裏切者だって仲間が欲しい 作:恥知らず
「あ!!先輩じゃないですか!!こんな所で会うなんて奇遇っすね!!」
さぁ今から大魔王の根城に面接に行こう!!という所で、僕は思いがけない人物に出会った。
「ん。主人公ちゃんじゃないか。どうしてこんな基地から微妙に離れた所に?」
「へ?何となく散歩してただけですよ。…………というか先輩、いつも聞いてますけど、どうして私のこと『主人公』って呼ぶんですか?」
「キミこそが僕の人生という物語の主役だと見込んでいるからだよ」
「何言ってるんですか。先輩の人生の主役は先輩に決まってるでしょう」
「いやいや。僕なんかは精々語り部だよ」
何より僕なんかが主人公じゃ、物語としてつまらな過ぎる。物語において主人公の魅力というのは、作品の題名の次くらいに大切なのだ。
「というか先輩こそ、どうしてこんな所に?普段はあんなに外に出たがらないのに」
「いやちょっと、地底旅行でもしてみようかなって」
「えぇ!?なんか楽しそうなことしようとしてるじゃないっすか!!え!?え!?なんか目的地とかあるんすか!?」
キラキラと目を輝ける主人公ちゃん。
適当に嘘をついてやり過ごそうかとも思ってたけども、やめた。純粋な子の前で偽り続けるのは僕も辛い。最後くらい正直に誠実に行こうじゃないか。
「大魔王の根城にね、行こうとしてるんだ」
僕の発言を受けて固まる主人公ちゃん。いずれ脳の動き出した彼女から『裏切る気っすか!?』と非難を浴びせられることを予測して待つこと数秒。
「え?まさか先輩、一人で大魔王と戦いに行くつもりですか?」
妙に深刻そうな顔をする彼女を見て、僕は笑ってしまった。
「まさかまさか。そんな回りくどい自殺はしないよ」
もし自分を殺すなら、もっと楽な方法でだ。
「僕は大魔王の所に………………何をしに行くんだと思う?」
「え?…………えっと…………えっと、えーーっと……………………………………………………え?」
「ありゃ?マジで分かんない?」
「はいっす」
「そっかぁ。…………正解は、大魔王の傘下にしてもらえるように頼み込みに行く、だよ」
僕がそう言った瞬間、目の前の彼女が抜き放った日本刀の鋒が僕の首に添えられた。薄皮一枚切られた部分から赤い血がツウッと垂れる。
「それはダメっすよ。ダメ。先輩だってあの魔王を見たでしょう?あれは仲間を作るような人間じゃ、生物じゃないですよ。先輩が一人で行ったって、絶対に殺されます」
「……まぁ、そうかもしれないな」
僕の元上司……ルーザの首を満面の笑みで捩じ切ったあの姿からは、確かにあの男が他者と言の葉を交わすところは想像出来なかった。
「でも。このまま
「それは……」
取るならば、より生存確率の高い方を。
当たり前の話だが、僕は死ぬまで生きるのを諦めるつもりはない。
「先輩は……」
ただ生きようとするだけの、生きたいだけの誇り無しの僕の目を、主人公ちゃんが見つめる。
「先輩はどうせ死ぬなら誰かを、仲間を守って死にたいとは思わないんですか?」
「思わないね」
そんなことは欠片足りとも思わない。実際僕は既に母親代わりの女性を見殺しにしている。
ホントつくづく、僕は主人公の器じゃないな。
「なぁ主人公ちゃん」
三度目の正直。
さっきまでの二人と違って、主人公である彼女を誘うつもりはなかったが、それでも会ってしまったのならチャレンジしてみよう。
それにやっぱり一人は寂しいしね。
「僕と一緒に来ないか?」
「嫌です」
即答だった。そりゃそうか。
「それじゃあ、じゃあね」
僕は彼女に背を向けようとする。首に添えられた日本刀は気にしない。だって彼女みたいやヤツは裏切者さえも殺すことが出来ないから。だが刀は振られずとも、勢い良く出された彼女の手が僕の腕を掴んだ。強く固く、骨が折れてしまうんじゃないかというほどに痛く。
「離してよ」
「無理です。私は仲間を見捨てることは出来ません」
「…………」
仲間、ね。裏切ろうとしてるヤツもそう呼ぶんだな、キミは。
正直、嬉しいと思わないワケではない。まぁでも、残念。
「え?」
彼女の掴んでいた所から僕の腕がボロッと崩れる。さらに顔や足も。乾燥した土の城のように跡形もなく。
「ッッ!!これは…………幻の変わり身!?」
「御名答」
「いつの間に!?」
「主人公ちゃんと会った時にだよ」
キミみたいなヤツに対して、何の備えもせずに包み隠すことをやめなりはしないさ。
「それじゃあサヨナラ。もし運が良かったらまた会おう」
今度は敵としてね。
▲▼▲
僕は落ちていた。あるいは堕ちていた。地面の中を、地球の中心に向かって。と言っても、目的地はその遥か手前だけど。
「地下16.8km。相当深いけど、それでもまだ地殻の真ん中ぐらいにしか行ってないんだもんなぁ」
とはいえ、それでも正攻法じゃ地下16.8kmの地点なんかに行くのは到底無理だ。というワケで僕は反則技を使っていた。
魔法──科学法則と相反する法則。そしてそれを操る魔法使い。21世紀の現代でも、そんなオカルトはまだギリギリ生き残っている。
そして今僕が使っているのは、その中でもとびっきりの悪法だった。
『
幻覚で世界を侵触する魔法。言い換えれば、使用者の都合の良いように現実を改変する魔法だ。
と言っても、もちろん制約はある。この魔法は『世界の改変』なんて大仰なことを言っているが、実際には僕という個体に関することにしか干渉出来ないのだ。さらに言えば、変更する内容は弱体化に限られる。
まぁ、それでもこの魔法は結構便利だ。
「弱体化の定義も曖昧だしな」
今僕は、自身の存在強度を極限まで下げている。結果出来上がるのは、何人にも感知されず、何にも干渉出来ず、何からも干渉されない真の透明人間だ。僕はその特性を利用して、地下16.8kmにある魔王の根城、その真上の地表から直下に落ちていた。
「……自分一人しか降りれないのに、何を考えてたんだろうな」
地殻を構成する岩石達をすり抜けて自由落下しながら、僕は自嘲した。僕は他人を透明人間にする術を持たないのに、あの3人を誘ったのだ。ホント、向こう見ずにもほどがある。
やはり、彼女達が僕の誘いを断ったのは正しかったのだろう。
「…………ッと、もう着いたのか」
もう過ぎたことの正誤とかいうくだらないことをダラダラと考えていると、目的地の洞窟に着いたので『
「…………温度も圧力も地上と同じ、ね」
地下16.8kmという過酷な環境に耐えるための備えもしてきたのだが、どうやらそれは無駄になったようだ。
「やっぱどんなに強いヤツでも、寝床は快適な場所に整えたいんだろうな」
僕は目の前にある小屋に歩いていき、そのドアを開く。
家の中に入った僕の視界に最初に飛び込んだのは、絨毯の上に寝転ぶ首輪を着けた虎。
次に所々がひどく痛んでいる木の椅子。くたびれた老人が座るのが似合うそこに、世界最強の男が立っていた。
「よう。2日ぶりか?」
ひらひらと手を振る彼からは、極地に作った自分の拠点に侵入されたことに対する焦りは全く感じなかった。
「なんか、まるで僕が来るのを分かっていたみたいですね」
「まぁ、なんとなくな」
「え?ホントに分かってたんですか?」
「うん。勘でな」
最強の男は、第六感すら優れているようだった。
「それじゃあ、僕がアナタの部下になろうとしていることも?」
「まぁな」
びっくりするくらいに、話が早い。
「それじゃあ早速、僕を採用するのかしないのか、お伺いしても?」
もし断られたら九分九厘殺される。
らしくもなく緊張して、冷たい汗が首元をつたった。
「ん?部下になっていいぜ。大歓迎だよ」
「アレ?そんな軽く?」
「あぁ。俺はお前のことは気に入ってるからな」
魔王は座ったままひょいと足を上げて、靴の裏を僕に見せた。そこには防衛軍印の発信器がくっついている。それは僕が着けたモノだった。
「防衛軍の聖女とルーザの決戦。そこに乱入した俺がルーザの首をへし折り、両軍が混乱に包まれた最中、お前だけが冷静だった。あの時点で俺はお前のことを買っていたよ」
「………………」
なんか、お前は義母が死んでも涙一つ流さなかった人でなしだ、って言われてるみたいでヤダな。
「それでよ。俺はお前について調べたんだよ色々と」
「じゃあ僕が裏切りまくりのクソ野郎ってことはもうバレてるんですか」
「あぁ。お前が捻くれ者のボッチ野郎ってこともな」
「それなのに部下にしてくれるんですね」
「まぁな。なんせお前は俺の同類っぽいんで。ある程度の欠点は見逃すさ」
「同類?どこら辺がですか?」
「大義はないのに力は持ってるって所だよ」
彼は自身と僕を鼻で笑った。
「この世界に住む幸せな人間の味方をして『現状維持』を掲げる防衛軍。この世界に住む不幸な人間の味方をして『破壊と再生』を掲げるルーザ達。ヤツらは立派さ。なんせ夢を持っているんだから。だけど夢を叶えるために肝心な力を持っているのは、俺達みたいな生きてるだけで満足の豚共だ。悲しくなってくるよな」
言葉とは裏腹に、楽しそうに彼は笑う。
「なぁ裏切者。お前が俺の所に来た理由は生き残るためだろう?」
「………………」
「沈黙は肯定と受け取るぜ。だけど、お前が防衛軍もルーザも裏切った理由は、それだけじゃないはずだ」
「…………」
僕は、今日初めて図星を突かれた。
「俺達みたいなヤツらは厄介で、自分は何の夢も持っていないのに、夢見るヤツらが折れるところを見るのは好きなんだ」
鳥肌が立って、呼吸が荒くなる。
「なぁ、お前が誰もを裏切る理由は、自分如きの行動によって夢を持つ崇高な人間達が右往左往するのを見る快感を、他の何よりも愛しているからだろ?」
「…………」
吐き気がする。
生まれて初めて、僕という個体を理解された。意識するよりも前に隠していた汚い所を、
誰かに自分を理解されるというのが、どれほどに気持ち悪いモノなのかを知ってしまった。
「…………」
さっきまではなんとも思っていなかった目の前の男に対する嫌悪が急速に膨らむ。
寒気を感じる男の声。
嗚咽を引き起こすような体臭。
目眩がしそうな色と輪郭。
この男と同じ世界に住むならば、死んでしまおうかと思うほどに。
だけど、僕は目の前の彼に向かって一歩踏み出す。
ガクガクと震えて、汗で服をビッショリ濡らして、それでも笑顔で彼に手を差し出す。そして彼もそれに答え、僕達は硬い握手を交わした。
「たぶん、僕はアナタの言う通りのロクデナシなんでしょう」
まずは認める。そして次に懇願。
「アナタならばきっと、僕なんかとは比べられないほどに世界をグチャグチャに出来る。それこそ、全人類を不幸に出来るくらいに。その景色を、僕にも見せてください」
「いいぜ。でも、そのためにお前にも協力してもらう必要がある」
彼はそう言うと、小指と親指を3回大きく鳴らした。すると、僕の隣にバケモノが現れる。吐瀉物と排泄物と人間を足して3で割らないような、そんなバケモノ。
「魔法生物ですか?」
「あぁ。ソイツは使えるぜ。強いヤツの相手には向かないが、弱者の虐殺に限ればソイツ以上はない」
「これで僕にどうしろと?」
「俺が殺したルーザが作ったっていう、世界中の難民や飢餓民を片っ端から集めた異空間。『貧者の城』を襲って欲しい。」
「別にいいですけど、どうして?」
「宣戦布告だよ。俺は最強だからな。チマチマやるのは性に合わない。それに戦力バランス的にも、世界対俺一人プラスお前くらいで丁度五分だ。だから世界中のあらゆる勢力にケンカ売る。んで手始めにルーザの残党ってワケだ」
「あぁ、なるほど。それじゃあ早速行ってきますよ」
「おう、いってらっしゃい」
僕は小屋の外に出る。
「……アソコに帰るのは久しぶりだな」
『貧者の城』。僕と義妹が育った故郷。嫌悪はない。愛着すらある。だけど……
「まぁ。壊すのに一切の躊躇いはないな」
なんなら、義母も故郷も失った時の僕の義妹──リバスの顔を想像すると、楽しみですらある。
僕は小躍りしながら歩き出した。