The Reaching Shore――届かせるもの――   作:ほいみん

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Fate/stay night二次創作長編『The Reaching Shore――届かせるもの――』第13話です。

※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。

詳しい注意事項・AI使用表記・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1J5hZ3qOATZGBYELXd_x-g7suIvv0zHGGJ4TijIUNzlI/edit?usp=sharing

アトラス設定資料はこちら:
【設定資料URL】
https://docs.google.com/document/d/1Gdk-aR_oVREDxgTlwfcmQzWDoM_qF-cY2UsIi8TS6_0/edit?usp=drive_link



第26話 届いただけだ

 剣先が動いた。

 

 セイバーの腕は、まだ震えている。

 

 歯を食いしばり、止めようとしている。

 

 それでも、令呪から流れ込む力が、その抵抗を押し切った。

 

 黄金の剣は見えない。

 

 風に隠された刃だけが、士郎の首へ向かって振り下ろされる。

 

 退かない。

 

 後ろにはイリヤがいる。

 

 セイバーを倒す剣はいらない。

 

 必要なのは。

 

 あの一撃を受けるものだ。

 

 身体の内側へ、回路を下ろす。

 

「投影、開始」

 

 右手。

 

 左手。

 

 二本の剣が形を取る。

 

 白と黒。

 

 干将・莫耶。

 

 三度見た形だけではない。

 

 剣の内側へ手を伸ばす。

 

 一つでは足りない。

 

 互いを補い。

 

 並び。

 

 二本で在り続けるために作られた剣。

 

 士郎は両腕を上げた。

 

 干将と莫耶を交差させる。

 

 剣が落ちた。

 

 衝突。

 

 腕の骨が軋んだ。

 

 足が池の縁を滑る。

 

 土が削れ、踵が沈む。

 

 干将・莫耶の表面へ亀裂が走る。

 

 それでも、砕けない。

 

 二本を一つの受けにする。

 

 セイバーの一撃が、士郎の頭上で止まった。

 

 押し合う刃の向こうに、セイバーの顔がある。

 

 苦痛に歪んでいた。

 

 斬るべきなのは、セイバーじゃない。

 

 この剣を士郎へ振り下ろさせているもの。

 

 言峰から流れ込む命令。

 

 それを通している契約だ。

 

 右手の干将だけを残す。

 

 莫耶を手放した。

 

 白い剣が光へ崩れる。

 

 空いた左手を開く。

 

 二度見た。

 

 キャスターの手にあった、歪な短剣。

 

 契約へ差し込まれた刃。

 

 士郎とアトラスの繋がりへ触れた、あの感触。

 

 肉を斬るためではない。

 

 結びついた規則そのものを壊すための形。

 

「投影、開始」

 

 理念へ届く。

 

 契約という規則を破るために作られた剣。

 

 手の中へ、歪んだ短剣が形成される。

 

 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

 士郎は踏み込んだ。

 

 言峰へではない。

 

 セイバー本人へ。

 

 狙うのは身体でも、霊核でもない。

 

 セイバーを縛る、目に見えない繋がり。

 

 セイバーの剣が干将を押し込む。

 

 それでも、士郎の接近を止め切らない。

 

 命令に従う腕と。

 

 命令を拒む身体が、互いを打ち消している。

 

 短剣の切っ先が、セイバーへ触れた。

 

 傷はできない。

 

 血も流れない。

 

 その代わり。

 

 言峰からセイバーへ流れ込んでいた魔力の線へ、刃が入った。

 

 何かが切れた。

 

 空気の軋みが消える。

 

 士郎を斬り進めようとしていた圧力が、セイバーの剣から失われた。

 

 同時に。

 

 言峰が動いた。

 

 驚きもない。

 

 言葉もない。

 

 セイバーへ踏み込んだ士郎の側頭部へ、掌が迫る。

 

 避けられない。

 

 短剣を抜くより早い。

 

 その一撃を。

 

 セイバーの剣が弾いた。

 

 言峰の腕が逸れる。

 

 士郎へ届くはずだった掌打が、空を切る。

 

 セイバーは何も言わない。

 

 誰にも命じられていない。

 

 自由になった剣を。

 

 自分の意思で振るった。

 

 その一瞬に、士郎は動いた。

 

     ◇

 

 言峰の腕が弾かれた、その時にはもう前へ出ていた。

 

 腰の背中側へ手を回す。

 

 鞘から細い剣を抜く。

 

 アゾット剣。

 

 遠坂から託された剣。

 

 掌へ戻る重さ。

 

 教えられた、たった一つの発動語。

 

 借りた答えを、そのまま使うんじゃない。

 

 受け取ったものを。

 

 自分で選んで、ここへ届かせる。

 

 セイバーに弾かれた腕の側から、言峰の懐へ入る。

 

 アゾット剣を構え、一歩を踏み込んだ。

 

 言峰は止まっていない。

 

 逸れた腕を引く。

 

 反対の肩が動く。

 

 肘が、士郎の胸へ向かう。

 

 踏み込んだ動きを読まれている。

 

 届けば。

 

 剣を使う前に、身体が止まる。

 

 視界の端で。

 

 イリヤの身体を走っていた光が変わった。

 

 外へ。

 

 池の上空へ引かれていた光が、内側へ向きを変えている。

 

 呼吸は浅い。

 

 膝をついた身体は震えている。

 

 それでも。

 

 誰かに何かをされているのではない。

 

 イリヤ自身が、自分の内側へ働きかけていた。

 

 全身を走る魔術回路。

 

 受け入れた英霊を抱え続ける機能。

 

 それらを、池の上空の起動式へ結びつける接続。

 

 三つの流れが、イリヤの身体の中に重なっている。

 

 イリヤが顔を上げた。

 

「私のことは、私が決める」

 

 身体の表面を走っていた光が消え始めた。

 

 手足から。

 

 肩から。

 

 胸の中心へ向かって。

 

 外から切られたのではない。

 

 イリヤが、自分で魔術回路を閉じている。

 

 小さな身体が強く震えた。

 

 次に。

 

 内側で五騎を受け止め続けていたものが閉じる。

 

 魂は出ていかない。

 

 重圧も消えない。

 

 ただ。

 

 これ以上、器として開き続けることを拒んだ。

 

 行き場を失った力が、身体の内側へ滞留する。

 

 そして最後に。

 

 魔術回路と英霊受容を、上空の起動式へ繋いでいた流れが途絶えた。

 

 池の上の孔が、大きく脈動する。

 

 消えない。

 

 外側から固定された術式が、まだ残っている。

 

 言峰から流れ込んでいた魔力も、閉じた接続へ押し込まれ続ける。

 

 ぶつかった。

 

 行き場を失った魔力が、逆向きに走る。

 

 言峰の身体が、内側から揺れた。

 

 士郎へ届くはずだった肘が、ほんの一瞬遅れる。

 

 同時に。

 

 イリヤの身体も跳ねた。

 

 息が途切れる。

 

 白い顔から、さらに色が失われた。

 

 接続そのものが、両側から壊れ始めている。

 

「イリヤ!」

 

 遠坂が崩れた身体を支えた。

 

 それだけだった。

 

 士郎は止まらない。

 

 言峰の迎撃は消えていない。

 

 逸れただけだ。

 

 けれど。

 

 セイバーが最初の掌打を弾いた。

 

 その瞬間に、士郎は踏み込んだ。

 

 イリヤが自分を閉じた。

 

 逆流が、言峰の動きを崩した。

 

 全部が重なった。

 

 剣が届く間合いになった。

 

     ◇

 

 アゾット剣へ魔力を通す。

 

「läßt(レスト)」

 

 蓄えられていた力が解放された。

 

 発動と踏み込みは一つだった。

 

 言峰の迎撃を抜ける。

 

 細い剣が。

 

 胸へ届いた。

 

 刃が刺さる。

 

 それだけでは終わらない。

 

 アゾット剣の中に蓄積されていた魔力が、言峰の身体へ流れ込む。

 

 身体が止まった。

 

 士郎は手を離さない。

 

 言峰が、士郎を見る。

 

 さっきまでとは違う。

 

 何かを試すためでも。

 

 切嗣と比べるためでもない。

 

 ただ、士郎へ定まった視線。

 

 何を見たのかは分からない。

 

 言峰が、一度だけ息を吐いた。

 

「――なるほど。それがおまえか、衛宮士郎」

 

 士郎は答えない。

 

 アゾット剣を握ったまま、その目を受けた。

 

 言峰の身体から力が抜けていく。

 

 剣の一撃。

 

 逆流。

 

 内側へ重なった損傷。

 

 それらが、言峰の生命を断った。

 

 大きな音はしなかった。

 

 言峰の膝が折れる。

 

 身体が地面へ沈む。

 

 もう動かない。

 

 士郎は、言峰が死んだと分かった。

 

 けれど。

 

 池の上空の孔は残っている。

 

 黒い輪郭が、不安定に脈打っていた。

 

 戦いは終わっていない。

 

     ◇

 

「イリヤ、聞こえる?」

 

 遠坂が身体を支えたまま呼びかける。

 

 イリヤの瞼が、わずかに動いた。

 

 内側からの流れは閉じている。

 

 それでも、外側の術式が身体を捕まえたままだ。

 

 遠坂がポケットへ手を入れる。

 

 四つ。

 

 十年かけて魔力を蓄えた宝石が、掌に並んだ。

 

 一つも残すつもりはない。

 

 遠坂は最初の石を握った。

 

 宝石が砕ける。

 

 光がイリヤの身体を覆った。

 

 外から魔力を押し込み続けていた流れが、ほどける。

 

 一つ。

 

 消えた。

 

 二つ目の宝石。

 

 光が身体の輪郭へ走る。

 

 イリヤを儀式に適した状態へ縛っていた圧力が崩れた。

 

 腕が、ほんの少しだけ自由に落ちる。

 

 けれど、自力で起き上がれる状態じゃない。

 

 三つ目。

 

 宝石が割れる。

 

 身体の奥で、重圧の形が変わった。

 

 英霊を受け入れ続けさせていた外側の力が失われる。

 

 魂は噴き出さない。

 

 消えもしない。

 

 ただ。

 

 これ以上、受容を維持させようとする力だけがなくなった。

 

 遠坂の手に、最後の一石が残る。

 

 孔が脈打った。

 

 イリヤの身体へ、もう一度繋がろうとするように。

 

 細い魔力の線が伸びかける。

 

 けれど。

 

 イリヤは内側から閉じている。

 

 もう、身体の中へは入れない。

 

 だから。

 

 外側の最後の接続を外せる。

 

 遠坂が第四の宝石を握り潰した。

 

 光が、イリヤと孔の間へ走る。

 

 見えない固定が砕けた。

 

 四つの宝石が、すべて消える。

 

 イリヤの内側からの閉鎖と。

 

 遠坂の外側からの解除が揃った。

 

 池の上空に、孔だけが残る。

 

 位置は変わらない。

 

 黒い歪みは、まだそこにある。

 

 だが。

 

 イリヤへ繋がる魔力の流れが消えている。

 

 孔は孤立した。

 

「切れた」

 

 遠坂が言った。

 

 イリヤではない。

 

 あれだけを、壊せる。

 

 セイバーが池の上を見る。

 

 誰も命じない。

 

 士郎も。

 

 遠坂も。

 

 セイバーは、自分で剣を向けた。

 

     ◇

 

 青い火は閉じたまま。

 

 終末を勝敗へ使うことはない。

 

 王の財宝は、なお降り続けている。

 

 アトラスは残る距離を測る。

 

 これまでと同じでは届かない。

 

 斉射を受ける。

 

 鎖を逸らす。

 

 損傷を抑える。

 

 そのまま進めば、槍が届く前に前進力が尽きる。

 

 火は使わない。

 

 だが。

 

 勝利を捨てたわけではない。

 

 残された王宮外装と槍で、黄金の王を倒す。

 

 そのために。

 

 完全閉城の機能配分を変える。

 

 回避へ割いていた力。

 

 損傷を抑えるための力。

 

 それらを、推進へ回す。

 

 姿勢制御。

 

 敏捷。

 

 前進の維持。

 

 槍を通す軌道。

 

 捕縛だけは外す。

 

 それ以外の損傷は、届くための代価として受け入れる。

 

 黄金が降る。

 

 アトラスは横へ避けない。

 

 王宮外装の一部が砕けた。

 

 紺碧の破片が石段へ散る。

 

 それでも姿勢を崩さず、一段上がる。

 

 金色の鎖が伸びる。

 

 捕縛の軌道だけを、深海圧で沈めた。

 

 鎖が身体の脇を通り、石段を砕く。

 

 次の斉射。

 

 外壁の亀裂が広がる。

 

 足元も崩れた。

 

 姿勢制御が、沈む身体を前へ倒す。

 

 崩れを、次の一歩へ変える。

 

 止まらない。

 

 全ての機能を、前へ進むことへ集中する。

 

 ギルガメッシュは攻撃を緩めない。

 

 最後の宝具群が開く。

 

 二人の間を埋め尽くす。

 

 距離ではない。

 

 黄金の隔絶。

 

 その向こうに、王がいる。

 

 鎖が再び伸びる。

 

 それだけを最低限沈める。

 

 通常宝具は外装で受ける。

 

 紺碧が砕ける。

 

 鎧の表面が裂ける。

 

 それでも。

 

 槍の穂先が、ギルガメッシュの立つ石段と同じ高さへ入った。

 

 アトラスは槍を王へ向ける。

 

 身体へ届かせる。

 

 倒すための一撃。

 

 ギルガメッシュも迎え撃つ。

 

 黄金の宝具が、槍の致命軌道へ重なる。

 

 アトラスは最後の一歩へ入った。

 

 王宮外装がさらに砕ける。

 

 推進。

 

 姿勢。

 

 敏捷。

 

 槍の軌道。

 

 すべてを一点へ集める。

 

 黄金の隔絶を越える。

 

 槍を。

 

 王本人へ届かせる。

 

     ◇

 

 穂先が、王の財宝の間を抜けた。

 

 ギルガメッシュの身体へ向かう。

 

 黄金の王が、致命軌道を外す。

 

 槍の先端が下がった。

 

 身体ではない。

 

 その足元へ届く。

 

 石段へ、槍が突き立った。

 

     ◇

 

 セイバーが、孤立した孔へ剣を向ける。

 

 言峰の命令ではない。

 

 士郎の依頼でもない。

 

 遠坂の指示でもない。

 

 セイバー自身が選んだ。

 

 誕生しかけた聖杯を、ここで破壊する。

 

 不可視の剣を覆っていた風が解ける。

 

 金色の粒子が散った。

 

 風の内側から、黄金の剣身が現れる。

 

 士郎は初めて、セイバーが隠していた剣の本体を見た。

 

     ◇

 

 槍を受けた石段が砕ける。

 

 石の破片が跳ね上がる。

 

 甲冑の下で、赤い布の裾が裂けた。

 

 衝撃が、ギルガメッシュの姿勢まで届く。

 

 王の膝が、わずかに沈む。

 

 倒れない。

 

 跪きもしない。

 

 だが。

 

 槍は届いた。

 

     ◇

 

 セイバーが黄金の剣を構える。

 

 光が集まる。

 

 剣先の向こうで、孤立した孔が脈打っている。

 

 イリヤへ繋がるものは、もうない。

 

 セイバーは黒い歪みだけを正面に捉えた。

 

 黄金の光が、一点へ収束する。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)――!」

 

     ◇

 

 ギルガメッシュが槍を見る。

 

 アトラスを見る。

 

「届いたぞ、大洋王」

 

 短い間。

 

「だが、届いただけだ」

 

     ◇

 

 黄金の奔流が放たれた。

 

 光が、池の上空へ届く。

 

 孤立した黒い孔を正面から呑み込んだ。

 

 輪郭が崩れる。

 

 奥行きのない歪みが、黄金の中で砕けていく。

 

 泥が流れ出すより早く。

 

 生まれ落ちるより早く。

 

 孔そのものが破壊された。

 

     ◇

 

「十分だ」

 

 アトラスは短く答えた。

 

(おれ)の務めは、汝を討つことではない」

 

     ◇

 

 黄金の光が消えていく。

 

 池の上空から歪みがなくなる。

 

 暗闇が戻った。

 

 泥は流れていない。

 

 何も生まれていない。

 

 士郎は、地面へ倒れたイリヤを見る。

 

 生きている。

 

 けれど、呼吸は弱い。

 

 身体の内側を閉じた反動も。

 

 逆流による傷も残っている。

 

 遠坂がすぐに脈を取り、胸元へ手を当てる。

 

 セイバーも剣を下ろした。

 

 誰も声を上げない。

 

 終わったわけじゃない。

 

     ◇

 

 砕けた石段。

 

 地面へ届いた槍。

 

 裾の裂けた赤い布。

 

 亀裂だらけの紺碧の外装。

 

 背後には、山門がある。

 

 砕けた石段の上で、二人の王は、なお立っていた。

 




お読みいただきありがとうございます。
次回で最終回となります。

後日譚の
『The Reversed Star――逆位置の星――』 https://syosetu.org/novel/417875/
も連載中です、よろしくお願いします。
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