Q. 本当に卑しい女ならここで一緒にゲームしたいなみたいな事を言って部屋に上がろうとするかもだから、一之瀬は別に卑しくなくね?
A.今回で使った卑しいは昨今使われがちな「かーっ! 見んね〇〇! 卑しか女ばい!」的な、さり気なく男の懐に入り込んでアピールする女の意味ではなく、『品格に欠ける』とか『意地汚い』的な意味。ゲーム機+数万円分のゲームを要求してるのは客観的に見ると結構ヤバイ。そのつもりが無いのは見れば分かるので空崎はマジで気にしてないけど。
Q. 『 』因子にステフ因子か減衰することなく合わさった、ってこと?!
A.妙な多彩さはステフ因子がしっくりきたのでそう表現した。設定的には空と白の才能の混合なのだが、ステフも混じってた方が自然かもしれないと思い始めてる。
常夏の海。広がる青空。澄み切った空気。そよぐ潮風は優しく体を包み込み、真夏の猛暑を感じさせない太平洋のど真ん中。
一般人では易々と手を出さない豪華客船に揺られながら、生徒達は高度育成高等学校が用意していた2週間の豪華旅行を堪能する。
船内の施設は無料で使用できるという破格の待遇を受ける事が出来る中、空崎はと言うと───。
「はい、チェックメイト」
「……参りました」
Aクラスの生徒であり、
乗船してから5局。その全てを後手スタートながら問答無用で勝利し───何なら駒落ち・時間制限・数手無駄打ちというハンデ戦すらも交えて───坂柳のプライドは粉々に砕けていた。
死んだ目で負けを宣言する坂柳とは対極に、空崎は良い笑顔で告げる。
「いやー、今の1戦はなかなかに楽しめたぜ。ここまでの苦戦は久しぶりだったな」
「ふふ……駒落ちと数手無駄打ちのダブルハンデで漸くですけどね……ふふ……」
「んじゃ、賭けは俺の勝ちって事で。何かあるか?」
この5局、全てのゲームで賭けが行われていた。
その内容とは───……
「そうですね……では、鬼頭くんの話でもしましょうか」
「ああ、強面の」
「本人には言わないで下さいね? 結構気にしているらしいですから」
クラスメイトの話。面白い話でも良いし、直近で起こった話でも良いし、興味を持った話でも良い。兎に角クラスメイトに関する雑談を賭けの対象とし、チェスを行っていた。
空崎としては遊びの一環のつもりだったので賭けなど無くても良かったのだが、坂柳は本気でやって欲しいとの事で賭けが加えられた。
この内容で本気を出せるのか、とか。そもそもハンデ戦やってるなら本気云々とか言ってられるのか、とか。色々とツッコミどころはあるだろうが、そこは割愛しよう。
「実は鬼頭くん、ファッションデザイナーを夢見ているそうでして。雑誌やテレビ番組などの情報収集を欠かしていないそうです」
「───……へぇ? そりゃ良いな。ファッションデザイナーか……デザインセンスは多岐に渡るし、コネクションは持っておきたい。紹介して貰えるか?」
「構いませんよ。そのつもりで話しましたから」
「先の4戦の間に話してくれても良かったのに」
「……いえ、夜白くんが大層興味を持っていただける様な話題がこれくらいだったもので。早い段階で話して期待値を高めても申し訳ないかと思い」
「ああ、リーダー降りて3ヶ月足らずだもんな。将来を語れる程の友達とはならないか」
───寧ろこの付き合いの短さで夢を語ってくれた鬼頭が意外というか。
「普通はそうですよね。確かな友情を感じ取れる関係性とは、なかなか難しいものです」
「清楚系天才黒幕美少女(笑)がファーストコンタクトで友情を芽生えさせるってのは難易度が高いだろ、そりゃ」
「……あの、余計なのが付け加えられませんでした?」
「ん? あー、黒幕は余計か。Aクラス内だと普通に表立って動いてた訳だし」
「違います。貴方に天才と称されるのが腹立ちますし、(笑)とは何ですか。清楚系黒幕美少女で良いでしょう」
「……プライドをズタボロにされてもそれ自称出来るメンタルはすげぇよ、素直に」
空崎が苦笑して言葉を返していると、船内にアナウンスが流れ始める。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』
二人は同時に顔を見合わせ、溜め息を零した。
「私の参加が非推奨だった時点で察しはついてましたが……」
「島の形状把握で有利に運べますってアナウンスにしか聴こえんし、バカンスは虚偽っぽいな。……俺は行くが、どうする?」
「参加しない事に思考を割きたくはありません。船内で待機しています。それに……ただでさえ船中泊費用を払って頂いたというのに、いつまでも夜白くんを独占していてはBクラスの人達に悪いですから」
「……費用は匿名の善意、だった筈だが?」
「おや、そうでしたね」
今更惚けられても、と。そんな風に笑いながらも坂柳は話を合わせた。
♢
「おっ、来たね。夜白くん」
こっちこっち、と。手招きで名前を呼んでくる一之瀬に応え、空崎は彼女に近寄っていく。
「どう思う?」
「まあ十中八九、バカンスじゃないだろ。何かまでは分からんけど」
───いや、厳密には
先ほどから頭の中で警鐘が鳴り響き、嫌な予感を知らせている。現在進行形で島を外周し、その形状を把握させる様な動きからして、一つの可能性が浮かび上がっている。
だがしかし、流石にそんなことを騙し討ちでやってくるか? 曲がりなりにも教育機関だぞ?
……そんな思考から、頭の中の警鐘に気付かない振りをした。
ただまあ。念には念を入れておこう、と。
舷門付近の手摺りに近付き、ポケットから物を取り出す。手に取ったそれに付けていた両面テープを機能させ、手摺りに強く押し付けた。
坂柳に一文のメッセージを送り、それから一周するまでの間、空崎はじっくりと島を観る。
『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』
───……警鐘は、どんどんと大きくなっていた。
♢
「……空崎くん、これは?」
「ゲーム機っすね」
「私物は全部部屋にって言ったでしょ。没収します」
「…………一之瀬さん、これは?」
「お守り、ですね?」
「いえゲーム機よねどう見ても。嘘でしょ……真面目な一之瀬さんまでこんな───……はぁ、没収するから後で空崎くんと一緒に取りに来てちょうだい」
「何をしてるんだお前達は」
上陸し、荷物検査をし。
砂浜の上で手を着き項垂れる二名に、先程までのやり取りを見ていた神崎が呆れた様子で声を掛けた。
───全てのクラスの下船が完了し、点呼を終える。
A・Bクラスの大半が緊張した面持ち。C・Dクラスの大半は楽観的な顔つき。上位2クラスと下位2クラスで綺麗に表情が分かれており、それが教師陣にはクラスの明確な格差を感じさせていた。
……Cクラスの約1名は、今後の展開を予想した上で楽しげに笑っているのだが、それは教師の知る由ではない。
やがて、Aクラスの担任である真嶋 智也が拡声器を片手に他の教師よりも一歩前に出る。
「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかった者がいることは残念でならない」
───その病欠者、今は船の上でニコニコとこちらを見守ってますけどね。
坂柳は厳密には『学校の旅行に参加』という形では無く、実費による『個人の旅行』に該当する扱いだ。
生徒としての恩恵自体は受けられるので船の中での無料利用などは他生徒同様だが、こうした学校行事への参加は任意となる。かなり特殊な立ち位置と言って良いだろう。
「ではこれより───本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
頭の中の警鐘が、止まる。
嫌な予感が消し去った?
否。バカンスと称され連れてこられたこの場所で何かが行われる可能性は想定しており、それが確定されたからといって嫌な予感が消し去る訳がない。
空崎は自身をよく理解している。
これは、嵐の前の静けさと同じであると。
「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となる。君たちはこれからの1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる」
───刹那。
「ヒュッ─────」
空崎は鋭く息を呑み、白目を剥き。
気絶する様に、後ろへと倒れ込んでいった。
───……彼の『天才』という名誉の為に伝えておくと。
今回のバカンスで『無人島生活を行う』という可能性については、夏休みに入る以前から考慮していた。
だがしかし、そんな
この学校は秘密主義や不意打ちこそ多いが、完全なる虚偽は無かった。
就職率ほぼ100%の特権は人数こそAクラスのみという限定的ではあるが事実だったし、Sシステムの概要も『学生らしい生活』を心掛けていれば大きなマイナスは生まれない優しい設計。
不満点や疑念こそあれど、学校の内部事情が処罰覚悟で敷地外に漏洩してない事実を省みるに、相応の手当はされているのだろう。
故に、教育機関としての最低限の筋は通し。
生徒の為を想う学校ではあるのだと……!
───そう、信じたかった。
ああ、この学校への信頼なぞ地に落ちてはいたが。
夢を共有した友人である坂柳の父親が管理する学校である以上、こうは考えまいと思っていた。
だが───、が……。
地中にまでは埋まるまいと信じてしまった己を含め、人類とはどいつもこいつも途方もなく低俗で馬鹿な生き物であると。
空崎は、再認識した。
「ちょ、夜白? 大丈夫か……っ!?」
「……ああ、颯。お前が無事に帰った後、俺の部屋にあるPCは全て風呂場に沈めてくれ。ゲームに触れられない無人島1週間とか俺にとっては死そのものだ。俺に生きて帰る自信がねぇ……」
「そ、そこまで……?」
後ろに整列していた柴田が倒れ掛けた空崎の背中を支えつつ心配を見せるが、死すら覚悟した絶望の表情を晒す彼に僅かながら引いていた。
真ん中あたりで整列しており、またそれほど大きい声量でも無かった為か───或いは騒ぎ立てて疑問を投げている生徒の方に注目が集まっているからか───空崎の様子を気に掛けていたのは付近のBクラス生徒のみであり、真嶋はそのまま話を続けた。
「───あり得ないと言ったが、それは短く浅い人生を送ってきたからに過ぎない。事実、無人島での研修を行っている企業は存在する。それも誰もが知っている大手企業が試みとして行っているものだ」
「普通は研修前に事前確認と概要説明があるんだよボケが。無許可で行ったら拉致誘致に該当するだろ」
「……世の中には様々な企業が存在する。変わった研修だけでなく、オフィスに椅子がない職場であったり、サイコロの出た目で給料を決める会社などがな」
「あっても昔の話か資材不足の海外だわ。現代日本の基準に合わせたら労基案件だぞ。理不尽の理由に現実的な観点から逸れた異例を出せば納得するとでも思ってんのか」
「…………今君たちはこう思っているんだろう。こんな試験にどんな意味があるのか、と。あるいはまだ実在する研修なのかを疑っている者もいるかも知れない。だが、その程度の考えで留まっている生徒は将来的にも見込みのない人間だ。この話のどこに君たちが『あり得ない』『馬鹿げている』と批判するだけの根拠があるというのだ? 君らはただの学生であり、まだ何者でもない。言ってしまえば無価値に等しい。そんな人間が一流企業のやり方を批判する? おかしな話だ」
「はは、まともな社会経験も積んでねぇ教師がよくほざくわ。どの立場で一流企業のやり方を語ってんだよ。しかもさっきのは異例だろ。あたかも一流企業がやってる様に語るのはどうなんだ。まともな理由付け出来ないからって論点ずらした挙句に子供の無知に責任の所在を押し付けるとか大人として恥知らずにも程があるだろ。……おい見ろ帆波、あれが図星を突かれた大人の顔だ。感情抑制もままならない身分のくせして、理不尽を目の当たりにした子供の発言に説教かましてたんだぜ? 笑えてく───モゴモゴ」
「や、夜白くん。一回黙ろっか? 愚痴を吐きたくなる気持ちは凄く分かるけど、ほら。まだ試験の概要が説明されてないから、ね? ……ごめんなさい、続けて大丈夫です!」
……一之瀬は、あくまでもリーダーとしてクラスメイトの暴走気味な発言を抑制しただけだろうが。
空崎の発言は『根拠の無い手前勝手な決めつけ』ではなく、容易に反論出来ない説得力があり、子供の癇癪とは程遠い“意見”であると言えた。
それは教師も感じ取っていた事であり。故に、言葉を悩ませていたが。
その尻拭いを生徒にさせたという現状を、恥と言わずして何と言うだろうか───……。
「───不平不満が出るのは、当然だろう。だが安心していい。これが過酷な生活を強いるものであったなら批判が出るのも無理のない話だが、特別試験と言ってもそれほど深く考える必要はない。今からの1週間、君たちは海で泳ぐのもバーベキューをするのもいい。時にはキャンプファイヤーでもして友人同士語り合うのも悪くない。この特別試験のテーマは『自由』だ」
……ほう? と。
空崎は生気を失っていた瞳に光を宿し、自身の口を押さえる一之瀬の手を軽く叩く。
視線を交わらせて、もう無闇矢鱈な発言を繰り出すことは無いだろうと判断した彼女は、その手を離した。
「この無人島における特別試験では大前提として、まず各クラスに試験専用のポイントを300支給することが決まっている。このポイントを上手く使うことで1週間の特別試験を旅行のように楽しむことが可能だ。その為のマニュアルも用意している」
───なるほど、どうやってクラス間の結果を定めるかが不明ではあったが。
この専用ポイントの内残った分がクラスポイントに変換されるのか、と。空崎は試験の内容を逸早く理解し、納得した様子で空を見上げた。
やり方次第では『バカンス』も全くの虚偽にはならないだろう。
地中に埋まっていた信頼を地の上に戻し、大人しく話を聴いていた。
「マニュアルは1冊ずつクラスに配布する。紛失などの際には再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように。また、今回の旅行を欠席した者はAクラスの生徒だ。特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与える決まりになっている。そのためAクラスは270ポイントからのスタートとする」
……信頼がまた、地中に埋まった。
今回の行事、自費で同行した坂柳は任意参加になった筈だ。それでマイナスを喰らうのは些か……公平にしようという意識が無駄に働いていないだろうか?
再び目に宿った光が消えていく空崎の様子を見て、一之瀬は「また暴走し始めたらすぐ止めよう」と内心で決心したが。
真嶋からの話はそこで終わりの様で、拡声器を持った別の教師が担任の先生から補足説明を受ける様にと通達が入る。
Bクラス各人は星之宮の元へと集まる。
「チエちゃん先生、マニュアル」
非常にやる気の失せた表情の空崎が言葉短く星之宮に言い放つ。
崩した敬語すら無く、動詞が抜かれた言葉に星之宮は顔を顰めたが、素直に従いマニュアルを手渡した。
「空崎くん、出来れば静かにマニュアルを見てもらえると───」
パラパラパラ。
パタン……。
星之宮の発言を気にすること無く、マニュアルは速読によって読破され、即座に一之瀬へと手渡された。
「帆波、取り敢えずリタイアしていいか?」
「うん、良いよ」
「よっしゃ流石。持つべきは理解ある友だな」
ほぼノータイムで返事を貰うのは意外だったが、流石の対応力だと空崎はご満悦に頷く。
その様子に動揺を隠さなかったのは星之宮だった。
「え、あの一之瀬さん? 30ポイントのペナルティが入るのよ?」
「? はい、30ポイントで夜白くんのモチベーションが維持されるなら安いと思いますけど……。……だよね? みんな」
星之宮の問いこそ甚だ疑問である。そう言わんばかりの態度で一之瀬は周囲へ疑問を投げた。
流石に一之瀬の様にノータイムで答えを出せる生徒はいなかったが、数秒の沈黙を経てから殆どは同意を見せる。
一之瀬による説得では無く、各々がしっかりと考えた結果の同意。これに星之宮は顔を引き攣らせ、「一体どれだけ信頼を稼いでるんだ」と恐れ慄いた。
「……と、取り敢えず共通の説明を進めるわね。今から全員に腕時計を配布します。これは1週間後の試験終了まで外すことなく身につけておくように。許可なく腕時計を外した場合にはペナルティが課せられます。この腕時計は時刻の確認だけじゃなくて、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも備えていて、また万が一に備え学校側に非常事態を伝えるための手段も搭載してあるわ。緊急時には迷わずそのボタンを押してね」
今すぐにリタイア、とはいかず、星之宮の説明を大人しく聴くことにした。
口頭で行われたルールも全てマニュアルに書かれていたことばかりだ。内容量を考えれば見返せる様にするのは当然だろう。
空崎にとっては全て把握済みの事でしかなかったため、途中からは海を眺めていた。
一通りの説明が終わり、星之宮はその場を去ってDクラスの元へと足を運ぶ。
それを見送った一之瀬は、空崎へと向き直った。
「夜白くん。リタイアするのは構わないんだけど、君が考えてる試験の流れを教えてもらって良いかな?」
「んぁ? ああ……大体4通りほどあるんだけど」
欠伸を噛み殺し、説明を始める。
「一つ目、情報を徹底的に守りつつ真っ当に試験を受ける。二つ目、クラスポイントとプライベートポイントを少しずつ獲得する。三つ目、全クラスに平等な結果を齎す。四つ目、俺の今後3年間のやる気を削いで500ポイントを得る。今挙げたのは俺らが主導権を握れる事が前提だ。好きなのを選んでくれ」
「……取り敢えず、四つ目は無しで」
「おけ」
「───ちょっと待ってくれ一之瀬」
僅かな思案をした後、一之瀬はこの試験で最も稼げる4つ目の選択肢を除外する。
そこに待ったを掛けるのは神崎。慌てた様子はないが、理解が追いついていないと一之瀬に問い掛けた。
「先の30ポイントの件とは桁が違う。どの様な過程を辿るかは定かではないが、空崎が言うならば確かな根拠があるのだろう。500ポイントの可能性をあっさりと捨てるのは些か早計ではないか?」
「理由は二つあるよ、神崎くん。一つ目は、これから先の試験で『現時点でのクラスポイントからマイナスされる』という可能性が極めて高い事。ここから加算だけが行われる、なんて甘い見積もりは捨てるのが一番だと思う。夜白くんの協力無しで、ここで得た500ポイントをマイナスにせず保持する自信は……ハッキリあるとは、言えないかな」
「……二つ目は?」
「今後3年のやる気を削ぐってことは、それだけのやる気をここで使い果たすって事だよ。つまり結構な無茶をする事が前提だと私は考えてる。内容は兎も角、それだけは確か。頼るとは決めたけど、無茶をさせるのは違うからね。そんなやり方は看過したくないかな」
一之瀬の強い眼差しから発せられる気迫と、その説明に納得したのか、神崎は目を伏せて謝意を示す。
「すまない、利にばかり目がいった。俺も……自分ならばまだしも、友人に無茶をさせるつもりはない」
「うん。初期よりも多いポイントを提示されたらそっちに意識が向いちゃうのは仕方ないと思う。……じゃあ夜白くん、一つ目について詳しく聴いても良い?」
いつもの緩く、それでいて頼もしい雰囲気に戻った一之瀬が空崎に問う。
「ま、言葉通りだよ。追加ルールにあるリーダー当てには参加せず、スポットも最小限。洞窟と川……或いは洞窟と井戸。井戸があるかは分からんが、要は環境変化による影響を抑え、水の確保も出来たら安牌だ。無茶しない程度に物資を買っても、大体150ポイントくらいは維持出来る筈」
「……スポットには有用となる地形や環境が付随してるって事だね。二つ目は?」
「一定ポイント……そうだな。仮に200ポイントまでを使用可能に定めるとして、その分の物資を他クラスに提供する代わりに毎月のプライベートポイントを要求する事。対象はAクラスかDクラス。Aならポイント分をそのまま、Dなら半分の額を要求する形がマストだな」
「形の上とはいえAクラスには突き放されちゃうから出来れば無し……Dクラスは、信用の方を買うイメージかな。Cクラスが除外されたのはなんで?」
「同じ事をやってくる可能性が高い───というか、何なら全部のポイントを使い切ってリーダー以外の全員リタイアまでやってくるだろうからな。翔ならそうしてくるっていう確信がある。アイツはリーダー当てに力を入れるタイプだ」
一つ目は空崎が地形把握していると聴き取れる言い方からして、本当に最初だけでも協力してもらえれば安牌な選択と言える。
二つ目は対象のクラスが受け入れてくれるかどうか次第だが、共存で人手を増やせるメリットもある。もちろんポイントに制限がある以上、多すぎればデメリットにもなるが。スポットの共有も可能になるし、メリットは十分に大きいだろう。
「三つ目は? 平等な結果って、口裏合わせないと難しいよね?」
「ああ、だから口裏を合わせる。実を言うと俺はこの三つ目の案が───いや、正確にはこれの
やる気のなかった顔に笑みが浮かぶ。
なるほど、どうやら空崎は三つ目の選択肢なら前向きに活動する気があるらしい。
一之瀬はコクリと頷き、続きを促す。
「こんな試験まともに受ける必要はねぇから、1年全員でボイコットしようぜ!」
───その後、詳細を知る為のやり取りを行い。
一之瀬は三つ目の『代案』を採用する事に決めた。
♕ Tips. ✍︎
空崎の各1年担任に対する呼び方
真嶋→ともやん先生
星之宮→チエちゃん先生
坂上→ガミセン
茶柱→サエちゃん先生
空崎は夢を持たず、子供に寄り添わないタイプの大人相手には基本的に舐め腐った態度を取るので、高育の教師は殆ど舐められている。真剣に子供の夢に向き合ってくれる教師は尊敬してる。
この中だと一番評価が高かったのは真嶋。ぶっちゃけどんぐりの背比べ程度の差しかないが、良くも悪くも厳格なので評価が下がりにくかった。が、今回の一件で下落。ガチでドン引きした。
……のだが、よく考えたら教員という立場上学校の方針に従わざるを得ないし、やり方に則ってるだけなんだろうなと冷静な思考を回せるようになってから理解したので、試験後に評価が戻る。
更に後ほど「どこが高度育成なんすか? やってんの不測の事態に対する潜在能力の選別じゃね?」という空崎の質問に沈黙を返したので、やっぱり評価が下がった。