───数多の都市伝説の中に、こんな噂があるのを聞いた事はあるだろうか。
インターネット上で、まことしやかに囁かれる『
曰く───100を超えるゲームのオンラインランキングで、不倒の記録を打ちたて。
世界ランクの頂点を総ナメにしているプレイヤー名が空欄のゲーマーがいる、と。
所詮は噂だろう……と、言われる事もしばしば。
だがその実、対戦したという報告は後を絶たない。
時として、動画配信にも映る事がある。
その存在が確かである事を認知し。
そして誰もが閲覧できる実績欄には───。
無数と表現すべき数の
ただ一つの黒星も存在しない対戦成績。
僅かであろうと動画という証拠があるにも関わらず、
では事実を受け入れた上で、『
別ジャンルのトップランカー達がプレイヤーネームを揃えている───とも。
運営によるツールアシストを使用した理論値アカウントを敢えて消さずにいる───とも。
敗北実績を消しているハッカーである───とも。
人の肉体ならざる未知の生物がゲームを楽しんでいる───とも。
実在する伝説───されど人間離れした実績故に加速する噂。
しかしこの伝説は、突如として動きを観測されなくなる。
38時間ほど連続で対戦履歴が更新され続けた事もあるという噂の『
結論として言えば、約三年の時を経て活動は再開するのだが───。
ではその三年という空白の時に、『
都市伝説の真実と共に、ここで語るとしよう。
♢
東京都高度育成高等学校。
就職率がほぼ100%と謳われる学校の入学式が行われる本日、そこへ向かうバスの中には同様の制服を着た学生が多く集っている。
その一部。空いていれば座りたい筈の座席が、空いているにも関わらず誰も座ろうとしていない。
他席が空いている訳でもなく、またそこに生理的嫌悪を覚える様な何かがある訳でもない。
「……ハァ」
二人が並んで座れる座席の窓際。そこには一人の少年が存在する。
───今にも灰になって消えてしまいそうな悲壮感を漂わせながら、と付け加えよう。
春は出会いと別れの季節───とは言うものの、4月に入れば出会いの方が多くなる。
別れの悲しみも割り切り、出逢いに胸を躍らせる事が多い時期。特に、学生は顕著だろう。
少年もまた、それが色濃く映る筈の学生服を身に纏っている。
透き通る様な
だが前述通りの悲壮感と神秘性が掛け合わさり、そんな彼の隣には誰も座りたくないといった空気感がバスの中を漂っていた。
───のだが。
「ね、隣座って良い?」
「えっ? ああ、もちろんどうぞ……」
後から入り込んで来たピンクブロンドの髪色の、同じ高度育成高等学校の制服を纏う少女が一直線に話しかけ、直ぐに座り込んだ。
即座に霧散する悲壮感が漂う空気を感じとった立っている周囲の人が「普通に座れば良かったか」と視線を集める中、当の本人達は「何故ここだけ空いてたんだろう?」と疑問の表情を浮かべている。
「……凄い隈だね?」
「ん? ああ、不快にさせたらすまん。ちょっと寝てなくてな。2日くらい」
「へぇ───えっ、2日?」
「そう、そうなんだよ」
「えっと……それは何か事情があるのかな」
「ああ、深刻な事情だ」
膝上に肘を乗せつつ、握り込んだ両拳に顎を乗せながら語る少年。
2日間も寝ずに起きているのは異常事態だ。それも入学式を控えた本日に。
いったいどんな事情があるのか───そうゴクリと喉を鳴らす少女に、少年は答えを言い放つ。
「───ゲームだ……!」
……………。
「……ゲーム?」
「そう、ゲームだ。より正確に言えば電子機器を用いたテレビゲーム、ポータブルゲームの類」
「ええと、ゲームで二徹してたって事かな」
「知っての通り、高育は持ち込みがかなり制限されてるだろ? 特に外部連絡が可能なモノ、電子機器の類はNGだ。俺の心の在りどころが無くなる……その穴埋めにここ二日間は寝ずに居たんだ」
ああこの人は変人だ。
彼の発言が耳に届いた周囲の人達はそれを断ずる。
───さて、大した前振りもないまま明かす事になるが、
都市伝説の扱いを受ける正体不明のプレイヤー。チート・ツールアシストを用いても倒すことの出来ない、その存在とは。
……存在する都市伝説。願望混じりの推測は全て外れ、一番つまらない答えが真実だった。
では、蛇足ではあるが。
消えた三年間の軌跡を辿るとしよう。
「高育が外部連絡不可能なのって書類に記されていたよね?」
「ああ、ぶっちゃけ高育どころか他の高校すら通う気は無かったんだ。金は稼いで
「うーん、せめて高校は出た方が良いと思うけどね。……ん? 稼いで、いた?」
「でも担任……ああいや、元担任からの推薦と、受けなきゃ部屋を解約するって
「……高校に通うべきっていう親心じゃないかな」
「ハッ、そんな殊勝なタマじゃねぇよ。小3の一人暮らしを認めた挙句に稼げると知ったら生活費すら渡さなくなった奴だぜ? 大方、高育側からそれなりの金を積まれたか、或いは出世の約束に利用したと見てる」
どうやら複雑な家庭環境らしい。
本人はあまり重く受け止めていないのでペラペラと喋っているが、なかなか酷い環境で育って来た事を察し、少女は冷や汗を垂らしながら話題を変えようと試みた。
「えーと……それだけ強い推薦を受けるって事は、優秀って事だよね!? 素直に凄いなぁって思うよ!」
「ん? 高育って
「へ?」
「……いや、そこはいいか。まあ学力って面で考えりゃ優秀って言えるんじゃねえかな。社会的に有能であるか否かって問われたら、否だろうが」
何せゲームに人生を捧げている様な人間だからな、と。
稼ぎの手段もゲームだ。一般的に捉えれば社会の役に立つ様な存在ではないだろうという自覚から、自虐でそう言い放つ。
出す話題を失敗しただろうか。そうアワアワと目を泳がす目の前の少女を見て、流石に皮肉が過ぎたことを反省した様子で少年は言葉を紡いだ。
「しかし、憂鬱な気持ちがちょい楽になったわ。やっぱ人との会話って大事だな。サンキュー」
「あ、ええと……どういたしまして?」
「何より美人さんとの会話は心が弾む」
「えぇっ!?」
おや? と。驚愕と照れを見せる少女に対して、少年こそが驚いた。
世間一般的に見ても美少女と呼んで差し支えないだろう。顔立ちは優れており、下世話になるが身体付きにも恵まれている。
整形跡も無く、ともすれば生来のルックスである事が伺える。ならば容姿への褒め言葉など言われ慣れていても不思議ではないのだが。
不意打ちでの照れだけならばまだしも、数秒経ってなお取り繕いが表れない。間違いなく本気で照れている。
………不快な様子は見えないが、今日が初対面である以上は誉め殺しにする距離感でも無いだろう。
少しだけ間を置き、少年はふと思い出したかの様に自己紹介を始める。
「そういや名前言ってなかったな。俺は
「う、うん。コホン……私は一之瀬 帆波です。よろしくね、空崎くん」
「……コホンって声に出す奴初めて見たわ」
「うぅ……君ってかなり意地悪?」
「良い性格してるなとは言われる」
ホントだよ、と。
口を結んでジト目を向ける一之瀬に、ふっと笑みを浮かべながら空崎が言い放つ。
「あざとキャラを売りにするなら頬を少し膨らませると良いぞ」
「なんのアドバイス!?」
♢
「なんか、ドっと疲れた感じがするなぁ」
「寝不足か? ちゃんと寝た方が良いぞ」
「少なくとも空崎くんが言って良い台詞じゃ無いよね。二つの意味で」
「安心しろ、俺は四徹までなら平気だ」
「安心する要素じゃないよぉ……」
会話は弾み、気付けば目的地に辿り着いていた。
バスを降りて門を抜けてもそれが途切れる事はなく、この頃には互いから遠慮が殆ど消えていた。
上級生だろう生徒が誘導し、校舎の正面玄関───から、少しだけズレた場所。
初々しい新入生達が集っている。張り出されているクラス表と名前を確認するため、そこに近寄った。
「名前……名前……」
「───俺も一之瀬もBクラスか。良い出逢いには良き偶然が伴うもんだな」
「……見つけるの早いね? あ、ホントだ。Bにあった」
「自慢じゃないが、速読は俺の数多い特技の一つだ」
「ふふ、他の特技も気になるね」
「そうだな、生徒全員を覚えたとか言ったらどうする?」
「あはは、流石にそれは嘘だって分かるよー」
「はは、バレたか」
───流石に名前だけじゃ顔までは分からないからな。
「……ん。一之瀬、ちょっと先行っててくれ」
「え? あ、うん。分かった」
視界の端の存在を認識し、空崎は一之瀬に身振りを加えながらそう伝える。
先に校舎へと入っていく彼女を見送り、再びクラス表の前───より厳密には、人混みに紛れないよう少し離れた位置で、杖を携え立ち竦む少女の下へと近付いていく。
「見えるか?」
「いえ。もう少し人が捌けてから確認しようかと」
「差し支えなければ、名前を聴かせてもらっても?」
「……坂柳 有栖、と申します」
「ああ、
「ふふ、大丈夫ですよ。親密な女性をあまり待たせてはいけません。……ところで、“嘘”だったのでは?」
聴いていたのかよ、と。
声には出さなかったが、苦笑を浮かべる事で言外に伝える。
それを彼女が認識したと判断した後、人差し指を己の口元に近づけた。
「どこまでが嘘、とは明言してないからな」
「良い性格をしていらっしゃるようで」
「そりゃお互い様だ」
歩きながら、背中越しに振り向きはせず見える位置で片手を振る。
校舎が姿を遮るまで、坂柳の視線は空崎を射抜いていた。
♢
「うーむ、フィクションなら隣り合わせの展開が王道なんだがな」
「あはは、残念だね」
「……ちょっと嬉しそうじゃね?」
「気の所為、気の所為」
「そっか、まあ後ろの席だし俺個人としてはラッキーだわ」
坂柳との会話は然程長引かなかった為、階段を上がっている最中の一之瀬に追いつく。
教室に入って自分のネームプレートが置かれている机を確認した後、周囲の机にも目を向ける。
名前順で振り分けられている訳では無かったが、残念ながら一之瀬と隣にはならなかったらしい。
一之瀬は自分の机へと向かい、既に登校して来ている周囲の女子へと話し掛けていた。
……疲れていたのではなかったのか。随分とエネルギッシュな少女である。
「仲が良さそうだったなー。もしかして同中か?」
「ん? いや、同じバスで隣に座ってたんで、会話が弾んだ感じ」
「ほー、あんな美少女相手に物怖じしないとは……あ、俺は柴田 颯。よろしくなっ」
「ああ。空崎 夜白だ。よろしく、颯」
「おっ……いきなり名前呼びとはビックリした。じゃあ俺も夜白って呼ばせてもらうな!」
驚愕は見えるが、嫌悪感は無い。
すんなりと受け入れ明るく爽やかな笑顔で名前を呼び返す柴田に、空崎は笑みを浮かべながら頷く。
「夜白は何か部活に入るのか?」
「いや、そのつもりはないな。颯は?」
「俺はサッカー」
「へぇ……では柴田選手にインタビューです。貴方にとっての憧れの選手は?」
「おお、急だな……。ええと、フランス代表の───」
「あー快速FWの。という事は颯も足速い感じか? フィジカルタイプには見えないし」
「速攻で梯子を外すじゃん……。確かに脚は自分でも速い方だと思うぜ。ひょっとしてサッカー詳しいのか?」
「ゲーム知識が大半だから、実際にやってる人からすると印象良くないかもだが」
「いやいや、俺もやってるし変な目で見ないって。イー○ト? F○?」
「両方。実はランキング上位にも乗ってる」
「おお、じゃあさ───」
そんな風に会話は弾み、気付けば教室には机の数と同等の生徒達が入り込んでいた。
始業を告げるチャイムまでもう間も無く。キリの良いところで会話を終わらせ、着席した方が良いと伝える。
チャイムが鳴り、数秒の間。
横開きの扉特有の音が響きつつ、一人の女性が入り込んでくる。
教師───として見るには若々しい雰囲気が見受けられる。格好も堅苦しい感じは無く、生徒との距離感が近そうなタイプだ。
「新入生のみんな、初めまして! Bクラスの担当をする事になりました、星之宮 知恵です。あまり硬くならず、気軽に話し掛けてね!」
活発な笑顔で、身振りを加えながら自己紹介を進める。
国が運営する高度育成高等学校の教師という事で、どんな厳しい人物かと緊張していた生徒達の力が霧散する。
弛緩した空気を感じ取った星之宮は言葉を続けた。
「普段は保険医として活動してるから、怪我したら任せてね? もちろん怪我しない、体調を崩さない事が第一。あ、先生に会いたかったら怪我を理由にしなくてもいいわよ!」
───うーん、アイスブレイクの目的があるのだろうが、流石に教師が「キャピ⭐︎」と効果音が付きそうな動きはどうかと思う。それなりに年重ねてるだろうに。
果たしてそんな思考が読まれたのだろうか。空崎は一瞬だけ睨みつけるような視線を感じ取る。
サッと手元にある資料に顔ごと動かす事で「空気感作りは充分です」と言外に伝えた。
「この学校は学年ごとのクラス替えがないから、卒業までの3年間は共に歩む事になります。よろしくね! さて、入学式は1時間後に体育館で。その前にこの学校特有のルールについて書かれた資料を配るわね。Bクラスのみんなは一読してると思うけど、改めて」
───ふむ。
所々に考えさせられる言葉が散りばめられている。
先ほど空気を弛緩させたのは妙な警戒を抱かせない為?
言い方は個人によって千差万別。考えすぎという線もあるが。
…………。
空崎は少しだけ、星之宮の説明を注意深く聴くことにした。
「Sシステムの概要はみんな認識してるわよね? 今から配る学生証カードに該当のポイントが配布されるようになってるわ。これで敷地内の施設を利用したり、売店での商品購入が可能。学校の敷地内にあるものなら何でも購入できる。肌身離さず持ち歩くことを推奨します!」
───……
「使用方法はシンプルだけど、もしも分からなかったら先生に遠慮なく聴いてね! そしてポイントの配布日だけど、毎月1日に全生徒へ自動的に振り込まれる様になってるわ。学生証には現在10万ポイントが全員に支給されてると思うけど、もし不備があれば言ってね? あ、ポイントの価値は分かりやすく、1ポイント=1円だから変な計算とかはしなくて大丈夫よ」
ザワっ───と。生徒達に驚きが走る。
高校生に対して10万という小遣いは莫大だ。当然の反応と言えるだろう。
だが───。
(10万か。増やす方法ねぇかな。早い段階でゲーム環境を完成させておきたいんだが……)
空崎は購入したいゲーム機器、及び環境設備の費用を頭の中に浮かべつつ、
「はーい静かに! ポイントの支給額が多い事に驚いていると思うけど、これは入学を果たしたみんなへの正当な評価です。遠慮なく使って大丈夫だからね? 一つ注意点としては、卒業後にポイントが回収されるという事。余ったポイントをそのまま資金に回す、なんて事は出来ないから、在学中に使うのがお勧めよ。譲渡機能もあるから、必要ないと判断したら他人に渡してもオッケー!」
───
一つ、気になる言い回しがあったが。
それ以上に言葉を濁さず伝えた点で、先ほどの“模索”に明確なアイデアが宿る。
(譲渡機能……それと先の何でも購入可能という点。生徒同士で賭けをやる権利とかも買えるか? カツアゲ扱いされても困るし、同意書か何かを用意しとくとして……狙い目は上級生……───)
「さて、大体の説明は終わったけど……何か質問がある子はいるかな?」
思考を巡らせる中で、星之宮は教室を見渡してそう問い掛ける。
誰も手を挙げる様子は無く───それを把握し、空崎は頭より少し高い位置に手を伸ばす。
「えーと、空崎くんね。どうぞ」
「聴き逃したかもしれないんで一応───
「毎月必ずポイントが振り込まれる様になってるわ」
「あーどうも。質問はこれだけっす」
───強調した10万に対しての明言は無し。
これだけ言葉を濁すという事は、話せない理由が何かあるのだろうと、空崎はしつこく確かめることも無く質問を切った。
答えが出るならば幾つか質問するべき事があったのだが……どれを質問したところで答えられないのがオチだろうと諦める。
とはいえ、無意味な質問だったとは言えないだろう。
流石に答え方が露骨に濁されていたからか、先程までは困惑ばかりが目立っていた教室の中で、極少数ではあるものの疑問を浮かべる生徒がいる。
その一人には、一之瀬も含まれていた。
「それじゃ、入学式の時間になったら体育館に案内するから、それまでは自由に過ごしてね〜」
表情や仕草には表れていない、が。
追求される事を逃れている“焦り”が星之宮にあるのを、空崎は見抜いていた。
「───よし! みんな注目!」
星之宮が出て行き、空いた教壇に一人の少女が立つ。
注目を集める少女───一之瀬は、全員に行き届く声を堂々たる態度で発する。
「星之宮先生が言うには、このクラスで3年間を過ごす事になるらしいからねっ。せっかくのこの時間、全員の自己紹介に充てても良いかな?」
───賛成!
───他に出来そうな時間ないもんねー
───良い発案だ、よっ、一之瀬委員長!
「ありが───えっ、委員長!? ……あっ、今の空崎くんでしょ! もー、罰として君にはトップバッターを務めて貰います!」
おっとバレたか、と。
どさくさに紛れて囃し立てた空崎の発言をハッキリと認識したらしい。指名された彼は抵抗する事なく立ち上がる。
「えー、まあ良いけど。はい、委員長からご紹介に与りました、空崎 夜白です。趣味はゲーム。メジャーなものからマイナーなものまで色々やってるんで、ジャンル指定してくれればネタバレ無しのお勧めを教えられるから、興味があれば是非。よろしく」
「はい、ありがとう! ……ところで委員長は確定なの?」
「真っ先に先導してくれたしピッタリじゃね?」
「うーん……。……あ、ごめんごめん、次は私ね! 一之瀬 帆波です。趣味は───」
二人の会話になりつつあった空気に気付き、一之瀬は慌てて全員に向けた自己紹介を始める。
活発に、人当たりのいい笑顔で。
「じゃあ次は……」
「はーい、質問していい?」
「え、質問っ? ど、どうぞ」
「ズバリ、空崎くんとはどんな関係ですか!? 中学の頃の友人は居ないって言ったけど、教室に入ってきた時も仲良さそうだったよね!」
「どんな関係と言われても」
一之瀬と空崎は視線を合わせ、特に隠す必要もないので率直な答えを告げる。
「バスで隣り合わせになった、今日初対面の友達……かな?」
「鬱屈と憂鬱を晴らしてくれた敬愛すべき女神」
「えッ!?」
「え?」
───あまりにも曇りなき眼である。
間違いなく揶揄い混じりの表現。だが決して嘘のない本心である事を理解し、また沸き立つ教室に一之瀬の顔は真っ赤に染まる。
「つ、次! 次の自己紹介お願いします!!」
ククっ、と。声を潜めて笑う空崎に対し、隣の柴田は戦慄を浮かべた顔を向けていた。
───全員の自己紹介を終え、場所は体育館。
先の星之宮の説明で覚えた違和感の解消、或いは新たな疑問でも出ないかと入学式を真面目に熟していたが、至って普通の入学式だった。
国が運営に携わる学校のため〜〜と言ったエリート意識を煽る様な文言ではあったが、特別気になる様な発言はなかったため、些か拍子抜けと言える。
入学初日の予定は昼前には終了し、解散となった。
それぞれ親睦を深めようとクラスメイトと動いている。空崎も一之瀬や柴田から誘いを受けたものの、「校舎内を色々と確かめたい」という事で断りを入れている。
柴田は不思議そうな顔をしていたが、一之瀬は「何か分かったら教えて貰っていい?」と言葉を残し、クラスメイト達と歩みを進めていた。
本人にそのつもりはないだろうが、クラスの団結と高育の推察を同時進行する良い役割分担と言えるだろう。空崎の質問があったとはいえSシステムに疑問を覚えた辺り、間違いなく学年内でもトップクラスに優秀な部類の人間。
「さーて、計画通りに事が進んでくれると良いんだが」
悪どい笑みを浮かべながら、何枚かの紙を手に廊下を歩む。
♦︎
「……おい、見たか?」
「ああ……今日って入学初日だよな」
「間違いなく一年だぞ。見た目が特徴的だからすぐ分かる」
「だとしたらおかしいだろ。PCの部品とかあんま詳しくないけど───」
「───30万以上は使ってただろ、アレ」
♕ Tips. ✍︎
『元担任』と称したのは高校で新しい人が担任になるからではなく、卒業前に該当教師が地方へと飛ばされた為。
空崎に対してあの手この手で高育に入学する様に説得していたが、応じる様子が無かったので本来なら漏洩してはいけない情報を喋ってしまい、またそれが高育側にバレたのが理由。