巨石の神殿を建てたいと言うあなたに、私はパンを焼き、酒を醸す ~紀元前1万年。人類最古の神殿の、いちばん最初の恋~
作者:ramunade
オリジナル:歴史/恋愛
タグ:歴史 古代 先史時代 石器時代 酒 ビール じれじれ ハッピーエンド ギョベクリテペ
――これは今から一万二千年前ほど、気の遠くなるほど昔のお話。
麦を挽いて、焼く。それが地元の娘、ウネの役目だ。
年に一度、麦が実り鶴が渡るころ、野を巡る人々がひとつの丘に集まって祭りをする。
その皆の腹を満たすのが、私のパン。……食べてしまえば、朝には忘れられてしまうけれど。
ある年、私は焼き損じた生焼けのパンを、雨水の溜まった石の窪みに落として忘れた。
数日後――窪みの水は白く濁り、ぷつぷつと泡を立てていた。
酸っぱくて、どこか甘くて、飲めば腹の底からぽかぽかと温かくなる、ふしぎな水。
丘では誰も知らなかった「笑う水」に、人々は野へ帰るのも忘れて居残り――
その騒ぎの端で、ひとりの痩せた青年が、誰も本気にしない夢を口にする。
「石を起こす。『見ている者たち』の、ちゃんとした家を建てる」
誰もが笑った。けれど彼だけは、私のしくじりを「天からの贈り物」と呼んだのだ。
私のパンと酒が人を留め、留まった手が石を起こし、丘は少しずつ変わっていく。
酒が唄になり、唄が石を立たせ、やがて私は、誰もしたことのない賭けに出る。
――いちばん肥えた麦の粒を、土に埋めるのだ。
鉄も土器も文字もない時代。転生も予知もなし。
後にトルコの『ギョベクリ・テペ』と呼ばれる丘に人類最初の文明が芽吹いていく、その夜明けを舞台にした、
パンを焼く女と、石ばかり見ている男の、世界で一番古い神殿のいちばん最初の恋の物語。
石しか見ていないあの人は、いつになったら私を見てくれるのでしょう?
麦を挽いて、焼く。それが地元の娘、ウネの役目だ。
年に一度、麦が実り鶴が渡るころ、野を巡る人々がひとつの丘に集まって祭りをする。
その皆の腹を満たすのが、私のパン。……食べてしまえば、朝には忘れられてしまうけれど。
ある年、私は焼き損じた生焼けのパンを、雨水の溜まった石の窪みに落として忘れた。
数日後――窪みの水は白く濁り、ぷつぷつと泡を立てていた。
酸っぱくて、どこか甘くて、飲めば腹の底からぽかぽかと温かくなる、ふしぎな水。
丘では誰も知らなかった「笑う水」に、人々は野へ帰るのも忘れて居残り――
その騒ぎの端で、ひとりの痩せた青年が、誰も本気にしない夢を口にする。
「石を起こす。『見ている者たち』の、ちゃんとした家を建てる」
誰もが笑った。けれど彼だけは、私のしくじりを「天からの贈り物」と呼んだのだ。
私のパンと酒が人を留め、留まった手が石を起こし、丘は少しずつ変わっていく。
酒が唄になり、唄が石を立たせ、やがて私は、誰もしたことのない賭けに出る。
――いちばん肥えた麦の粒を、土に埋めるのだ。
鉄も土器も文字もない時代。転生も予知もなし。
後にトルコの『ギョベクリ・テペ』と呼ばれる丘に人類最初の文明が芽吹いていく、その夜明けを舞台にした、
パンを焼く女と、石ばかり見ている男の、世界で一番古い神殿のいちばん最初の恋の物語。
石しか見ていないあの人は、いつになったら私を見てくれるのでしょう?
| 1. パンが、息をした | |
| 2. 石を起こすと言った人 | |
| 3. 袋の底の、ひと掴み | |
| 4. 囲われていた窪み |