The Reaching Shore――届かせるもの――   作:ほいみん

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Fate/stay night二次創作長編『The Reaching Shore――届かせるもの――』第13話です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・AI使用表記・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
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第14話 神殿の奥へ

 白い骨が、土を押し上げる。

 

 一体ではない。

 

 堂宇の陰。

 

 回廊の下。

 

 屋根の上。

 

 境内へ刻まれた紫の線から、剣を持った骨の兵が次々と立ち上がってくる。

 

「竜牙兵。囲ませないで!」

 

 遠坂が叫んだ。

 

 その声と同時に、正面の一体が駆け出した。

 

 アトラスの槍が胸を貫く。

 

 骨の兵は砕けた。

 

 だが、倒れた骨が地面へ落ちるより先に、左右から二体が飛び込んでくる。

 

 高所から矢が降った。

 

 一体の頭蓋を射抜き、もう一体の膝を砕く。

 

 それでも止まらない。

 

 背後でも、乾いた足音が鳴った。

 

「多すぎる――!」

 

「一体ずつ見ないで! 前へ進むのよ!」

 

 遠坂は足元の術式を避け、アトラスの後ろへ走る。

 

 アトラスの鎧から青い光が分かれた。

 

 地面へ細い帯が走る。

 

 四人が立つ場所だけを覆う、青い足場。

 

 左右から踏み込んだ竜牙兵の足が沈み、動きが遅れる。

 

 アトラスは境内全体を押さえようとはしない。

 

 正面へ槍を通す幅。

 

 遠坂と士郎が走る幅。

 

 アーチャーの矢が抜ける幅。

 

 それだけを残して、左右と背後を閉じていく。

 

 門前では、前だけを見ればよかった。

 

 今夜は、それでは足りない。

 

 屋根から落ちてくる。

 

 回廊の隙間から腕が伸びる。

 

 地面の線が光るたび、新しい骨が立ち上がる。

 

 全部を倒していては進めない。

 

 けれど、無視すれば背中へ届く。

 

 四人を殺すためだけの数ではない。

 

 アトラスの防護を広げさせる。

 

 アーチャーに矢を使わせる。

 

 遠坂に下を向かせる。

 

 士郎を遠坂から引き離す。

 

 少しずつ、こちらの立つ場所を決められている。

 

「右!」

 

 遠坂の声に振り向く。

 

 竜牙兵の剣が、回廊の柱の陰から突き出された。

 

 士郎は遠坂の肩を押し、前へ出る。

 

「投影、開始」

 

 手の中へ剣が落ちた。

 

 振り下ろされる刃へ合わせる。

 

 金属音が鳴った。

 

 衝撃が、剣から腕へ届く。

 

「ぐ――!」

 

 重い。

 

 けれど、止まった。

 

 ほんの一瞬だけ、竜牙兵の剣が士郎の前で止まっている。

 

 刃を斜めへ押す。

 

 遠坂へ向かっていた軌道が、肩の外へ逸れた。

 

 直後。

 

 投影した剣が砕けた。

 

 白い破片が飛ぶ。

 

 竜牙兵が次の一撃を振り上げる。

 

 その額を、矢が貫いた。

 

 骨の身体が後ろへ弾け、回廊の柱へ叩きつけられる。

 

 士郎は空になった手を見た。

 

 アサシンの刀には、触れた感触すらなかった。

 

 今は違う。

 

 砕けた。

 

 それでも、その前に一撃を受けた。

 

 短い時間だけ、剣としてそこにあった。

 

「士郎、次!」

 

 感慨に浸る暇はなかった。

 

 屋根から二体が落ちてくる。

 

 片方はアトラスの槍に砕かれた。

 

 もう片方が遠坂へ剣を振るう。

 

 呼吸を整える。

 

 次は正面から受けない。

 

 遠坂の右。

 

 斜め上から来る一撃。

 

 受けて、外へ逃がす。

 

「投影、開始」

 

 剣が形を得る。

 

 振り下ろされた刃へ、斜めに合わせた。

 

 衝撃が腕を滑る。

 

 竜牙兵の剣が横へ逸れた。

 

 士郎の剣は、また砕ける。

 

 アトラスの槍の石突きが、竜牙兵の胴を打ち抜いた。

 

「待て。ここには坊さんたちが寝泊まりしてるはずだ」

 

 士郎は堂宇を見る。

 

 これだけの騒ぎだ。

 

 剣がぶつかり、矢が柱へ刺さり、地面まで揺れている。

 

 それなのに、人が出てこない。

 

「眠らせてあるんでしょうね。少なくとも、この騒ぎで出てこない程度には」

 

 遠坂は走りながら答えた。

 

 黒い指先を持ち上げ、回廊の下から伸びた骨の腕を撃ち抜く。

 

「建物ごと吹き飛ばすのはなしよ。中に人がいる前提で進む」

 

「探さなくていいのか」

 

「今ばらけたら、わたしたちまでここに埋められるわ。元を止める方が先よ!」

 

 遠坂の言う通りだった。

 

 堂宇の一つ一つを開けて回ることはできない。

 

 キャスターの術式を止める。

 

 それが、ここにいる人間を助ける一番短い方法だ。

 

「左の柱、あれが繋いでる!」

 

 遠坂が指差す。

 

 柱の表面に紫の光が走っていた。

 

 アーチャーが矢を放つ。

 

 柱そのものではなく、表面へ浮かんだ光だけを射抜いた。

 

 紫の線が途切れる。

 

 境内の一角で、三体の竜牙兵が同時に崩れた。

 

「前へ」

 

 アトラスが槍を振るう。

 

 青い足場が伸びた。

 

 今まで竜牙兵が塞いでいた回廊の間へ、四人が通れる道ができる。

 

 遠坂が結節を見つける。

 

 アーチャーが射抜く。

 

 竜牙兵が崩れた隙へ、アトラスが道を通す。

 

 士郎は遠坂の横を離れない。

 

 右から来る剣を受ける。

 

 砕ける。

 

 次は左。

 

 遠坂が走り込む場所を空けるため、横薙ぎを下から受ける。

 

 また砕ける。

 

 同じ一本を長く残す必要はない。

 

 次に来る一撃。

 

 誰へ向かうのか。

 

 どこから来るのか。

 

 それだけを決める。

 

 正面。

 

 遠坂へ向かう突き。

 

 止める。

 

 斜め後ろ。

 

 振り返った遠坂の背へ落ちる刃。

 

 外へ逸らす。

 

 一本ごとに、役割を決める。

 

 一本ごとに砕ける。

 

 呼吸が浅くなった。

 

 投影のたび、腕が重くなる。

 

 目の前が一瞬だけ暗くなる。

 

 それでも、一本の剣へ全部を求めるよりは早い。

 

 長さ。

 

 硬さ。

 

 中へ通す芯。

 

 あとは、受ける場所。

 

 必要なものだけを作る。

 

「床の線を切って!」

 

 遠坂が指示する。

 

 アーチャーの矢が足元を射抜いた。

 

 光が途切れ、新しく立ち上がりかけていた竜牙兵が土へ崩れる。

 

 その先に、細い道が残った。

 

「……待って」

 

 遠坂が足を止めかける。

 

「どうした」

 

「開き方がおかしい」

 

 正面の結節を壊せば、右側の術式が弱まる。

 

 右を壊せば、その先に一つだけ通れる道が現れる。

 

 こちらが選んだように見えて、進める方向はいつも一つしかない。

 

「誘われているな」

 

 アーチャーが矢を番えたまま言った。

 

「中枢を隠しているのではない。そこへ来いと言っている」

 

「分かってるわよ」

 

 遠坂は奥を睨む。

 

「でも、外から全部壊すわけにはいかない。吸い上げてる元を止めるなら、行くしかない」

 

「戻れば、さらに時間を与えることになる」

 

 アーチャーの言葉へ、アトラスが前を向いたまま答えた。

 

「敵の用意した道であることと、進む判断を敵へ預けることは同義ではない」

 

 青い通路が、さらに奥へ伸びた。

 

 罠だと分かっていて進む。

 

 選ばされたのではない。

 

 必要だから選ぶ。

 

 士郎たちは、堂宇と回廊の間へ踏み込んだ。

 

     ◇

 

 奥へ進むほど、背後の山門が見えなくなった。

 

 建物が増えたわけではない。

 

 さっき通ったはずの回廊が、別の方向へ続いて見える。

 

 堂宇の壁が、少しずつ位置を変えている。

 

 振り返るたびに、距離がずれる。

 

「転移じゃない」

 

 遠坂が後ろを確認する。

 

「見えてる位置と、歩いた距離をずらしてる。戻ろうとしても、同じ場所へ出られるとは限らないわ」

 

 背後で紫の線が再び繋がった。

 

 砕けた竜牙兵の残骸が地面へ沈み、術式の一部へ戻っていく。

 

 破壊したはずの結節まで、少しずつ光を取り戻していた。

 

 アトラスが足を止める。

 

 王宮外装の青い線が、四人の足元と、直前に通った回廊へ重なった。

 

 道全体ではない。

 

 今いる場所。

 

 今立っている足場。

 

 すぐ後ろに残した短い経路。

 

 そこだけを、動かないものとして留める。

 

「ここより外は保証せぬ」

 

 アトラスが言う。

 

「離れるな」

 

 水の音が近い。

 

 木々の向こう。

 

 堂宇の間から、開けた空間が見えた。

 

 四人が狭い経路を抜ける。

 

 池があった。

 

 夜の水面が、紫に光っている。

 

 池の向こうに、暗い色のローブを纏った女が立っていた。

 

 その周囲だけ、空気が歪んでいる。

 

 薄い膜が何重にも重なり、見えている姿がわずかに揺れていた。

 

「あれが……キャスター」

 

 士郎の声に、遠坂が頷く。

 

 士郎たちとキャスターの間には、池がある。

 

 水面へ刻まれた術式。

 

 岸辺に並ぶ竜牙兵。

 

 黒く濁った魔力。

 

 そして、キャスターを包む見えない壁。

 

「ようこそ」

 

 キャスターが笑う。

 

「随分と丁寧に、私の用意した道を歩いてくれたのね」

 

「案内の礼を言うつもりはないわ」

 

 遠坂が一歩前へ出る。

 

「ここを壊せば、街から集めてる魔力も止まるんでしょう」

 

「試してごらんなさい?」

 

 キャスターが片手を上げた。

 

 池の水が持ち上がる。

 

 水面が盛り上がり、無数の細い先端へ分かれた。

 

 槍。

 

 矢。

 

 針。

 

 形は一定ではない。

 

 ただ、全てがこちらを向いている。

 

「来る!」

 

 遠坂の声と同時に、水槍が放たれた。

 

 アトラスが槍を池へ向ける。

 

「水域の統治権を奪う」

 

 青い光が槍先から水面へ沈んだ。

 

 池の一部が揺れる。

 

 だが、すぐには止まらない。

 

 水へ絡みついた黒い光が、引き戻すように脈打っている。

 

 アトラスが水そのものを押さえようとしている。

 

 けれど、池には別の術式が重ねられている。

 

 水と、その上へ貼りついた魔術を切り離すまでの一拍。

 

 その前に、水槍が届く。

 

 アーチャーが前へ出た。

 

「――熾天覆う七つの円環」

 

 何もなかった空間へ、光の盾が現れた。

 

 一枚ではない。

 

 重なっている。

 

 幾層もの壁が、一瞬で四人の前へ展開した。

 

「な――」

 

 士郎は息を呑んだ。

 

 盾というには大きすぎる。

 

 魔術というには、あまりにも形がはっきりしている。

 

 水槍が最初の層へ突き刺さった。

 

 轟音。

 

 盾の表面を黒いものが這う。

 

 一層目が割れた。

 

 二層目へ水槍が食い込む。

 

 呪いが光を侵し、盾の端から崩していく。

 

 アーチャーは足を滑らせながらも、前から退かない。

 

 三層目。

 

 四層目。

 

 水槍が次々と突き刺さる。

 

「アトラス!」

 

「急かすな」

 

 声は低い。

 

 アトラスの槍先から、青い光が池へ沈んでいく。

 

 水面の下を走る。

 

 黒い光と絡まり、押し返される。

 

 また沈む。

 

 次の瞬間。

 

 水槍の軌道が止まった。

 

 空中で震える。

 

 残っていた盾へ届く直前で、槍の穂先が横を向いた。

 

 水が池へ落ちる。

 

 一部は左右へ流れ、岸辺の竜牙兵の足を払った。

 

 別の水流が、士郎たちの足元へ青い道を作る。

 

「水は奪った」

 

 アトラスが言う。

 

 けれど、水面には黒いものが残っている。

 

 水から剥がされた泥のように、黒い塊が浮かび上がった。

 

「遠坂!」

 

「見えてる!」

 

 遠坂が指を向ける。

 

 黒い光が弾けた。

 

 撃たれた部分だけが消える。

 

 別の黒い塊が、水流の中から露出する。

 

 遠坂が撃つ。

 

 アーチャーの矢が続く。

 

 水そのものはアトラスが動かしている。

 

 けれど、そこへ重ねられた呪いまで消えたわけではない。

 

 一つずつ剥がす。

 

 一つずつ壊す。

 

 水が壁になり、キャスターからの射線を曲げる。

 

 竜牙兵の足元を崩し、進む方向を限定する。

 

 青い水路が、四人の足場へ変わる。

 

「これで届くと思って?」

 

 キャスターの周囲から紫の光が放たれた。

 

 水壁に当たり、一部が逸れる。

 

 残った魔力弾が遠坂へ向かう。

 

 士郎は剣を作った。

 

 受けるのは一つだけ。

 

 遠坂の胸へ向かう、低い軌道。

 

 剣を差し込む。

 

 衝撃。

 

 投影剣が砕けた。

 

 魔力弾も、横へ弾ける。

 

 膝が沈む。

 

 指先が痺れていた。

 

 次の竜牙兵が水路へ踏み込んでくる。

 

 呼吸を整える時間が短い。

 

 もう一本。

 

 正面から来る打撃を受ける。

 

 砕ける。

 

 その隙に遠坂が黒い核を撃つ。

 

 さらに一本。

 

 横から飛んだ水槍の残骸を弾く。

 

 また砕ける。

 

 剣が壊れるたび、自分の中まで削られていく。

 

 頭の中で構造をなぞる速度が落ちている。

 

 刃の細部を追えない。

 

 それでもいい。

 

 長く残す必要はない。

 

 次の一撃。

 

 遠坂へ届くものだけを受ける。

 

「アーチャー、正面!」

 

 遠坂が叫ぶ。

 

 矢がキャスターへ飛ぶ。

 

 真っ直ぐ進んでいたはずの一射が、途中で横へ曲がった。

 

 次は見えない膜に弾かれる。

 

 三射目はキャスターの胸を貫いた。

 

 だが、貫かれた姿が揺れて消えた。

 

 その横に、同じキャスターが立っている。

 

「本体の位置と、見えてる場所がずれてる!」

 

 遠坂が水面を睨む。

 

「防壁だけじゃない。射線そのものを曲げてる!」

 

 アトラスが水を動かした。

 

 細い水流が内陣の周囲へ走る。

 

 何もない空間を避けるように曲がり、上下へ分かれる。

 

「そこ!」

 

 遠坂の指先から黒い光が飛ぶ。

 

 水が曲がった位置で、小さな火花が散った。

 

 アーチャーの矢が同じ場所を射抜く。

 

 キャスターの姿が一つ消えた。

 

 別の水流が、次の境界を浮かび上がらせる。

 

 遠坂が読む。

 

 アーチャーが射る。

 

 一射ごとに、虚像が減っていく。

 

 キャスターの位置のずれが小さくなる。

 

 周囲の膜が薄くなる。

 

 士郎は遠坂の前で剣を作り続ける。

 

 竜牙兵を倒せなくてもいい。

 

 遠坂が下を向かずに済めばいい。

 

 アーチャーが射撃を止めずに済めばいい。

 

 アトラスが池から目を離さずに済めばいい。

 

 一人では足りない。

 

 それでも、役割が途切れなければ進める。

 

「左奥、祭壇の下!」

 

 遠坂の声が上がった。

 

 池の向こう。

 

 キャスターの背後にある小さな祭壇。

 

 その下に、紫の光が脈打っている。

 

 水流がそこを避けて曲がっている。

 

 周囲の膜も、虚像も、全てがその一点から伸びていた。

 

「あれが中枢よ!」

 

 位置が定まる。

 

 池の正面で、アトラスが水と竜牙兵を押さえている。

 

 その後ろに、遠坂と士郎。

 

 さらに斜め後方で、アーチャーが祭壇へ弓を向けた。

 

 今までの試射とは違う。

 

 弓へ集まる魔力が増した。

 

 遠坂が指した一点まで、短い射線が開いている。

 

 アトラスの水が空間の境界を押さえた。

 

 遠坂が残った結節を撃ち抜いた。

 

 士郎が竜牙兵の一撃を受け、遠坂の前を空ける。

 

 剣が砕けた。

 

 それでも射線は残った。

 

 四人の役割が、初めて一つの攻撃へ繋がった。

 

 アーチャーが弦を引き絞る。

 

 あれが届けば、終わる。

 

 内陣が崩れる。

 

 キャスターを守るものがなくなる。

 

 そう思った。

 

 キャスターは中枢に振り返らなかった。

 

 守ろうともしない。

 

 姿が消えた。

 

「――え?」

 

 内陣の奥から、いなくなる。

 

 士郎の身体は動いていない。

 

 足元の青い道も変わっていない。

 

 空間を引かれる感覚もない。

 

 士郎を移したのではない。

 

 何かが、すぐ横へ現れた。

 

 紫の外套。

 

 女の腕。

 

 キャスターが、士郎の肩へ手をかける。

 

 近い。

 

 近すぎる。

 

 斜め後方のアーチャーから見れば、士郎とキャスターの身体が重なる位置。

 

 池を押さえるアトラスからは、士郎までの間に遠坂と水路がある。

 

「捕まえたわ、坊や」

 

 歪んだ刃が、キャスターの手にあった。

 

 不格好な短剣。

 

 先端は曲がり、武器としては壊れているように見える。

 

 それなのに。

 

 刃が士郎へ向けられた瞬間、左手とは違う場所が冷えた。

 

 令呪ではない。

 

 魔力を吸われたのでもない。

 

 胸の奥。

 

 身体の内側を通って、アトラスへ繋がっている何か。

 

 一本の道が、急に細くなる。

 

 すぐそこにいるはずのアトラスが遠のいた。

 

 池の水を押さえる姿が、水底へ沈んでいく。

 

 声も。

 

 気配も。

 

 契約も。

 

 全部が薄くなる。

 

 刺される。

 

 そうではない。

 

 アトラスがいなくなる。

 

 ここであの道を切られたら、もう二度とアトラスへ届かない。

 

「やめろ――!」

 

 身体が動かない。

 

 短剣の形が目へ焼きつく。

 

 曲がった刃。

 

 歪んだ材質。

 

 中へ通る構造。

 

 士郎とアトラスの間へ、何をしようとしているのか。

 

 理解する前に、身体が記録していく。

 

 アトラスが振り返った。

 

 青い外装が士郎の足元へ走ろうとする。

 

 だが、池の水が逆巻いた。

 

 黒い呪いが再び浮かぶ。

 

 竜牙兵が水路へ殺到する。

 

 アトラスが第一層を手放せば、全てが遠坂とアーチャーへ届く。

 

 それでも青い光が切り替わる。

 

 間に合わない。

 

 キャスターが現れたことへ気づいていないのではない。

 

 大きく広げた防護を、士郎一人の直近へ戻す。

 

 その一拍が足りない。

 

 弦の音が消えた。

 

 アーチャーが、中枢への射撃を捨てた。

 

 弓が消える。

 

 白と黒の双剣が現れた。

 

 アーチャーが士郎とキャスターの間へ踏み込む。

 

 白い剣が短剣を弾いた。

 

 黒い剣がキャスターの腕を打ち上げる。

 

 紫の刃が士郎の胸元から外れた。

 

 細くなっていた道が戻る。

 

 水底へ沈んでいたアトラスの気配が、急に近くなった。

 

「アーチャー――」

 

「下がれ、衛宮士郎!」

 

 アーチャーは士郎を背へ庇う。

 

 双剣はキャスターへ向いている。

 

 キャスターが短剣を引き、後ろへ退こうとする。

 

 その瞬間。

 

 池脇の堂宇から、人影が飛び出した。

 

 速い。

 

 竜牙兵ではない。

 

 サーヴァントでもない。

 

 けれど、人間の動きではなかった。

 

 男がアーチャーの死角へ踏み込む。

 

 短い髪。

 

 眼鏡。

 

 見慣れた無表情。

 

「葛木――?」

 

 学校の教師。

 

 毎日、教壇に立っている男。

 

 どうして、ここにいる。

 

 どうしてキャスターの側から出てくる。

 

 どうして、サーヴァントへ追いつける。

 

 理解が追いつかない。

 

 葛木の腕が伸びる。

 

 真っ直ぐな拳ではなかった。

 

 肘。

 

 手首。

 

 肩。

 

 いくつもの動きが繋がり、蛇のように軌道を変える。

 

 アーチャーが顔を向けた。

 

 双剣の片方を戻す。

 

 けれど、完全には避けない。

 

 避ければ、士郎の前が空く。

 

 キャスターの短剣が、もう一度届く。

 

 アーチャーは士郎を庇う位置を崩さないまま、黒い剣を差し込んだ。

 

 葛木の拳が、その防御を滑り抜けた。

 

 胸の横。

 

 肋骨の下へ、深く入る。

 

 鈍い音がした。

 

 アーチャーの身体が浮いた。

 

 池際の地面へ叩き落とされる。

 

 キャスターが距離を取る。

 

 葛木は追撃できる位置へ残っている。

 

 葛木が。

 

 なんで、葛木がここにいる。

 

 人間が、サーヴァントを殴って――

 

 アーチャーが片腕を地面へついた。

 

 起き上がろうとする。

 

 口元から、血が落ちた。

 

「アーチャー!」

 




お読みいただきありがとうございます。
しばらくは毎日7時頃に更新予定です。

後日譚の
『The Reversed Star――逆位置の星――』 https://syosetu.org/novel/417875/
も連載中です、よろしくお願いします。
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