→ダイス結果:Altered(修正)。設定に一部変更を入れる。
→→自宅ではなく酒場へ。
適当に見繕った
内容は、乾燥肉も入れた塩気たっぷりの根菜シチューに、ライ麦パンとエール。生憎生肉の入荷はなかったとのことで、ローストした肉の類はなし。
代金を払って食事を受け取り、空いているテーブルに着く。朝に買った本は布袋に入れて肩から斜めに下げているので、何とか落とさずに歩ける程度にはなっている。
食事に立ち寄ると分かっていれば、皿とナイフは用意したのにと、内心で愚痴りながらずっしりと重いパンを掴む。
硬くて黒いライ麦パンは、良く見るまでもなく精製が甘く、外皮が混じっていた。表面の硬そうな粒々は石臼の粉か。
力があるとは見えない細腕でパンを引き千切り、根菜スープに浸してから、グレイはむっつりと腕を組んだ。
美味そうに見えない食事に、機嫌が悪い訳ではない。
上流家族や貴族でもない限り、柔らかい肉と白いパンは無縁だ。あるいは、そういう客層を相手にしている店でもない限り。
酒場で提供する食事として、これは一般的なものだ。
不機嫌なのは、本代に魔物の調査の依頼に図書館利用にと、今日だけで金貨が七十枚以上も消えてしまったことだ。全て自分の選んだ結果にしても、痛すぎる出費だ。
そこへ外食の追撃だ。機嫌は自然と悪くなる。
「仕方ないでしょ、遅くなったんだから」
義兄程ではないにせよ、やはり見かけ以上にある腕力で砕いたキエラも、シチューの水分を吸って柔らかくなるのを待っていた。
退館を渋っていた自覚があるだけに、グレイは反論できなかった。
キエラの言い分は正しいにしても、寂しい懐への追加ダメージは大きい。
図書館が閉館になる頃には、外はかなり暗くなっていた。夏場であればまだ明るい時間なのだが、この季節では明かりが必要になる。
これから家に帰り、かまどに火を入れて食事の用意をするのは時間的に厳しいとの弁に、適当に食事を摘まんでいくことにした次第だ。
「……それに余り長居したくないし……」
長居したくないのは、店ではなく家の方だ。
店の喧騒に紛れた小声を、グレイの耳は意味を取り違えることなくきちんと捉えていた。
「まぁ、それは分かる」
いつ家自体が倒れるか分かったものではない。なるべく早く土台を固めないと、住む場所を失いかねない。さらに、床下の空間から何が出てくるか分からない。
問題だらけの我が家から、少しでも長く離れたい気分にもなろうものだ。
ここでようやく、グレイは組んでいた腕を解くと、ふうと長い息を吐いた。
「うまい具合に、役立つ知識なら見つかった。さっさと原因の箇所を見つけて、一つずつ片付けよう」
図書館で得た情報は、目標の半分といったところだ。
土木工事関連は、概ね期待通りの成果を得られた。昨晩キエラに語った内容でほぼ間違いはなく、まずは水流で土砂が削られる箇所を見つけ、木枠と石で土留めの補強をすれば、侵食を止められるらしい。その後、崩れかけている天井に支柱と梁で補強すれば、崩落も防げるようになるようだ。
反面、地下のあの空間に関する情報は完全な空振りで終わった。住んでいる区画の歴史を調べても、それらしい怪しい存在や出来事の確認は取れていない。どこかの没落貴族の屋敷や、何かの神の神殿が建っていた過去はなく、多少の隆盛はあるものの二世紀近く平民街として、家が建ったり壊されたりしている。
「……となると、それ以前に造られたってことになるのだが……」
生憎と、それ以前の歴史は辿れなかった。
そもそもミガシンの街も建ってから二世紀と少々。それ以前は何かの巨大遺跡があったなどという、眉唾の話があるくらいに定かでない。
「いや、まさか」
眉唾の話が真実である可能性を、グレイは破棄した。仮に巨大遺跡の上に街が建っているとしても、地上三、四メートルの浅いところに埋まっていた、なんて考えたくない。それでは自分達だけでなく、過去の住人まで気づくことのなかった間抜けではないか。
「食べないの?」
キエラの声に、思考の底に沈みかけていた意識を浮上させる。
何の香草を入れたのか、嗅ぎ慣れない独特の匂いのあるシチューだ。水分を吸って柔らかくなったパンを一切れ摘まみ、口に放る。パンの独特の酸味と粘土のような食感、そして石臼の粉のジャリジャ感が相まり、咀嚼すれば慣れない匂いが鼻を突き抜け、飲み込もうとすると喉に詰まりそうになる。
それでも何とか飲み込むと、エールで口内の残りを喉の奥へ洗い流す。
上等とするには程遠く、不味いと言う程食べられない代物でもない。この辺りでは一般的なレベルと言えるだろうか。
一口食べ終えたキエラの表情も、何とも微妙なものだ。
「ちょっと次はないかな?」
最近の仕事の成功で少し良い食事を知ってしまえば、そのような感想になるだろう。
「もうちょい美味い店に行くのは良いけど、オレは誘わないでくれよ?」
後先考えずに使い過ぎたと後悔しても、金は戻ってはくれない。
グレイの懐事情を知るキエラは、ハハハハと笑うに留めた。さすがに水に落ちた犬を打つ趣味はない。
それからも客が入れ代わり立ち代わりしながら、二人の食事はゆったりと進んだ。
「悪いけど今日のシチューは終わりだよ! 後はパンとチーズと干し肉にエール。それで良ければ注文しな!」
女将の品切れの声が聞こえる頃に、二人の皿は空になった。
対して大きくない店内は既に半分が空席で、
「杖、ちょっと見せてくれ」
帰ろうかと腰を浮かせかけたキエラは、言われるがまま、デニスの持っていた杖を差し出した。
グレイは杖を受け取らず、小声で何やら呟く。
聞こえたはずの言葉が記憶に残らずに消えていく不可思議な声に、それが呪文だと気付いてキエラは顔色を変えた。
「ちょっと! ここ
おそらく使ったのは
ヒトに危害のない魔法だとしても、こういう場所で使うのは無礼とされる行為だ。下手をすれば、難癖を付ける口実にされかねない。
「……場所を変えれば結果が変わると思ったんだが……」
キエラの焦燥をよそに、グレイに反省の色はない。表情から予想するに、杖に隠されている能力は読み取れなかったのだろう。
「だからって、こういう場所でいきなり魔法使う!?」
小声で叱責する義妹に、義兄は気まずさに目を逸らした。
グレイにしても、単なる思い付きを深く考えずに実行してしまった自覚はある。
早々に酔っぱらったのかとキエラは勘繰るも、腹を下す危険がある水の替わりに、子供でも飲む弱い酒だ。兄妹もそうやって育ってきている。酔うなどあり得ない。
素早く視線だけを周囲に走らせ、少なくなった客達には気づかれなかったようだと安堵する。
「ちょっと、あんた」
ただし、女将の目敏さからは逃げられなかったようだ。
「困るんだよね。店の中で魔法使われるの」
一瞬で店内から音が消えた。残り少ない客と
困るどころかご法度だ。刃物を鞘から抜き放つ行為にも等しく、他人を傷つける意図はなくても、十分危険人物と見なされる愚行だ。
「あ~。いえ、済みませんでした」
店の主人に言われては、グレイも謝罪するしかない。
しかし人相の悪さから何か企んでいるような胡散臭さが抜け切らず、女将は探るように目を細めた。
これはまずいと判断したキエラも、頭を下げた。
「私も……済みませんでした」
当事者二人に謝罪され、女将も気を削がれたようだ。兄妹を交互に睨みつけてから、長い息を吐く。
「……今回は見逃すけど、次やったら二度と入れないからね。覚えときな!」
ここで食べるのは初めてなのだけど、とグレイは口にはしなかった。
次に来ることないと思う、との言葉をキエラは飲み込んだ。
衛兵を呼ばれずに済んだのは有り難い。この点は二人共通していた。
「なあ。あんた、魔術師なのか」
女将と入れ替わるように、今度は客の一人が声をかけてきた。
まだ帰れそうにない。
グレイは浅慮だった自身の行為を内心で罵った。
◇◆◇
男の身なりは、質素ながら小奇麗だった。生成りのシャツにズボンと平民にはありきたりの服に、左肩に近くの神殿の名前が刺しゅうされている。ツンと鼻を突く刺激臭は、何かの薬品のものだろうか。
「まあ魔術師、ではありますね」
店内で魔法を使ったことへの苦情かと思いきや、見たところ三十代の男に敵意のようなものは感じられない。
「ああ、それは良かった」
近くにある神殿に併設されている
救貧院とは、働けなくなった高齢者が身を寄せる施設のことだ。神殿に併設されていることがあれば、資産家が慈善事業で投資することも、年老いたの職人の引退先にギルドが設立することもある。
「できるならちょっと協力してもらえるかな? 勿論、少しだけれど謝礼もする」
報酬の一言に、グレイは興味を惹かれた。
「……内容にもよりますが?」
若い
「
「まだそこまでの位階に達していませんね」
毒消しの魔法だ。これはグレイの現在の実力ではまだ手が出ない。自分の能力の限界を直視させられ、救貧院への興味が少し削がれる。
「
「覚えていないです」
ほぼ全ての病魔を治癒できる魔法のことだ。これも習得はしておらず、同じ
「
「それは、まあ……」
怪我の回復、病気の治癒、体内の毒消し。病気や怪我を治すのに役立つ魔法は、魔術師の称号を得たばかりの新人には荷が重い。
なぜ初対面の相手から、使える魔法を問い質されなくてはならないのか。
「
ノミやシラミ、ダニといった害虫から、ゴキブリやクモのような昆虫、ネズミ程の小動物を追い払う魔法だ。
「それは基本でしょう。何で質問されなくてはならないので?」
魔術師を名乗るなら誰でも知っている初歩の魔法まで使えるのか問われ、グレイの興味と機嫌は急速に下降した。
「ああ、機嫌を害したのならすまない。この四つが使える魔術師なら、色々な面で助かると思って」
そこまでできる魔術師なら、自分で治療院でも開いている。
内心でオットーに向けた吐き捨てた言葉は、口調に現れた。
「ということは、失格ですか」
オットーの不躾さに、救貧院に対するグレイの興味はほとんど消失していた。求める能力に到っていないと不合格を言い渡されたとしても、不満を抱くことはないだろう。
「いや、そうじゃなくて……」
口ごもるオットーに、何か良くない仕事を押し付けられるのではと、警戒心が膨れ上がる。
「とにかく、付き合ってもらえるかな?」
「お断りします」
グレイは即答した。
尋ねられた魔法は、どれも
断られるとは予想外だったのか、オットーのまぶたが僅かに上がった。
「……断る理由を尋ねても良いかな?」
グレイの中の警戒感が強まった。ちらとキエラの顔を伺い、胡散臭いものを見る目つきになっているのを確認する。
「夜も遅いですから」
それでは、と会話を打ち切り、キエラと連れ立って店の外に出る。
「気が変わったら来てくれるかな? 『愛の旅』院だ」
背中に投げかけられたオットーの言葉を、グレイは念のため記憶に留めた。怪しいと今回は断ったが、誤解と判明したら、小金稼ぎに顔を出すのも良いだろう。
「変な名前」
キエラがポツリと零した感想には、グレイも同意だった。
* Random Event発生。
・Event Focus:PC Positive(PCに都合の良いこと)
・Event Meaning: “Travel”、”Love”。魔法を使える仕事の提案と、そこへの移動。でも断られた。愛が足りない。
* エールハウス(Alehouse)とエールワイブス(Alewives、単数形Alewife)は史実とは少し異なる扱いをしています。
【挿絵表示】