ネコと和解せよ 作:ラキスト猫
「母さん、ご飯できたよ」
「にゃ」
「母さん、今日仕事でしょ?お弁当あるから」
「…にゃ」
「今日はお魚が安かったから、晩御飯はお魚料理ね」
「……ヤクよ」
呼びかけられれば振り返る、料理を終えてエプロンを脱いでは畳んで近づいて来る。
「お前、にゃーの娘じゃなくてにゃーの親か嫁になってないかにゃ?」
「え?」
「いや、なんというか、すいません……あの、家族って、実は何か分かってなくて……」
「随分とぶっちゃけたにゃ、そんな酷かったにゃ?」
「ええ、正直……祖父とは仲は良かったんですが両親や他の親族とは……」
「……にゃー」
ヤニねこは一鳴きするとヤクねこの頭を肩に寄せた、奔放で不器用なヤニねこに出来るのは精々このくらいなものだ。
「まぁ、ヤクなら将来的にはいい親や嫁さんにはなると思うにゃー」
「え?」
「にゃ?」
気風のいい性格と、家庭的な面を持つヤクねこだ。前世の様に身を崩していなければ引く手あまただろう。
「も、もしかして娘じゃなくてお嫁さんの方が良かったですか!?」
「なんの話にゃ……」
「先輩のお嫁さんでも自分はOKです!」
「一度落ち着いた方がいいにゃー」
ヤクねこにとって最悪でも、実家から離れるには相応の覚悟があった。
それを掌返しで破綻する事を、己の失態で無かった事になる事態を恐れた。
「ヤクよ、家族というのは近くにいても離れていても家族にゃ」
「は、はい!」
「少しは嫌にゃ事もあるし、少しは嬉しい事もあるにゃ」
「少し、ですか?」
「そうにゃ。超えてはいけない線というものがある、おみゃあだけが悪いわけじゃないにゃ」
この世界で、現代で獣人の立場はとても差別的だ。それは優遇される事もあれば冷遇されることもある極端な世界。
寄せたヤクねこの頭を撫でて梳かしてやる、染めた髪が少しゴワついているがその感触はどこか懐かしい。
「家族はこうでなきゃいけないなんて無いのニャ、お前の好きにしてみて、にゃーが好きかを決める。その逆も然りにゃ」
「じゃあ、おっ○い吸ってもいいっすか!!?」
「ヤク○めてんのかにゃ?」
授乳プレイは流石に、とは思った。以降度々胸元がカピカピになるが、忘れる事にした。
私はいつも一人だった。家族が居て、学校に行って、誰かと話していても皆他人だった。
でもたった一人だけ、見上げた先に貴女が居た。かっこよくてかわいい貴女が居た。
噂なんて簡単に広まるし、隠し事をしようとしていた事もバレバレだった。
金髪に染めた日もきっと家族と何かがあったのだろうけど笑っていた、私は貴女の髪と心を染めた人に嫉妬心が湧いたんだ。
ヤクちゃんがスーパーで買い物をしているのを見た。
籠を持って店を回っている、中身は恐らく一人か二人分で家族の分では足りない筈。
それにこのスーパー自体がヤクちゃんの家とは逆方向だった筈だ。
「先輩ってかっこいいんだよ!」
「先輩って素敵だなぁ―――!」
「先輩……マジリスペクトッス!!」
もしかして……先輩の家?私を置いて、先輩の家に行ってるの?
吐き気がする、勝手に親友を疑い、親友を恨み、親友を所有物の様に扱う自分に。
隠れてついて行ったわけじゃない、だけど一定の距離を開けて歩みは止まらない。
そうして辿り着いたどこかの安アパート、勝手知ったる自分の家の様に階段を昇って一室に入っていった。
もしかして、使われている?家族で辛い目に遭っているのに、先輩の家でもこき使われているの?
そう考えると居てもたっても居られなかった、階段を一つ飛ばしで昇り、心臓がうるさく叫びながらも部屋に飛び込んだ。
狭い部屋だった、だからすぐにヤクちゃんを見つける事が出来るようになった。
「ヤクちゃん!大丈夫――――」
その光景に目を疑った、翡翠の様な髪色は何度か見た事がある。ヤニ子先輩だろう。
ヤニ子先輩は仰向けで寝ていて、ヤクちゃんは頭が無くなっていた。
正確には、ヤクちゃんは先輩のTシャツの中に潜り込んでいた。
部屋に響く、空気と水の混ざった小さな音。
「ヤクちゃん……何やってるの?」
一周回って、動揺は無くなっていた。ただ純然たる疑問だけがあった。
ビクっとヤクちゃんの体が震えて、しずしずと顔を見せて来る。
「何……してたの?」
「……猫吸い」
「……何を吸っていたの?」
「……おっぱい」
「オ○スリやってる?」
「先輩は私の母になってくれる人っす!」
「キマッてるなぁ……」
親友が他人にマザコン拗らせた上で幼児化は想像していなかった、まじビックリした。
「……にゃ~、またヤクかにゃ?せめて吸うなら静かにしろって言ってるにゃ~」
「いつもしてるんだ……?」
「週一回だけだよ、それ以上は私の理性がもたない」
「もう駄目だよ、自覚が無いのが一番だめ」
キリっとした顔で、何でもない様な顔でヤクちゃんは言う。
「なんでそうなっちゃたの、ヤクちゃん」
「……何か、文句あるっすか」
「だって、おかしいよ。何で先輩がお母さんなの……なんで、私じゃダメだったの?」
「無理だよ…ハメちゃんには分からないよ」
「なんでよ、話してよ!私達、友達でしょ!?」
「ハメちゃんには分からないよ!私とは違う!私と違う!ハメちゃんなんかに―――」
「そこまでにゃ」
ヤニ子先輩が棒付きキャンディーをハメちゃんの口にねじ込む、ちょっと深く入ったのかえづいているが大人しくなった。
「ヤクよ、一線を超えるにゃと言った筈にゃあ」
「おぇ、すいません……」
「ハメよ、ちょっと聞いてくれニャ」
「な、なんですか」
実質的に初対面の筈だ、しかしヤニ子先輩が私の名前を呼ぶことに慣れているような声で私を呼ぶ。
「ヤクはにゃ、ちょっとお年頃なのにゃ」
「お、お年頃?」
「遅れて出て来た反抗期にゃ、誰にも彼にも反抗的なのにゃ。にゃーに甘えるのだって誰かに対する当てつけなのにゃ」
「……私にも?」
「んー、遠慮せずに言えちゃうのは甘えとも言えるかもしれないにゃー」
「私に、嫌いになったり、飽きられてない?」
「ヤクに聞けにゃあ」
居心地悪そうにしていたヤク子が、耳を降ろして上目遣いになる。
「ハメちゃんの事、嫌いになったりなんてしない。だけど、さっきはごめん……」
「ううん、いいよ。待ってる」
「……ありがと」
「うん。あ、そうだ、もし辛かったり我慢出来なくなった時はすぐに言ってね!」
「……でもハメちゃん、あんまりおっぱいない」
「ぶっ殺すぞ、というかそっちなの」
のそのそとヤクねこがハメねこに近づく、一応身の危険を感じたハメねこは胸元を両腕で隠すがハメねこは腹部に抱き着く。
「……あ、これいいかも」
「ちょちょちょ!?ヤクちゃん!?」
「心臓より遠いのに……安心する」
「心音フェチ、いや胎内回帰フェチかにゃ?」
「闇が深すぎるでしょ……あ、でもなんかいいかも」
「こっちは母性出とるにゃ……怖いにゃあ」