The Reaching Shore――届かせるもの――   作:ほいみん

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Fate/stay night二次創作長編『The Reaching Shore――届かせるもの――』第11話です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・AI使用表記・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
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第11話 手綱を下ろす

「結界の破壊は、命令に含まれぬ」

 

 赤い光が、なお空を覆っている。

 

 ライダーが鎖を持ち上げた。

 

 狙いは、槍を床へ突き立てたまま動けないアトラスだ。

 

 鎖が走る。

 

 その進路へ、矢が突き刺さった。

 

 金属同士がぶつかり、火花が散る。

 

 ライダーの腕が弾かれた。

 

「命令に忠実なのは結構だが」

 

 アーチャーが、次の矢をつがえる。

 

「こちらにも、守るべき仕事がある」

 

 放たれた矢が、ライダーの足元へ突き立つ。

 

 一本ではない。

 

 二本、三本。

 

 進路を塞ぐように、屋上の床へ矢が並んだ。

 

 ライダーが横へ跳ぶ。

 

 その着地点へ、さらに矢が飛ぶ。

 

 倒すための射撃ではなかった。

 

 アトラスへ近づけないための射撃だ。

 

「ライダー! 何をしてるんだよ!」

 

 慎二が叫んだ。

 

「早くあいつを殺せ!」

 

 手の中の本が光る。

 

 そのたびに、ライダーの身体へ細い魔力が走った。

 

 遠坂が、その光を見つめている。

 

「やっぱり……あの本が中継点ね」

 

「壊せるのか?」

 

「そのために見てるのよ」

 

 遠坂の指先へ、黒い光が集まる。

 

 慎二が息を呑み、後ろへ下がった。

 

 背中が金網へ触れる。

 

 遠坂は指を向けたまま、撃たなかった。

 

「遠坂?」

 

「駄目ね」

 

「何がだ」

 

「あいつ自身は狙えない」

 

 慎二の後ろには、金網しかない。

 

 一昨日の夜、遠坂から説明を受けた。

 

 遠坂のガンドは、人間を怯ませるだけの呪いではないらしい。

 

 直撃すれば、身体ごと吹き飛ばす。

 

 あの位置で撃てば、慎二は金網を越えて、校舎の下へ落ちるかもしれない。

 

 撃てば終わる。

 

 慎二の命ごと。

 

「最悪の場所まで下がったわね……!」

 

「何だよ」

 

 慎二が金網へ背を預けたまま笑う。

 

「撃てないのか、遠坂」

 

「黙りなさい」

 

「結局、僕には何もできないって思ってるんだろ」

 

 慎二が本を掲げた。

 

 表紙の文字が浮かび上がる。

 

 慎二の足元から、黒い影が伸びた。

 

「遠坂!」

 

 影が床の上を走る。

 

 先端が持ち上がり、細い刃へ変わった。

 

 遠坂へ向かって跳ね上がる。

 

 士郎は右手を伸ばした。

 

 夜ごと試していた形を、頭の中から引き出す。

 

 外形。

 

 材質。

 

 中へ通る構造。

 

 まだ正しいとは思えない。

 

 それでも。

 

「投影、開始」

 

 手の中に、剣が現れた。

 

 影の刃を受ける。

 

 甲高い音が鳴った。

 

 投影した剣へ、罅が走る。

 

 刃は止まった。

 

 けれど、剣も一撃で砕けた。

 

「士郎!」

 

「大丈夫だ!」

 

 破片を捨てる。

 

 次の影が、慎二の足元から立ち上がる。

 

 もう一度、同じ形を思い浮かべた。

 

 前よりは、剣らしくなった。

 

 中まで本物だという自信はない。

 

 それでも、一度だけなら受けられる。

 

「何だよ、その剣!」

 

 慎二が本を振る。

 

 影の刃が二つに分かれた。

 

 一つは遠坂へ。

 

 もう一つは、士郎の足元へ。

 

 士郎は遠坂の前へ踏み込み、横から来た刃を剣で弾く。

 

 足元の影が伸びる。

 

 飛び退くより先に、遠坂が士郎の襟を掴んだ。

 

「下がって!」

 

 二人が横へ倒れ込む。

 

 さっきまで士郎が立っていた場所を、黒い刃が突き抜けた。

 

「助かった」

 

「こっちの台詞よ。次は右を見なさい」

 

「ああ」

 

 受けるたび、剣は壊れていく。

 

 次まで保つ保証はなかった。

 

 その向こうで、ライダーがアーチャーへ距離を詰めた。

 

 鎖が弓を絡め取る。

 

 アーチャーは弓を手放した。

 

 空いた両手へ、白と黒の双剣が現れる。

 

 あの、白と黒の双剣。

 

 以前に見た時よりも、近い。

 

 士郎が投影した剣とは違う。

 

 形だけではない。

 

 握られ、振るわれ、互いを呼ぶように戦っている。

 

 ライダーの鎖と双剣がぶつかる。

 

 アーチャーはライダーを斬ろうとはしない。

 

 鎖の軌道を払い、進路を塞ぎ、慎二とアトラスの間へ入れないよう押し返している。

 

 アーチャーがライダーを押し留めている間も、遠坂の視線は本から離れなかった。

 

「遠坂、分かったか?」

 

「もう少し」

 

 遠坂の視線は、慎二の本とライダーの間を往復している。

 

「命令が流れるたびに経路が開く。でも、今のままじゃ細すぎる」

 

「なら、どうする」

 

「もっと大きな命令を使わせる」

 

「そんなこと――」

 

「向こうから使うわよ」

 

 遠坂が慎二を見る。

 

 アーチャーに阻まれたライダー。

 

 砕けても剣を作り直す士郎。

 

 自分を直接撃てないまま、本だけを観察している遠坂。

 

 慎二の顔から、怒りが消えていた。

 

 残っているのは、逃げ道を探す目だけだった。

 

「ライダー!」

 

 慎二が叫ぶ。

 

「僕を連れてここから出ろ!」

 

 ライダーの動きが止まる。

 

 アーチャーも、わずかに距離を取った。

 

 本の文字が、一斉に光った。

 

 さっきまでとは比べものにならない魔力が、慎二の手からライダーへ流れる。

 

 ライダーの周囲で、風が渦を巻く。

 

 鎖の先が宙へ上がった。

 

 見えない何かを引き出すように、手綱が張られる。

 

「今よ!」

 

 遠坂が走った。

 

 慎二が本を抱え込む。

 

「来るな!」

 

 影の刃が地面から噴き上がる。

 

 士郎は遠坂の前へ出た。

 

 投影剣で、一つ目を受ける。

 

 剣が砕ける。

 

 二つ目が来る。

 

 新しい剣を作る時間はない。

 

 士郎は砕けた柄を捨て、身体ごと遠坂を庇った。

 

 その直前。

 

 黒い刃が、白い剣に弾かれた。

 

「前だけ見ろ」

 

 アーチャーが言った。

 

「おまえの仕事は、そちらだ」

 

「ああ!」

 

 士郎は慎二へ走った。

 

 遠坂がその後ろを追う。

 

「来るな! ライダー、早くしろ!」

 

 慎二が本を掲げる。

 

 ライダーの手綱に、さらに魔力が集まる。

 

 その瞬間。

 

 本とライダーの間へ、太い光の経路が現れた。

 

「見えた」

 

 遠坂が宝石を投げる。

 

 青い光が弾けた。

 

 慎二が顔を庇う。

 

 士郎はその腕へ飛びついた。

 

 本を持つ手を押さえ込む。

 

「離せ、衛宮!」

 

「遠坂!」

 

「そのまま押さえて!」

 

 遠坂の指先に、黒い光が集まった。

 

 今度の狙いは、慎二ではない。

 

 士郎が掴んだ手の先。

 

 開いたままの本だ。

 

「やめろ!」

 

 ガンドが放たれた。

 

 本の中央を撃ち抜く。

 

 表紙が裂けた。

 

 浮かんでいた文字が、ばらばらに崩れる。

 

 慎二からライダーへ伸びていた光が、途中で切れた。

 

 空中へ集まっていた魔力が散る。

 

 ライダーの手から、張り詰めていた手綱が落ちた。

 

 風が止まる。

 

「……何を」

 

 慎二の声が震えた。

 

「何をしたんだよ」

 

 本の残骸が、士郎の手の中で崩れていく。

 

「戻せ」

 

 慎二が士郎を突き飛ばそうとする。

 

「戻せよ! それがなきゃ、僕は――」

 

 士郎は慎二の腕を背中へ回し、床へ押さえた。

 

「離せ!」

 

「もう誰にも命令させない」

 

「僕はマスターだぞ!」

 

 慎二がライダーを見る。

 

「ライダー! 僕を助けろ!」

 

 ライダーは動かなかった。

 

 アーチャーも双剣を下げている。

 

 遠坂は慎二を見下ろしたまま、攻撃しない。

 

 士郎も、慎二の身体を押さえているだけだ。

 

 ライダーが、ゆっくりと慎二へ顔を向けた。

 

「殺すつもりはない」

 

 士郎が言った。

 

「教会へ連れていく。それだけだ」

 

 ライダーは、しばらく士郎を見ていた。

 

 装具の奥にある視線は見えない。

 

 やがて、彼女は手の中の鎖を緩めた。

 

 手綱が、硬い金属音を残して床へ落ちる。

 

 ライダーは戦うことをやめた。

 

 誰にも命じられていない。

 

 慎二を助けろとも。

 

 士郎たちを殺せとも。

 

 結界を維持しろとも。

 

 それでも、ライダーは自分で動いた。

 

 屋上の床へ手を触れる。

 

 赤い光が揺れた。

 

 空を覆っていた結界が、端から崩れていく。

 

 壁を走っていた呪刻が消える。

 

 校庭を染めていた赤が薄れる。

 

 アトラスの血色の瞳が、校舎の内部へ向いた。

 

「吸収経路の消失を確認」

 

 槍を支点にしていた腕から、力が抜ける。

 

 青い光が、一つずつ閉じていった。

 

 教室。

 

 廊下。

 

 体育館。

 

 校庭。

 

 守られていた人々が、結界との隔離から解放される。

 

「防護を終了する」

 

 王宮外装が消えた。

 

 アトラスの身体が、わずかに傾く。

 

「アトラス!」

 

 士郎は慎二を押さえたまま振り返った。

 

 アトラスは槍へ体重を預け、踏みとどまっている。

 

「問題ない」

 

 返事はあった。

 

 けれど、いつもより遅かった。

 

 ライダーが立ち上がる。

 

「待ちなさい」

 

 遠坂が呼び止めた。

 

 ライダーは振り返らない。

 

「どこへ行くつもり?」

 

「答える必要はありません」

 

「また戦うの?」

 

 ライダーは、わずかに顔を横へ向けた。

 

「今、あなたたちと戦う理由はありません」

 

 それだけを告げる。

 

 慎二を連れていこうとはしなかった。

 

 士郎たちを襲うこともない。

 

 ライダーの姿が薄くなる。

 

 風へ溶けるように、屋上から消えた。

 

「ライダー!」

 

 慎二が叫ぶ。

 

「戻れ! 僕を置いていくな!」

 

 返事はなかった。

 

 赤い空も、もう残っていない。

 

 冬の昼の色だけが、屋上へ戻っていた。

 

     ◇

 

 校内では、生徒たちが次々と意識を取り戻していた。

 

 すぐに立ち上がれる者は少ない。

 

 机へ伏したまま、浅い呼吸を繰り返す者。

 

 床へ座り込み、何が起きたのか分からず周囲を見る者。

 

 友人の名前を呼ぶ声。

 

 教師が救急車を呼ぶ声。

 

 校舎中が、一度に現実へ戻ろうとしていた。

 

 藤ねえも意識を取り戻していた。

 

 顔色は悪かったが、士郎の姿を見つけると、先にこちらを心配した。

 

「士郎、大丈夫なの?」

 

「俺は平気だ。藤ねえこそ」

 

「ちょっと貧血っぽいだけよ。ほら、ちゃんと立てるし」

 

 立ち上がろうとして、すぐに教師へ止められた。

 

 念のため、検査入院することになった。

 

 桜も意識は戻っている。

 

 けれど、今日はそのまま自宅で休むよう勧められた。

 

 士郎は顔を見ることができなかった。

 

 教師たちの中へ入ってしまい、声を掛ける間もなく間桐邸へ帰されたらしい。

 

 アトラスは、校舎の壁へ手を触れていた。

 

「どうだ」

 

「死者はいない」

 

 その言葉に、士郎の身体から力が抜けた。

 

「そうか」

 

「重篤な損耗も確認できぬ。防護開始以前の吸収分による一時的な衰弱が主だ」

 

「誰も、死んでないんだな」

 

「然り」

 

 令呪の命令は果たされた。

 

 その事実を聞いて初めて、左手に残る一画の熱が薄れた気がした。

 

     ◇

 

 慎二を学校へ残すことはできなかった。

 

 遠坂と士郎は、慎二を教会へ連れていった。

 

 アトラスも、無言のまま半歩後ろをついてきた。

 

 本は壊れている。

 

 ライダーも去った。

 

 言峰は慎二の話を聞き、しばらく教会で預かると告げた。

 

 慎二は最後まで、自分は悪くないと繰り返した。

 

 結界を作ったのはライダーだ。

 

 自分は命じただけだ。

 

 あんなことになるとは知らなかった。

 

 けれど。

 

 命じたのは慎二だった。

 

 その結果を、知らなかっただけでは消せない。

 

 教会を出た後、遠坂は坂道の途中で立ち止まった。

 

「ライダーの正規マスターは、もういないのかもしれないわね」

 

「どうしてそう思うんだ」

 

「慎二に令呪はなかった。あの本で命令権だけを奪ってた。正規のマスターが生きていて、まともに供給できるなら、あんな結界を魔力源にする必要もないでしょう」

 

「じゃあ、ライダーは」

 

「早い段階でマスターを失った。学校の結界で魔力を補いながら、慎二の本に縛られてた」

 

 遠坂は学校の方角を見る。

 

「結界を捨てた以上、別の補給先を探してるんでしょうね」

 

「また、あの結界を張るんじゃないのか」

 

 士郎は足を止めた。

 

「別の学校とか、人が集まる場所に」

 

「簡単には無理よ」

 

「でも、学校には張れたんだろ」

 

「あれだけ地脈へ術式を食い込ませた場所に、同じものをすぐ重ねることはできない。別の場所へ移すとしても、完成まで時間がかかるわ」

 

 遠坂の声が低くなる。

 

「あれは人間から吸うだけじゃない。冬木の流れそのものを傷つけて、術式の土台にしてたのよ」

 

 怒っている。

 

 慎二に対してだけではない。

 

 目に見えない、冬木の地の傷へ。

 

「そんなことまで分かるのか」

 

「誰の土地だと思ってるの」

 

 遠坂は吐き捨てるように言った。

 

「新しく張れば、今度は見落とさない。聖杯戦争を続けながら、地脈の変化はわたしが監視する」

 

「頼む」

 

「言われなくてもやるわよ」

 

 遠坂は歩き出す。

 

 士郎もその後を追った。

 

 学校の問題は、ひとまず止めた。

 

 けれど、聖杯戦争は終わっていない。

 

 柳洞寺では、今も何者かが市内から魔力を集めている。

 

     ◇

 

 夕食が終わった。

 

 藤ねえの入院は、今夜からだった。

 

 桜も自宅で休んでいる。

 

 遠坂は学校の被害状況を改めて確認し、言峰へ追加の連絡を入れるため、アーチャーと席を外していた。

 

 人の増えたはずの家が、今夜は静かだった。

 

 居間には、士郎とアトラスだけが残っている。

 

 鎧を解いたアトラスは、座布団の上へ座っていた。

 

 食事はいつもどおり終えた。

 

 けれど、食後になっても屋敷の中を調べに立つことはない。

 

 全校へ広げた王宮外装の負担が、まだ残っているのだろう。

 

 士郎は湯呑みを置いた。

 

「そういえば、聞いてなかった」

 

「何をだ」

 

「アトラスって、王様なのか」

 

 アトラスは、少しも迷わなかった。

 

「王であった」

 

「やっぱり、そうなのか」

 

 今日、学校を覆った青い線を思い出す。

 

 ただ壁を作ったんじゃない。

 

 人と結界の間を分け、教室と廊下を区切り、一人ずつを守る場所へ入れた。

 

 鎧を着た戦士というより、町そのものを動かしているように見えた。

 

「何を根拠に確認した」

 

「夢を見たんだ」

 

 血色の瞳が、士郎へ向く。

 

 驚いたようには見えなかった。

 

 けれど、続きを促すように黙っている。

 

「海のそばに町があった。明るくて、人がたくさんいて」

 

 水底の町とは違う。

 

 まだ沈んでいない町だった。

 

「そこに、男の王様がいた。みんな、その人をアトラス王って呼んでた」

 

 アトラスは何も言わない。

 

「最初は、あれがおまえだと思ったんだ。でも、おまえは女の子だった」

 

「それで、同一人物ではないと考えたか」

 

「分からない。英霊なら、生前と今で姿が違うこともあるのかもしれないし」

 

 実際、サーヴァントについて、士郎はまだ知らないことばかりだ。

 

「でも、同じだって決めつけるのも違うと思った」

 

「妥当だ」

 

「あの王様は、おまえなのか?」

 

 短い沈黙があった。

 

「その問いには、今は答えぬ」

 

 否定ではなかった。

 

 肯定でもない。

 

 やっぱり、何かある。

 

 けれど、無理に聞き出すべきことではないのだろう。

 

「じゃあ、もう一つ」

 

「述べよ」

 

「王だったなら、聖杯に願いたいことがあるんじゃないのか」

 

 沈んだ町を思い出す。

 

 壊されてはいなかった。

 

 人だけがいなくて、生活の跡だけが残されていた。

 

「国を戻したいとか。そこにいた人たちを助けたいとか」

 

「聖杯に託す願いはない」

 

 答えは早かった。

 

「願いがないのか?」

 

「そうは言っていない」

 

「じゃあ、あるんだな」

 

「ある」

 

「何なんだ?」

 

「聖杯へ代行させるものではない」

 

「自分で叶えるのか」

 

「叶うか否かを含め、(おれ)の裁定へ属する」

 

「だったら、どうして召喚に応じたんだ」

 

 聖杯に願いがあるから、英霊は召喚へ応じる。

 

 言峰は、そう説明していた。

 

「召喚へ応じた理由と、聖杯への願いは同義ではない」

 

「理由はあるのか?」

 

「ある」

 

「それは、教えてくれないのか」

 

「今、開示する必要を認めない」

 

 答えたようで、肝心なことは何も教えていない。

 

 夢にいた王が誰なのか。

 

 アトラスが何を願っているのか。

 

 なぜ、召喚へ応じたのか。

 

 どれも、まだ分からないままだ。

 

 それでも。

 

 アトラスが本当に王だったこと。

 

 聖杯へ渡さず、自分で持っている願いがあること。

 

 この戦いへ応じた理由も、ちゃんと本人の中にあること。

 

 その三つだけは分かった。

 

 玄関の戸が開く音がした。

 

 遠坂とアーチャーが戻ってきた。

 

「まだ起きてたのね」

 

「ああ」

 

 遠坂は居間へ入り、卓上へ紙を広げる。

 

「学校の方は、しばらく休校になるみたい。表向きは原因不明の集団体調不良。魔術の痕跡は監督役に報告した。あとは向こうでうまく処理するわ」

 

「藤ねえたちは」

 

「検査が終われば戻れるわ。桜も重い症状じゃない」

 

 士郎は頷いた。

 

「それと、柳洞寺よ」

 

 遠坂の声が変わる。

 

「昨日、こっちの存在を見せた。向こうが何もしないとは思えない」

 

「陣地を強くするか」

 

「ええ。昨日と同じ布陣のままとは限らない。結界を変えるか、市内からの吸収を前倒しする可能性もある」

 

 学校で倒れた人たちを思い出す。

 

 あれと同じことが、別の場所で続いている。

 

「明日、もう一度行くわよ」

 

「アトラスは消耗してる」

 

 士郎が言う。

 

「アーチャーもライダーと戦った」

 

「だから今夜は休む。でも、二日も三日も待てないわ」

 

 アトラスが顔を上げる。

 

「偵察情報は、時間と共に価値を失う」

 

「明日なら動けるか?」

 

「大規模展開を連続して行わない限り、支障はない」

 

 遠坂がアトラスを見る。

 

「本当に?」

 

「行動可能と判断した」

 

「なら、明日」

 

 遠坂は地図へ指を置いた。

 

「山門を越える」

 

 アーチャーは、卓上の地図ではなく士郎を見ていた。

 

「ところで、衛宮士郎」

 

「何だよ」

 

「今日使った剣だ」

 

 士郎の手が止まる。

 

「見てたのか」

 

「見える位置にいたのでな」

 

 あの剣は、影の刃を一度受けただけで砕けた。

 

 以前よりは形になった。

 

 それでも、アーチャーの双剣とはまるで違う。

 

「夜に土蔵へ来い」

 

「今からか?」

 

「剣を持ってこい、衛宮士郎」

 

 赤い外套の男は、笑わなかった。

 

「今のおまえが作っているものが何なのか、教えてやる」

 




お読みいただきありがとうございます。
しばらくは毎日7時頃に更新予定です。

後日譚の
『The Reversed Star――逆位置の星――』 https://syosetu.org/novel/417875/
も連載中です、よろしくお願いします。
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