The Reaching Shore――届かせるもの―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
詳しい注意事項・AI使用表記・制作FAQはこちら:
【作品案内URL】
https://docs.google.com/document/d/1J5hZ3qOATZGBYELXd_x-g7suIvv0zHGGJ4TijIUNzlI/edit?usp=sharing
アトラス設定資料はこちら:
【設定資料URL】
https://docs.google.com/document/d/1Gdk-aR_oVREDxgTlwfcmQzWDoM_qF-cY2UsIi8TS6_0/edit?usp=drive_link
斧剣が落ちる。
青い壁は、まだ閉じていない。
赤い男は遠い。
間に合わない。
そのはずだった。
銀色の光が、夜を裂いた。
音は、あとから来た。
鉄と鉄が正面から噛み合い、道路も、街灯も、士郎の身体もまとめて震わせる。
振り下ろされた斧剣が止まっていた。
完全にではない。
刃は士郎たちのすぐ横へ逸れ、砕けた舗装へ深く食い込んでいる。
その下に、誰かが立っていた。
小柄な身体。
白銀の鎧。
夜の中でも濁らない金色の髪。
両手には、何かを握っている。
剣だ。
そう分かるのに、その刃だけが見えない。
風が、透明な輪郭へ巻きついている。
「下がってください」
女の声だった。
振り返らない。
目の前の巨人だけを見ている。
「遠坂、動けるか」
「え、ええ」
士郎は遠坂の上から身体を起こした。
遠坂の手を取り、砕けていない路面まで引く。
その間にも、銀の騎士とバーサーカーは動かなかった。
斧剣と見えない剣が噛み合っている。
巨人の腕が膨れ上がる。
銀の靴が、舗装へ沈む。
力で止めている。
あれほどのものを。
「セイバー……?」
遠坂が呟いた。
「セイバー?」
「教会で聞いたでしょう。七つのクラスの一つよ」
剣の英霊。
確かに、そうとしか見えない。
けれど。
「誰のサーヴァントなんだ」
「知らないわよ」
「知らないって」
「わたしのじゃない。イリヤのでもない。貴方のでもないでしょう」
だったら、なぜ。
問いが形になる前に、バーサーカーが吠えた。
銀の騎士の身体が、わずかに沈む。
次の瞬間、見えない剣が斧剣を横へ流した。
正面から押し返したのではない。
巨大な力の向きを、ほんの少しだけずらした。
それだけで、斧剣は道路を抉りながら脇へ滑る。
セイバーが踏み込む。
低い。
速い。
白銀の軌跡が、巨人の懐へ入った。
見えない刃が振り上げられる。
バーサーカーは斧剣の柄で受けた。
空気が爆ぜる。
巨体が半歩だけ後退した。
半歩。
それだけだった。
けれど、今夜初めて、バーサーカーが自分の意思とは別の方向へ動かされた。
「今です!」
セイバーの声が飛ぶ。
「アトラス!」
士郎が呼ぶより先に、三叉槍が地面を打っていた。
青い光が道路を走る。
バーサーカーの前へ壁を作るのではない。
士郎たちと巨人を結ぶ直線だけが、青く閉じた。
狭い壁。
薄い。
だが、次の一撃がこちらへ届く道を塞ぐには足りる。
「退路を確保する」
赤い影が横を抜けた。
アーチャーだ。
両手には、あの白と黒の剣がある。
何もない場所から現れた夫婦剣。
形は同じ。
色だけが反転している。
士郎の目が、またそこへ引かれた。
白い剣が投げられる。
回転しながら飛び、バーサーカーの顔へ向かう。
巨人が頭を振った。
斧剣が白い剣を弾く。
その一瞬に、アーチャーは黒い剣で崩れた街路の残骸を切り払っていた。
石が割れる。
退くための道が開く。
「凛、走れ!」
「命令しないで!」
言い返しながら、遠坂は走った。
「衛宮くんも!」
「アトラスは」
「後ろを見るな!」
アーチャーの声が飛ぶ。
見ないわけにはいかなかった。
振り返る。
アトラスは青い壁の前に立っている。
肩が上下していた。
今夜、二度目の戦闘。
防壁。
圧力。
どちらも、士郎の足りない魔力から引き出している。
「アトラス!」
「退け」
「でも」
「汝が残れば、退路を閉じられぬ」
短い言葉だった。
それだけで、士郎の足が止まりかける。
閉じる。
何を。
敵の道か。
自分の道か。
「衛宮くん!」
遠坂に腕を掴まれた。
引かれる。
士郎は走った。
背後で、青い壁が砕ける音がした。
続いて、巨人の咆哮。
白銀の騎士が前へ出る。
アトラスが横へ退く。
その一瞬だけ、二人の動きが噛み合った。
言葉はない。
名乗りもない。
片方が受け、片方が通路を閉じる。
それだけだった。
アーチャーが最後尾へ回る。
「ランサー、退けるか」
「問題ない」
「それを信用する理由がないな」
「不要だ」
「そうか」
アーチャーはそれ以上言わなかった。
白い剣が、いつの間にかその手へ戻っている。
どうやって戻したのか、士郎には分からない。
見えなかった。
理解する前に、また別の動きが重なる。
「セイバー!」
士郎は叫んだ。
白銀の騎士が、ほんのわずかに顔を動かした。
緑の瞳が見えた。
まっすぐで。
冷たくはなく。
けれど、何も教えない目だった。
「おまえは――」
バーサーカーの斧剣が迫る。
セイバーは正面へ向き直った。
「行ってください」
それだけだった。
見えない剣が風を巻く。
銀色の光が、もう一度夜を裂いた。
遠坂が士郎の腕を強く引く。
「今は退くの!」
「でも、あいつ一人で」
「一人じゃない」
遠坂の声は硬かった。
「少なくとも、今のわたしたちよりは戦える」
その言葉が正しいことは分かる。
分かるから、腹が立った。
知らない相手へ戦いを押しつけて逃げる。
助けられたのに、名前すら聞けない。
それでも、今ここに残れば邪魔になる。
士郎は走った。
角を曲がる直前、もう一度だけ振り返る。
イリヤは、道路の向こうに立ったままだった。
赤い瞳が、バーサーカーを見上げている。
殺せとも。
戻れとも言わない。
命令だけが、止まっていた。
角を曲がる。
白銀の姿も、白い少女も見えなくなる。
それでも、音は追ってきた。
斧剣が地面を砕く音。
風が弾ける音。
巨人の咆哮。
一度。
二度。
やがて遠ざかる。
最後に、大きな衝撃が夜を震わせた。
それきり、音は途絶えた。
終わったのか。
どちらかが退いたのか。
ここからでは分からない。
◇
衛宮邸へ戻るまで、誰もほとんど口を開かなかった。
遠坂は前を歩いている。
アーチャーは霊体化せず、その隣にいた。
何度か振り返る。
追手を警戒しているのだろう。
アトラスは士郎の横を歩いていた。
鎧は消えている。
淡い水青の髪が、夜風に揺れる。
足取りは崩れていない。
けれど、歩幅が小さい。
教会に入る前よりも、明らかに遅い。
「背負うか」
「不要だ」
「でも、疲れてるだろ」
「消耗と歩行不能は同義ではない」
「倒れてからじゃ遅いんだぞ」
「現時点では倒れぬ」
現時点では。
それは、次の角を曲がるまでかもしれない。
家へ着くまでかもしれない。
明日の朝までかもしれない。
アトラスは、保証できないことを保証しない。
門へ着く。
庭には、まだ戦いの跡が残っていた。
抉れた土。
折れた木。
土蔵の壊れた戸。
朝になれば、藤ねえが来るかもしれない。
桜も来る。
このままにはしておけない。
そう思った途端、身体へ疲れが戻ってきた。
一日が長すぎる。
長すぎて、朝から何をしていたのか思い出せない。
「とりあえず中へ入りましょう」
遠坂が言った。
「外で立ち話をして、また襲われたら洒落にならないわ」
「また来ると思うか」
「来ない保証がどこにあるのよ」
正論だった。
居間へ入る。
灯りをつける。
いつもの部屋だ。
低い机。
座布団。
使い慣れた棚。
それなのに、教会へ行く前とは違う場所に見えた。
自分が変わったのか。
知らないことが増えただけなのか。
「衛宮くん、腕」
「腕?」
「さっき、わたしを庇った時に擦ったでしょう」
言われて、右腕を見る。
袖が黒く汚れている。
道路へ倒れた時のものだ。
「たぶん、ちょっと擦っただけだ」
「見せなさい」
「平気だって」
「いいから」
遠坂に睨まれ、袖をまくる。
皮膚に黒い跡がついている。
濡らした布で拭う。
土と埃が落ちた。
その下には、傷はなかった。
「……汚れてただけみたいだ」
「そう」
遠坂は短く答えた。
安心したようにも。
呆れたようにも聞こえた。
「貴方、本当に考える前に動くのね」
「遠坂が倒れたから」
「だからって、自分まで潰されたら意味がないでしょう」
「あのままなら、どっちにしても潰されてた」
「そういう問題じゃないの」
「どういう問題なんだ」
「明日説明するわ」
「また明日か」
「今日はもう説明することが多すぎるのよ」
遠坂は額へ指を当てた。
「聖杯戦争。サーヴァント。令呪。貴方の魔術回路。そこへ所属不明のセイバーまで増えた」
「やっぱり、誰のサーヴァントか分からないのか」
「少なくとも、わたしは知らない」
遠坂がアーチャーを見る。
「貴方は?」
「知らんな」
返答は早かった。
早すぎるようにも聞こえた。
けれど、アーチャーの表情は変わらない。
「ただし、あの位置にいた理由は考える必要がある」
「位置?」
「教会を出て間もなく、我々は襲撃された。あのセイバーは、こちらが声を上げる前に介入している」
「近くにいたってこと?」
「可能性は高い」
遠坂の目が細くなる。
「教会の近くに、所属不明のセイバー……」
「偶然と裁定するには、材料が不足している」
アトラスが言った。
畳の上へ正座している。
背筋は伸びているが、顔色は白い。
もともと白い肌が、さらに色を失っている。
「マスターへの攻撃の意思は、現時点で確認できぬ」
「助けてくれたんだから、敵じゃないんじゃないか」
「一度の助力は、恒久的な同盟を保証しない」
「でも、バーサーカーとは戦ってた」
「バーサーカーと敵対したことと、汝へ従属することは同義ではない」
「従属してほしいなんて言ってない」
「友軍と裁定するには不足していると言っている」
言い方は冷たい。
けれど、間違ってはいない。
教会で聞いたばかりだ。
次に会えば、遠坂だって敵かもしれない。
助けてくれた相手だからといって、次も同じとは限らない。
「彼女を戦力として数えるのは危険だ」
アーチャーが言った。
「戦力?」
アーチャーは、戦場の配置を確かめるような目でアトラスを見た。
「バーサーカーと再戦する可能性を考えれば、誰が前線を維持できるかは重要だ」
さっきの戦いが浮かぶ。
アーチャーは強かった。
それでも、後ろに士郎と遠坂がいるせいで動く場所を失っていた。
距離を取れず、真正面から巨人を止めるしかなかった。
「セイバーなら、バーサーカーと戦えるんじゃないのか」
「戦えることと、こちらのために戦うことは別だ」
アーチャーの声は平坦だった。
「あれが何者の指示で動いているかも分からない。次に会った時、同じ側へ立つ保証はない」
「じゃあ、誰が前に立つんだ」
言ったあとで、視線がアトラスへ向いた。
小さな身体。
今にも倒れそうな顔色。
それでも、ライダーを退けた。
バーサーカーの足を一度は止めた。
青い壁で、道を閉じた。
アーチャーもアトラスを見る。
ほんの一瞬だった。
何かを測るような目だった。
「それも含めて、明日考える」
遠坂が話を切った。
「今夜はもう無理よ。ランサーは限界に近い。衛宮くんも、まともに頭が動いてないでしょう」
「遠坂は」
「わたしは貴方よりまし」
「さっき転んでたぞ」
「あれは道路が崩れたからよ!」
「転んだのは同じだろ」
「違う!」
遠坂の声が居間へ響いた。
少しだけ、いつもの夜に戻った気がした。
もちろん、いつもの夜などではない。
サーヴァントが二人いる。
左手には令呪がある。
外には、殺し合いが続いている。
けれど、遠坂が怒鳴るだけで、部屋の空気が少し軽くなった。
「今日は帰るわ」
「大丈夫なのか」
「わたしにはアーチャーがいる」
「でも、バーサーカーが」
「同じ相手を一晩に何度も狙うほど、向こうも暇じゃないでしょう。たぶん」
「たぶんって」
「絶対なんて言えないわよ」
遠坂は立ち上がる。
「貴方は戸締まりをして、今夜は外へ出ないこと。誰か来ても簡単に開けない。ランサーを休ませる。あと、魔術は使わない」
「なんで」
「供給が足りてないんでしょう。余計なことをして倒れたら困るから」
言い返せない。
「明日、魔術回路の話を詳しく聞くわ」
「分かった」
「本当に?」
「分かったって」
「逃げないでよ、衛宮くん」
「自分の家からどうやって逃げるんだ」
「貴方なら土蔵に籠もるくらいしそうなのよ」
否定できなかった。
遠坂は玄関へ向かう。
アーチャーも続く。
靴を履く前に、赤い男が一度だけ振り返った。
アトラスを見る。
次に、士郎の左手を見る。
「衛宮士郎」
「何だ」
「令呪を無駄に使うな」
「使い方も知らない」
「なら、なおさらだ」
それだけ言って、外へ出た。
門が閉まる。
足音が遠ざかる。
家に、静けさが戻った。
士郎とアトラスだけが残る。
◇
「布団を出す」
士郎は居間へ戻りながら言った。
「不要だ」
「またそれか」
「サーヴァントに睡眠は必須ではない」
「休まなくていいって意味じゃないだろ」
「霊体化できぬ以上、魔力消費を抑えて待機する」
「だったら、横になった方が楽じゃないのか」
「効率に差はない」
「俺が気になる」
アトラスが士郎を見る。
「汝が?」
「具合の悪そうなやつが座ったままだと、こっちが落ち着かない」
「非合理だ」
「そうかもしれない」
押し入れから布団を出す。
客用のものだ。
藤ねえが泊まる時に使う。
畳へ敷く。
「ここを使え」
「汝は」
「自分の部屋で寝る」
「外敵への即応が遅れる」
「すぐそばだ」
「壁がある」
「襖くらい開ければいいだろ」
「経路確保のため、間仕切りを除去してよいと解釈する」
「外すんじゃなくて開けるだけだ!」
アトラスは何も言わなかった。
冗談だったのか。
本気だったのか。
表情からは分からない。
「何かあったら呼べ」
「承知した」
「倒れそうになっても」
「現時点で、その可能性は低い」
「低いだけなら呼べ」
少し間があった。
「承知した」
今度は、さっきより遅かった。
士郎は居間を出る。
廊下を歩く。
自分の部屋へ戻る。
服を着替える気力もない。
布団へ座り、そのまま後ろへ倒れた。
天井が見える。
見慣れた木目。
毎日見ているはずなのに、今夜は線の一つ一つが遠い。
目を閉じる。
教会の声が蘇る。
十年前の火災。
聖杯戦争。
殺し、殺される側。
次に、白銀の騎士が浮かぶ。
落ちてくる斧剣。
銀色の光。
緑の瞳。
下がってください。
名前も知らない。
誰のサーヴァントかも分からない。
なぜ、助けたのかも。
敵なのか。
味方なのか。
どちらでもないのか。
アトラスは、友軍とは裁定しなかった。
アーチャーは、戦力として数えるなと言った。
遠坂も知らない。
分からないことばかりだった。
考えなければならない。
明日。
朝になったら。
そう思ったところで、意識が落ちた。
◇
海だった。
そう気づいた時には、もう光は遠かった。
上にある。
届かないほど高い場所に、薄い白が揺れている。
士郎は沈んでいた。
落ちているのではない。
もがいてもいない。
ただ、ゆっくりと下へ運ばれている。
水は冷たい。
重い。
けれど、息は苦しくなかった。
肺へ水が入ることもない。
夢だ。
そう思った。
思ったはずなのに、その言葉は水へ溶けた。
下に何かが見える。
最初は岩だと思った。
違う。
壁だった。
長い城壁が、海底を横切っている。
崩れてはいない。
ところどころに海藻が絡み、貝殻がついている。
けれど、石は積まれた形を保っている。
門がある。
閉じている。
士郎の身体は、その上を越えていった。
都市だった。
海の底に、街がある。
道が伸びている。
石造りの家が並んでいる。
柱が立っている。
広場がある。
噴水らしいものもあった。
水の中で、さらに水を湛える器。
意味はないはずなのに、形だけが残っている。
壊れていない。
屋根も。
窓も。
階段も。
戦いの跡はなかった。
焼けた壁もない。
砕かれた門もない。
斧剣で割られた道路も。
青い壁の亀裂もない。
静かな街だった。
静かすぎる街だった。
士郎は道へ降りた。
足が石畳へ触れる。
水の中なのに、歩ける。
音はしない。
自分の足音さえ、海が飲み込んでいる。
窓の中を見る。
食卓があった。
器が並んでいる。
椅子が引かれたままになっている。
誰かが立ち上がり、そのまま戻らなかったように。
隣の家には、織りかけの布があった。
糸が張られている。
模様は途中で止まっている。
店らしい建物には、壺が並んでいた。
扉は閉じている。
鍵がかかっているのかは分からない。
誰もいない。
道にも。
家にも。
広場にも。
人だけがいない。
士郎は歩いた。
呼んでみようとした。
声は出なかった。
名前を知らない。
誰を呼べばいいのか分からない。
広場の中央に、旗が立っている。
布は海流に揺れていた。
色はある。
深い青。
けれど、紋章がない。
何かが消された跡でもない。
最初から、そこだけが空白だった。
石碑がある。
文字が刻まれている。
読めない文字ではない。
意味が分からないわけでもない。
けれど、名を示す場所だけが何もない。
誰の国なのか。
何という都市なのか。
何を残すための碑なのか。
そこだけが、海より深く欠けていた。
士郎はさらに進んだ。
大きな建物がある。
王宮。
なぜか、そう思った。
教えられたわけではない。
門の高さ。
柱の並び。
都市の中心へ向けて伸びる道。
すべてが、そこへ集まっている。
王宮の扉も閉じていた。
青い光が、隙間から漏れている。
燃える光ではない。
温かくもない。
海の底で、夜だけが残っているような青だった。
士郎は扉へ手を伸ばす。
触れる直前で、止まった。
開けてはいけない。
理由は分からない。
中に何かがいるからではない。
危険だからでもない。
閉じられていること自体に、意味がある。
そんな気がした。
手を下ろす。
振り返る。
都市が広がっている。
窓には灯りが残っていた。
食卓には器が置かれていた。
織り機には、途中までの布がある。
門は閉じている。
城壁も残っている。
けれど、人だけがいない。
壊れていない。
滅ぼされたのでもない。
それは、滅びた都市ではなかった。
沈めることで保存された都市だった。
お読みいただきありがとうございます。
しばらくは毎日7時頃に更新予定です。
後日譚の
『The Reversed Star――逆位置の星――』 https://syosetu.org/novel/417875/
も連載中です、よろしくお願いします。