早くも色付きバーになりました。評価を頂けると大変励みになります。
Twitter改めXの方を確認して下さっている方は把握しているかもしれませんが、取り敢えず7話まではストックがあるので一週間連日投稿となります。投稿時間は今話と同じ12時に。
ストックが尽きたら執筆完了次第不定期に更新していく形となりますので、そのつもりで宜しくお願いします。
「……ポイントは変動する、かぁ」
「ああ。根拠は幾つかある」
入学から一週間。早朝。
体力作り、及び維持の為に幼い頃から続けていた日課のランニングに一之瀬を誘い、初日から抱いていたSシステムの推測を話す。
ランニング───と言っても、会話中は呼吸の繰り返しが妨げにならない様にほぼウォーキング状態だ。
「一つ目、無料商品が至る所にある」
「そうだね。特に食材や消耗し易い日用品は顕著に置いてあったから、私も引っ掛かってた」
「二つ目。一つ目に連なる形になるが、月半ばにも関わらず無料を利用する上級生がそれなりにいる」
「……言われてみると、山菜定食を食べてる人が結構いた気がするね」
「三つ目。授業中の会話が何度か行われているのを見たが、注意する素振りが一切見られない。義務教育を終えたから自己責任と言われたらそこまでなんだが……Dがかなり酷い状態にも関わらず同様だ」
「え、何で他クラスの状況を知ってるの?」
「一回だけ遅刻した日があったろ? あれワザと。そん時に確認した」
淡々と告げられていく内容。
普段の会話とは違い、非常に機械的な声音だ。
友人との会話と、事務的な報告の違いだろうか。一之瀬は戸惑いつつも続きを促す。
「そんで問題点。これは個人単位じゃなくてクラス単位で行われている。十中八九な」
「……」
「ああ、俺の遅刻に関してはマイナスになってない筈だ。出席扱いになる様に事前にポイントで購入してる」
「なるほど、そんな使い方も出来るんだね……。クラス単位である根拠は?」
「上級生がクラス毎に雰囲気が違いすぎる。特にAクラスに対する“羨望”が見受けられた。学年ごとのクラス替えが存在しないという点も前置きが気になる。一切ないなら「学年ごと」なんて付け加える必要性を感じられない。つまり、何かしらを基準としたクラス替えってのは存在するんじゃないか……と」
そしてここで湧いてくる疑問といえば───。
「基準となるものは、変動の可能性からして恐らくポイント……ならクラス替えの意味は?」
事務的な報告だけが続いていた中で、明確に一之瀬への問いかけが出る。
相槌を打つやり取りを強制的に切られる形となったが、一之瀬は動揺する素振りもなく返答する為に考えに耽る。
数秒の間。少しだけ自信が無さそうな表情で、言葉を紡ぐ。
「───望んだ場所に就職出来るのは、Aクラスだけ……?」
「同意見だ。まあ個人成績が飛び抜けてれば特別枠とか上位2クラスとかの可能性もあるが、希望的観測は最低限にした方が良いだろうな」
就職率100%と謳われる学校。
しかしエリート育成をしているとは思えない様子が所々で見受けられる。
これが一年生だけなら準備期間と捉える事も出来たが。上級生の『就職に困らない安堵』が見られない辺り、謳い文句に裏があるのは明白だろう。
そもそもこの辺は
「……空崎くん、これって───」
「ダメだ」
無機質な冷たい視線がが一之瀬を射抜く。
今まで友人として見てきた空崎の表情とはかけ離れた、全てを見通す様な眼。
彼女はビクっと身体を震わせ、歩みを止めた。空崎もそれに倣い立ち止まる。
「他クラスの友達に話していいか、だろ。一之瀬、お前なら気付いていると思うが……」
「分かってる。クラス単位で測られてる以上は、クラス間での競争が行われるって事だよね」
「ああ。全容が隠される様に学校側が仕組んでいる以上、今の期間はアドバンテージを取り易い。もちろん全てが勘違いで来月も10万ポイント支払われました。皆さん望んだ場所に就職できます、なんて可能性も0じゃないが」
無機質だった瞳に少しだけ熱を宿し、必要以上に一之瀬を怖がらせない様に意識しながら言葉を続ける。
「お前が今の立場のままなら、クラスのリーダーとして皆んなを引っ張っていく事になる。リーダーとしての責務は不安要素を気の所為だと切り捨てない事。何よりメリットのない相手に塩を送る行為は認めない」
「……君がリーダーをやるのは、ダメなのかな?」
「やってもいいが俺には向いてないぞ? 一之瀬に比べたら俺のカリスマなんてゴミだ。いやもうゴミに失礼なくらいには下限を振り切ってると言っても過言じゃない」
「そ、それはちょっと自虐過ぎないかなっ?」
友人としてのやり取りが出てきたからだろう。
一之瀬は強張った身体を弛緩させ、困った様な笑みを見せる。
「友人との関係性やリーダーとしての責任感に板挟みされるのはキツい立場だと思う。でも傍観者でいる事に甘んじられるタイプじゃないだろ? 一之瀬は」
「どうだろ……でも、そうだね。他人に責任の所在を押し付けるだけの人には、私はなりたくない」
「なら割り切れ。私情を挟むなとは言わないが、明確なメリットを見つける様に心掛けろ」
「挟むな、だけで済まさないんだね?」
「徹底し過ぎると不和を産んで、それが足枷にもなりかねないからな。学生間なら余計に。秤に掛けて一方に傾かない様にする事を、お前なら出来る筈だ」
合わせていた視線を前に戻し、再びウォーキングを開始する。
少し遅れる形で一之瀬も歩みを再開した。
「まあ、もし立場に重みを感じる様ならいつでも言ってくれ。遠慮のいらない話し相手がいるだけで多少は軽くなると思うからな」
「……うーん、逆にストレス溜まりそう?」
「なぬッ」
「にゃははっ、ウソウソ! ……ありがとね、
「───どういたしましてだ、
特別な合図があった訳ではないが、お互いに名前呼びで会話が終わる。
呼吸の繰り返しによる会話の妨げを気にする必要がなくなった為、二人は脚を動かすペースを速めた。
お互いの軽い息遣いだけが耳に届く。
「……」
「……」
「…………あの、そろそろ、突っ込んでもっ、良いかな?」
「えっ、何に?」
「その、『I♡ 人類』って、なにっ?」
「俺の愛用Tシャツ、だッ」
「分かんない! 夜白くんのセンスが! 分かんないよっ!」
♢
「───という訳で、来月からはポイントが変動する可能性が凄く高いの。さっき言った内容を出来れば守って欲しい」
その日のホームルーム。
一之瀬は星之宮に重要な連絡事項がないかを確認した後、出席確認以外の時間をポイントで買い取り、ポイントの変動について話した。
内容は空崎との会話で出てきた根拠と、授業中は会話を行わず真面目に受ける事。また遅刻欠席等に恐れがある場合は事前に連絡する事。
ポイントが減ると思われる行動を幾つか挙げ、頭を下げてお願いする。
「ねえ委員長、それって先生に確認すればすぐ分かることなんじゃないの?」
「やめた方が良いかな。説明するつもりなら最初に話してるだろうし、それは上級生相手でも同じ。ここまで徹底して箝口令を敷くって事は何かしらのペナルティがあるんだと思う。下手に追求して迷惑を掛ける訳にはいかないよ」
「そっか……」
「もちろんさっき言った内容は強制じゃ無いよ。憶測が外れている可能性もある。でも少しでも私の言葉に説得力を感じたら、せめて来月になるまでは意識して取り組んで欲しい……かな」
100%と言えるだけの自信と根拠があれば、堂々と胸を張って告げただろうが。
これはあくまでも違和感を追求しただけの憶測だ。
学生としては息が詰まる様な毎日ではストレスが溜まるだろう。気の緩みは仲が深まってきたからこその証でもあるから、そこに水を差すのは一之瀬としても本意ではない。例えお願いの内容が至極真っ当であろうとも、だ。
最後に少し弱々しい笑みでお願いすると、全体的に動揺はありつつも納得した様で、肯定の意をそれぞれ見せていた。
「どうしよ、授業中に会話してたかも……」
「あまり気にし過ぎないでね。私もこの考えに至る前とはいえ、普通に応じちゃってたから。これからこれから!」
「これって他クラスの子に話しちゃダメだよね? 一部のクラスしか特権を受けれないって言ってたし」
「うん、そうだね。できれば皆んな情報を漏らさない様にしてほしいかな。聞かれたら答えても良いけど、自分からは吹聴しないでくれるとクラスとしては助かるよ」
女子を中心に、それぞれ思い当たった部分を声に出している。
それは自分がポイントを減らしてしまったかもしれないという不安だったり、しない方がいい行動の確認だったり。
完全防音とまでは言えないが、国が運営する学校だ。扉を閉めていればそれなりの防音機能が働いているため、ある程度の声量ならば声が漏れる事はない。
ホームルームもそれほど長くはない。他に疑問点が無いかと一之瀬は教室全体を見渡し───
「質問して良いか、一之瀬」
「うん、大丈夫だよ。神崎くん」
視線が合い、挙手している様子から質問が出るのは予想できた。一之瀬は間髪入れずにOKを出す。
「さっきの内容は俺も同意だ。というより、学生としては当然の姿勢だからな。否定する要素が無い。ただ一つ疑問なんだが……一之瀬はいつこの事に気付いたんだ?」
「今日の朝だけど……それがどうかしたの?」
「俺が知る限りでは、一之瀬がそれだけの情報を集める余裕はこれまで無かったと思えてな。出所を追求するなと言うなら従うが……
直接表現しなかったのは本人なりの配慮だろう。
つまり、一之瀬 帆波という人物は、他者からの情報提供を受けて自分の地位を意図的に高めているのでは無いか───神崎の言い分はそれだ。
それを理解している訳では無いが、神崎が変な疑いを持っているというのは分かったのだろう。一部生徒を除き、微妙な視線が神崎に集中する。
「そうだね。この件については夜白くんが調べて教えてくれたから」
「……空崎が?」
だが一切の溜めもなく、一之瀬は正直に答えた。
拍子抜けとも言う様な表情で神崎が視線を移すと、その先で空崎が笑顔を見せながら肯定の意味を持たせて手のひらを振っている。
「俺が伝えるよりも帆波の方が信じて貰えると思ったからな」
「それは、……そうだな」
「肯定すんなよ泣くぞ」
「す、すまない」
───冗談のつもりだったのだが本気で謝られてしまった。こっちの方がショックかもしれない。前述の時点で自覚がある事は理解しているだろうに。
「……で? まさか出所の確認をしたかっただけか、隆二」
「いや、そこがハッキリしたならば聞きたい事がある。来月からはポイントが減るという推測を立てたのはお前だろう。それはどれだけの確率と見てる?」
「そうだな、それで言うなら
「……100%、とは言わないのだな」
「さっきの内容でポイントが減る確率の方を問われたら100%って答えたけどな。『来月からのポイント』を問われると確実とは言えない。加算の可能性も0じゃないし、減点のシステムに気づいた事で基準の変更が行われる可能性もある。受動的になるしかない生徒では推し量れない部分まで考慮に入れると、おいそれと100%なんて口には出来ないさ」
とは言え。
ただでさえ高校生には過分な10万を受け取っているにも関わらず、真面目に受けるだけで加算ならば判定が甘すぎる。
唐突な基準の変更は学校側からしても制御の難しい判断になるだろう。
それらを考えれば限りなく低い可能性のため、『来月のポイント減少』の確率は高い値で答えた。
神崎はそれらを理解した様で、納得の素振りを見せつつ、言葉を紡いだ。
「……星之宮先生の発言への違和感から、来月からポイントが減る可能性は俺も考えた。が、そこで止まった。何かあれば学校側から説明が入るだろうと思ったからだ」
「まあ
「だがお前は普通には考えなかった。結果それが正しかった」
「正しいかどうかは、まだ確信出来ないぜ?」
「これだけ根拠があるんだ。何も無いと思う方がおかしいだろう」
───なるほど、と。
やたら持ち上げてくるなと思った空崎は、神崎の狙いについて理解した。
要はクラス全体への考え方の浸透だ。この学校では表面上だけを捉えるのではなく、言葉の裏を探る考えを持った方が良いというのを、空崎への褒め言葉を利用して伝えている。
口調が強い部分は目立つが、彼なりにクラスのことを考えて意識するべき部分を共有しているのだろう。
もう少し周囲に語りかける様に発言すれば分かりやすいのだが。
「どうかな。確証のない事に気を張り続けられるほど、人って丈夫には出来てない」
「……自分の推測に自信があるのかないのか、どっちなんだ」
「自信はあっても人間心理は簡単じゃないって話だ。なんで───
「なに?」
深く笑みを浮かべて告げる空崎に、神崎は疑問の表情。
ホームルームの時間はそれほど残されていないだろう。押し問答はこれまでとし、空崎は立ち上がる。
元より二人の会話を黙って聴いていた周囲だが、立ち上がる空崎に視線が集中した。
「もし来月のポイントが一切減っておらず、10万がそのまま配布された場合、来月まで真面目に授業を熟したクラスメイトにはこれを分け与えるとしよう!」
───10万を39人に配布するとなれば、大体一人あたり2500程度の額ではあるが、個人がその全額を負担するというのはかなり大きい。
来月手に入る全額を担保とする。『明確な何か』が提示された事で、心理的に前向きになれるだろう。それが空崎の考えだ。
「ちょ───夜白くん、その保証は私も乗らせて貰うからね! もしもの時は私からも10万! ……あ、でも体調不良とかは素直に報告してね!?」
そこにクラスのリーダーが同意を示す事で、より大きな効果を発揮する。
一之瀬への信頼。仮にそれが不十分な生徒がいるにしても、真面目に授業を受けるだけで5000ポイントだ。自分の行動でポイントが減ってしまうかも、という心理も組み合わされば、流石に不真面目な生徒は現れないだろう。
だが無理は禁物。下手に押し通されても困るので、一之瀬はそこを念押しして伝えた。
全員に微かな緊張感が芽生えると共に、ホームルームは終わりを告げる。
───それからの授業は、全員が真面目に取り組んでいた。
元々授業中に騒ぐ様な生徒はBクラスにいなかったが、度々見えていた会話や端末を弄るような行為は一切行われず、授業が進んだ。
それぞれの科目を担当する教師は表情こそ取り繕っていたものの、何かを察したような“驚愕”の感情が浮かんでいた。
眠気を堪えたり、遅刻ギリギリの登校になる事は僅かながらあったものの、一之瀬の挙げた『ポイントが減る行為』には何とか触れずに時が進む。
月末には小テストが行われたが、これといって大きなイベントは無く。
そして、5月1日を迎えた。
氏名: 空崎 夜白 (そらさき やしろ)
学力:A+
知性:A
判断力:A-
身体能力:D+
協調性:E
【面接官からのコメント】
入学試験において全科目満点、小・中学の際も満点以外を取った事がないという、学力面では他の追随を許さない程に優秀。
推薦時はAクラスが候補であったが、他者との関わりが極端に薄く行事イベントへの積極性も皆無である事が判明。
また面接時に高度育成学校を軽視する態度が多々確認された為、Bクラスへの配属とし改善される事を期待する。
【担任メモ】
一之瀬さんを始めとしクラス内外を問わず友好関係を広げています。参考資料を疑うほどに他者への積極性は改善傾向に。
本人の優れた学力と桁外れの知識量故か、学校軽視の姿勢に変化は見られません。しかし観察している中で『教育』や『学習』の機会を作る事は非常に重要視している事が分かり、ただ驕っているのではなく何かしらの線引きがある事が伺えます。
♕ Tips. ✍︎
体力作り・栄養バランスの取れた食事などがしっかりされており、問題なく一人暮らしをしていた経験からノゲノラ 『 』に比べると人としてのレベルは遥かに優れている。
ただしゲームの腕前は、
空崎≧空
空崎≧白
空崎<『 』
となっている。空単体、白単体が相手だとしても各自の得意分野では引き分け以上に持ち込まれる可能性が高め。
互い相手に何度も負け合い、「勝ち逃げは許さない」というモチベーションが空崎には存在しないのが非常に大きい。とは言え負けが無いだけで学習と経験は繰り返されている為、ほぼ同スペック。
身体能力は虚偽や手抜きではなく、授業を真面目にやった上での正しい評価。