Q. 『【十】みんななかよくプレイしましょう』は、よう実の世界に導入するのが1番難しい盟約じゃない?
A. 殺傷・戦争・略奪が禁止された『盤上の世界』でも実行が一番難しい盟約だからね、仕方ないね。まああっちは長寿種族の影響で大戦時代の感覚が消えない奴も多いのが原因の一部だと思うし、高育なら1年毎に真っ新な生徒が入ってくるからどういう学校なのかっていう学びを一新すれば何とかなる……筈。
「空崎くん。一応確認しておきたいのだけれど」
空崎の最終目的と、今回の特別試験に於ける『共有問題』の具体的な内容についての話を終える。
後は各クラスの代表生徒を揃え、教師陣を介せば契約は成立。その為に龍園を呼び出そうと端末を操作している空崎に堀北が声を掛ける。
瞬き一つ。弾ませる様に首を動かし続きを促した。
「試験自体は全力で臨んで良いのよね?」
「愚問だな。寧ろそうして貰わないと困る」
「……よくまあ、難しい立場を選ぶわね。貴方が得する訳でもないでしょうに」
「どうかな。得するかしないかなんて、今の情報量だと予見は出来ないだろ?」
出来るだけ退学者を出さない様に───だが甘えさせるだけでもなくやる気を出させる様に───Aクラスを維持しつつ───且つ成長を───……。
漫然と目標を立てるだけではダメ。ただ実力を発揮し続ければ良い訳でもない。その為の努力の成果が在学中に出るかは不確かで、目標を達成しても自分の得になる訳ではない。
受動的で居ても学校が変わらないのは理解出来るが、かと言ってそんな立場を選ぶ必要はないだろう。
そんな疑問から溢れた言葉に、空崎は笑みを浮かべながら答える。
損得の為にやる訳ではない───なんて、ご高尚な理由ではない……と。
「情けは人の為ならず。巡り巡って自分の為になる、
───ああ、強いて言うならば。
「楽しいに越した事はない、だろ。大人は色々と屁理屈つけて複雑な状況にして何故か周囲を巻き込み苦行を選択するドマゾ野郎を見事に体現して───」
「夜白くん夜白くん、それは偏見」
「……まあ大人にも色々事情はあって、それは汲むが、単純で済むなら単純で良いって話だ。楽しく成長する。学生なんてそんなもんで良いんだよ」
「割り切りと、線引きね」
「そゆこと」
そう出来る時代と国に生まれたのだから。
難しいのは百も承知。法律は有れど絶対遵守のない───
故に割り切り───社会性などという人生のマゾゲー要素をマゾゲーだと認識し。
故に線引き───単純明快な“楽しさ”に身を投じれる瞬間を判断する。
自主性は、それを見極める為に覚えさせるべきだ。
「……貴方の」
「ん?」
「貴方のオススメのゲーム……教えて貰えるかしら」
「……ほほう? 興味を持ってくれたか?」
「ゲームそのものというより、貴方のその価値観を形成した過程に……だけれど。人生の九割九分を占めていると言っていたでしょう」
「ふむ、なるほど。俺としては純粋にゲームを楽しんでもらいたいところだが、さて……オススメか」
何を紹介しようか、と。そう呟く空崎に、緊張感を宿した瞳を向ける生徒が1名。一之瀬である。
人間関係やら情緒やらを学ぶ為に渡されて初めてやったゲームが殺伐としたものであったのは未だに印象的な記憶だ。いやまあ結果的にストーリーが気になってハマってしまったが───空崎は遠慮が要らないと判断した相手には本当に遠慮がない。
女子には割と気を遣う素振りも見られるが、堀北への呼び名の変化から遠慮の要らない相手と判定している可能性が高いだろう。
あんまりなゲームが推奨されたら止めに入ろうか、と。そう警戒する一之瀬を尻目に、空崎は返答する。
「取り敢えずは『ポケ○ン』。初めてゲームするならこれはやり易いと思う。ストーリーが明確な目標を示してしっかりと過程を踏ませるし、深掘りしていくとただのRPGに留まらない細かな計算があるからな。アクション系……というか、リアルの動体視力を試してみたいなら格ゲーの類なんかもやってみると良い。『スト○ァイ』とか……色々とゲームやった後なら『スマ○ラ』なんかは楽しめる筈だ」
───マトモな選択肢だ。そう一之瀬は安堵の息を吐く。
「後は『ダンガ○ロンパ』とか『桃○100年』……」
おや───と。一之瀬の顔が訝しげに変わる。
自身はまだ未プレイのゲームだが、タイトルと大まかな内容は知っている。果たしてゲーム初心者にプレイさせるものか否か。
しかしジャンル毎にオススメを挙げている事は何となく理解した為、雲行きは怪しいが一先ず口出しはせず見守ることにした。
「現代の価値観からくる問題点を認識する為に『NE○DY GIRL OVERD○SE』と、そこに恐怖心を付け足すなら『Br○kenLore: UNF○LLOW』」
…………。
「ゲームの世界観に馴染んで来たら、『ドキド○文芸部』」
…………………。
「そんで『Getting ○ver It』だな♪」
「ちょっと待とうか夜白くんっ!?」
堀北がゲームタイトルをメモ帳に記している最中、大トリと言わんばかりに楽しく告げた空崎へと一之瀬は詰め寄る。
突如の一之瀬の言動に堀北が首を傾げているが、彼女に聞こえない様に少し離れた位置へと移動し声を潜めて会話を始めた。
「『壺おじ』は流石にゲーム初心者に薦めるモノじゃないよね? というか私も未プレイのモノばっかりだから突っ込まなかったけど、ゲームタイトルからして挙げられたラインナップの殆どは初心者に薦めるモノじゃないと思うんだけど?」
「うん、だから最初に王道路線を挙げたろ? 先ずはゲームが楽しいと認識して、それからなら他ゲーでも没入出来る筈だ。ゲームを続けられるなら初心者云々は関係ねぇよ」
「……そうだね。言ってる事はご尤もだと思うよ、うん。未プレイの身で言及するのは違ったかも。……いやでも、『壺おじ』は違うよね? アレは苦行ゲームって呼ぶ類のモノじゃない?」
「おっ、まだクリアまで到達出来てない先駆者さんチッスチッス」
「……ッ、……!!」
「安心しろ、マトモな感性してたらストレスマッハなあんなモノ速攻で放り出すよ。別にクリアを強制するつもりはないし、続けるにしろ辞めるにせよ経験にはなるだろ」
「それもそっか。……うん? 待って、今ナチュラルに私の感性がマトモじゃないって言った?」
「ウイニング○ストとかバニー○ーデンをやってるような女子高生がマトモだと思ってんならもう手遅れじゃねぇかな……」
何やらショックを受けた様な表情で固まった一之瀬を置き、元の場所へと戻っていく。
「……英タイトルの綴りはこれで良いのかしら」
「ん、あーそうそう、合ってる。でも例として挙げただけだから、無理してやる必要はねぇよ? やりたいもんやりゃ良いし、折角のゲームを義務感でやっちゃ勿体無いしな。あくまで参考にしてくれ」
「ええ。懐に余裕が出来たら、程々にやってみるわ」
その後も龍園が来るまでの雑談をする。
一同が揃った後、契約を担任に提示。夏休みの二度の特別試験という前例があるからか各リーダー生徒が揃っていた事に“恐れ”が見えたが、試験を壊す様な内容では無かった事に安堵の息を溢していた。
滞りなく、契約は成立。
後は、それまでに万全の準備を整えるだけだ。
♢
「……暇っすね、雅パイセン」
万全に準備を整えるだけ───とは言うものの、今回の件はクラスメイトに全てを任せている。
空崎は暇を持て余していた。
試験に関しては範囲さえ分かっていれば問題なし。積んでるゲームは一通り終えている。高育敷地内では増やせる『特技』は少なく、オンラインゲームは大会が絡まなければ完全に個人の趣味なので監視についてくれる教師が居ない。
唯一付き合ってくれる茶柱は11月の1週間の公欠に付き添う為に色々と前準備をしている影響で顔を出せないらしく、珍しく本当に暇だった。
気まぐれで生徒会に顔を出し、生徒会長に就任して間もない南雲へとちょっか───手伝いを申し出たが、軽く書類を纏めたくらいでやった事は僅か。
なおそれは生徒会所属ではない空崎だからの話であり、生徒会長が処理しなければならない類のモノはそれなりにあるので、空崎の発言に対し南雲は顰めっ面で返答する。
「だからって生徒会室でゲームするなよ。……てかお前の学年だと今は『ペーパーシャッフル』の時期だろうが。クラスに居なくていいのか?」
「今回は俺無しでやるって張り切ってたんで」
「あぶれたか……」
「そう言われると悲しくなるんでやめてくれません?」
自ら提案した事ではあるが、楽しく───かどうかは兎も角、仲間内で問題作成や対策を進めてる最中に一人だけ仲間外れというのは疎外感を覚える。
南雲の返しは少し効いた。
「暇なら茶でも淹れてくれ」
「じゃあ茶道部にデリバリーを───」
「お前に頼んでるんだが?」
「えー、後輩の茶目っ気な返しにそんな食い気味に言わずとも」
「お茶だけに、ってか」
「………はは」
「おい、渇いた笑いやめろ」
「や、振りのつもりはなかったんで……あ、詫びにちゃんと俺が淹れます」
ゲームをポーズ画面にして止め、備えられている急須と茶葉を手に取り準備を進める。
「……お前さ、VRのフルダイブ技術を完成させるのが夢だとか言ってたよな?」
「ん、あー。そうっすね」
「ならその為に動いてれば暇なんて潰れると思うんだが」
茶葉を蒸らしている間の雑談か、「暇だ」という発言に対する真面目な問い。
書類を片しながらの会話のため南雲には見えていなかったが、彼のその言葉に対し空崎はキョトンと呆けた様な表情で返事をした。
「あれ、言ってませんでしたっけ? フルダイブの理論自体は何通りか論文で提出済みっすよ?」
「えっ」
「ベーシックだけっすけどね。というか現状それ以外のアプローチが出来ないんで。理論通りに実行する為のハードウェア作製とかテストだったりは、学生には手が出せないですし」
あっさりと告げられた内容に南雲は絶句した。
無論、論文を提出したから夢を叶えた───なんて言うこともつもりもないだろう。しかし、ハッキリと『叶える夢』と認識しているなら、こうまでアプローチが積極的になるのか、と。
論文が掲載されていれば、世界中の研究者たちがこぞって拝見している可能性が高い。
理論が正しければ、数年後にはVRフルダイブに伴うあらゆる技術の進歩が現実化する。
実現可能な理論はブレイクスルーを起こす発端だ。ベーシックだけとは言うが、0から1になるだけで研究は大きく進む。
その意味を分かっているのか───いや分かってはいるんだろうな……。南雲は一瞬にして悟った様な表情を晒す。
「……フルダイブを完成させて、何か作りたいゲームでもあるのか?」
「あー、そうっすね……『辻斬・
「……、……いやタイトルだけ言われても分からないんだが」
「アットホームなゲームでみんな仲良く! をモットーにしているゲームっすよ」
「内容を説明しろっつってんだよ。オーケー分かった、そこまで濁すって事はロクでもないゲームだな」
「雅パイセンは割と適性あるんじゃないかと」
「オーケー分かった、ロクでもないゲームだな。……おい誰がロクでもない奴だって?」
「なんだこの人、オモロ」
自己認識にキレてて草、と。
湯呑みを用意しつつ、問われた「作りたいゲーム」について思考を巡らせていく。
「後は、ゲームで全てが決まる世界とか───……いや、フルダイブ世界で作ってもツマんねぇか。AI技術が発展してワンチャン……でも人間思考で別種族を使うのはなぁ……かと言って人族固定はゲーム性が……」
「……?」
「───ぶっちゃけ作りたいゲームとかはないっすね」
己の中で出した結論を、率直に吐露する。
南雲は意外そうな視線を向けつつ言葉を返す。
「フルダイブ技術の完成を結論にしてたのか」
「んー……いや、
「フルダイブ技術の完成を目指してる人間の言葉で良いのか、それ」
「俺は所詮プレイヤー側の人間なんで。誰かの作った世界を楽しみたい人種なんすよ」
夢の着地点は土台を作ること。
そこから先はアフターストーリーだ。わざわざ新しい夢を何度も作って追いかけ続ける必要はない。
少し長めの余生を、他者の作り上げる世界の中で楽しむだけだ。
「現実的なのか楽観的なのか分かんない奴だな」
「まあなんせ社会的には不適合気味なゲーム廃人なもんで。どっちかと言うと楽観的じゃないっすかね」
「それもそうか」
茶葉を蒸らし終え、湯呑みにお茶を注ぐ。
それを南雲の前に置くと、お茶の水面をジッと見つめながら黙り込んでいる。
「……茶柱でも立てるべきです?」
「いや……、……え、意図的に出来んの?」
「淹れ直す必要はあるけど、まあ」
「興味はあるが、また後にしておこう。……楽観的な後輩の意見を聴かせてくれ」
訝しげに頷く空崎を見て、南雲は極めて真面目な顔で問い掛ける。
「帆波のバストって何カップだと思う?」
「G」
「…………躊躇いねぇなお前」
「本人居ませんし。……え、意見ってこれ?」
「いや、これはアイスブレイクだ。次こそ真面目に意見を聴きたい」
「別に帆波のプロポーションを真面目に話し合っても良いんすけど」
「……それはまた今度の機会にしよう。流石に生徒会室でそういった話をするのはマズい」
「振ったのそっちじゃねぇか」
───アイスブレイクにしても話題は選べよ。
───普通に答えたお前も大概だぞ。
お互い微妙な視線を交わしつつ、咳払い一つ。南雲は再び真面目な表情を装い、問い掛けた。
「俺はどんな進路を選ぶべきだ?」
どうやら本当に真面目な話らしい。
空崎は自分用にお茶を注ぎ、少しだけ口を湿らせてから言葉を返す。
「……雅パイセンは既に決めてるもんかと」
「ああ。堀北先輩の後を追い、あの人との勝負を楽しもうかと思っていた」
「今日日男のストーカーは流行りませんよ?」
「昔でも流行らせたらダメだろ。あとストーカーじゃねぇよ別に。執着と言え執着と」
それをストーカーと呼ぶんじゃねぇかな───という言葉は飲み込んだ。意見の本質はそこにないと察したからだ。
それで? と。続きを促す様に視線を向ければ、南雲は言葉を紡ぐ。
「お前が整えてくれた体育祭の勝負───まあ直接対決がリレーだけだったのは残念だが、それはさて置き。あの勝負を経て思ったんだよ。俺はあの人に勝って、それで満足するのかと」
「無理でしょうね」
「……断言が早いな」
「仕方ないっすよ。学パイセンと雅パイセンじゃ、性質が違うんすから」
南雲 雅は勝負への熱が強く、1番への執着がある。だが堀北 学の性質は模範である事だ。もし負けて悔しさを覚えても、それは自らの能力を高める為の意思にしかならないだろう。南雲に対する、南雲に迫る様な熱意や執着を抱く事はない。
ライバル関係と呼べるモノに発展する事を南雲は本能的に望んでいる。でも
それを察してるからこそ疑問を覚え、意見を求めたのだろう。
「なら俺は、どんな進路を選ぶべきだと思う」
「……んー、あんま人の進路を歪める言葉は発したくないんすけどね。別に俺の意見が正しいって訳じゃないし、進んだ先でやりたい事が出来るかもしれないから、今直ぐに決める必要はないと思うんすよ」
「参考にするだけだ」
「はあ……じゃあ率直に。アスリートの道が良いんじゃないんすか?」
「……、……そうか」
南雲は湯呑みに入ったお茶を数秒見つめ、一気に飲み干してからそう呟く。
「俺も考えはした、が……それは堀北先輩との機会を放棄してでも、選ぶ価値があるものなのかという疑問がある」
「……アンタが全盛期メッシ率いるバルサと勝負して完勝できる自信があるんなら兎も角、そこまでは流石に無いってんなら選ぶ価値はあるでしょ。単純にアンタの性質に合う勝負の世界である事に加え、強くなればなる程に、もっと強い選手達が居るステージに立てる」
『特権』がどこまで有効かは定かでは無いが、南雲の実力ならばトライアウトから始めても充分に活躍して上に行く権利を獲得出来る筈だ。
勝負の世界に立つ事を選んだアスリートの負けず嫌いさを舐めてはいけない。
「ま、適性の話っす。どっちが満足出来る選択かは、今の段階じゃ判断は出来ない。学パイセンが究極の負けず嫌いになる可能性も0ではないし? あの人の才能や努力は確かな訳で、いつか雅パイセンを充足させてくれる存在になってくれるかもしれない」
「お前はどうなんだ?」
「俺? ……ああ、ゲームを選んだらって事っすか? そりゃまあ───俺がずっと勝ち続けるでしょうね。雅パイセンがどんだけ成長しようが、俺がゲームで負けるなんてあり得ない」
「ハッ、大した自信だな」
真面目な雰囲気が崩れ、南雲にいつもの表情が戻る。
自分の中での疑問が晴れたのか、いつの間にやら止めていた生徒会長の仕事を再開した。
「まだ決めはしないが、参考にはさせて貰うぜ」
「そっすか。お代わり要ります?」
「ああ」
「じゃあ茶柱立てますね」
「ああ」
───本当に茶柱立ってる。何だコイツの特技。
♕ Tips. ✍︎
フルダイブ技術の論文については中学時代に提出している。掲載されたのは高校入学直前。
海外の研究者がマウス実験で検証した結果『電脳空間への意識移植』に成功し、人間スケールでも可能にする為に擬似肉体五感再現や、運動命令の遮断と擬似肉体感覚への変換に関する神経科学の研究が急遽進められている。
空崎は「卒業するまでの3年の間にある程度は天才サマ達が進めてるだろうしあわよくばテストダイブくらいは出来るようになってると良いなぁ」という楽観思考だが、研究者達は「この論文書いた奴を出せ! これ書ける奴ならバーチャルフルダイブに関する必須技術の発展方法も分かってんだろ!? 協力を仰げ!!」と阿鼻叫喚に陥ってる。
現代のVR技術でもバイオ4やった時はめっちゃ面白く感じたのでフルダイブ技術が完成したら既存のゲームに少し手を加えてもう一周する形でも充分楽しめると思ってます。
『SOF』でもワンチャン……いや流石にそれはねぇか。