裏切者だって仲間が欲しい 作:恥知らず
一人称の物語の唐突な語り部変更。ネット小説の醍醐味ですね
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6歳の頃、両親が死んだ。今考えてみると別になんてことはない。酔っぱらいの車に轢かれたのだ。車──高速で動く巨大な物体とぶつかったら死ぬ。当たり前のこと。だけど当時の私にとって、それは天地がひっくり返るよりもあり得ないことだったのだ。
魔法使いになる修行と言って、私に虐待紛いの修行を施した恐ろしい父親。
魔法は科学よりも優れているんだ!と言って、私を殴った母親。
そんな両親が科学の結晶である車に殺されたなんてことは、到底信じられることではなかった。
「あら、アナタがリバスちゃん?これからよろしくねぇ」
「ほら。今日の夕飯はカレーだぞう。それにリバスちゃんの歓迎会だから、ケーキも用意してる。ご馳走だね!!」
私を養子に取ったおじさんとおばさんとの生活の中で、私はずっと奇妙な感覚を味わっていた。ぬるま湯いような、フワフワする、常に寝ぼけているような感じ。それが『幸福』だと気づいたのは、彼らと出会ってから1年半も経った頃だったけれど。
「お兄ちゃんは生まれてきてから、ずっと幸せなの?」
「そうじゃないとおかしいだろ。あんな両親の元に生まれたんだから」
私を拾ったおじさんとおばさんには、私より2歳上の息子がいた。彼のことが、私はあんまり好きじゃなかった。たぶん、嫉妬してたんだと思う。
「なぁリバス」
「ん?」
「お前のたくさん笑う所が、僕は好きだ」
「……き、急にどうしたの?」
「いや、笑ってくれるお前があの人達の娘になってくれてよかったなって話だよ。子供が幸せなことが、あの人達の幸福だろうからさ」
兄の言葉の意味が、私には良く分からなかった。
でも、私が笑うとおじさん達が幸せになってくれるなら、それはなんて良いことなんだろうと思った。
彼らには返しきれないほどの恩がある。この頃の私は、早く大人になっておじさんとおばさんに恩返しがしたいと思っていた。
でも結局、私はあの家族に不幸を齎しただけだった。
「う……あ……」
目の前に広がるのは燃える家。幸せの象徴だったはずのそれが崩れるのから目を逸らすと、そこにいるのは身体中を火傷したお兄ちゃん。
犯人は、半人前の若い魔法使いの集団だった。動機は復讐。私の両親は科学否定派であると同時に、力のない魔法使いをも嫌い、彼らが積み上げてきた研究結果を破り捨てたりと無茶苦茶してきたそうだ。
当初半人前達は両親への復讐を企てていたが、両親が事故で亡くなったことでやり場のなくなった復讐心は、より醜いものとなって娘である私に向いた。
ロクな魔法を使えなかった彼らは、家にガソリンを撒いて火を着けた。逃げ遅れたおじさんとおばさんは焼け死んで、お兄ちゃんは全身火傷の重傷。そのクセ、私だけは無傷だった。幼少期から魔法を習い、しかし2年もブランクが空いた私の力。それは火の手から自分一人を守るには十分だったけど、他の誰かを救うには到底足りなかった。
「ごめんなさい!ごめんなさいっ!」
救急車も消防も呼ぶことが出来ず、血塗れのお兄ちゃんに抱き着く役立たずの私。そこに、包丁を持った男がトドメを刺しに来た。
「ハテン家の娘、お前は最後だ。まずは、その死にかけのガキから殺してやる」
鋒をこちらに向けながら男がゆっくりとこちらに、お兄ちゃんに向かって歩いてくる。
「だ、誰か……」
みっともなく泣きわめくばかりの私。だけどそんな私の声に応えてくれた
「遅くなってすまない」
そう言って現れた彼女は、瞬く間に男を無力化した。
命の恩人。
それが私とルーザ様の出会いだった。
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『貧者の城』に匿われてから約3年。その間私はルーザ様を避けていた。城から抜け出すくらいには徹底して。
別に、ルーザ様が嫌いだったというワケではない。ただ、死んでも邪魔をしてくる両親や、理不尽な復讐者、不甲斐ない私への、どうしようもない怒り。それら諸々を、強いあの人にぶつけていた。まぁつまりは、八つ当たりなのだ。だけど何かに、特に自分に怒り続けるのはひどく疲れる。3年も経てば、すっかり燃料切れ。八つ当たりする理由を失った私は、とある日の夜ルーザ様と一対一で話した。
「ルーザ様は、どうして私を城に呼んだの?私と似たような境遇の他の子達は、城下町の孤児院に送るのに」
「キミの持つ、ハテン家に代々伝わる魔法の力が欲しかったからだよ。良い大人である私が、子供であるキミの力に頼るのは情けないことだけどね」
「……」
こんなに強い人でも、自分を情けないと思うんだ……
「それでもね、情けなくても、叶えたい夢が私にはあるんだ。……あらゆる人が幸福である世界。今よりも一歩進んだ世界。私はそれを求めている。ねぇリバスちゃん。そんな世界を創るのを、手伝ってくれないかい?」
「……無理ですよ。だって私は、他人を救うどころか、自分を救ってくれた人を不幸にするんです」
おじさんとおばさんは、私が殺したようなものだ。お兄ちゃんから家族を奪ったのは、間違いなく私。
こんな私に、皆が幸せな世界を創れるワケがない。
「いやいや、それは早計だよ。知ってるかいリバスちゃん。イジワルな人ってのはね、優しい人になる才能に溢れているんだよ」
彼女は人の悪い笑みを見せた。
「まぁまずイジワルな人っていうのは、人が嫌がることを悦んで率先してやるクソ野郎のことなんだがね。でも、もし彼らが我慢をして、自分がしたいことと真逆のことをした時、その行動は周りの人間から見てどういう風に映ると思う?」
嫌がることの、真逆……
「優しい?」
「そうなんだよ。そして、それと同じでさ。救ってくれた人をも不幸にするキミが、これまでの自分を憎み行動を改め生まれ変わったのならば、その時にキミは、
「…………ハハハ」
私は呆れて笑ってしまった。そりゃそうだろう。だって彼女の言ってることは屁理屈だ。しかも言っている本人が、そうであることを隠そうともしていない。それでも、この口論とも言えないような小さな争いは私の完敗だ。
だって、その屁理屈に縋ってみたいと思わされてしまったから。
「むぅ!笑うなんて酷いじゃないか!」
ちなみにだが、私は決してチョロくない。彼女を様付けで呼んだりするのも、まだまだ先の話。色々と積み重なった結果だ。
ただ、私が彼女を慕うようになったきっかけは、間違いなくこの時だったと思う。
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私が15歳の頃、お兄ちゃんが防衛軍のスパイに選ばれた。それはとても危険な役目だったが、正直別に思うところはなかった。なんやかんやで人に好かれるのが上手な兄ならば適役だと思ったし、やっぱり、私は兄のことが余り好きではなかったから。
それでも、兄が城を出る前夜、私は兄と二人っきりでお酒を飲んだ。未成年がどうとかは、目を瞑った。
「うげ……やっぱり苦くて不味い」
「無理して飲まなきゃいいのに」
「だって、別れの杯ってなんだかカッコいいじゃない」
「…………馬鹿かよ」
呆れた視線が私を刺す。
「はぁしかし、お前のおまけで着いてきた僕がスパイなんて重要な、もとい面倒臭い仕事を任せられるとはなぁ」
「我慢しなさい。お兄ちゃんが仕事を全うしたら、ルーザ様が幸せな世界を創ってくれるんだから」
「幸せな世界、ねぇ」
ため息を吐きながら、お兄ちゃんは葡萄酒の入った酒を揺らす。紫の水面が、頼りなさげに波立った。
「僕には、その幸せな世界ってのが未だにピンと来てないんだ。せっかくの機会だし、脳の足りない僕にも分かるよう教えてくれよ」
「そんなの簡単。幸せな世界ってのはね、お兄ちゃんみたいな人がいない世界よ」
「なるほど。そりゃあ良い。…………いや、やっぱりダメだ。僕は死にたくない」
「ちょっと勘違いしないでよ。私が言いたいのは、お兄ちゃんみたいな境遇の人がいない世界ってこと」
「僕みたいな境遇?」
「えぇ。普通に家族と幸せに暮らしていたのに、それを奪われること」
「へぇ。ちなみに、僕の幸せを奪ったのは誰なんだ」
「私、リバス・ハテン。言わせるんじゃないわよ」
「スンマセン」
小さく頭を下げた後、お兄ちゃんは立ち上がった。
「トイレ?」
「いや、予定を繰り上げて出発しようかなって」
「は?アルコール入ってるのに?」
「だからこそだよ。シラフだと、リバスと別れる時に寂しくて泣いちゃいそうだからさ」
「嘘ばっかり」
私、お兄ちゃんが泣いた所なんて一回も見たことないわよ。
「なぁリバス」
本当にもう城を出るつもりらしいお兄ちゃんは、部屋のドアを開けた所で私の方に振り返った。
「こんなダメなお兄ちゃんでもな。お前の言う幸せな世界がどんなものか何となく分かったぞ」
どこか得意気な目が私を見つめる。
「お前が、自分は誰かの幸せを奪ったんだ、とかいう、アホみたいなことを考えないで済む世界。それが幸せな世界だ」
「…………やっぱりお兄ちゃんって頭悪いよね」
「全くだ」
そう言ってお兄ちゃんは城を出ていった。
この時の私は、お兄ちゃんを信頼していた。
でも結局、アナタは私を、ルーザ様を裏切った。
そして今、ルーザ様が残した『貧者の城』と国民達をも滅ぼそうとした。
許せない。
絶対に許せない。
でもお兄ちゃん、一つだけ教えて。
私が捕まってた防衛軍の地下牢の外に、おばさんと同じ白い髪が落ちてたから、私気づいてるの。
ねぇお兄ちゃん。どうして私を牢屋から出したの?
どうしてこの『貧者の城』をアナタが壊し尽くす前に、間に合うようにしてくれたの?