアは一箇所に集まりゴクチョーを睨みつける。
その様子に他の仲間たちは蚊帳の外なりにこれが重要な局面であると理解したのだろう、固唾をのんで見守っている。
「事件の始まりはボクが誤ってアンアンちゃんを突き落としてしまったところからだよ」
「できるだけ周囲の目を誤魔化す為にエマには真実を伝えるのが難しかった。すまないな」
「本来は様子を見に来たエマにネタバラシをして共犯を持ちかけるつもりだったようだが、そこで私が音を聞きつけてやってきてしまい第一発見者となった。咄嗟に脈を確認したところ流石に息があることには気づいた、そこでアンアンの計画に気づいたわけだ」
「そしてこの私が次に通りかかったのさ、同じくアンアンくんの計画に気づいた私は共犯となりヒロくんと共に万が一でも狂言だとバレないように事後工作及びにアンアンくんに近づけさせない為の対策をさせてもらった。皆を騙すのは心苦しかったがこれもアンアンくんの計画を実現させる為、心を鬼にしてやらせてもらったよ」
「のあもアンアンちゃんから今日の話は聞いてたから手伝ったよ。一緒に事後工作したりレイアちゃんたちがいない間の見張りをしてたんだ〜」
「……城ヶ崎があからさまに夏目の死体からウチ達を遠ざけようとしてたから何かあると思ってたけど……そういうことだったのかよ」
他の皆もネタバラシをしたことで合点がいったようで「そういえば……」といったような声がところどころから上がる、私たちは急造の共犯、流石に所々にほころびがあったのだろう。
バサリと。
そこで大きく羽をはためかしたゴクチョーが話を遮った。
「それで?アンアンさんの死が狂言……それがどうしたというのですか?いえ、むしろこうして魔女裁判まで起こさせた以上何らかのペナルティを検討するべきかもしれませんね」
「ペ……ペナルティ!?そういうのはよくないとおじさん思うな!」
「……いや、ペナルティを受けるべきはお前だ、ゴクチョー」
「何……?」
アンアンはびしりとゴクチョーを指差し言った。
「死体もないのに魔女裁判を開廷した……そんな運営が今後もわがはいたちを管理する、そのような事認めるわけにはいかないな」
「ぐっ……!」
ゴクチョーは怯んだような声を出す。どうやら図星だったようだ。
「おっと実は気づいていた、なんて嘘は言わないでくれよゴクチョー。確かに私達はゴクチョーが魔女裁判を開廷してもいいと言ったのを聞いている、そして私の開廷の宣言にも異論を挟まなかった……であれば気づいていたのにも関わらず牢屋敷側は嘘をついてでも魔女裁判を開廷し誰かを処刑させようとしたことになる」
「嘘に気づいていたとしても気づいてなかったとしても今の牢屋敷の管理体制には問題がある、ボク達はそんな牢屋敷に管理させられる筋合いはないよ!」
レイアとエマが畳み掛けるようにゴクチョーを攻める。
……もう一息といったところだろう。
「最後は任せたぞ、アンアン」
「ああ、任せておけ」
アンアンの肩に手を置くとアンアンは此方を見て頷き返す。
ゴクチョーは怒りをあらわにした顔でこちらに向けて叫んだ。
「こ……この管理されないと生きていけぬ小娘どもがーーーッ!!!」
「わがはい達は皆を信じている……今のわがはい達は貴様らなんかには負けない事を!!」
その言葉を突きつけられたと同時にゴクチョーは爆発四散した。アンアンに論破された事で自身の存在を保てなくなったのだろう。
「や……やったぁ!ゴクチョーに勝った!ありがとうアンアンちゃん!!」
「マジですの……本当にやりましたわ……」
「ということは私達は自由ってことですね!」
「よし、アンアンくんを胴上げしよう!勝利の記念だ!」
「「「「「「「「わーしょい!わーしょい!」」」」」」」」
私達の未来は明るい、きっとこれから起こる問題も解決できるだろう……そう、アンアンがいれば。
「というのが本来わがはいが立てていた計画だ」
「……いや最後適当すぎんだろ!なんでゴクチョー爆発してんだよ!!」
「やはり黒幕は最後は爆発するべきだと思ってな」
「私、別に管理を命じられてるだけで黒幕ってわけではないんですけどねえ」
全てが終わった牢屋敷、私達は迎えが来るまでの間平和な日々を堪能していた。
そしてそこで一つの話題が上がった。アンアンが起こしたドッキリによる狂言自殺についてだ。
あの時はそのドッキリはノアに利用される形で失敗に終わったが成功したとしてもだいぶ趣味が悪いドッキリだ……と平行世界の記憶を最後の裁判で手に入れた面々からアンアンはお叱りを受けたのだ。
そしてそれに対してアンアンは本来の計画とは狂いが生じていたと言い計画が成功していたらどうなるのかを語ってみせたのだった。
「っていうかあてぃし途中で出てきたけど時系列的におかしくね?」
「そうね……沢渡ココは、あの時既に私が……」
「ああごめんナノカっち、別にナノカっちの事責めたわけじゃないからさあ」
アンアンの想定していた計画を聞かされた私達は思い思いにその計画を評価……粗探ししていった。
「私が気になったのは最後の決め台詞ね。皆を信じてる……確かに素敵だけどコレってヒロちゃんの台詞の使いまわしよね?ちょっとオリジナリティが無いと思うわ♪」
「ぐぅ……あまりにいいセリフだったものだからな」
「後やっぱり共犯者が少なすぎると思うな。ドッキリとはいえせめてボクには話して欲しかったよ」
「検死をしていた私にも事前に伝えておくべきだったろうね。作中では即興で計画に加担していたが場合によってはその時点で計画が失敗に終わっていた可能性が高いだろうね」
「ぐっ、ぐぐぅ……」
「後あの時点では分かってないので仕方ありませんがゴクチョーを倒したところでハッピーエンドにはなりませんね!」
「結局私達が助かるにはサバトをおこなうしかありませんものね……」
正直言って今回話した内容でも粗は目立つが何よりもあの時実際に起こった事件と比べて矛盾がある気がする。
その矛盾、指摘できる人物がいるとすれば……
「ノア」
「なあに?ヒロちゃん」
「あまり責めるのも酷だがそもそもこの話はアンアンから言い出したことだ。きっちりと終わらせてあげた方が良い」
「んー。わかったよヒロちゃん。ねえアンアンちゃん、のあ嘘つくのはよくないと思うな」
「な!?ノ……ノア!」
「アンアンちゃんあの時話してくれた計画だと単純にエマちゃんに殺されたふりをして皆が集まってきたところでネタバラシをしておしまいだったはずだよね?そんな牢屋敷を倒す計画じゃなかったと思うな」
「あうあうあう……!」
「つまりだ。アンアンはそこまで考えていなかった……これが事件の真相だ」
「う、うぅ〜ミリア!!」
「えっ私!?えー流石に皆で責めるのはよくないとおじさん思うな〜!」
「いやそもそも自己弁護の裁判って言い出したのは夏目だろ……」
「それではハンナさん判決をお願いします!」
「わたくしですの!?まあこの世界で起こったことではないので罰を受ける必要はないと思いますが……反省はしてほしいですわね」
ハンナの一言で裁判は終了した。
呆れてどこかへ行くもの、半泣きのアンアンを宥めるもの、その様子を愉悦の表情で眺めるもの……様々な少女がいるが彼女達も前の世界では救うことができなかった少女がいる、この手で処刑台に送ってしまった少女もいる。
そんな彼女たちがこうして集合して話せている。改めて手にした平和を私は実感していた。
こうして夏目アンアンの
アンアンちゃんの考えたドッキリが流石にあの場でやるにはちょっと酷いなと言う気持ちから
アンアンちゃんは仲間にじゃなくて牢屋敷側にドッキリを仕掛けていたんじゃないか説を考えましたが秒で脳内エマに論破された結果結局アンアンちゃん何も考えてなかったんじゃないかという結論になりました。
実際どこまで考えていたんでしょうねアンアンちゃん