ようこそ最強ゲーマーのいる教室へ   作:現魅 永純

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 Q. 綾小路はもう椎名ひよりに恋をしているのかな
 A. 最近仲良くなった女子が急に可愛い変化を遂げたから驚きを隠せなかっただけで、まだ恋ではない。というか『教科書』が無いので、あっても自覚出来る段階じゃ無い。櫛田の脅し以外で頭ホワイトルーム化が進んでない状態のためリアクションが普通の男子高校生寄りになってる。

 Q. アルベルトが「ワタシもKAWAIIになりたい」って言ってきても真顔で対応できるか?
 A. 白波の件もそうだけど空崎はLGBTには理解ある方なので喜んで対応する。ウィッグは必須だけどアルベルトの場合は『魔男のイチ』の最強可愛いデスカラスちゃんみたいになる。

 Q. 龍園に化粧したら男の娘になるんかね
 A. 見た目だけなら出来るけど残念ながら覇気が強すぎて男の娘になりきれない。

 Q. えっ? つまり理事長「代理」が相手なら敵に回しても良いってこと!?
 A. ルビを見て、ルビを。





20話

 

 

 

 

 

 

 

「有栖ちゃん、今の時間に残っても大丈夫なの?」

「ええ。急ぎで調べなくてはいけない物でもありませんから。競技には出れずとも、これからの方針の共有くらいはしておいて損はありません」

 

 

 始業式の放課後。

 Aクラスの生徒の全員───珍しく空崎も含めて教室に残り、話し合いが行われる。

 

 

「全員参加の順番は他の様子を見つつ、龍園くん達と擦り合わせてから決める形にして……推薦競技はどうしようか?」

「真っ当に決めるなら、借り物は判断力重視。四方綱引きは力の調節が上手いやつ。残り二種は純粋な運動能力重視になるだろうな」

「……真っ当に決めない場合は?」

「綱引きは捨て。借り物は事前にお題に何があるかの情報を購入してシミュレーション。二人三脚はクィア*1で身体男性同士で組ませる。リレーはバトンを投げ渡し、キャッチ能力が高い奴を選定」

「…………」

「帆波、問われたから答えただけだ。俺だってやるつもりはない」

「瞬時にその発想が出る事には素直に感心するよ……」

 

 

 参加票とは別に、ノートに書かれた推薦競技と空白の欄を見つめつつ話が進んでいく。

 

 

「でもさ、帆波ちゃん。借り物のお題を知るっていうのは結構良いんじゃない? どのお題が出るかまでは引かないと分からないし、学校側も認めてくれそうな範囲だと思うけど」

「あ、そうだね。後で星之宮先生に聞いてみよっか」

「聴くのは良いけど鵜呑みにはし過ぎるなよ? 『情報を買う生徒が居たらお題が追加される』って取り決められてる場合もあり得るからな」

「……夜白くんって基本的に学校のこと信頼してないよね」

「事前通達無しで無人島試験をやった時点で信頼なぞ地中に埋めた」

 

 

 網倉の指摘に一之瀬は頷く。

 だが情報を買ったから平気と認識し過ぎるのも良くないと、空崎は予め注意を呼び掛ける。一之瀬は「そこまで警戒しなくても……」と苦笑していた。

 

 

「それに、今回の体育祭って『特別試験』の銘打ちが無いしな。下手にアンフェアな状況へ変えるより、学校行事として楽しむ程度で良いと俺は思ってる。もちろん勝つ目標は前提だがな」

「うん。1ヶ月程度だと運動能力の劇的な変化も難しいしね。突き詰めるよりは程よく身体を整えていく方が、本番の時にも力を発揮できると思う」

「同意見だ」

 

 

 基本的には真っ当なやり方で決めていく方針だ。そうなれば当然、運動能力の高い生徒達が推薦競技に挙げられる。また全員参加の競技にも、運動能力が高い人と低い人とで組み合わせる事は直ぐに決まった。

 

 もし最下位を取った場合はクラス貯金から補填。学年内の総合成績ワースト10に入った場合は得点を買うという話も出たが───

 

「私の分は必要ありません。どの教科であっても90点以上は取れますから」

 

 と。ワースト10位内が確定してる坂柳からの言葉。またこのクラスでは運動能力が低ければ学力はそこそこにあるというバランスの取れた生徒が多いため、よほど不安でない限りはクラス貯金から抽出しない事になった。

 

 

「推薦競技で決まってない欄は、また改めて専用の計測をしてからにしよっか」

 

 

 一之瀬がそう纏めてノートを閉じると同時に、教室の扉が開かれる。

 自然な動作で空崎は扉からの視線を遮る様に動き、一之瀬はその間に机の中にノートを仕舞う。

 

 今の教室にはAクラスの生徒全員が揃ってる。龍園との擦り合わせはまた後日に行う事を約束しているためDクラスでもないだろう。

 その為の咄嗟の行動。タイミング的に見られてはいないだろうが───と、視線を向ければ。そこに立っていたのは葛城だった。

 

 

「……失礼。事前連絡がなかった非礼は詫びよう。だがこちらの事情を汲んでもらえるだろうか?」

 

 

 声量には気を遣っていたから内容は漏れ出ていないだろう。しかし放課後にAクラスの生徒が全員揃っている事実から経緯を察し、葛城はまず謝罪を述べる。

 とはいえ本気で謝っているわけではない。それもそうだろう。彼の言う事情───即ち、本日になって急に大差でクラスの入れ替えが行われた挙句、そのクラスに元クラスメイトが移籍しているのだ。文句の一つも言いたくなる。

 

 返事は出ないが、否定や敵対心は誰も抱かない。

 それを了承と捉え、葛城は坂柳の前に立つ。

 

 

「坂柳。一応確認するが、裏切った……という認識で良いんだな?」

「ふふ……裏切ったとは随分な物言いですね。クラス移籍は学校が認めている正当な権利。それを行使したところで、文句を言われる筋合いはない筈ですが」

 

 

 坂柳の発言は尤もだ。

 初期配置のクラスは学校側がそれぞれの基準で決めただけに過ぎない。相応のプライベートポイントを支払う事でクラス移籍が認められている以上、権利は正当なもの。

 

 しかし葛城視点、クラス間の争いの方針で対立していた人間がリーダー争いを降り、クラスに協力的になったと思いきや突如としてAに繰り上がったクラスへ移籍したのだ。

 Aクラスで卒業する為の裏切りと認識しても仕方がないだろう。

 

 

「……そこまでAクラスとして卒業したいのか」

「? ……ああ、少し誤解があるみたいですね。私自身は別にAクラスで卒業する拘りはありませんし、クラスポイントの統合については聴かされていませんでした」

 

 

 坂柳としては卒業後は空崎のツテを借りて海外に飛び立つ事を既に決めているのでAクラスの特権はあって無いようなものだ。

 またクラスポイントの統合について聴かされていない事も事実。推測は立てていたが───別に話す必要はあるまい。

 

 

「それに、葛城くんも仰っていたでしょう? クラス内の生徒以上に夜白くんと仲がいいのは知っていると。仲の良い相手と過ごしたいというのは、学生として当然の考えだと思いますよ」

「………」

 

 

 片目を閉じて告げる坂柳に、葛城は閉口して考え込む。

 もし自分が歩み寄り信頼を得ていれば。或いは彼女をリーダーとし、過剰なやり口を諫める関係であれば、残ってくれたのだろうか───と。

 

 そもそも『約束』による結果なのでどのみち移籍するのは変わらない未来ではあるのだが、対立していたという事実が影響しているのではないかという考えが葛城にはあった。

 全くもって彼に責任は無いが、クラスのリーダーとしての責任感が後悔を過らせる。

 

 

「……空崎」

「ん?」

「単刀直入に訊こう。龍園のクラスと交わした契約を、俺たちのクラスとも交わす事は出来るか?」

「無理だな」

 

 

 坂柳や龍園がイレギュラーなだけで、葛城の頭の回転も速い方だ。『正当な思考力』という意味では一之瀬にも劣らないだろう。

 クラスポイントを統合したのは該当クラスの生徒全員を移籍する契約をしたからという事にも気付き、その要因が空崎にある事も理解しているのは発言からも分かる。

 

 葛城個人の問題であれば今の状況を甘んじて受け入れたかもしれない。だがクラスのリーダーとしての責任感がプライドを捨てさせ、懇願する形で空崎に申し出た───が。空崎はにべもなく断る。

 

 

「同じ内容の契約()学校から無理って言われてるんでね。そもそも俺に直接交渉するあたり、何で翔のクラスと結んだのかも分かってないんだろ?」

「……何人か、個人での契約ならばどうだ」

「契約の関係上、40人分のプライベートポイントを集めなくちゃならんからな。そっちを優先する事になるし、俺もタダで受け入れるつもりはない」

「そうか……」

 

 

 元より望み薄である事は分かっていたのか、葛城はそこまで残念がる様子はない。

 瞬き一つ。表情を切り替え、一之瀬へと視線を向けた。

 

 

「体育祭ならばクラス間で協力し合える事は少ないだろう。俺たちはこのチャンスを必ず勝ち取る。正々堂々競える事を願っている」

「もちろんっ。こっちもそのつもりだよ!」

「ああ。……失礼したな」

 

 

 葛城の宣言に、一之瀬は拳を握って見せて応じる。彼女の人となりは分かっているのか、そこに嘘がない事を理解し葛城はふと笑みを返す。

 彼が教室を出て、扉が閉まるのを確認すると、坂柳が微笑みながら告げた。

 

 

「意地悪な言い方でしたね、夜白くん」

「しゃーないだろ、下手に言えば漏洩になるんだから。アレでも分かりやすくした方だぜ?」

「葛城くんの様な考え方の人では辿り着きませんよ、きっと」

「そうだねぇ。私も何も知らない仮定で考えたら分からないと思う。というか龍園くんが凄いよ! 何でアレだけで気付いたんだろうね?」

「翔は元々8億ポイントでクラス全員を移籍させる可能性については考えていただろうしな。現実的かどうかが別ってだけで」

 

 

 クラスメイト以外が聴いていないという確信の下、先ほどのやりとりに関連する会話を弾ませる。

 

 そう───空崎が告げたのは『同じ内容の契約は不可能である』ということ。同じでなければ可能である事を暗に示している。

 また個人での契約も『タダで受け入れるつもりはない』というだけで不可能とは告げていない。坂柳の移籍が龍園との契約が結ばれた後に行われている事に気付く生徒がいれば、こちらにも何かしらの条件があり達成すれば可能になる事も判明するだろう。

 

 

「ま、今すぐに全クラス統合なんてする必要はない。つか手持ちのポイント的に無理だしな。あまりそれを前提に気を抜かれすぎても困る。学生は学生らしい闘争心を持ってもらわないと」

「……しかし、学校も変な体裁を気にしますね。認められたルールの中で考えた計画だというのに」

「Aクラスという特権で競うからこそ生徒達が必死になるっていう理屈は分かるから前提が覆らない様に動くっていうのは仕方がない。教育方針自体は理解できるんだよ。……色々と勿体無いとは思ってるけどな」

 

 

 ───とは言え。

 

 

「これは学生としての感じ方だし、政府は政府で考えてこの学校を建てた筈だ。全部が最初から上手くいくなんて事は滅多にない。何にしても良くする為には学習と経験を繰り返すしかないだろ。卒業までは俺らが感じている事の主張を行動で示す。これからの高育はそれをどう受け取るか次第。少なくとも在校してる間に急激な改革をしようとは思っちゃいねぇよ。退学者が出る事を前提にした試験が開催されない限りはな」

「達観してるなぁ」

 

 

 ……正確に言うならば諦観だ。

 一之瀬がポツリと溢した言葉に対し、空崎は苦笑を見せた。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「───ってやり方はどうだ?」

「うーん、却下!」

 

 

 2学期が始まって暫く。

 体育祭の概要が明かされ、それぞれが選出する種目に向けて練習を進めている。

 

 そんなある日の放課後。体育祭まで残り2週間を切ったタイミングでA・Dクラスの合同練習が行われている中、龍園と一之瀬は練習している生徒から離れた位置で話し合いを進めている。

 その場には空崎と神崎も居た。

 

 

「はっ……まあ甘ちゃんなテメェらが受け入れるとは思わなかったけどよ」

 

 

 龍園が話した内容は、短く纏めると以下になる。

 

・偶然を装ったラフな接触で苛立ちを与える

・声掛けを何度も行い集中を乱す

・倒れ込んで妨害

・鉢巻にワックス仕込み

 

 ……と。かなりグレーではあるが、上手い事やれば反則事項に引っかからないギリギリを攻めた提案。

 一之瀬は間髪入れずに拒否を示し、龍園もその反応は分かっていたのかしつこく要求はしない。

 

 

「だが勝つ為なら妥協はすべきじゃねぇだろ? テメェらがやらないのは別にいいが、こっちは好きにやらせてもらうぜ」

「待て龍園。契約の事を忘れたのか? 過度な反発がある場合はこちらへのペナルティはないまま───」

「ククっ、テメェこそ契約を履き違えんなよ神崎。交わしたのは『全面的な協力』だ。Aクラスを勝たせる為の行動なら文句を言われる筋合いはない筈だが?」

「……ッ」

 

 

 ───夏休み。一之瀬と一日を過ごした際に、空崎が危惧していた『内部崩壊』の正体はこれだ。

 協力という言葉を免罪符に実質的な主導権を握ろうとしてくる可能性。契約を結ぶ可能性が一番高かったのが龍園だったからこその危惧。

 

 一之瀬がチラッと空崎を見るが、肩を竦めるだけで止めようとはしない。無論、頼まれれば説得はする。空崎自身の希望も『正々堂々』だからだ。

 しかしクラスのリーダーはあくまでも一之瀬。全権を空崎に任せっぱなしでは立つ瀬がないだろう。

 

 一之瀬は笑みを浮かべつつ、龍園に一歩近づく。

 

 

「確かに、グレーゾーンのやり方を望まないのは私たちの感性による判断で、勝つ目的なら君のやり方が勝利に近づけるのかもね。お互いが主張を曲げないなら意気投合しないまま体育祭に臨むことになる」

「別にそれでいいだろ? 俺らが勝手にやったことだ、テメェらに責任はねぇ。他クラスがどう思うかは別としてな」

「じゃあ、()()()()()()()説得を始めよっか!」

「……あ?」

 

 

 笑顔で告げられた台詞に、龍園は眉を顰める。

 一之瀬は勝ち気な表情を崩さないまま言葉を紡ぐ。

 

 

「さっきも言ったけど、グレーゾーンのやり方を望まないのは私たちの感性による判断。龍園君にも『正々堂々』を遵守してほしいけど、これだけだと君を説得する材料としては弱いよね」

「ああ。勝つための試行錯誤を否定するだけの説得力を感じねぇ」

「でもさ、龍園君のやり方って学校の想定内なんじゃないかな?」

「……かもしれねぇな。だがそれがどうした? 問題として提訴されなきゃ───」

「あ、勘違いしないでね。私が言いたいのは問題になるかならないかじゃなくて、学校側が想定してるかどうかってところだよ」

 

 

 学校は違反行為に対する厳しい罰則を掲げているが、同時に厳しい罰則を与える為には確固たる証明が必要になる。完全に黒と言い切れる状態でない限りは踏み込んでこない。それが龍園の想定であり、故にこそのグレーゾーンを攻めた提案だった。

 しかし一之瀬も、学校がある程度の後ろ暗い行動を認めている事は把握している。指摘したいのはそこではないと、バッサリ切り捨てた。

 

 目を細める龍園に、一之瀬は言葉を続ける。

 

 

「龍園くんはさ、何で自分がこの学校に入れたか分かる?」

「……なに?」

「この学校ってさ、推薦がないと入れないらしいんだ。……君の入学前の噂、色々と耳にするんだよね。凄い不良だって。普通は素行不良の生徒に推薦をあげる事なんてしないのに、君が受けられた理由ってさ───()()()()()()()()()()()()()()って思われたからじゃないかな」

「ハっ……なるほど。生徒会様は色々と情報を得てるみたいだな。だがそういう事情なら、寧ろ学校側の望みに沿う形ってのは良い事じゃねぇか。何を説得しようってんだ?」

「高育の理念は国の将来を担う人材を育成すること。望んでいるのは正統な実力を持つ生徒が、人の悪意に対する耐性と強さも所有することなんだよね」

 

 

 一之瀬は妖艶にも思える様な笑みを浮かべながら、腕を伸ばせば触れる距離感まで龍園に近付き、人差し指で足下を指す。

 

 

「つまり君は、踏み台になる事を期待されていたという事だよ」

「────」

「っ、龍園!」

 

 

 露骨なまでの挑発的な発言。

 龍園は額に青筋を浮かべ、一之瀬がジッパーを閉めずに着ているジャージの襟元を掴み上げる。

 

 今にも殴りかかりそうな雰囲気を漂わせる彼に神崎が割り込もうとするが、空崎がその肩に手を置く。

 引き止めるには弱い力。神崎ならば直ぐに振り払えるだろう。だが止めようとしている事実そのものを認識し、近づけようとしていた脚を止めた。

 

 

「大丈夫だよ神崎くん。……高育は今まで、不良然とした狡猾な生徒が優秀な生徒の経験になる様に仕組んできたんだろうね。龍園くんはそれでいいの? この高育が想定した“歯車”に従う退屈な選択で?」

「……ククッ、挑発のつもりか? ンな負け犬どもとは違い、俺は勝ち馬に乗ってる状態だ。高育サマの想定した“歯車”にはならねぇ。このやり方を貫き通したところで、誰の経験になるってんだ?」

「私達だよ。龍園くん、私からも言わせてもらうけど、()()()()()()()()()()()

 

 

 龍園に襟元を掴まれながら一之瀬は告げる。

 それと同時に、固いものを軽く叩く音が彼の耳に届く。音の正体を辿れば、空崎が携帯の画面を龍園に向けていた。

 

 映っているのは画像。

 並べられた文字列から契約書───AクラスとDクラスが交わしたものであると推測できる。

 何の意図だと睨みつければ、一之瀬がそれに答えた。

 

 

「契約に於いて結ばれた()()()()()は、3年4月時点で卒業までに8億プライベートポイントが稼げないと判断された場合のみ」

 

 

 ───……

 

 

「つまり、私たちが一方的に破棄したとしても問題ないよね?」

 

 

 ───馬鹿な

 ───その通りだ

 

 一之瀬の発言を耳にした龍園の浮かべた思考は、その二つだった。

 そう。確かにペナルティの契約条項はその一つのみ。条件をクリアして改めて空崎との擦り合わせを行なった張本人だ。疑いようもない。

 

 だが───だが……

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()? ……と。龍園は思考を回す。

 契約が破棄された場合のペナルティは真っ先に取り決めるべき項目だ。白紙の扱いならば契約前の元のポイント分は戻ってくるだろうが、それだけ。契約を維持する絶対的な理由がAクラスにはない。

 

 あまりにも初歩的なミス。

 間抜けにもほどがあると自分を責め立てる言葉が脳裏を駆け巡る。

 

 

「人の繰り返しによる学習は、時として毒にもなる。無人島試験の時も、船上試験の時も、破棄する際のペナルティは定めていなかった。なにせ破棄する方がデメリットが大きかったからね。それを無意識に学習して、契約の破棄という考えが頭から抜け落ちてたんじゃないかな」

「……空崎、テメェの入れ知恵か?」

「いや? 俺としては度が過ぎる行動が実際に起こらない限りは様子見するつもりだったからな。契約条項に破棄のペナルティがないことは帆波に伝えてなかった。どんな口八丁で翔を説得するのか楽しみにしてたくらいだぜ?」

 

 

 …………。

 

 飄々とした態度の空崎から放たれた内容に、龍園はもちろん一之瀬からも微妙な視線が向けられる。

 クラスの行く末が変わる駆け引きをエンタメのように扱うなよ───と。

 

 

「まあでも、悪くない説得だ。帆波がそうすると決めたなら契約は破棄しよう。どうする? 翔」

「……」

 

 

 龍園は掴んでいた襟元から手を離し、一之瀬を見下ろす。

 強気な表情を一切崩さない彼女を数秒見つめ。

 

 

「───クク」

 

 

 笑い声を零す。

 

 

「クッ、クハッ───ククク……なるほどなぁ。俺に対する説得は全て一之瀬自身の言葉か。面白い女になったじゃねぇか」

「……褒められてるのかな?」

「褒めてんだぜ。やり方がどこぞの太ももフェチに似てきてやがる」

「えっ、夜白くんって太ももフェチなの?」

「ノータイムで俺だと断定すんのやめてくんね? そうだけども」

「へぇ……膝枕とかしたら言うこと聞いてくれる?」

「ふ───俺を安い人間だと思ったか? 甘く見るなよ。150万くらいしか出せんぞ?」

「真っ当に働いてる人に謝った方が良いよ君は」

 

 

 ………。

 

 叩いた軽口のせいで空気感がガラッと変わってしまい二人だけのやり取りが広がる。

 龍園が眉を顰めると、それに気付いた一之瀬が咳払いした。

 

 

「───夜白くんみたいに、ルールの内でも学校の想定を超えた選択は出来る。私も、龍園くんも、それを学ぶっていうのはどうかな? せっかく()()()に乗ったなら、先行勝ちだけじゃなくて差すのも追い込むのも、大逃げなんかを経験しても良いと思うよっ」

「……はっ。従わなきゃ3番人気に後戻りだからな。良いぜ。暫くは高育に中指立てる方法を探ってやるさ」

「ん、よし!」

 

 

 よし、で良いのか……という視線が神崎から一之瀬へと送られる。

 その意味を正しく受け取り、だが首を傾げる。「何か問題?」とでも言いたげな仕草だった。

 

 

「うぅ……帆波の奴、立派に成長してるなぁ」

「誰目線なんだお前は。……というか先行勝ちやら差すやら何の話を?」

「ああ、あれは競馬で言う脚質のことで───」

 

 

 

 ♦

 

 

 

「夜白くん。綾小路君の連絡先を教えて頂いてもよろしいですか?」

「え、一目惚れ?」

「いえ───……、……? どう、表現すべきでしょうね。ええと……一方的に私だけが昔から知っている関係性。でしょうか」

「ふむ……?」

「昔は彼に執着していた時もあったのですが……今は助けになりたい、という気持ちがあります。すみません、要領を得ない発言になってしまい。あまり公言できるような内容ではありませんから」

「紹介するのは構わんけど。……なあ有栖。わざわざセキュリティ掻い潜ってまで調べる理由がなかったんだけどさ」

 

 

 

「───ホワイトルームってそんなヤバい施設だったりする?」

 

 

 

 

 

*1
LGBTQの『Q』の一つ。従来の枠組みにとらわれない多様な性のあり方を包括的に表す言葉。今回の場合は突発的性自認変化の意味





Tips. ✍︎
 空崎の所持しているプライベートポイントは
 船上にいる時→3250万pr
 夏休み終了時点→2億1100万pr(坂柳の移籍に使ったポイントも含めて)
 作中で明かせそうなタイミングが無かったので後書きで公開。

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