裏切者だって仲間が欲しい 作:恥知らず
物語の最序盤から登場してて、コイツこそが全ての元凶だ!! と言われてた敵。だけど実はソイツはただの中ボスでしかなくて、真のラスボスの掌の上で踊っていたに過ぎなかった、みたいな、マンガとかでよくある展開。僕は最近そんなシーンに出くわした。当然、中ボスやラスボスとしてではない。ましてや主人公としてでももちろんない。単なる出来損ないのスパイとして、そこに居合わせたのだ。
「この裏切者。どの面下げて私の前に顔を出したの?」
「この不出来でブサイクな顔だよ」
鉄柵越しに鋭い目が僕を睨む。声色から滲み出るのは100%の敵意。
僕の眼下で鎖に繋がれているのは、さっき言った中ボスの部下だった。ついでに言えば僕の腐れ縁でもある。
「早く私の前から姿を消しなさい。不愉快なのよ」
「おいおい。せっかく顔を出してやった昔の友人にその態度はないんじゃないのか?」
「アナタ、私がどれだけルーザ様を慕っていたか知っているでしょう? アナタがあの人を殺したようなものなのに、歓迎されると思う?」
殺した、ねぇ。
「俺はなんもしてないだろ。ルーザ様を……いやルーザを殺したのはあの魔王とやらだ」
「実際に手を下したのはそうね。でもアンタさえいなければ、ルーザ様はあんなヤツには負けなかった! 万全の状態なら、ルーザ様は最強なのよ!!」
そうかぁ?
ルーザ様が防衛軍にやられて弱ってたのは事実だが、あのボロ負け具合はそんなレベルじゃなかっただろ。
「アンタが元の計画通り防衛軍を裏切っていれば、ルーザ様があそこまで傷を負うことはなかった! どうしてアンタはルーザ様を、私達を裏切ったのよ!?」
そう。元々は僕はルーザの手先で、スパイとして彼女の敵である防衛軍に潜入した。だけど防衛軍とルーザの最終決戦の場で、僕はあえて何もしなかった。防衛軍の無防備な背中を撃つことをしなかった。
なぜなら……
「普通に、ルーザ様に付くよりも防衛軍側に付いた方が、いい感じに僕が生き残れそうだと読んだからだよ」
実際、結構押されてたしな、ルーザ様。
まぁ、途中から大魔王が乱入して無茶苦茶になったけど。
「生き残れそうって、何それ」
突如鉄柵の隙間から唾が飛んできた。だけどそれを華麗に避ける、なんて格好の着いたことは僕には出来ず、なんなら中途半端に横に動いたせいで唾は見事に僕の右目に命中した。
「元はと言えば私達は、ルーザ様に拾われなかったらとっくの昔に死んでた身じゃない!! 捨て子だった私たちを救ってくれた恩を忘れたの!?」
「別に忘れたワケじゃないさ」
指で唾の入った右目をこすりながら答える。
「ただ生憎、僕はお前みたいな狂信者じゃないんだよ」
僕はマトモな人間だ。自分の身が一番かわいい。
「というか、そろそろ本題に入っていいか?」
「本題?」
「あぁ。お前をとあることに誘いに来たんだよ」
「ハッ。それじゃあそんなのお断りね」
「せめて内容くらいは聞いてくれよ」
「嫌ね。アナタの声をこれ以上聞いてると、耳が腐っちゃいそうだから」
「そうかい」
まぁ。元からダメ元だ。
「それじゃあな」
「もう二度と顔を出さないでね」
「出来たらな」
▲▼▲
「思ったよりも早かったね」
「そうか? 僕としては想像よりも喋ってくれたなって感じなんだが」
僕が牢屋のある地下から戻ると、そこにはキリがいた。
「というか、防衛軍の聖女サマがこんな所にいていいのか?」
「キミこそ、このボクにタメ口なんて他の隊員に見られたら減給モノだよ」
「………………まぁ別にいいや」
「ありゃ。キミが金に拘らないなんて珍しい」
「今日はそういう気分なんだよ」
ふぅん、なんて白々しい反応をするのはキリ・テパシー。心の読める彼女なら、僕がこんな態度を取る理由も分かっているだろうに。
「そういえば、明日のお昼ご飯はから揚げらしいよ」
「へぇ。そりゃ楽しみだ」
心が読めるというなら当たり前のことだが、キリには僕がルーザのスパイであることはすぐにバレた。だというのにコイツは、防衛軍の誰にもそれを言わなかった。ここに来た当初の僕は防衛軍を裏切る気マンマンだったのにも関わらず、だ。さらに言えばコイツは防衛軍や民衆が嫌いというワケでもないので、増々僕を庇った理由が理解出来ない。
「別に理由なんてないよ。いつも言ってるでしょ? 人の頭の中身を覗けるからこそ、他人に対して自身の感情と理屈に依らない行動を取るのがボクの信条だ、って」
「そういえばそうだったな」
感情と理屈に反した行動は往々にして自分に不都合なものになるだろうに、難儀なヤツだ。
「ん? てことは、本当はお前は僕が裏切者だと叫びたかったワケか」
「まぁそうなるね。あ、でも今は違うよ。今は隠しておきたいから黙ってる」
「信条ブレブレじゃねぇか」
「今の若者は徹頭徹尾っていう言葉を嫌うんだよ。そしてボクはゴリゴリのティーンエイジャーだからね」
なんじゃそりゃ。それではまるで初志貫徹が座右の銘の僕が年寄りみたいじゃないか。僕もまだギリギリ19なのに。
「それでさ」
急に改まったように、キリは僕に向き直った。顔なんて見なくても、彼女なら僕の心の内は全て分かるはずというのに。
「これも、ボクの信条とは反する行動、言葉なんだけどさ」
「……」
続く言葉を何となく察して、僕の心臓がキュウと縮こまるのを感じた。
「ボクはキミにこのまま
「…………」
そう言ってくれることが嬉しくもあり、不可解でもあり、何より気持ち悪かった。
「逆に、キリが僕に着いてくるって選択肢はないのか?」
「…………ないね。ボクにはキミと違って、
「そりゃ残念」
これで、さっきに続いて2連敗。まぁ、分かってたことだけどさ。
「それじゃあ。ボクは幹部の皆と会議があるから」
眼前の十字路。僕は右に行って、キリは左に進んだ。
「またね」
彼女はそう言ってくれた。
だけど今から僕は十中八九死ぬだろうし、生きてたとしても、その時にはもう彼女の敵だ。
少しだけ別れを惜しみながら歩いていると、すぐに防衛軍の基地の外に出た。空を見上げて少し笑いながら、僕はポツリと呟く。
「大魔王の手下にしてもらう。ギャンブルだよなぁ」
ルーザは強かった。それは間違いない。でもあの男はそれを優に上回る力を持っていた。このまま防衛軍にいては、ヤツに諸共ふみ潰されて死ぬのがオチだろう。
「全く。我ながらクソだよなぁ」
妹同然の存在を裏切って。
気の合う友も裏切って。
親とすら言える女性を殺した男の下につこうというのだ。
「まぁでも、仕方ないよなぁ」
だって死ぬのは怖いもの。