Q.ノゲノラ 『 』本人じゃないの?
A.あのヒキニートがマトモに学校通えるわけないし、高育は飛び級とか多分無理だから白の年齢的にも本人達はキツい。かなりテコ入れが必要になりそうだからいっそ似た別人にするべきと判断した。
Q. クラスポイントをプライベートポイントに換えるとかはどうなん?
A.原作的にも無理だし、今作設定でも無理。あくまでも自由度が高いプライベートポイントだからクラスポイントを購入出来るってだけ。一応オリジナル設定だけど今後に活用される事はない。
4クラスが同率Aクラス判定可能なら卒業前に調整する計画を立てていた事を示唆する為だけの設定。
Q. こいつと綾小路が対面したら果たしてどんな会話をするのか…
A.本格的に関わるのはクラス内投票辺り。偶に会話は挟むかも。
もしDクラスルートを辿ってたら「こいつ内面がかなり面白いな?」で普通に友人となっていたし、綾小路も最初からある程度は実力を発揮してた。
日間ランキング2位!
ありがとうございます!!
「じゃあ夜白くん、説明してもらおうかな」
「ウッス」
───場所は空崎の部屋。目の前の一之瀬は笑顔を見せ、生徒用とはまた別のクラス貯金専用の端末を掲げながら問い掛ける。
その作られた満面の笑みは「テメェ幾つ秘密抱えてんだこの際全部話せやコラ(要約)」と語っている様で、空崎は大人しく返事をした。
キッカケは、貯金用の端末を確保してから直ぐの出来事。
クラスのほぼ全員が2〜4万ほど自身の端末に残した上でそれ以外のプライベートポイントを一之瀬へと渡していた最後、空崎もプライベートポイントを専用端末に送ったのだ───『19万』という額を。
Bクラスに配布されたプライベートポイントは、4月と5月を合わせて183000ポイント。体育の授業で行われた水泳で僅かながら臨時収入を得られる機会はあったが、空崎はそれを獲得していないし、何より合わせたところで19万には届かない。一切合切ポイントを使用していなかったとしても。
つまり一見で直ぐに「何かしらで稼いでいる」と思わせるには充分な額だった訳だ。
無論それだけで一之瀬は問い詰める様な真似はしない。その場では「こんなに預けなくて良いんだよ?」と苦笑で驚愕を隠して周囲には誤魔化していた。
そして改めてこのポイントについて語ろうと個人チャットで話を持ち掛け、空崎の部屋に招待された訳だ。
そして目にしたのは───明らかに使用金額が数十万は超えていると思われる機材の宝庫。
大きいデスクトップ数台とPC本体、据え置きゲーム機、ゲーミング用のテーブルとチェア、簡易防音室に印刷機に空気清浄機───etc.
これまで一度も見る機会のなかった空崎の部屋にはこれだけの機材が隠されていた訳だ。
───さて。ただでさえ配布ポイントよりも多い額を渡された上、部屋に通されこの様な機材の宝庫を見せられ、恐らくは何か企んでいる背景が推測できると判断したらどうなるか。
一之瀬はキレた。
怒りからではない。
別に空崎が何を企んでいるかは良いのだ。クラスの為となる行動を取っていると理解しているし、企みを腹の内に隠したままならば。
だがこうして明かすのであれば、突如として一端をチラ見せするのではなく、結論だけでも密かに先に教えてくれないだろうか。そうすれば心の準備も出来るのだが───そんな切実な思いからくるキレだった。ご尤もである。
「と、取り敢えず稼ぎの手段から言うぞ。ゲームだ」
「eスポーツってやつ?」
「ああ、厳密にはそれだけじゃないけどさておき。現状はオンラインでも可能なオープン型と招待開催のみ。プロの方はライセンスの条件こそ満たしたけど、現場にも出る必要があるから公欠且つ監視付きを認められてからになるな。
空崎は現在のプライベート残高を端末に表記させ、一之瀬に見せる。
「ひゃ、140万……」
「プライベート用のゲーム設備環境で80万と、学校に稼ぎ専用の設備を整える分で50万使ってるから……後は帆波に渡した分を合わせると、ざっくり300万くらいは稼いだかな。内70万くらいは上級生に賭けを申し込んで貰った奴だけど」
「それでも230万……ゲームってこんなに稼げるの?」
「大会次第。eスポーツの世界大会だと総額で100億以上動くって聞いた事あるな」
「ひぇっ」
億単位の話が出た瞬間、一之瀬は驚愕を通り越して恐怖の感情を表に出した。
だが疑問を覚えた部分があるのか、「あれ?」と首を傾げて問いかけた。
「外からのお金ってプライベートポイントに変換して良いんだっけ……?」
「良い悪い以前に原則不可能だ。外部との連絡手段が無いし、入学前から可能だとSシステムの公平性が無くなるからな」
「だよね」
「が、在校中に稼いだ金に関しては別……
空崎は元々部屋に備え付けられていた机の上にある簡素な本立てに掛けているファイルを手に取り、その中から一枚の紙を取り出す。
それは契約書のコピーだった。
一之瀬は受け取り、その内容を確認する。
要点を抑えると、
・監視付きを条件にゲームの大会に参加する事を許可する
・監視を務めた教師に都度1万のポイントを支払う(休日対応時は最大1万まで追加する)
・大会賞金の3割を高度育成高等学校に寄付する
・残りの賞金をポイントに換金し空崎 夜白の端末へ入金する
・人員不足や急務以外を理由に監視を反故にした場合、高度育成高等学校は空崎 夜白に対し、それまでに稼いだ金額から想定される3年分に値するポイントを支払う*1
・また人員不足や急務を理由に反故にした場合でも、虚偽と判明すれば上記と同量のポイントを支払うこととする
これが契約の内容だ。
「口八丁でな。「在学中に生徒が自主的に実績を残す行為は良い行いである筈です。能力を活かし、それに応じた正当な報酬を受領出来ないというのは、高度育成高等学校への不信を積もらせる事になります」と───まあ他にも色々言ったけど、結果的に職員会議に通して承認を貰ったぜ」
「言ってる事自体は正しいんだけど、それを夜白くんが言うと胡散臭くなるの何でだろう……」
「……口調を取り繕ってるから?」
「それだ。だって夜白くんの敬語って違和感すごいもん。教師相手でも先輩相手でも崩してるから」
「流石に俺も然るべきところと相手じゃ敬語使うけどな……?」
飄々とした態度と空気感が余計にそう認識させるのだろう。
一之瀬が納得した様子で何度も頷いているのを見て、空崎は咳払いを一つ。
「それで、本題なんだが……」
「えっ?」
「俺が資金を稼いで、それで何がしたいかって話だ。ある程度の目処が立ったし、これに関してはBクラス全体が他人事じゃ無くなるからな。独断でやる訳にはいかない」
「……かなりスケールの大きい話になるって事だね」
「ああ」
少なくともこんな事をやったクラスは過去になかっただろう。目論見だけなら、もしかしたら居たかもしれないが。
だが歴代最高の生徒会長と言われているらしい『堀北 学』が存在する学年で近い事例すら起きていない事を確認する限り、事実上不可能な出来事だとは分かっている。
だからこそ、この
「俺の計画は─────」
その内容を一之瀬へと告げる。
全容が明かされ、彼女の目は大きく見開かれた。
「……それって、可能なの?」
「一つだけ確認する必要はあるが、恐らく可能だ。この確認事項に関しては無きゃダメって訳じゃ無いから多少の損は覚悟で切り捨ててもいい。
対等な条件を前提にした契約書をこの1ヶ月で何度か試し、その全てが承認された。教師陣にも、先輩相手にも。
様子からして同意さえあれば多少の理不尽すら通るだろうが、それをする必要はない。
このクラスのリーダーは『一之瀬 帆波』であり、その方針に逆らう真似はしないと決めているからだ。彼女の信頼は武器であり、それを削ぐ訳にはいかない。
空崎がそう言い放つと、一之瀬は机に伏せながら言葉を紡いだ。
「ほへぇ〜……凄い事を思いつくもんだね、君は」
「……随分お疲れだな?」
「んー、そうだね。ちょっと出来事が重なって、キャパオーバー気味かも」
───そこまで疲れるような事があっただろうか?
空崎は首を傾げながら頭を回す。
直近での出来事と言えば、やはりSシステムの全容が改めて明かされたこと。しかしこれは前々から勘付いておりある程度は想定の範囲内だったため、クラス内での相談事はそう多くなかった筈。
中間テストの件は筆頭に上がるだろう。上級生の様子からして退学になる可能性は充分に考慮していたが、赤点で一発アウトは初耳だ。ともすれば勉強で必死になるのは無理もない。
しかし空崎の把握している一之瀬の行動から推測出来るのはその程度。後はこれまで隠していた計画について知って───という事も考えられるが、それだけで一之瀬が弱るとは考え難い。
本人が自覚している以上に、彼女のバイタリティは目を見張るものがあるからだ。
「夜白くんは、Cクラスから何か嫌がらせとか受けてない?」
「……嫌がらせ?」
だが、自身が把握していない出来事を問われ、空崎は思わず同じ言葉を返す。
その様子からして事情を把握していない事に気付いたのだろう。一之瀬は苦笑しつつ、内容を詳しく説明し始める。
「ちょっと前からね、Bクラスの皆から相談を受けるようになったんだ。教室に戻る最中に絡まれたりとか、私への悪口をCクラスの生徒から言われたって。私の所感で申し訳ないんだけど……それが徐々にエスカレートしているように感じるんだ」
「ほう」
「暴力を振るわれた、とかは無いんだけどね。というよりも寧ろ、こっちに手を出させようとしてるんじゃないかって、言動の節々から受け取れる……気がする。ごめん、感覚的な話ばっかになっちゃうんだけど」
出来るだけリーダーとして自分にやれる事を、そう判断して対処していたのだろう。
空崎は放課後、19時辺りまでは校舎内に残る事が多いので、その事情に絡む事も無かったし、先ずは一之瀬に話を持っていく様に統率されているのかクラスメイトの会話に現れる事も無かったから気付かなかった。
「帆波、立場に重みを感じたら……とは言ったけど、別にクラスメイトとしての相談に乗らないとは言ってないからな?」
「へ?」
「そういうのはもうちょい早く相談して欲しかったって事だ」
変に意固地というか、義理堅いというか。
リーダーとしての役割は説いたが、重荷を抱えて耐えろなどと言ったつもりは無いんだがなぁ……と。
善意が時折不器用になる一之瀬に、空崎は思わず笑ってしまう。
「しかし、なるほどな。Cクラスのリーダーはその手を打ってきたか」
「何か狙いがあるの?」
「ああ。帆波の感性は正しいと思う。恐らく、どの程度の嫌がらせで学校側が干渉してくるかを確認したいんじゃねぇかな」
「……目的は、ペナルティの確認?」
「おっ、勘付いてはいたんだな」
「なんとなくね。ほら、学校ってペナルティの詳細については明かして無いでしょ? その確認の為に動くクラスはいるんじゃないかな……って。デメリットもあるから本当に行動に移すとは思ってなかったけど」
「その辺は高育の嫌らしい所だな」
「……この学校の?」
行動している加害者ではなく。
学校側の問題だ、と。そう冷めた目で告げる空崎に一之瀬は瞠目する。
それもそうだろう。高育側はイジメ問題に対して敏感だと明言しており、事実至る所に監視カメラが存在している。
流石に更衣室やトイレまでは設置されていないが、充分に考慮された状態と言える筈だ。
空崎は契約書を取り出したファイルとはまた別のファイルを手に取り、その中の全ての紙を抜き取る。
それを一之瀬に渡すと、彼女は一枚目を一目通した瞬間に驚いた様子で空崎へと視線を送った。
「これって……」
「ああ。校舎までの道のりと、校舎内各階層の見取り図面。それと監視カメラの配置場所だ」
「簡易的な物は入学時のパンフレットにあったけど……うわ、距離まで書いてある。あまり意識してなかったけど、寮から校舎までってこれくらいなんだ」
寮から校舎までの道のりにサッと目を通し、2枚目、3枚目と捲り、校舎の見取り図面を確認した瞬間に一之瀬の手の動きが止まる。
「……これ、監視カメラで良いんだよね?」
「ああ、絵が分かりにくかったか? 一応1枚目に説明書きはしてるが───」
「ううん。寧ろビックリするぐらい分かりやすいんだけど、そうじゃなくて。監視カメラの……レンズ? からのこの線って、映してる範囲を示してるんだよね? 映せてない範囲が、結構ある様な。……え、こことかそもそも置いてない……?」
「……気付いたか」
「み、見逃しとか見誤りとかじゃ……」
「そんなミスはしねぇよ。監視カメラは特注品って訳じゃ無かったから、メーカーから性能は割り出せる。その上で確信を伝えるぞ? 高育は
「……なんの為に」
「帆波が薄々勘付いている通りだ。後ろ暗い事を行うなら上手くやれ───と、学校側が暗黙の了解として伝えてるんだよ」
そしてCクラスのリーダーはそれに気付いた。
現状はペナルティの探りを入れてる段階だから、監視カメラの有無はそこまで気にしていないだろう。寧ろ確認をする為なら監視カメラに入っていた方が都合が良いとまで言える。
本命は、ペナルティが判明した後。そのペナルティを他クラスに食らわせる為、監視カメラのない場所で何かしらの画策が行われる筈だ。
空崎はそれを責めるつもりはない。
何なら入学1ヶ月足らず───Sシステムの全容が明かされてからまだ数日で、よく行動を起こせたと感心しているくらいだ。
仮に自身のクラスから被害が出たとしても、対策もなく手を出したのであれば加害はこちら側。その場合は甘んじて受け入れるしかあるまい。
「そんな……」
「因みに、何回か増設の申請はしてるがいずれも不発。確信の理由はそれだ」
おかしいのは高育側だ。
包丁で人を刺しても、包丁もそれを作った人も悪く無い。悪いのは刺した人、なんて事はよく言われるだろう。それに関しては納得のいく文言だ。
しかし、この包丁は人肉に通しやすく殺し易く出来ています───なんて説明が為されていれば、当然メーカー側に責任が生じる。
高育はどちらかというと後者の状態だ。ただのミスならばまだしも、意図的に状況を作り出し、気付く生徒が居ても対応すらしない。
Aクラスに優秀な人材を集め、Cクラスに不良と呼べる様な生徒を集めている傾向からして、高育側としては『Aクラスに正道を貫いてもらい悪意に強くなってもらう』という方針なのだろうとは推測出来る。
が、これでは些か悪意が有利に働き過ぎる。どれだけ上手く悪意を使えるか、が手段として横行してしまうだろう。
せめて『気付いた事もまた実力である』というのを認め対応してくれれば話は変わるのだが。
「まあ安心しろ。この問題に関しては最優先で取っ掛かるから」
「えっと、この問題に関しては学校側に要求出来ないんだよね? ならどうやって」
「簡単な話だ。
「……、……あっ。そっか、監視カメラって普通に売られてたね!」
「そゆこと。最近の監視カメラは工事不要なものも多いからな。人感センサーで即バックアップ状態にすれば、無理に取り外した時に訴えられるのは学校側になる。自衛のために仕掛けたのに学校側がそれに反しちゃ、イジメに加担してますなんて言う様なもんだからな。生徒が手を出しても器物破損だ」
「クラス貯金から出す? こういった事情なら皆も納得してくれると思うけど」
「んー……いや、これに関しては個人で買わせてくれ。設置の際に人員を出す様にお願いしてくれれば助かる」
「もちろん、皆も喜んで協力すると思う。……でも本当に良いの?」
「どっちにしても夏場までは掛かりそうなんだよ。高育内だとクラウド保存が出来ないから、何十台のカメラを数ヶ月単位で履歴の遡りを可能にする場合、本体以上に保存用の容量圧迫による費用負担がエグくなりそうで……」
「……?」
空崎が遠い目で説明を行うが、一之瀬は首を傾げて疑問の表情を向ける。
この辺りは実際に触れてみないと分からない感覚だ。懇切丁寧に説明すれば理解が及ぶだろうが、さほど重要な話でも無いので打ち切る事にする。
「あー、うん。細かい話は置いとこう。それよりも目下すべき事があるからな」
「そうだね。ペナルティ覚悟でやってきてるCクラスの対応は、監視カメラがあっても難しいだろうし……」
「監視カメラ下なら明確な問題行動までは起こさない筈だ。基本二人以上の行動を心掛ける事と、端末のボイスレコーダー機能を直ぐに使える状態にする事は徹底させる様に皆に伝えてくれ」
「分かった。……あ、この監視カメラの死角が載せてある情報は送っても大丈夫? 気を付ける場所は共有した方が良いと思うんだけど」
「大丈夫だが、他クラスにはバレないようにな。少なくとも夏場までは監視カメラ問題が続くだろうし、悪用でもされたら俺の責任になる」
全くと言える程に情報が入らなかったのを考えるに、Cクラスが嫌がらせの対象としたのはBクラスだけだと推測出来る。対策用に渡す必要はあるまい。
それは一之瀬も分かっているのか、特に異論を唱える事なく頷いた。
「……それで? まだ他に何かありそうだな。溜め込み過ぎるのも良くないからこの際吐け」
「君が言う台詞じゃない───と思ったけど、夜白くんは負担になる抱え込み方じゃないもんね。……これは私個人の問題だから話すつもりは無かったんだけど」
はぁ、と。観念した様に溜め息を吐き、一之瀬は言葉を紡いだ。
「私ね、生徒会に入ろうとしたんだ」
「そりゃ物好きなこった。でも口振りからして入れた訳じゃ無さそうだな」
「うん……堀北生徒会長から断られちゃってね」
「ほう」
「特に具体的な理由を言われた訳じゃ無いんだけど、「お前は生徒会に入るべきでは無い」って。何がダメだったんだろうなぁ」
───なるほど、と。空崎は納得する。
リーダーとしての立ち回りと考慮、テスト対策の勉強会を主催、Cクラスからの嫌がらせに生徒会加入の拒否。
バイタリティに溢れた一之瀬でも心身負担が重なりキャパオーバーになる訳だ。
(心当たりはあるが、今の帆波がそこまで隙を晒す様には……いや、こいつの優秀さや社交性を考えるとBクラスなのはおかしい。高育以前で何かしら問題───そこまで探る必要はないか)
「帆波、ちょっと電話を掛けても良いか?」
「えっ? あ、うん。大丈夫だよ。……お暇した方がいい?」
「居てくれないと困るからそのまま待機してくれ。飲み物が切れたら適当に冷蔵庫から持ってきて良いからな」
空崎は端末を見せながら問い掛ける。
会話の途中で『電話を掛ける』という行為に一之瀬は動揺したが、決して意味のない行動を取る訳ではないだろう。気を利かせつつ返事をしたものの、空崎からは身振りで「座っててくれ」と指示される。
立ち上がる途中だった脚を再び割座へと戻し、コップに入れられた麦茶で口を湿らせる。
幾つかのコール音が鳴り、コンマ数秒の静寂。繋がった事を悟ると空崎は口を開き、一之瀬はその様子を伺う。
「もしもし学パイセン? 今時間大丈夫で? ちょっと訊きたい事が───いやちゃうっす、小テストの件じゃなくて。返せって言わないっすよ。納得した上で5万支払ったんだから。寧ろ発覚前なのを察したからって、その前に受け取ったこれまで2年分のテストを3000ポイントで済ませた事申し訳なく思ってるんで。───ああいや、本題はこれじゃなくて。帆波。一之瀬 帆波の件。───……え? 確かに一緒に俺の部屋にはいるけど。───ちげーよ不純異性交遊じゃねぇわ。アンタは他人のゴシップに動かず自分の方に───恍けてんのかガチなのか分かんねぇなオイ。まあそっちはいいや。帆波からは相談事受けてんの。ここまで言えば察するでしょアンタなら。───言いたい事は分かるよ? けど時間経って雅パイセンが生徒会長になったらどのみちでしょ。帆波も生徒会入れるなら入りたいっぽいし。なら今の内に雅パイセンの裏部分とか教えつつアンタのやり方を継承すりゃいい。───ああ、俺は変わらず入るつもりはない。でも退学者が増える方針は反対だから、帆波のフォローには入るよ。───ああ、時折手伝う形なら……いや生徒会的にそれは良いのか? ───派遣……どっちかというと幽霊部員に近い様な───いや文句はない、ないっす。じゃあそれでオッケーって事で。うっす。じゃあ失礼」
プツっ───。
「待たせたな。学パイセンからは改めて話をするから明日の放課後に───どした?」
「…………???」
突如猫耳と尻尾を生やして背後に宇宙を展開している様な錯覚を覚えるほど、一之瀬は混乱していた。
少しずつ、情報を纏めていく。
「えっ、と……今のは、堀北生徒会長? 連絡先交換してたんだね……」
「ああ、ちょっとした縁で」
「私、生徒会、入れるの……?」
「っぽいな。俺もちょいちょい手伝う流れになったけど。スケジュール的に大丈夫な日に限定して」
「……テストの件って?」
「あー……まあ良いか。本当はもうちょい後の予定だったんだが」
空崎は端末を操作し、小テストと中間テストの過去問が映る写真を送った。
「帆波もある程度は小テストの問題を記憶してるだろ? これは学パイセンから貰った、一年の時に受けた小テストの解答用紙だ」
「一致、してるね。……完全一致してる?」
「ああ。その上でチエちゃん先生の言葉を思い返してみよう。あの人はこう言っていた。「でも次の中間テスト、必ず赤点を取らずに乗り切れるって私は確信してるから、頑張ってね!」と。小テストの時とは違ってちゃんと高校範囲の問題ばかりだ。流石に違和感を覚えないか?」
「そう……だね。小テストの問題だと、高校範囲の実力は判断出来ないはず。最後の3問なんかは逆に難しい形だったし……確信は、違和感があるかな」
「だから次の中間テストは過去問と同じ内容になるんじゃないかと考えた訳だ」
「えっ。でもこれって、範囲が違くない?」
そう。一之瀬の言う通り、空崎の送った中間テストの問題と先日明かされたテスト範囲はかなり違う。
空崎は頷き、言葉を紡いだ。
「俺は別の事情で確信してるんだが……まあ帆波の主観からするとそうなるよな。だから本当は現時点で話すつもりはなかった。今は取り敢えずの仮定で良い。だが後日、チエちゃん先生からテスト範囲の変更と、再度確信めいた発言をしたら確定だと考えてくれ」
「……分かった」
一之瀬は返事を返すと同時に自分の後ろにある空崎のベッドへ背中から倒れ込む。
そして深く、深く溜め息を吐いた。
「はぁ───……」
「重い溜め息だな」
「こうもなるよっ。問題だと思ってた事が次々に終わるんだもん。もっと早くに相談すれば良かったなって気持ちと……これは別に、私自身の力で得た結果じゃ無いんだよっていう、変な喪失感」
「……別にどの問題も終わった訳じゃ無いぞ?」
「それは、そうなんだけどね。でも流されて、その場凌ぎだった私とは違って、夜白くんはハッキリと解決策を出してくれるから。やっぱり私がリーダーのままでいいのかな……」
自信を無くしつつある。
決して、リーダーとしての働きを怠っている訳ではない。彼女なりに思考を働かせて、出来る事はやってきている。
一之瀬 帆波は優秀だ。それは疑いようのない事実。
だが空崎 夜白の才能を目の当たりにした時、大抵の人々が
「なんでそう思う?」
「だって夜白くん、
───そう。
本人は「自分は一之瀬と比べるのも烏滸がましいと言えるくらいカリスマなんて無い」と宣っていた。
しかし実力と言い回しの上手さ、そして自信を崩さない飄々とした態度からして、その気になれば先導役は出来るのだ。
リーダーにカリスマ性を求めるのは当然だが、卓越した実力と結果を示せるのであれば、カリスマなんてものは些細な問題。
何より一之瀬が勘付いている通り───
彼女は、空崎が今どんな眼で自分を視ているのかを確認したく無いため、上半身だけ倒れ込ませたベッドの上でうつ伏せになりながら言葉を紡ぐ。
「……否定は出来ないな」
「もちろん、夜白くんには夜白くんの計画があって、リーダーとしての動きが出来ないから、この役割に就けないのは理解してるよ。でもそれは……私である必要が見つからない」
空崎は一之瀬の言葉が本心である事を把握し、思案する。
恐らくこの様子では、彼女自身が導いた答え───
毎度関与出来るわけではないので全てではないのだが。しかし、何度か誘導したのは事実。
───何も言わずとも、きっと彼女は明日には立ち直るだろう。
そして、
空崎は確信した。
それは、彼としては望まない状態である。
「……帆波は、自分が何でBクラスに配属されたか分かるか?」
「えっ」
「客観的に見て、お前は優秀だ。能力を考えればAクラスが妥当。だがBである事に心当たりは?」
「それは……えっと───」
「あー、いや。問い掛けといて何だが、答える必要はない。……俺は自分がBクラスである理由に心当たりがある。聴いてもらえるか?」
───だから、自分が彼女にリーダーで居て欲しい本心を話す事にしよう。
空崎の言葉に、一之瀬はうつ伏せをやめてベッドに腰掛ける。
恐る恐る、彼の瞳に眼を写し。
その赤色に熱が宿っており、穏やかな視線である事を把握して、肩の力を抜いた。
「俺な、小・中の時に友達いなかったんだよ」
「……そう、なの?」
「あー……正確にはモニター越しの
その気になれば友達なんて幾らでも出来そうだが───そんな一之瀬の思考を
「気付いてると思うが、俺は感情の機微を人一倍感じ取れる。他人の思考を見抜いてしまう。だから、踏み込み過ぎだって怒られた。合わせる事を覚えても、気を遣いすぎて気持ち悪いと言われた。小さい頃は
「……」
「画面越しの相手は楽だった。大人相手だったし、言葉だけなら比較的普通に接する事が出来る。放課後は直ぐにゲームやチャットに没頭したよ。だから学校に友達なんてのは出来なくて当然だ」
───別に、それが辛かったなんて感情は抱いてなかったが。
コミュニケーションを取らず、友人を作らなかったこと。言わば社交性の部分が評価を落とした理由なのだろうと、空崎はBクラスに配属された理由を話す。
「そんで多分、このクラスじゃなかったら……俺はその時のまま、友達は作らずに居たんだろうな」
「……え?」
「いや、正確には───あのバスで帆波と話してなけりゃ、ぼっちを貫いてたと思う」
想定外の言葉を放たれ、一之瀬は驚愕に固まる。
確かに空崎は放課後、一人で居るが。
しかしクラス内に居る時は、飄々と誰でも会話を弾ませている彼が───? と。
「『鬱屈と憂鬱を晴らしてくれた敬愛すべき女神』なんて冗談半分で言ったけど、半分は本音だ。あんな打てば響く様な会話を繰り返してたら、友達で居たいって思っちまうよ」
「あの……褒められてるの? これ」
「褒めてる。いやもう愛してるまであるねこれは」
「愛っ!?」
「信仰心というものに理解が及んだ気がするよ。時代が違えばお前は信者を多く生み出しただろうなぁ」
「ねぇ本当に褒めてる!?」
ケラケラと笑いながら言い出す空崎に、一之瀬の突っ込みが即座に入った。
「……少しは調子戻ったか?」
「あ───……って、やっぱり揶揄ってた!」
「信者云々は兎も角、ほぼ本音だぞ?」
「えぇ……うぅ……どう受け取ればいいのこれぇ……っ」
真っ赤に染め上げた顔を膝に埋める一之瀬は、唸りながら身体を揺らす。
空崎は慈しむような笑みを溢しながら、言葉を紡いだ。
「だからまあ、俺が友人としてクラスの力になりたいと思ったのは、紛れもなく帆波の行動による結果だ。それは断言して良い」
「……」
「もし帆波が本心からリーダーを降りたいってんなら───それは仕方ない。誰にも止める権利は無いからな。でも身勝手な願いで悪いが、俺はお前にリーダーをやってもらいたい」
空崎の真摯な言葉。
己よりもリーダーに相応しいと思っている人物からのお願い。
一之瀬は、あえかな笑みを溢す。
「君にそこまで言われたら、しょうがないよね。これからはすっごい頼らせて貰うけど、良いよね?」
「ああ」
「よしっ」
一之瀬は抱えていた膝から手を離し、軽く両頬を叩く。
「じゃあそろそろシリアスタイムは終わりにして突っ込み入れるか」
「え、なに?」
「帆波、その体勢だとスカートの中見えるぞ」
「……スパッツだからいいもん」
「ほーう? 世の男はそれを『許可されたもの』と同意としてガン見する羽目になるが良いのかね?」
「…………」
赤い瞳を妖しく光らせながら、顔を動かす事で視線の動きを分かりやすくアピールする。
少なくとも下着よりは見られる事に問題はない。ただ、スカートの中を見られるという事にそこはかとない羞恥心がある。
一之瀬は頬を赤く染めながら無言でベッドから降り、机の前で正座になる。
「……ありがとね」
「えっ、スカートの中見られた事に……? 帆波さんや、露出性癖は否定しないが公然猥褻罪になりかねないから程々に───」
「違うよッ! だから、その……私がBクラスである理由を、深掘りしないでくれて」
「まあ帆波から時々感じる
「いつか、ちゃんと話すよ。クラスの皆にも。これを内に抱えたままリーダーを続けるのは違うと思うから。暫くは……難しいけど」
罪悪感と共に、それ以上の“恐怖”が一之瀬には浮かんでいる。
先送りにする形ではあるが、それでも空崎に対して「ちゃんと話す」と口に出す事で一方的な誓いとして残す。
普段のコミュニケーションであれば心理的な負担を軽減させようと「無理に話す必要は無い」と返したのだろうが───。
「───分かった。ちゃんと話す日を待つ」
「……うん」
罪悪感は、今の一之瀬にとって大事なモノなのだろう。
そう判断した空崎は、ハッキリと言葉を返す事で確かな『誓い』とした。
「そうだ帆波、明後日は勉強会ってやるか? スケジュール的に参加出来そうなんだが」
「ホント? うん、あるある! 夜白くんが参加してくれるの助かるなぁ」
「場所は教室か? それとも図書室?」
「教室だよ。夜白くんがどんな教鞭を振るうのか楽しみだね」
「ふふふ、ここの教師陣よりも分かりやすく説明して進ぜよう」
「おっ、大きく出たねぇ。私も小テストは90点だったし、満点の君が教師役に回るなら生徒になろうかな?」
「あれって上の学年の範囲だから───」
「えー───」
♦︎
「テメェ見下してんのかオラッ!」
「ヒッ───ごめんなさい許して下さい殴らないでっ」
───勉強会の参加日。
空崎はクラスメイトから視線を集める最中、Cクラスの生徒に胸ぐらを掴まれ怯えを見せていた。
♕ Tips. ✍︎
オンライン大会に参加する際の監視役はその日の先生のスケジュールによって変化するが、最も回数が多いのは茶柱。
職員会議の際に「Bクラスで最も頭のキレる生徒の時間を大幅に削れるのは大助かりだな」という考えで真っ先に契約へと同意を示したので、「じゃあアンタが面倒な役割被ってくれ」と槍玉に挙げられた。
最近では『監視』というより『観戦』になっており、それを見抜いた空崎が実況や解説をノリノリで行うので茶菓子を用意して普通に楽しんでいる。