side:安例成
「……いるんでしょ。出てきなよ──斉木楠雄くん」
俺はピタリと足を止め、後ろの塀に向かって声をかけた。
(やれやれ……ストーキングと言われるのは心外だな、安例成)
壁の影から、やれやれと首を振りながらピンク色の髪の男──斉木楠雄が姿を現した。
なぜ彼が俺の後ろをつけてきていたのか。答えは簡単だ。
(それよりも……なぜ僕が超能力者だと知っている? なぜそれを学校でバラそうとした?)
答えは、俺が帰り道でずっと「斉木の超能力を全校生徒に暴露してやるか〜」という思考を脳内で大音量で垂れ流していたからだ。
当然、それはすべて俺の狙い通り。楠雄をこの誰もいない場所に誘い出すための罠だったのだ。
フフッ、まんまとハマってくれたぜ、楠雄くん。
(……思いっきりドヤ顔をしているところ悪いが、お前のその考えはすべて僕に筒抜けだぞ。……で、その罠とやらについて、詳しく説明してもらおうか)
おっとあっぶねぇ、そういやこいつテレパシーが使えるんだった。思考を読まれるのはやりにくいが……まあ、手の内を知られているなら話が早い。
「じゃあ早速だけど、俺の目的と作戦内容を話すよ。……というか、話した方が都合がいいんだ」
(都合がいい? どういうことだ)
俺は正面から楠雄の無表情な顔を見つめ返し、ニヤリと口角を上げた。
「単刀直入に言う。……楠雄くん、俺と勝負しないか?」
side:斉木楠雄
(勝負……?)
僕は眉ひとつ動かさずに、目の前の転校生を見据えた。
ただの人間であるお前が、その気にさえなれば世界を滅ぼせるレベルの超能力者である僕に勝負を挑む?
正気の沙汰とは思えない。
(……なぜ常人であるお前が、僕に勝負を挑むんだ? そもそも、何の勝負をするつもりだ?)
「まあ、これ自体が安例成のΨ愛作戦の一環なんだよ」
(なんだそのふざけた名前の作戦は。説明しろ)
僕はその意味不明な作戦とやらの内容を聞き出すことにした。
「まあ、簡単に言うとだな──君と照橋さんを付き合わせるんだよ」
…………呆れた。無謀にもほどがある。
僕と照橋さんをくっつけるだと? 何をしても無駄だ。そもそも僕は恋愛という概念そのものに一切の興味がない。
「それに照橋さんが可哀想だしさ。あとは……単純に付き合ってニヤニヤしてる二人が見たい!!」
(まったく理解できないな。なぜ見ず知らずの他人の恋愛にそこまで情熱を注げるんだ)
「まあまあ! とりあえず勝負内容を聞きなって!」
(だから、僕は恋愛になんて興味が──)
「ルールはシンプル!! お前が卒業までに照橋さんと付き合ったら、俺の勝ち!! その場合、俺はお前の超能力を全校生徒にバラす!! 以上!!」
(………………は?)
一瞬、思考がフリーズした。
待て。おかしいだろ。
なぜ僕が照橋さんと付き合ったら「お前の勝ち」になるんだ?
しかも、付き合わされた挙句に超能力までバラされるとかどういうことだ!!
(……おい、勝手に僕の敗北条件を捏造するな。付き合わされた上にバラされるとか、僕に何のメリットもないじゃないか)
「まだ最後まで聞けって、もう一つはお前が照橋さんと付き合わなかった場合、お前の勝ち、その場合は俺を殺すなり存在ごと消すなりなんでもするといいさ」
(だから僕になんのメリットm 「あ、ちなみに勝負に参加しない場合は照橋さんにメールで楠雄が超能力者だってバラすよ」..........)
一瞬、夕暮れの通学路からすべての効果音が消え去った。
ポケットから取り出したスマホの画面には、すでに「送信」ボタンを押すだけの状態になった照橋さん宛のメール。
くそ……なんて汚いやり方だ……。
鳥束の方が、まだ何倍もマシに見えるぞ……!
(……お前、本物の悪魔だな)
「プロデューサーを舐めるなよ。推しカプを公式にするためなら、俺は自分の命だって平気でチップに賭ける男だ」
(知るか!!)
「じゃあとりあえず……勝負するってことでおk?」
(……選択肢をすべて潰しておいてよく言うな。それしか道がないだろ)
「よし、交渉成立! じゃあ勝負は明日からスタートな!」
くそ……とんだ災難だ……。
覚えていろよ、安例成。
胸の中でふつふつと殺意を煮詰めながら、僕は瞬間移動で自宅へ帰ろうとした。
……まさに、その時だった。
「あ、そういや聞き忘れてたわ」
夕空の下、安例はポケットに手を突っ込んだまま、どこか冷徹とも言えるプロの眼光で僕をじっと見つめていた。
「──お前が照橋さんのことをどう思ってるか......俺は気になるな」
オッス!! オラ安例!!
ついに楠雄に勝負を持ちかけることに成功したぞ!!
この勢いに乗って、他の奴らもまとめて付き合わせてやっぞ!!
……ただし鳥束、てめーはダメだ。
次回!! 安例成のΨ愛作戦!!
『ただし鳥束、てめーはダメだ』
ぜってぇ見てくれよな!!