物心つく頃というのがいつを指すかはわからない。
だが“最も古い記憶”を指すなら、『彼』は一歳を満たす前だった。
一面に広がる真っ白な部屋。小さなベッドで寝っ転がる『彼』を見下ろす、白衣を纏う何人かの大人たちの顔。
最初に口にした言葉こそ覚えてはいなかったが。
それを耳にした大人達が険しい表情で、仄かに青ざめていたのは、確かな記憶として残っていた。
───……
幾ばくかの時を真っ白な部屋で過ごした『彼』の周りには、歳に似合わない洋書の山が積み上げられていた。
この世に産まれ落ちて三年。親ではないだろう大人達が『彼』に対して幾つもの言語を用いて言葉を投げかけている。
『彼』は大人の会話に置いていかれることもなく、不快な気持ちにさせるでもなく、多言語を操り的確な返事を出していた。
……そして、周りの景色は一変した。
真っ白な部屋での最後の記憶は、機械に囲まれた中でチェスを打っていたことだ。
次に起きた時には、今までにない感覚の毛布に包まれていた。
───寝ている間の記憶でさえ朧げにでも刷り込まれる『彼』は、自分が真っ白な部屋の外に連れ出されたのだと直ぐに気付く。
引き取り先は、実の親ではなかった。血の繋がりはあるようだが、愛情は無い。
真っ白な部屋で過ごしていた『彼』にとって、それは決して落ち込む様なことではなかった。寧ろ気味悪い子供への視線ではなく、仄かな優しさが垣間見える分、なんて良い人なのだろうと。そう認識していた。
風景も、関わる人も変化して、自分もその環境に適応していった。
子供らしく
それでも。
『彼』の記憶はいつまでも無機質で、モノクロで。
心の中にはいつまでも、『
♢
ある日を境に、『彼』はゲームの世界にのめり込む様になった。
西暦も、年月も、日付も、明確に記憶している。
だがキッカケは覚えていない。なかったのかもしれない。ふとした時には、その世界の攻略に励んでいた。
ゲームの世界は己の『
それが己を満たすものであるのか、知らぬ誰かの気持ちをなぞらえていたのかは分からない。
でもゲームの記憶だけは、『彼』の無機質でモノクロな心を色づかせていた。
───……
都度、30のゲームを攻略し終えた時の事。
『彼』は心の『
空想の世界ならば本にも存在するだろう。だがそれ以上に魅入られたゲームという電脳空間は、果たして何故『彼』を引き摺り込んだのだろうか。
そもそもゲームを動かすコントローラーとはなんだろうか?
そもそも空想を映像化するこの技術はなんだろう?
そもそも電子機器を生まれさせたのは?
そもそも───
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……人類とは、大半が愚かな生き物である。
他人の顔色を覗き見れる『彼』は、それを断ずる。
何故なら人間離れした天才児としてこの世に産まれ落ちた『彼』でさえ、自らを愚かな存在と認識しているのだから。
だが愚か故に、経験を、学習を繰り返し、空想を現実にするにまで至る───可能性を。その小さな身に宿す天才が存在する事もまた、理解した。
ゲームとは、その結晶の連なりによる一種。
それに気付いた時、『彼』の世界は色づいた。
そして、身の回りの天才の名残へと目を向ける様になった。
翼を持たぬが故に空を渡る手段。
獣に劣る脚故に何者よりも疾く或る手段。
言葉では届かぬ距離故に光よりも早く情報を届ける手段。
日用品に至るまで、あらゆる場所で可能性の結晶が存在する。
ならば、自分は?
天才児として生まれた自分は、どんな空想を現実にすべきだろう。
……果たして、生み出す事が天才の義務であるかは定かではないが。
自分はまだ、学習も経験も、何もかも足りないのだろう。
突き抜けた愚かさも。才能を持つが故の狂気に等しい執念も。
───せめて、可能性の芽は積まないと誓い。
差し当たって、己を最初に色づかせてくれたゲームという存在で何かを残そうと思った。
漠然と決めていたプレイヤーネームに、その日から自らの心を示す。
こうして、『