裏切者だって仲間が欲しい 作:恥知らず
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地下牢の錠を、誰にもバレないようにこっそり緩めた。
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「おぉ!!久しぶりだなユー坊!!」
「お久しぶりですカイさん」
僕が幼少期時代を過ごした『貧者の城』。その城下町にあるパン屋の中で、僕はかつての兄貴分と再会していた。
「しっかし大きくなったなぁ、お前。昔はあんなにチビだったのに」
「最後にカイさんと会ったのは成長期に入る前でしたから、そりゃあ嫌でも背は伸びますよ」
「まぁ、それでも俺よりは小さいがな」
「うっさいです」
約6年ぶりの再会だというのに昔のように笑って語り合えることが嬉しい。でもやっぱり、なんでもかんでも昔と同じとはいかない。僕がクズになったのは言わずがもな。カイさんも、僕が知ってる彼とは相当に変わっていた。
「様になってますよ。そのエプロンとコック帽」
「そうかぁ!?それならよかった!」
僕がカイさんと交流していたのは10歳から13歳、拾われたばかりの義妹がまだルーザに懐いていなかった頃だ。あの時の義妹は頻繁に城を抜け出して街に来ていて、僕は妹が心配でそれに着いて行っていた。
「ガキ大将がパン屋になる。想像もつきませんでしたよ」
「へっ。似合わねぇのは言われなくても分かってるよ」
「いや、さっき『様になってる』って言ったじゃないですか」
後先考えずに城を抜け出した僕らの面倒をみてくれたのがカイさんだった。
あの頃のカイさんは僕達からすればカッコいいヒーローだったが、今思い返してみると相当な悪ガキだ。大人にイタズラしたり教会での授業をサボったり、極め付きは…………
「俺がルーザ様を倒して王様になるんだ!!」
「おいやめてくれ。恥ずかしい」
「フツーに不敬罪ですよね。アレ」
「ホントな。ここが厳格な王政を敷いてる国だったら俺は斬首刑だったろうよ」
「そういえばウチの義妹も『アニキかっけぇ!!じゃあ私は妃になる!!』とか言ってたんで、アイツもギロチン行きですね」
国家転覆の妄言を吐いていたカイさんが、ウチの義妹の初恋である。今のルーザ様狂信者具合からは全く信じられないけれど……
「義妹…………リバスちゃんのことか?え?お前ら血繋がってなかったの!?」
「ありゃ?初めて知ったんすか?」
「あぁ。こりゃあ6年越しの衝撃の事実だわ」
うへぇ〜、なんて言いながらカイさんは頭を掻く。
「ふ〜ぅん。んで肝心のリバスちゃんはどうだい?元気かい?」
「元気も元気。活力が溢れかえってますよ」
もう各方向への殺意と復讐心でメラメラ。特に僕への。
「元気か。そりゃあよかった」
何も知らないカイさんが心底嬉しそうに笑う。
それを見ていると感じる喉が渇くような、胸焼けするような感覚。その正体が罪悪感であることを自覚しながら僕がその不快な感覚を愉しんでいると、ドアが開く音と共に女性が部屋に入ってきた。
「お!?アンタお客さんかい?」
僕の姿を見てカイさんに尋ねる赤毛の小柄な女性。僕は彼女に見覚えがあった。
「おう!おかえりアンリ!このお客さんな、お前も知ってるヤツだぜ」
「本当かい?」
うぅ〜ん、とアンリさんの目が僕の顔を見つめる。最初は微妙な顔をしていた彼女だが、すぐにハッとしたように目を開いた。
「その白い髪、あんたユン坊かい!?えぇ!?大きくなってぇ!!昔はあんなにちっこかったのにねぇ!!」
「…………はい。久しぶりですアンリさん」
再会の言葉を交わし合っていると、アンリさんの着ているエプロンが目に入った。
「カイさんとお揃いのエプロン。アンリさんもこのパン屋で働いてるんですか」
「そうなのよ」
アンリ・ナオカさん。カイさんがリーダーだった悪ガキ達のグループの副リーダーだった女性。
「おいユン坊。ここでお前に驚愕の真実だ」
突然カイさんがアンリさんを抱き寄せ、そして左手を前に出した。それを見たアンリさんも同じようにする。
「それは……」
二人の左手の薬指で輝くのは、小さな宝石が備え付けられた指輪。
「実はつい先日、俺達結婚したんだよ」
「あ〜、やっぱり?」
「何だよその反応」
いやまぁ、昔から二人凄く仲良かったし。当時カイさんに恋してた妹が凄く嫉妬してたし。
「でも、本当におめでとうございます」
「……おう、ありがとう」
少し照れたようにカイさんが笑う。
「それとね、ユン坊。まだ外見じゃ分からないけど、今の私のお腹の中にね、赤ちゃんがいるんだ」
アンリさんが慈しむような顔で自分の腹部を撫でる。そんなアンリさんをカイさんが幸せそうに見ている。
──ここは素晴らしい所だ
僕は心底そう思った。そう思ったからこそ、僕はこの空間をメチャクチャにする。
「え?」
困惑の声が、血飛沫と共に上がる。アンリさんの腹部に空いた穴。それは幻術によって隠されていたナイフによるもので、意図して子宮ごと貫く位置に空けられていた。
「縛法『
固まって動けないでいるカイさんを、不可視の鎖が拘束する。そして親指と小指で音を鳴らすと、突如パン屋の外壁が腐り落ちた。
「大人しく投稿しろ!!」
いつの間にか家の周りを囲っていた黒い鎧を纏った男達が、僕の姿を視認するなりそう叫ぶ。
『影の護り手』。ルーザから『貧者の城』の防衛を任されている者達。
「この裏切者め!ルーザ様を陥れるだけでは飽き足らず、ルーザ様の国まで壊しに来たか!?」
「ん〜?まぁ、そんな所だ。それと、僕が裏切者だってことを否定する気はサラサラないけど、真実を伝えないお前らも十分に国民を裏切ってると思うぜ」
ルーザ様の葬式くらい、ちゃんとやらせてやれよ。
しかし、本当はもう少しカイさん達と話したかったんだが、思ったよりも早かった、優秀だったな、『影の護り手』。しかもコイツら全員魔法使いだし。基本幻覚しか使えない僕が多対一で勝てるワケない。
「というワケで、反則技使わせて貰いまーす」
指をパチンと鳴らす。すると僕の隣に突如、酷い悪臭を放つバケモノが現れた。
獣法『
触れた物質を有機物か無機物に問わず腐らせる自室式の魔法生物。僕が魔王から借りた下僕。
それが、黒い男達に向かって駆けていく。しかし彼らは『
「魔法は魔法使いが気絶、あるいは死ねば勝手に消える。そして魔法使い──人間相手には、魔法よりも銃で殺す方がよっぽど楽だ」
空気を裂くような発泡音を響く。命中すれば確実に致命傷を齎す死の弾丸。それが僕の輪郭を侵す。しかし弾丸が肉を抉ることはなく、それはそのまますり抜けた。
「なっ!?幻覚!?」
「そりゃあ幻術使いが、敵の目の前に生身置くワケないだろう」
「クッ!」
男達は銃口を下げ、一人が肉薄してくる『
「炎法『
男の目前にまで迫った腐敗の獣の足元から巨大な火柱が立ち登り、獣を灰すら残さず燃え尽くした。
だが……
「ソイツも偽物だよ」
パチンと指を鳴らす。その瞬間、姿と臭いと音を幻によって誤魔化された偽物でない幾匹もの獣が、『影の護り手』達に背後から噛み付いた。
「………………ァ」
断末魔すら上げる前に、傷口から広がる腐食が声帯を溶かす。そしてそのまま脳髄まで腐って死んだ。
さて、これで第一波は乗り切ったか。でも、敵はまだまだいる。
南の空を見上げる。今の時刻ならば太陽が輝いているはずだが、しかし灼熱の光は見えず、視界を占めるのは真っ黒な影達。太陽の光すら遮るほどの人数の『影の護り手』達がそこにいた。
「アレを全員相手にするのは面倒だよな」
というワケで僕は『
「ギギィ」
不快な声で鳴きながら、獣の体積が膨らみ、そして熱気球のようにプカプカと浮いていく。やがて1トントラックほどの大きさにまでなり、高度も太陽を隠す影達よりもさらに空に近い所に至った頃、膨張も上昇もピタリと止まった。
「腐敗と怠惰の獣。ヒトと廃棄物の混ざり物よ。その命をもって、この都に死の雨を降らせ!!」
「ギギィィィィ!!」
苦しむような叫びを上げながら、膨張し切った獣の身体が破裂する。そしてその触れたあらゆるものを腐らせる体液が、遥か上空から降り注ぐ。
「貴様ァ!!」
青筋を立てながら、しかし影達は不用意に
だがそんな腐水も爆発した真下にだけは降りそそがない。そこに立つ僕と、僕の横で縛られているカイさんは無事だ。いや、一応はアンリさんも当てはまるのか。ただ彼女はもう、貫かれた腹部から大量の血を流してピクリとも動かない。
「もう、もうやめてくれ」
涙や鼻水で顔を汚しながらカイさんは言う。
「イヤですね。だって楽しいですもん。でも大丈夫ですよ。そろそろヒーローが来ますから。…………ってほら、噂をすれば何とやらですね」
北の空から、防衛軍に捕らえられていたはずのルーザの右腕──リバスの姿が見えた。
「何、これ……」
僕の隣に降り立ったルーザは、溶け崩れた『貧者の城』を見て呆然と呟いた。
「ッ!ねぇおにい……アンタ!!ここにアンタがいるのは気に食わないけど、今は黙ってあげる。私達の故郷をこんなにしたヤツは誰!?ぶっ殺しに行くわよ。…………まさか、そこで縛られてるカイ兄さんではないんでしょ?」
「は?」
僕は一瞬、リバスが何を言っているかを測りかねた。この惨状を作り出した張本人に何を言っているんだと。だがすぐに彼女の心情を理解して、笑ってしまった。
なんとリバスは、この惨状の中一人無傷で立っている僕を敵ではなく、自分と同じで遅れてやってきたが故に無事だった味方だと勘違いしたのだ。僕が故郷を壊せるはずがないと。
そして挙句の果てに、僕よりもカイさんを疑った。
「おいおい。しっかりしてくれ。普通に考えて、ここを壊したのは状況的に俺だろう」
「は?いや、だって、ここはアンタの、私とアンタの故郷でしょう」
「そんなこと言ったら、カイ兄さんだってそうだろう」
「いや、でも、だって……」
「………………はぁ」
いい加減、ウザくなってきた。
リバスに分からせるためには……………………あぁ、出来れば観客として、悲鳴要因として
僕は『影の護り手』達から奪った銃を、横で倒れているカイさんの頭を撃った。
「これでもう。僕が『貧者の城』を壊した壊してないは関係ないだろ。どっちにしろ、お前は僕を許せないはずだ」
「…………」
返答はなかった。だがその代わりというように、魔法で作った鉄の剣で、彼女は僕に切りかかってきた。首元の動脈を狙って軌跡を描いた刃。
そこから感じるのは、僕が最も嫌うはずの『死』。
裏切りの愉悦を知ってしまった今でも、僕の心の内を最も占めるのは死にたくないという願望だ。
だというのに、僕はそれに反する感情を、殺意に溢れるリバスの目を見た時に感じた。
今日は死ぬには良い日だ。そして殺されるなら彼女が良い。
いくら僕が生きたいと願っても、人間は永劫ではないのだからいつかは死ぬ。どうせ惨めに。だったらリバスに殺されるのは悪いことじゃないのかもしれない。
そんな、僕らしくない思考。
「ハッ。戯言だな」
切り替えて、僕は指をパチンと鳴らす。すると生命と引き換えに死の雨を降らせたはずの『
理不尽としか言えない事象。絶望に足る展開。
しかし、目の前のリバスの意志は欠片も衰退する様子を見せない。
「行くぜ」
血湧き肉躍るという感覚を生まれて初めて味わいながら、僕はリバスに向かって走り出した。