錨を上げて、明日へ 〜護衛艦いずも・まやの軌跡〜   作:三坂

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第2話 歪んだ過去の世界

 

 

 フィリピン諸島

パラワン島より南側海域

 

 

 CICからの付近海域から救援を要請する平文の緊急電文を傍受した旨の報告を受けたまやは、すぐに詳しい状況を確認するために折り返していく。

 声のトーンからしてかなり逼迫しているのは間違いない、実際詳しい報告を指示された通信妖精から追加の情報が飛び込むように入ってきた。

 

 

まや「……その緊急電文の内容は…!!それと詳しい状況も…!!」

まや 通信妖精『はっ!状況及び電文内容は…』

 

 

 電文の内容としてはミンドロ島守備隊救出のために展開した救援艦隊が、現在敵機の大編隊による攻撃を受けていること…直掩機隊だけでは抑えきれないため、大至急近くの飛行場から援護を要請するというもの。

 尚いずも及びまやがいる海域から数十キロほど離れた海域に、複数の艦艇で構成された艦隊及び多数の航空機らしき編隊をAN/SPY-1D(V) 多機能型レーダーがキャッチしているらしい。

 

 

まや 通信妖精『…我ミンドロ島守備隊救出艦隊、ルソン島カラ襲来シタ敵機大編隊ガ接近中、至急戦闘機ノ増援ヲ乞ウ!以上がその内容です!尚電文はモールス信号により日本語で発せられています!』

まや 戦術指揮官妖精『それとAN/SPY-1D(V) 多機能型レーダーに複数の艦隊及び敵大編隊の反応があります!』

 

 

 しかしその報告を受けたまやはミンドロ島守備隊救出のための艦隊や、ルソン島から飛来した敵機の大編隊という普通ならば聞くことない言葉に思わず首を傾げてしまう。

 本来ならばルソン島やミンドロ島などはフィリピン諸島の領土。昔こそ旧日本軍の拠点などがあり太平洋戦争末期では米軍との激戦が行われた場所で、今も近海の南シナ海では中国とバチバチにやり合ってるものの、戦争に発展したという話は聞いていない。

 

 仮にそうなら自分達にも情報は入ってくるし、フィリピン諸島の島を取られたのならば尚更だ。しかも電文の内容は日本語、戦闘中ということを考えると自衛隊なのは間違いない…のだが…

 

 

ールソン島飛行場の敵機大編隊…?しかもミンドロ島守備隊救出艦隊って……、フィリピンと中国が戦争状態に突入したなんて情報は…しかも本島とかも取られてるって……。それに日本語ってことは自衛隊…のはずなんだけど…ー

 

 

 文書の内容的やモールス信号を使っているとなると自衛隊というよりかは旧日本海軍などで使われていたやり取りと一緒だとまやは感じていたらしい。

 

 …まあ仮に自衛隊だとしてもモールス信号を使っていることに矛盾が生じてしまう、…というのも今の無線はデジタルデータリンクと暗号化音声による通信が主流。コンピューター間の自動データ通信(データリンク)や衛星通信が主役となっているため、モールス信号を使う機会がそもそもなないのだ。

 

 

ーだとしてもモールス信号を主流に使ってるとなると…自衛隊じゃない…?どっちかというと旧日本海軍のやり取りのような…、…ってか今の海軍ならデジタルデータリンクと暗号化音声による通信が一般的…モールス信号なんて…ー

 

 

 考えれば考えるほどわからなくなってくる状況に、何が何だか…そんなことを呟きながらふと艦内時計に視線を向けたまやだったが、そこに表示されていた表示、西暦は2005年8月某日という文字へ目にやった途端に思わずハッとした表情になる。

 …そう本来ならそこに表示されているのは西暦2030年であり、もしその表示が本当なら自分達は25年の過去へタイムスリップしているということに…。

 

 

ー…はぁ考えれば考えるほどわからなくなっ……て……ー

まや「…2005年……2005年!?いやいやちょっと待ってなんで…!本来2030年のはず……」

 

 

 だがそんなことは現実的には有り得ないことであり時計が壊れているだけなのでは…そう思いながら他の艦内時計などを確認しようとした矢先、先ほどから黙っていたいずもが無情にも現実を突きつけた。

 彼女より先に目覚めた際、時計の西暦がおかしいことに気づいた時、自分も何かの間違いではないかと自艦とまやの安否を確認しに訪れた際に確かめたものの、全て同じ西暦を指していたため壊れている線はすぐに薄れてしまった。

 

 

ーもしかしてタイムスリップ!?…いやいやそんなはずは……あっそうだ!時計が壊れているのk…ー

いずも「…って思ってるんでしょうけど、残念ながらそれは私がもう確かめてるわ。残念だけど壊れてるって線はないかしら」

 

 

 つまり時計の西暦が本当なら、この世界はかつて自分達がいた年代より25年前ということになる。もちろん仮にタイムスリップしたとなれば色々と問題になりかねないものの、正直それだけならまだいいとも言える。

 一番の問題は衛星が一切使えないことであり、それ以外にもデータリンク(Link 16等)の沈黙によって僚艦との通信、本国との連絡が取れない上、GPSロストによる自艦位置の喪失もかなり痛い。

 

 

まや「…ってことはこの時計で表示されてる西暦は………ほっ…本当ってこと…ですか?」

いずも「えぇ…信じ難いけど…、私たちは25年前にタイムスリップしてるってことになる。…けど正直それだけならまだいい」

まや「いやタイムスリップしてるだけでもかなり問題なような…」

いずも「…いえ、一番の問題は衛星が一切使えないってこと。それだけじゃないわ、データリンク(Link 16等)が沈黙してるから他の自衛艦艇や本国との連絡も取ることが出来ない」

 

 

 何より気がかりのが自分達は1度沈められているのに損傷がほとんどない状態で海の上に浮いているということ、ましてや少女の格好になっているなどかつて自分達がいた世界では説明のつかないことだらけなのだ。

 …これから言えることはこの世界は自分達が知っている場所ではない…、つまり別次元の…かつていた世界と平行する世界の過去に飛ばされたということになる。

 

 

まや「あっえっ…、っ…ほっ本当だ…連絡つかないどころかGPSもロストして…」 

いずも「…そもそも私たちは1度沈んでる、なのに気づいたら沈んでないどころか損傷がない状態で浮かんでる」

まや「……」

いずも「つまりこれから言えることは1つ…、この世界は私たちの知ってる過去じゃないってことよ」

 

 

 タイムスリップしたというだけでも信じられないことなのに別次元の世界の過去にやってきたとなれば余計に訳わかめなことになりそうだが、それならこの説明がつかない出来語に納得が出来てしまう。

 そう告げたいずもの言葉に唖然としていたまやだったが、CICから飛び込むように舞い込んできた無線を耳にするや否や再び我に返っていく。

 

 

ー……私達の…知ってる世界の過去じゃない……、でもそれならこの状況に説明が…ー

まや 攻撃指揮官妖精『こちらCIC!レーダーが新たな目標を探知!かなりの数です!約50ほどの反応が本艦に向けて接近中!恐らく救援信号を出した艦隊に向かってた一部がこちらに目標を変更した可能性が…!このままだとあと30分で接触します!』

まや「…!?」

 

 

 どうやら議論させてくれる余裕はくれないみたいね…と呟いたいずもを横目に、まやはCICに対してIFF(敵味方識別)はどうかと尋ねる。

 しかし返ってきた反応は未確認(Unknown)」を意味する黄色い記号とのこと、だが速度からしてジェット機やミサイルではないらしく、レシプロ機に近い反応のようだ。

 

 

まや「CIC!IFF(敵味方識別)は!」

まや 攻撃指揮官妖精『駄目です!IFF応答なし!未確認(Unknown)」を意味する黄色い記号をレーダーでは表示してます!』

まや「応答なしか…」チッ

まや 攻撃指揮官妖精『尚レーダーに表示されている大きさの反応及び速度から接近中の反応はジェットやミサイルではありません…!恐らくレシプロ機に近い速度です…!』 

 

 

 CICからの報告が本当ならば接近中の反応は50機のレシプロ機の編隊ということになり、かなり綺麗な編隊を組んでいることから民間機の反応でないのは明らか。

 とはいえこの時点では判断のつけようがないため、ひとまずその編隊に対して警告を発するように指示を飛ばしながら隣にいたいずもへもまやは視線を向けていく。

 

 

ーってことは接近中の反応は50機のレシプロ機編隊…、IFFの応答がないし民間機がこれだけ編隊を組むことはないからその線は薄いか…でもこれだけじゃ判断がつかないー

まや「まやよりCIC、接近中の編隊に対して警告の実施をひとまずお願いします。それと…いずもさん」

 

 

 だが先ほどCICとやり取りしていた情報は既に共有済み、尚且つ彼女が頼もうとしていたことは言わずとも伝わっていたらしい。

 聞かれるよりも先に戦闘機による敵編隊の状況把握をして欲しいんでしょ?といずもはお見通しと言わんばかりに思っていたことを当てていく。

 

 もちろんその通りであり早すぎる推察に一瞬驚きこそしたものの、その通りだとまやは答えていく。

 現状所属不明機の判別ができていない以上、哨戒ヘリよりも速度や機動力があり、ステルス性能を兼ね備えたF35Bでの偵察を行えば、確実で尚且つ安全に行うことが可能だ。

 

 

いずも「言わなくても言いたいことは分かるよっ、私の戦闘機でその編隊を偵察して欲しいってことでしょ?」

まや「……流石いずもさん、その通りです。現状所属不明機が軍用機か民間機かの判別が出来ない以上、哨戒ヘリでの偵察はリスクが生じるので…」

 

 

 当然断るつもりなど更々にないいずもはすぐに耳元につけたインカムで自艦につなぐと、戦闘機や哨戒ヘリなどの着艦や離艦を指示する航空管制室に戦闘機1機の発艦準備を指示。

 その後自分は自艦の指揮に戻るためにまやを後にすることを告げながら、護衛艦らしく空母の護衛は任せたわよとまやへ告げていく。

 

 

いずも「りょーかい、(ピッ)いずもより航空管制室」

いずも 航空管制室 飛行長妖精『こちら航空管制室です、いかがなされましたか?』

いずも「戦闘機1機発艦準備、現在接近中の所属不明編隊の偵察及び情報収集を頼みたいの」

いずも 航空管制室 飛行長妖精『分かりました、現在待機中の部隊から1機発艦可能な機を上げます』

いずも「お願い(ピッ)んじゃ私は自分の艦の指揮に戻るから、護衛艦らしく護衛は任せたわよっ♪」

 

 

 まやもはいと答えようとしたのだが直後あのときの出来事がフラッシュバックで蘇るように脳裏に浮かんだこで、開きかけた口が止まってしまう。

 しかし今はそんなことで悩んでる場合ではない…と無理矢理気持ちを切り替えさせせながら、はいと力強い返答を返す。

 

 

まや「わかりm……」

フラッシュバック

『最新鋭の護衛艦が…このザマ…とはな……ゲホッ(吐血)……、すまない…許してk…(爆発)』

 

ー…っ…、私に…彼女を護る権利が…っていやいや…!今はそんなことを悩んでる場合じゃ…!ー

まや「はいっ!」

 

 

 だが一瞬の異変をいずもは見逃してなかったらしく、少し気にかけるような表情を見せるものの、特に深く追求することなく再び前を向くと、人間では到底出来ることのないジャンプ力で自艦へと戻っていくのであった。

 

 

いずも「……」

 

 

 

 

 

 

 

いずも 航空管制室 飛行長妖精『第202飛行隊第1小隊2番機発艦準備…!甲板要員は最終チェックにあたれ!』

 

 

 それから少しした頃いずもの飛行甲板では発艦準備を受けた1機のF35B戦闘機が滑走路にゆっくりと出て来ながら停車、甲板要員や整備士などが機体の最終チェックに追われていた。

 当然発艦理由は接近中の所属不明編隊の偵察及び情報収集、そのデータや映像をいずもやまやに共有することでありコックピットに乗り込んだパイロット妖精は航空管制室からの説明を受けていく。

 

 

いずも 甲板要員妖精1「飛行甲板はクリア!一応露天駐機してる戦闘機の固定も確認しとけよ!」

いずも 整備士妖精1「機体及び搭載してる空対空ミサイルも異常なし…!各翼も問題ないぞ!」

いずも 航空管制室 オペレーター妖精1『今回の任務は接近中の所属不明編隊を捕捉、捉えた映像をいずも及びまやに送り共有することです』

いずも 第202飛行隊第1小隊 2番機妖精『つまり偵察ってことか』

 

 

 もちろん偵察任務なので敵機に見つかったり指示があるまで攻撃したりすることも駄目、なので現在搭載している空対空ミサイルはあくまで見つかった際の自衛用。

 まあステルス性能の優れたF35B戦闘機なので、よっぽど下手に接近しない限り目視で見つかることもないし、レーダーで捕捉される心配もない。

 

 そうこうしているうちに発艦準備が整ったため、航空誘導員からの手信号指示を受けたパイロットは、操縦桿を前に倒しアフターバナーの出力を上げながら機体を前へ押し出す。

 

 

いずも 航空管制室 オペレーター妖精1『はい、なので指示があるまでは攻撃はしないでください』

いずも 第202飛行隊第1小隊 2番機妖精『りょーかい、なら距離をとって監視だな…』

いずも 航空管制室 飛行長妖精『航空管制室より2番機へ、発艦を許可します』

いずも 第202飛行隊第1小隊 2番機妖精『りょーかい、第202飛行隊第1小隊2番機、発艦します』

ゴクッ

 

 

 もちろん本来空母から発艦する際に必要なカタパルト(射出装置)をいずも装備していないため、F35B自らの推力と「リフトファン」を利用する短距離滑走発艦(STOVL)機能を使った発艦を行うことになる。

 ゆっくりと加速しながら動き出すのと同時に、発艦管制士官(LSO)の合図を元に機体後部のエンジン排気ノズルを下に向けて推力を得ながら、機体上部のリフトファンで空気を下方に吹き出して揚力を発生。

 

 燃料や武装をフルに近い状態で搭載しているのにも関わらず、身軽に飛行甲板から足を浮かせたF35Bは短距離滑走発艦(STOVL)機能からリフトファンの停止と排気ノズルを後方へ戻す「コンバージョン(モード移行)」と、通常の高速巡航飛行(CTOLモード)へと移行。

 

 

いずも 航空管制室 オペレーター妖精1『正常の発艦を確認、武運を祈ります。離陸後はCICの防空管制官(AIC)の指示に従ってください』

いずも 第202飛行隊第1小隊 2番機妖精『2番機了解。離陸確認をしたため、短距離滑走発艦(STOVL)から通常の高速巡航飛行(CTOLモード)に移行します』

 

 

 その様子を艦橋から横目で見ていたまやは、視線を前に戻すと艦内に対空戦闘用意の号令を下していき、同時に配置につくための艦内アラームもけたたましく鳴り響かせる。

 当然妖精も戦闘配置の号令を受けたことで慌ただしく艦内をいったりきたりしながら各々配置についたり、隔壁閉鎖を行っていく。

 

 

まや「…CIC、対空戦闘用意。隔壁閉鎖及び乗組員に第一種戦闘配置につかせて」

まや 戦術指揮官妖精『了解、配置につかせます!対空戦闘用意!!』(アラーム)

まや 主砲妖精1「戦闘配置だ急げ!敵は待ってくれないぞ!!」

まや 給食妖精1「いいか!何があろうとも飯を作る手を停めるんじゃねーぞ!」

まや 応急工作班妖精1「ダメコン用意急げ!隔壁閉鎖忘れるんじゃねーぞ!これまでの訓練はこの時の為だと思え!」

 

 

 次々と配置につく妖精たちを横目にまやはCICに対して先ほど指示した呼びかけによって何か変化はあるかと確認、…が返ってきた反応はあまりいいものではなく、様々な周波数…国際VHF(マリンバンド)や衛星通信、ミリタリーバンドで試みてはいるものの、進路の変更や反応が一切ないとのことだ。

 

 

まや「それとCIC、接近中の所属不明編隊からの応答は?」

まや 通信妖精『駄目です、応答及び進路変更の様子なしです。いろんなチャンネルで試みてはいますが…』

 

 

 もし民間機や敵意のない空軍ならば応答は返ってくるし無闇に軍艦に近づいたりはしない…、ということはこの接近中の編隊は味方でないことは考えなくても明らかだろう。

 とはいえまだ直接確認していないためなんとも言えないというところ、いずもから発艦した戦闘機からの接触報告を引き続き待ちながら、CICに対して新たな反応がないかの確認及び、引き続きの警告実施を呼びかけるように指示を出していくのであった。

 

 

ー…民間機や敵意のない軍の航空機なら何かしらのアクションは返ってくる……それがないってことは……っても直接確認してみるまではなんとも言えないか…ー

まや「了解、いずもさんの戦闘機が接触するまでは引き続き警告実施をお願いします」

まや 戦術指揮官妖精『了解』

 

 

 

 

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