ようこそ最強ゲーマーのいる教室へ   作:現魅 永純

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 Q. 空白をもとにしたゲーム廃人なら授業中ゲームをしてもいい権利とか買いそうなんだけどどうなんだろう?
 A.高育内だと『  』名義のアカウントを動かせない状態なのでそこまではしない。教育自体は大事な要素だと認識しているので、他者に悪影響を与えないように授業態度は表面上だとマトモ。脳内では別の事を考えてる。

 Q. オリ主は空の対人能力+白の演算能力+コミュニケーション能力完備ってこと…?
 A.そういうこと。性格は空に寄ってるけど、ざっくり言うなら弱点を無くしたジェネリック『  』。
 ついでに言うと人生をクソゲー認定しておらず明確な将来設計があり、恋愛感情だろうなという察しがつくし、性欲はコントロール出来るし、童貞ではない。

 Q.同じ協調性Eの堀北がDクラスだけどでオリ主はよくBクラスに入れたね?
 A.高育の選考基準おかしくねとはよく言われてるから(震え声)
 一応の理由付けとしては、高育を軽視する言動が垣間見えたこと以外は面接時に問題のある言動がなく、対人能力は寧ろ優れている事が発覚したことから、改善はそこまで難しく無いと判断された。実際5月頭で更新したら協調性の評価はCに跳ね上がるだろうから面接官の観察力が凄かったって事で……。



 日間ランキング4位!
 ありがとうございます!




3話

 

 

 

 

「やっほ、夜白くん。どうだった?」

「83000ポイント。そっちは?」

「同じだよ。という事はクラスの総合で決まるんじゃ無くて、クラス内共通でポイントの量は決まってるみたいだね」

 

 

 ポイントの配布日。

 この日の早朝ランニングも一之瀬と事前にする事を決めており、前日までの残ポイントからの増加量をチャットではなく対面で答え合わせした。

 並んでウォーキングを始め、会話を進める。

 

 

「これって多いのかな……?」

「Aは94000ポイント。Cは不明。Dは0らしい」

「えっ、こんな時間からチャット送ってたの?」

「Aクラスは早い段階で勘付いてたみたいで、事前に擦り合わせる事を決めてたんだよ。Dクラスの知り合いは遠慮なくチャット送ってきやがった。Cクラスの知り合いはまだ起きてない時間だろうからまた後でって感じだな」

「なるほど……それにしてもDクラスは0ポイントかぁ。ちょっと申し訳ないね」

「一部真面目に授業を受けてた奴にはその気持ちを向けてもいいけど、ぶっちゃけ自業自得だしな。それにBクラスではやりたくなかった確認も出来る」

「確認って?」

「マイナス分があるかどうかだ。あの様子だとキッパリ10万使い切りって訳じゃ無いだろうしな。少なくとも負債という形にはなってなさそうだが……今後ポイントが加算される何かが行われる時のために、こういった情報はできるだけ集めておきたい」

 

 

 そもそもポイントが加算される何かはあるのか───そのやり取りは既にこの数週間で行っている。

 望んだ就職が叶う権利というのがクラスに関係なく適用される場合、ポイントの増加はあっても微小の可能性が高い。

 だが特定のクラスのみに適用される場合、序盤でこれだけの差がつくと下位に勝ちの目が無くなってしまう。故に数万ポイントが一気に動くだけの何かが起こる可能性は十二分にあるだろう、と。

 

 マイナス分のあるなしで何が変わるのか。

 一之瀬は問い掛けようとするが、ニヒルな笑みを向けられたため諦める。この表情を見せている時の空崎はハッキリした答えは出さないと、これまでの関わりで学んだからだ。

 

 

「……行動する前には教えてね?」

「はいよ。……しっかし5月始めでこの暑さか。そろそろちゃんとしたスポーツウェア買うべきか?」

「そもそもその『I♡人類』Tシャツって通気性どうなの?」

「別段良くも無い。ただ数少ない持ち込める物にこのTシャツ5枚を選択したからな。使えそうな場面で使おうと思った」

「日課のランニングを続けるつもりならウェアを持ってくれば良かったのに……」

「持ってこうとしたんだよ。でも高級なものだからって弾かれた。着衣済みの衣類なんて高く売れないんだから通してくれって思ったよ」

「…………一体どんなスポーツウェアを」

「ヴィトンの───」

「ごめんやっぱ無しで、これ以上聞くと価値観が狂いそう」

 

 

 なんて物を日課のランニングで着用してるの───!

 と、そう言いたげに青褪める一之瀬を見て、空崎はケラケラと笑った。

 

 暫くウォーキングを続けていると、アームポーチに入れている端末から通知音が流れる。

 先に空崎の方から流れた形だが、続け様に一之瀬の端末が何度も鳴り始めた。

 

 

「わっ、みんな起きたのかな?」

「みたいだな。ポイントの話を前々からしてたし、気になって早起きした奴が多いんだろ」

「うーん……やっぱり皆んな83000ポイントって報告してるね」

「取り敢えず、朝にチエちゃん先生から説明ある筈だから落ち着いて学校に行けって返しとけ。俺らに詳細訊かれても答えらんないしな」

「だね」

「ちなみにCクラスの生徒から連絡が来たんだが、49000ポイントらしい」

「……クラス順で綺麗に並んだね」

「クラス毎の選考基準があったって事か。後は……小テストの結果か?」

「小テスト……そっか、成績表には反映されないって点で夜白くんは疑問を覚えたって言ってたね。その分のポイントがプラスされたって事かな」

「確証はない、が。多分マイナスじゃねぇかな」

 

 

 空崎の返答に、一之瀬は真っ直ぐに向けていた視線を彼に移す。

 

 

「マイナス?」

「仮の話だが、早い段階でポイントの変動についての情報が全クラスに共有されていた場合、減少はかなり抑えられるだろ? そうなるとクラス毎の差が開きにくい状態になる。クラスの選考基準を定めてる学校側からするとそれは望まない展開だと思ってな」

「……なるほど。平均成績の順位によって、マイナスされる量が変わる仕組みって事か。プラスにしなかったのは、万が一でも10万ポイントを超えないようにする為……なのかな」

「さっきも言ったが、確証はない。チエちゃん先生にしとく質問は今の内に纏めといた方がいいぞ」

「そうだね。……ペース上げる?」

「ああ」

 

 

 話し合いを打ち切り、ウォーキングからランニングに変える。

 空気を取り込み、吐き出す動作を繰り返しながら、ホームルームの時間にするべき質問を考え始めた。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「───さて、出席確認はオーケー! じゃあお待ちかね……何か質問はあるかな?」

「はい」

「神崎くん、どうぞ!」

「今朝振り込まれていたポイントは83000でした。どのクラスも減少されていると聞いています。やはり、成績がポイントに反映される……という認識でよろしいんでしょうか?」

「その通り! 君達は一週間でその事に気付いたわね? 感心感心。先生いつ核心を突いた質問がされるか戦々恐々としていたわ」

 

 

 おちゃらけた態度で告げているが、空崎はその発言が事実である事を理解している。

 最初に10万ポイントが毎月支払われるかについて質問した時もそうだが、一之瀬がホームルームの時間を買い取った時なんかはかなり焦りが見えた。感情を読み取れる空崎でなくとも察しの良い人物なら気付けるくらいには、だ。

 

 

「先生、私からも幾つか質問があるのですが……」

「慌てなくても大丈夫よ、一之瀬さん。1年生のこの時期は必ず時間を取ってるから、ホームルームのチャイムが鳴っても余裕があるわ。幾つかあるなら、先にこっちの説明を終わらせてもいいかしら?」

「それなら、はい」

 

 

 星之宮が手にしている筒を持ち上げながら問い掛けると、一之瀬はホッとした様子で頷く。

 ニッコリと笑みを見せた後、星之宮は筒の中に入っていた白い厚手の紙を取り出して、磁石で黒板に止める。

 

 

(Aクラス940。Bクラス830。Cクラス490。Dクラス0。なるほど、やけに振り込まれたポイントの端数が綺麗だなと思ってたが、成績=配布ポイントじゃなくて成績×100をポイントとして配布する形なのか。……帆波に任せるつもりだったけど、内容によっちゃ俺が質問する必要があるな)

 

 

 端数切り捨て、或いは四捨五入の可能性を考えていたが、そうではなかった理由に空崎は納得を示す。

 

 

「察してる子も多いと思うけど、これは各クラスの成績。ここに載っている数字をクラスポイントと称して、ここから×100をした数値が皆んなに配られる、プライベートポイントと呼ばれるポイントになるわ」

 

 

 全員が静聴し、続く言葉を待つ。

 

 

「クラスポイントは振り込まれるプライベートポイントの連動だけじゃなくて、さっきも言った通り成績としての反映。仮にBクラスが941ポイントを有していた場合、Aクラスへと入れ替わる。そしてその意味は……まあ既に一之瀬さんから周知されてるわよね? ご明察通り、望んだ就職を100%叶えられるのはAクラスのみの特権になるからです」

 

 

 予想していた事もあって、驚きは大きくない。だが改めて学校側から断言される事で僅かなどよめきが起こる。

 

 

「騙すような形になっちゃってごめんなさい。けれどこの学校はそういう方針で生徒の実力を証明させるということを、どうか理解してほしいの」

 

 

 星之宮は本心から申し訳なさそうに謝る。

 学校の方針と守秘義務があったとはいえ、騙し討ちにも似たやり方には罪悪感があったのだろう。

 

 

「さて……Sシステムの詳細はこれで終わりになります。それじゃあ一之瀬さん、質問をどうぞ」

「あっ、はい。えっと、それじゃあ……具体的に、どの様な行動がマイナスになるのかを訊いても良いですか?」

「ごめんなさい、減点となる詳細については生徒に明かせない事になっているわ。仮にプライベートポイントを支払ってもね。この辺りは月毎のクラスポイントの動きで推測するしかない……って答えとくわね」

「では、ポイントが加算される───具体的には100ポイント近く動く様な事は、今後行われるのでしょうか?」

「それも詳しくは答えられません。……意地悪してる訳じゃないのよ? 規律上、中立の立場を保つ為に答えられない質問というのはどうしてもあるの。担任であってもね。答えられる範囲で答えるとなると……ポイントが加算されるタイミングは確かにある、という事くらいかしら」

 

 

 星之宮 知恵という教師は生徒にかなり寄り添うタイプの人物だ。

 それでも線引きはしっかりとしており、曖昧な答えになってしまう事に申し訳なさそうな顔をしながらも、返答はハッキリとしていた。

 教室に監視カメラがある事を考えると、情報漏洩は直ぐにバレる。教師にもペナルティが発生するとなれば、中立の立場を徹底するのは当然だろう。

 

 下手に詰め過ぎると担任としての立ち位置が危うくなる。

 一之瀬はそれを察し、追求は避けて質問を続けた。

 

 

「じゃあ……クラスポイントに、上限はあるのでしょうか?」

「いいえ、ないわ。初期値が10万───つまりは1000クラスポイントだった事からの質問ね? 1000はあくまでも入学を果たした皆の公平な価値と可能性を示したもの。実力を証明する事で、1000以上のクラスポイントにすることも可能になるわ」

「……分かりました。私からの質問は以上です」

「はーい。じゃあ、他に質問のある子はいるかな?」

 

 

 星之宮が教室全体を見渡している最中、一之瀬は空崎に対して視線を送る。

 一之瀬はクラスの事を考えた質問内容を主にしていたと言える。内二つはまともに答えを得られたかと言われれば否となるが。

 彼女なりに考えた結果の内容。とはいえ、これは些かクラス内での事にばかりフォーカスを当てていると言わざるを得ない。

 

 

(まあ、順当な積み重ねの方法だけを模索するなら、帆波の質問だけでも充分なんだが……もう少し踏み込んだ質問をするか)

「はい、空崎くん」

 

 

 一之瀬の視線に気付いた空崎は手を挙げ、星之宮の指名を受ける。

 

 

「チエちゃん先生、俺からは4つほど。質問その1。Dクラスは表記上0になっているが、超過のマイナスまで査定は存在するので?」

「それについては、答える事が出来ないわね」

「うん、まあそうか。じゃあ質問その2。クラスポイントをプライベートポイントで購入する事は出来るんすかね?」

「───可能よ」

 

 

 やはり、と。空崎は二つ目の質問で確信する。

 この先にポイントが大きく変動する“何か”があるからか、クラスポイントの増減についての具体的な内容について探る事は出来ない様になっているが。しかし、『プライベートポイントの使い道』に関してはかなり寛容に答えてくれる。

 

 Aクラスに上がるにはクラスポイントを増やすしか無いが、プライベートポイントはその副次結果というだけではない。

 かなり自由な使い道がある事をBクラス全体で共有する事が出来ただろう。

 

 

「ただし1クラスポイントにつき、1000ポイント×40人分×3年間のポイント配布回数が必要になるわ」

「つまり1クラスポイントにつき144万ポイントか。軽率に使えない様に1クラスポイントで配布されるプライベートポイントの10倍にレートを上げてると……。ちなみに、他クラスに買い与える場合でも同価格になる感じっすかね」

「……ええ、その通りよ。先んじてこれも伝えておくけれど、時期によって配布回数分の計算が減る、なんて事はないからね」

 

 

 Dクラスに買い与えればマイナス査定の確認が出来る。使用ポイントが低ければアリな手とも考えたが、現状のポイント残高では()()()()だ。

 急ぎで確認する必要もないため、Dクラスにクラスポイントを買い与えるという選択は消去した。

 

 

「じゃ、質問その3。上位2クラスのクラスポイントが同一の場合、クラスの成績順位はどうなるので?」

「その場合は暫定としてAクラスとしての経歴が長い方がAクラスとして評価されるわね」

「では付随して、卒業時点でクラスポイントが同一の場合は?」

「───万が一クラスポイントが同一の場合、それまでの授業態度や問題行動による減点が大きい方が下位に沈む事になるわ」

「現段階で差がついてる時点で同率1位にはならない様になってると」

「ええ」

 

 

 ───()()()()()()()()()()()()()()()()。つまりは十中八九そうならないという事だ。事前に何かしらの調整が働くという想定で良いだろう。

 また仮にプライベートポイントでクラスポイントを購入し同率に調整したとしてもAクラスの特権を受けれるのはあくまでも1()()()()()()という事がハッキリとした。

 

 

A()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、色んなクリア方法を模索してたけど、大半の計画は頓挫しそうだな。まあいい、本命は最後の質問だ。これが無理だとプライベートポイントを大量に獲得する理由が無くなるんだが……)

 

 

 次の質問はプライベートポイントの使い道の確認。ハッキリと答えが返ってくるだろうし、おそらく唯一の抜け道だろうから可能だとは思うが。

 空崎は「漸く終わりそうね」とホッとしている様子の星之宮に向かって、最後の質問をする。

 

 

「質問その4───クラス移籍の権利をプライベートポイントで購入できるか否か」

 

 

 この質問は想定外だったのか、星之宮は回答に詰まる様子を見せた。

 

 

(正直あとで個人的に訊いても良い内容なんだが、俺ってチエちゃん先生……というか教師陣から薄ら苦手意識持たれてるっぽいしな。はぐらかされても面倒だし、今の内に答えが欲しい。じゃないとここ1ヶ月の準備期間が無駄になりかねない)

 

 

 さて、答えてくれるだろ───? と、全てを見通すかの様な赤い瞳が妖しく光る。

 こういった部分が苦手意識を持たれる理由なんだろうなと内心で思いつつ、返答を待った。

 

 

「……2000万プライベートポイントを支払う事で、クラス移籍の権利は買えるわ」

「2000万か。思ったより高かったな。オッケーっす、俺からの質問は以上で」

 

 

 緊張を抱え強張った表情で星之宮は答えを返す。

 個人では実質不可能な金額を提示されたと言って良いが、空崎はあっさりと受け入れて質問を終わらせた。

 

 星之宮は時間を確認した後、表情を整えて用意していたもう一枚の紙を黒板に貼り付けた。

 そこにはBクラス全員の名前と、横に“点”を単位とした数字が並んでいる。先月末に行われた小テストの結果だろう。

 

 

「時間も少なくなってきたから、ざっくりと説明するわね。これは皆んなの小テストの結果で、クラスの平均点は約80点。簡単な問題がメインだったけれど、全員が合格点を超えていてホッとしているわ。ちなみに赤点だけれど、()()()()()()()40点未満がアウト。赤点になった生徒は即退学となります」

 

 

 本日の中で、最も大きな騒めきが教室に起こる。

 

 

「ほ、補習とかは無いんですかっ?」

「無いわ。この学校で実力を証明するというのはそういう事。でも次の中間テスト、必ず赤点を取らずに乗り切れるって私は確信してるから、頑張ってね!」

 

 

 必ず乗り切れる───その言葉に、空崎は思わず身体を硬直させた。

 

 

(え、今の発言って()()()()()()だよな? マジかぁ、一昨日過去問貰う時にやたら学パイセンが警戒してたのってそれが理由か……意図しない形で答えを得ちまった。一応あとで小テストの方も貰えないか交渉しとくか)

 

 

 無論、プライベートポイントによる答案用紙の購入や問題の詳細を購入という線もあるのだろうが。

 しかし過去問を要求したことへの相手の過剰な反応を考えれば辻褄が合う。

 

 小テストの大半は中学生でも解ける様な問題だったが、最後の3問だけは高1で習う範囲を超えていた。

 黒板に張り出されている空崎の名前の横に100点が記されている事から、空崎自身には大きな支障とはならないのは一目瞭然。しかし他生徒に関しては別。それは平均点が80である事実から改めて確信した。

 中間テスト以降でも同様に高一の範囲を超えた問題が出ないかの傾向を探り、クラスメイトの為に対策を立てよう───というのが、過去問を入手した経緯だったのだが。

 まさか過去問が答えそのものだったとは、と。空崎は苦笑する。

 

 星之宮が教室から出ていくと、一之瀬が空崎に近付いてくる。

 ───酷く青褪めた表情で。

 

 

「夜白くん……」

「え、どうした帆波。やけに顔色悪くね?」

「く、クラスを移籍するの? 何か嫌な思いさせちゃったかな……?」

「は?」

 

 

 突拍子もない質問をされた。

 そう認識した空崎は呆然と声を溢す。

 一之瀬からは“動揺”と“焦燥”の感情が強く表れており、悲壮感が漂う空気を纏っていた。

 そして程度の差はあれど、周囲も似た様な状態。

 

 瞬間的に思考したのは『自分が何かしたか』ということ。

 そして一之瀬の発言から、思い至ったのは───

 

 

「……いやいやいや違うそうじゃない、さっきの質問はそういう意味じゃねぇよ!?」

 

 

 普段の飄々とした態度とは裏腹に、本気で焦った表情で弁明を図る。

 クラス移籍の権利をプライベートポイントで購入出来るか否か───クラスにいる生徒達が大小はあれど同じ感情を浮かべているのは、前述の質問から『空崎がクラスを移籍しようとしている』という考えに至ったからだろう。

 

 

「まあ、うん、俺の質問の仕方が悪かったけどな? 別に俺自身がクラス移籍しようとは考えてない」

「本当……?」

「本当に。マジで。really」

「……なるほど、逆という事か」

 

 

 取り敢えず一之瀬を落ち着かせる事を最優先に言葉を紡いでいると、神崎が納得した様に呟く。

 「逆」という言葉から神崎が正しく認識してくれた事を理解し、空崎は安堵の息を吐く。

 

 

「そう、その通りだ隆二」

「ど、どういうこと?」

 

 

 余程ショックが大きかったのか、普段ならば気付けるだけの頭のキレが一之瀬から見られない。

 神崎に説明させると「言い訳に利用した」と思われる可能性もある為、空崎は自ら意図を話す事にした。

 

 

「つまりな、他クラスから生徒をウチに移籍させられないかって考えたんだよ」

「……あ、そっか。他クラスの戦力ダウンと共に、Bクラスの強化も図れるから」

「そういう事だ。まあAじゃなくBに移籍させるだけの旨みを提示する必要があるし、スパイのリスクも生じる。諸々を吟味してからじゃないと2000万が無駄になりかねないから慎重に動かないとだけどな」

「そもそも2000万って、たぶん個人じゃ貯められないもんね」

「……不安なら全額を帆波に渡すが?」

「い、いいよいいよ! というかアレだけクラスの為に情報を集めてくれたのに、変な疑いを持っちゃってごめんなさい!」

 

 

 ───そこは自分にも非があるだろうな。と、空崎は苦笑した。

 情報集めに動いていただけでなく、個人的な事情から放課後の付き合いというのが皆無と呼べる状態だったからだ。

 プライベートが見えないと信頼関係というのは芽生え難い。何より、空崎は自身の中で計画を溜め込んで必要な時以外に話さない傾向がある。

 腹の中に何かを抱えている人物を疑うなという方が無理な話だ。

 

 空崎としては話せない理由があったのだが、先ほど星之宮に対して行った質問により計画実行の目処が立った。

 後ほどこれについて話すべきかと内心で思っていると、突如神崎が思案する様子を見せつつ言葉を溢す。

 

 

「プライベートポイントを預けるというのは、良い案かもしれんな」

「あの、神崎くん……そこまでしてクラスに縛りつけると逆に───」

「落ち着け一之瀬、さっきから頭が回ってないぞ。ちゃんと説明する。俺が言いたいのは、クラスの為に使うプライベートポイントを一箇所に纏めるべきではないか、という事だ」

「お、やるな隆二。その案をもう思い付くとは」

 

 

 神崎の提案に対して空崎は関心を向けた。

 一之瀬が多少不安定な部分を見せても彼の様な存在がいるならばBクラスはそう簡単には崩れないだろう。

 

 

「減ったとはいえ83000ポイントはかなりの額だから日常生活で使い切る事は無いだろう。プライベートポイントの有用性が分かった以上、貯金は無駄にならない筈だ。……というか空崎、口振りからして以前から気付いていたな?」

「すまん。チエちゃん先生の説明が終わってから提案するつもりだったんだが、帆波がすごい狼狽えるもんだから俺も動揺した」

「……あまり揶揄うと怒るよ?」

「揶揄ってるつもりは───アッハイスミマセン…」

 

 

 一之瀬が調子を戻せる様に普段のやり取りを心がけて言葉にしていたが、周囲(主に女子)から向けられる冷ややかな視線に即座に謝罪した。

 こういう時の女子の心境というのは同性の方が分かっている筈だ。わざわざ敵に回す必要はあるまい。

 

 

「まあ、そんな訳だ。今すぐとまでは言わんが、俺としてはやった方がいいと思う。入り用の時は引き出す形でな」

「そうだね……。預け先はどうしようか? 星之宮先生に頼んでみる?」

「中立の立場が崩れかねない。俺としては一之瀬に頼みたいところだが」

「隆二、専用の端末を購入するのもアリだと思うぞ。プライベートポイントで買えるのは情報もだ。生徒用の端末に紐づくやり方だと帆波が大量にポイントを稼いだと思われて、変に探られる可能性がある」

「……その手があったか」

「情報リテラシーの観点で考えると本人の許可が下りないと開示は無理だと思うが、一応な。専用端末を持つのは帆波でいいと思うぜ」

「ちょ、ちょっと待ってね二人とも」

 

 

 神崎の提案を空崎が補足する形で話を進めていると、一之瀬が慌てた様子で止めに入る。

 神崎はその様子に疑問を浮かべていたが、空崎は「そういや前提を忘れてた」と周囲を見る。

 

 

「勝手に話を進めちゃってごめんね、皆! 神崎くんの言う通り、プライベートポイントの有用性はかなり高い事が分かったから、クラスの為に使う分を確保しておきたいって私も思う。もちろん強制じゃないし、預ける預けない、預ける場合の額なんかは本人の裁量に任せる形にします」

 

 

 顔色の悪かった表情はすっかり整えられ、声もハッキリとしている。

 リーダーとしての立ち振る舞いを意識し、一之瀬は周囲に語り掛けた。

 

 

「大きな額が動く場合はクラスへの報告もするし、預かったポイントはいつでも引き出せる様にする。専用の端末を確保したら改めて募るから、預けても良いよって子はその時にお願いね!」

 

 

 片目を閉じ、両手を合わせてお願いすると、クラス全体から同意の声が上がる。

 

 手元にあると軽率に多く使ってしまいそうだから寧ろ有り難い、と。

 一之瀬なら安心して預けられる、と。

 帆波ちゃんになら全額渡すよ、と。

 

 同意を得られた事に安堵して───最後の発言だけは流石に慌てて「そこまでする必要はない」と訂正させ───一之瀬はホッと息を吐く。

 

 

「一之瀬銀行が立ち上がったな。次は一之瀬ブランドで何かしら制作するか?」

「しないよっ?」

「……爽やかなストロベリー系の飲み物を作って販売するのはどうだ?」

「良いね、それある〜」

「ないよ! 神崎くんまで悪ノリ始めちゃった!?」

 

 

 どうやら調子を取り戻し始めたらしい。

 そう判断すると即座に言葉選びで遊び始める空崎に、珍しく悪ノリする形で生真面目な表情なまま提案する神崎。

 ビックリした様子で一之瀬は突っ込み、「もぅ〜」と溢しながら次の授業の準備をしようと自身の席へと戻り始める。

 

 

「……夏場に合わせて色合いは薄めつつ、フィズ系の飲み物にする感じなら受けそうだな」

「え、本当に開発しようとしてる……?」

 

 

 なお神崎は悪ノリではなく本気で考えていた。

 

 

 

 

 

 






Tips. ✍︎
 空崎は男子に対して名前呼びがデフォ。女子だと距離感を測るために苗字呼びから入るが、会話の中で大丈夫そうと判断したら名前呼びか愛称に変化する。
 実名登録のチャットツールで海外の人と会話する事が中学までは非常に多く、その際に名前呼びの方が普通という感覚が馴染み深くなっていたのが理由。
 現時点でBクラス内の生徒は全員名前か愛称呼び。

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