The Reaching Shore――届かせるもの―― 作:ほいみん
※独自解釈/女性体オリジナルサーヴァント/ギルガメッシュ×アトラス/本文に文章生成AI補助あり
※掲載イラストは作者による手描きです。
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朝。
台所から、聞き慣れない言い争いが聞こえた。
「だから、一週間だけでいいの」
「でも、遠坂先輩がこの家にいるのに、わたしだけ来ないなんて」
「その一週間が過ぎたら、わたしが出ていく。それでいいでしょう?」
「遠坂?」
居間へ顔を出す。
遠坂と桜が、食卓を挟んで向かい合っていた。
藤ねえは味噌汁の椀を持ったまま、二人を交互に見ている。
アトラスは既に席へ着き、何事もないように朝食を進めていた。
「何の話だ?」
「交渉よ」
遠坂が即答した。
「何を交渉したんだ」
「桜が一週間、この家へ来なければ、わたしは一週間後に出ていく」
「ちょっと待て」
聞き間違いかと思った。
「何でそんな条件になってるんだ」
「桜が、わたしの居候に納得できないって言うから」
「それはそうかもしれないけど」
「だから、お互いに条件を出したの。一週間だけ桜はここへ来ない。その間に何も問題がなければ、わたしが出ていく」
「何も問題がなければって、何の問題だよ」
「色々よ」
遠坂はそれ以上説明しない。
桜を見る。
納得している顔には見えなかった。
「桜、本当にそれでいいのか」
「はい」
返事だけは早かった。
「一週間だけですから」
「でも、桜が来ない理由がないだろ」
「遠坂先輩が出ていく理由もありません」
「いや、それは」
「先輩」
桜は笑った。
いつもの、困らせまいとする笑い方だった。
「わたしも納得して決めたことです」
二人だけで勝手に決めた。
そう言いたかった。
けれど、桜が自分で決めたと言うなら、士郎が代わりに撤回することもできない。
「……分かった」
「一週間だけです」
「ああ」
「その間も、学校では会えますから」
その言葉に、遠坂の視線が少しだけ動いた。
学校。
結界。
慎二。
昨夜聞いたばかりの言葉が頭をよぎる。
「それより、士郎」
遠坂が箸を置いた。
「貴方は今日、どうするの」
昨日の答えを求められている。
学校を休めと言われた。
学校が危険なら、なおさら行かなければならないと思った。
けれど。
一昨日、監視用の影に囲まれた。
手にした棒は、一撃で切られた。
セイバーが来なければ、また殺されていた。
自分が学校へ行けば、生徒を守れるのか。
違う。
今の自分では、遠坂とアーチャーの負担が増える。
アトラスも、士郎を守るために行動を制限される。
「今日は休む」
藤ねえの箸が止まった。
「士郎、具合悪いの?」
「熱はない。一昨日の傷もあるし、今日は家にいる」
「傷?」
「大したものじゃない」
「大したものじゃないって、見せなさい!」
「もう塞がってるから」
「塞がってるなら余計に見せなさい!」
「どういう理屈だよ」
藤ねえが立ち上がろうとする。
遠坂がその肩を押さえた。
「藤村先生、遅刻しますよ」
「でも士郎が!」
「本人が休むと言っているんだから、今日は休ませればいいでしょう。わたしが帰ってから見ます」
「遠坂さんが?」
「居候ですから」
便利な言葉だった。
藤ねえは納得しきらない顔のまま時計を見る。
「帰ったらちゃんと見せるのよ!」
「ああ」
藤ねえと桜が席を立ったのを見計らって、遠坂が訊いた。
「本当に休むのね?」
「ああ」
「昨日は、学校を放っておけないって言ってたけど」
「今でもそう思ってる」
「なら?」
「今の俺が行っても、誰かを守る前に守られるだけだ」
言葉にすると、悔しかった。
けれど、違わない。
「だから今日は行かない」
遠坂は一瞬、黙った。
「そう」
褒めもしない。
皮肉も言わない。
「学校はわたしとアーチャーが見る。何かあれば知らせるわ」
「頼む」
「でも、家に閉じこもっていなさいとは言わない」
「いいのか?」
「ランサーと一緒ならね。それに、学校以外の場所も把握しておくべきでしょう」
アトラスを見る。
血色の瞳が士郎へ向いた。
「欠席を命じた覚えはない」
「俺が決めたんだ」
「ならば、その時間の用途を定めろ」
「決めてる」
士郎は味噌汁を飲み干した。
「アトラスに、この辺りを案内する」
◇
桜と藤ねえが先に家を出た。
桜は玄関で、もう一度だけ振り返った。
「一週間ですからね、先輩」
「ああ。何かあったら連絡しろ」
「先輩も、無理はしないでください」
慎二のことを、桜へ話すべきか迷った。
けれど、今ここで言うことではない。
慎二は、桜は何も知らないと言った。
なら、余計な不安を与える必要はなかった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
扉が閉まる。
遠坂も鞄を持った。
「わたしも行くわ」
「アーチャーは?」
「もう学校の周囲を見てる」
「一人で大丈夫なのか」
「誰に言ってるのよ」
遠坂は靴を履き、振り返る。
「士郎こそ、約束した範囲から勝手に外れないこと」
「まだ何も約束してないぞ」
「今から決めるのよ」
アトラスが立ち上がる。
「目的地と経路は出発前に確認する」
「二人とも、俺を何だと思ってるんだ」
「一昨日、死にかけた人」
遠坂は即答した。
反論できなかった。
◇
外へ出る。
冬の空は晴れていた。
風は冷たいが、日差しはある。
「まず商店街へ行く」
「目的は」
「この辺りの道を覚えてもらう。それと、買い物」
「食料か」
「服」
アトラスが自分の袖を見る。
士郎が子供の頃に着ていた上着。
サイズは合っている。
似合っているかは分からない。
「現在の衣服に、機能上の欠陥はない」
「ある」
「提示を求める」
「それ、俺が子供の頃に着てた服だぞ」
「使用に支障はない」
「そういう問題じゃない」
「では、何の問題だ」
「いつまでも借り物を着せておけないだろ」
「徴用品だ」
「もっと悪い」
アトラスは理解していない顔だった。
「とにかく、買う」
「費用は記録する」
「返さなくていい」
「贈与か」
「服を買うだけで大げさだな」
「所有権の移転は明確にすべきだ」
「じゃあ贈与でいい」
「記録する」
「そこまでしなくていいって」
「汝の判断と記録の必要性は別だ」
話が終わらない。
歩きながら、道を説明する。
「こっちが学校。反対へ行けば商店街だ」
「既に通過した」
「道順を覚えてるのか」
「当然だ」
「なら、こっちは?」
「北東へ進めば川へ出る。途中に狭い路地が三本。二本は車両通行不能。一本は行き止まりだ」
「そこまで見てたのか」
「経路の把握は基本だ」
士郎が普段使う道を、アトラスは別のものとして見ている。
近道。
買い物への道。
学校への道。
士郎にとっては、それだけだ。
アトラスが見るのは、通れる人数、逃げられる方向、閉じた時に残される者。
「ここから先が商店街だ。夕方は人が増える」
「退避時には障害となる」
「最初に言うことがそれか」
「平時の利便と、非常時の安全性は一致しない」
昨日の夢を思い出す。
白い石の街。
人々の間を歩いていた王。
呼び止められるたびに足を止め、誰の声も無視しなかった。
今、隣を歩くアトラスは、人の顔を見てはいない。
代わりに、道を見る。
店を見る。
どこに人が集まり、どこで流れが止まるのかを見ている。
違う。
けれど。
街を見ているという点では、同じなのかもしれない。
「何だ」
「いや」
「
「アトラスも、昔はこうやって街を歩いたのかと思って」
血色の瞳が士郎へ向く。
「回答の必要を認めない」
「そうか」
否定はしない。
昨日までなら、そう思ったかもしれない。
けれど、否定と保証は違う。
答えないことと、肯定することも違う。
それでも。
夢の男がアトラスの過去だという考えは、まだ変わらなかった。
◇
衣料品店へ入る。
アトラスは陳列された服を見ても、特に反応しなかった。
「好きな色とかないのか」
「識別性が低く、汚損の確認が容易な色を選べ」
「それを好きな色とは言わない」
「選定条件として十分だ」
結局、暗い色の上着と、動きやすそうなズボンを選んだ。
今着ているものと、それほど変わらない。
店員がアトラスを見て、士郎へ笑いかける。
「弟さんですか?」
「あ、はい。まあ」
アトラスは訂正しなかった。
「少し細いですね。こちらの方が合うかもしれません」
渡された服をアトラスへ当てる。
身長は、士郎の顎あたりまでしかない。
顔立ちは整っている。
長い髪がなければ、年下の少年に見える。
「これでいいか?」
「動作を妨げない」
「じゃあ、これにする」
「費用を確認する」
「俺が払う」
「贈与として記録済みだ」
「もう好きにしてくれ」
会計を済ませる。
店を出たところで、アトラスが水路の方向を見た。
「どうした」
「周辺経路を確認する」
「今から?」
「十五分あれば足りる」
「俺も行く」
「不要だ。汝は購入品を持っている」
「これくらい持てるぞ」
「移動経路が異なる」
アトラスは商店街の先を指した。
「汝はこの商店街と、隣接する公園から離れるな。十五分後、こちらから合流する」
「子供じゃないんだから」
「危機に陥った者の自己評価は、当面採用しない」
「分かったよ」
「経路を変更するな」
「分かったって」
「異常ではなく、違和感を認識した時点で呼べ」
「そこまで言うか」
「必要だ」
アトラスは一度、士郎の顔を見る。
「十五分だ」
「ああ」
淡い水青の髪が、人混みの向こうへ消える。
◇
菓子店へ入った。
ここのどら焼きは、切嗣が時々買ってきたものだった。
士郎は甘いものが得意ではない。
けれど、これだけは別だった。
藤ねえ。
遠坂。
アトラス。
自分。
桜は、一週間来ない。
四つ。
人数分だけを買う。
包みを受け取り、店を出る。
「見つけた」
声がした。
振り返る。
紫の帽子。
銀色の髪。
赤い瞳。
イリヤが立っていた。
「おまえ」
「こんにちは、お兄ちゃん」
周囲を見る。
人通りはある。
バーサーカーの姿はない。
「今日は一人なのか」
「どうして?」
イリヤは不思議そうに首を傾げた。
「昼間は戦っちゃいけないんだから、連れ歩いたりしないよ?」
「じゃあ、バーサーカーはどうしたんだ」
「置いてきたよ」
どこに、とは答えない。
「じゃあ、何をしに来たんだ」
イリヤは笑った。
「だからね、今日はお話がしたいな」
「俺と?」
「他に誰がいるの?」
今はいない。
アトラスは水路を見に行った。
あと十五分。
呼ぶべきか迷う。
敵のマスターだ。
それでも、イリヤはバーサーカーを連れていない。
本人の言葉を、そのまま信用するわけにはいかない。
けれど、昼間の商店街で戦うつもりには見えなかった。
「すぐそこの公園でいいか?」
「うん。いいよ」
公園には、買い物帰りの親子が何組かいた。
商店街からも見える。
士郎とイリヤは、入口に近いベンチへ並んで座った。
「そういえば」
イリヤが士郎を見上げる。
「お兄ちゃんの名前、聞いてなかった」
「衛宮士郎」
「エミヤシロ……変な名前」
「えみや・しろう。士郎が名前」
「じゃあ、シロウね!」
「何で名字を省くんだよ」
「だって、シロウの方が呼びやすいもの」
「勝手だな」
「シロウだって、わたしをイリヤって呼んでるでしょう?」
「それはおまえがそう名乗ったからだろ」
「同じよ」
同じではない。
けれど、説明するのも面倒だった。
イリヤの視線が、士郎の持つ包みへ向く。
「それ、何?」
「どら焼き」
「どら焼き?」
「知らないのか」
「甘いもの?」
「甘い。俺は甘いものは苦手だけど、これだけは別なんだ」
「どうして?」
「うちは親子ともども、お茶請けはこいつだったからな」
「おやこ?」
「父親と俺」
「ふうん」
イリヤの視線が、包みから離れない。
「食べたいのか」
「別に」
「そうか」
「……どんな味か、少し興味があるだけ」
「同じだろ」
包みを開ける。
四つ。
余分はない。
「一つちょうだい」
「人数分しか買ってない」
「じゃあ、だめ?」
イリヤが少しだけ目を細める。
「いや」
自分の分を取り出す。
「俺のを半分やる」
「いいの?」
「欲しいんだろ」
「シロウが食べられなくなるよ?」
「半分は残る」
どら焼きを二つに割る。
綺麗な半分にはならなかった。
片方が少しだけ大きい。
大きい方を差し出す。
「ほら」
イリヤは受け取らない。
「敵に大きい方をあげるの?」
「半分にしたら、どっちも同じだろ」
「こっちの方が大きいよ」
「細かいな」
「じゃあ、もらう」
イリヤが両手で受け取る。
一口。
目が少しだけ丸くなった。
「甘い」
「どら焼きだからな」
「そういう意味じゃないわ」
「他にどんな意味があるんだ」
「シロウには分からないのね」
イリヤはもう一口食べた。
士郎も残った半分を口へ運ぶ。
変わらない味だった。
切嗣が買ってきた時と。
藤ねえと食べた時と。
今も。
「イリヤは、どこに住んでるんだ」
「森の中のお城」
「城?」
「そう」
「本当に城なのか?」
「失礼ね。ちゃんとしたお城よ」
「冬木に城なんてあったか」
「郊外の森の中。普通の人には見つけられない場所にあるの」
「そこにバーサーカーもいるのか」
「うん」
イリヤは最後の一口を食べる。
「本当はお城にいないといけないんだけど、遊びに来たの」
「一人で?」
「一人じゃないと、遊びにならないでしょう?」
意味が分からなかった。
けれど、城から出ること自体が、イリヤにとって特別なのだとは分かった。
「学校には行かないのか」
「行かないよ」
「退屈じゃないのか」
「今日は退屈じゃない」
イリヤは笑う。
「シロウとお話できたから」
正面から言われると、返答に困る。
「そうか」
「そうよ」
遠くに、淡い水青の髪が見えた。
アトラスが戻ってくる。
イリヤも気づいたらしい。
「じゃあ、今日は帰るね」
「もういいのか」
「ランサーと喧嘩するために来たんじゃないもの」
イリヤが立ち上がる。
「次はもっとゆっくりお話しようね、シロウ」
「次があるのか」
「あるよ」
当然のように言った。
「またね、お兄ちゃん」
最後だけ、呼び方が戻る。
イリヤは公園を出て、人混みへ入っていった。
紫の帽子が見えなくなる。
その直後、アトラスが士郎の前へ立った。
「接触者がいたな」
「ああ」
「敵陣営のマスターか」
「分かるのか」
「残留魔力を確認した」
血色の瞳が、イリヤの去った方向へ向く。
「何をした」
「話した」
「内容を報告せよ」
「名前を教えた。あいつは森の中の城に住んでる。バーサーカーはそこにいるらしい」
「他には」
「どら焼きを食べた」
アトラスが士郎を見る。
「食料供与による休戦確認か」
「そんな大げさなものじゃない」
「ならば分類を求める」
「……おやつだよ」
「敵マスターと食料を共有する行為を、汝はおやつと分類するのか」
「今日は戦わないって言ってた」
「相手の申告のみか」
「昼間は戦わないって決めてるらしい」
「保証ではない」
「分かってる」
昨日聞いたばかりの言葉だ。
「でも、戦うつもりならバーサーカーを連れてくるだろ」
「その推測は妥当だ」
「それに、指定された範囲からは出てない。時間も守った」
アトラスは周囲を見る。
公園。
菓子店。
人通り。
士郎の持つ購入品。
「条件違反は確認できない」
「ならいいだろ」
「次回以降、敵陣営との接触は即時報告対象とする」
「次回がある前提なのか」
「本人が再接触を宣言した」
「聞いてたのか?」
「遠距離から視認した」
見えていたなら、もっと早く来てもよかったはずだ。
それでもアトラスは、十五分という条件を破らなかった。
士郎が指定された範囲から外れず、危険へ陥らない限り。
「アトラス」
「何だ」
「ありがとう」
「謝意の理由を求める」
「……何でもない」
「不明瞭だ」
「帰ろう」
◇
衛宮邸へ戻ったのは、昼を少し過ぎた頃だった。
買った服を居間へ広げる。
「試着するか」
「寸法は確認済みだ」
「着てみないと分からないだろ」
「現在の衣服との比較で十分だ」
「店でも同じこと言ってたな」
アトラスは新しい上着を手に取る。
淡い水青の髪に、暗い布がよく映えた。
「似合うんじゃないか」
「外見上の評価は不要だ」
「そう言うなよ」
「機能に問題はない」
それで十分らしい。
遠坂が帰ってきたのは、夕方だった。
制服のまま居間へ入り、広げられた服を見る。
「買ってきたの?」
「ああ。いつまでも俺の子供服ってわけにいかないだろ」
「そうね」
遠坂が一枚を持ち上げる。
「全部、男物じゃない」
「そりゃ、アトラスの服だからな」
遠坂が士郎を見る。
次にアトラスを見る。
もう一度、士郎を見る。
「士郎」
「何だよ」
「貴方、まさか」
「何だ」
「ランサーを男だと思ってたの?」
何を言われたのか分からなかった。
「違うのか?」
「違うでしょう」
「どこが」
「どこがって……」
遠坂が額を押さえた。
「本人に聞きなさい」
アトラスを見る。
血色の瞳は、いつもと変わらない。
「アトラス」
「何だ」
「おまえ、男じゃないのか」
「誤認を訂正する」
淡々と。
何でもない情報を伝えるように。
「己は女だ」
沈黙。
「女?」
「然り」
「いや、だって」
小柄で。
長い髪で。
顔立ちも整っている。
言われてみれば。
言われてみれば、確かに。
「今までずっと、何で言わなかったんだ」
「汝が確認しなかった」
「普通は訂正するだろ!」
「戦闘、契約、護衛のいずれにも必要な情報ではなかった」
「服を買う時は必要だっただろ!」
「購入した衣服に機能上の問題はない」
「そういう問題じゃない!」
「ならば、何の問題だ」
今朝も同じことを言われた。
アトラスには、本当に分からないらしい。
「士郎が勝手に男だと思い込んでただけでしょう」
遠坂が呆れた声を出す。
「遠坂は知ってたのか」
「見れば分かるわよ」
「分からなかったから聞いてるんだ!」
「わたしに怒らないでよ」
アトラスは新しい服を畳んでいる。
性別が判明したことより、衣類を整理する方が重要らしい。
「じゃあ、あの夢は」
声に出ていた。
アトラスの手が止まる。
「夢?」
遠坂が訊く。
「いや」
昨夜の夢。
陽光の下。
白い石の街。
人々に呼ばれていた男。
アトラス王。
夢の中の王は、男だった。
人々は、彼をアトラスと呼んでいた。
だから、現在のアトラスの過去だと思った。
けれど。
目の前にいるアトラスは、少女だ。
なら。
夢にいた王は、誰だったのか。
そして。
この少女は、誰なのか。
お読みいただきありがとうございます。
しばらくは毎日7時頃に更新予定です。
後日譚の
『The Reversed Star――逆位置の星――』 https://syosetu.org/novel/417875/
も連載中です、よろしくお願いします。