一番の幻想曲   作:フィールデ行橋

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一番の幻想曲4(終)

卒業式を終えてからの日々は恐ろしいほどに過ぎていた。

卒業旅行、親戚との卒業祝いの集まり、新生活の準備。時間がいくらあっても足りないような感覚だった。

そして今日はいよいよ、兵庫で暮らし始める日。

着いた。ここから新生活が始まると考えると緊張よりワクワクが勝る。新居のドアを開ければ、そこは既に生活の準備が出来上がった部屋が広がっていた。自分が好きなように模様替えするのはこれからとして、生活に困らないレベルでは整っている。今日はこれから、近場の散策でもしてみようか、なんて考えてその前に、カバンの中にある封筒を取り出す。差出人はもちろんゆくりちゃん。卒業旅行に行った際にもらったもので「東京に着いたら読んで」と言われた。だから、今日まで開けずにいた。封筒の口には、ハイヒールのシールが貼られてあって、いかにもゆくりちゃんらしいなと思った。シールを丁寧に剥がして、中に入っている便箋の束を取り出す。書き出しの「真緑ちゃんへ」という字に目が止まった。本当に達筆で綺麗だ。

 

無事に兵庫に着いたかな?きちんと兵庫に着いてから開けてくれてる?真緑ちゃんの事だから、ちゃんと約束は守ってくれると思うけど、渡そうと思っているタイミングがタイミングだから少し心配。なんってね。こんなふうに親友に手紙を送るなんて初めてだから、少し緊張してるよ。まぁ、自分でも本当にそう感じているよ(笑)

 

丁寧に封までされていたのに、くだけた内容から始まって、思わず笑みがこぼれた。

それから、他愛のない世間話が続いた。3年間長いようであっという間だったね、とか、もう大学生なんて信じられない、とか、以前の会話の中でも出たような、卒業を迎えた高校生達が書くような普通の内容。意外と便箋の量があったからどんなことが書かれているものかひやひやしたけど、時折ふざけたり、冗談めいたことが書いてある内容に戸惑ったのと同時に、笑いを少し感じた。そのまま読み進めると、手紙はあっという間に終盤に迫っていた。名残惜しさを覚えて、最後の1枚を取り出す。

 

卒業アルバムのアンケート、覚えてる?

 

いきなり話がさっきまでの内容から飛んだ。もしかして便箋を飛ばしてしまったかと思ったけど、間違いなく残りの便箋はこの1枚だけだ。まるで、手紙の最後にはこのことを書こうと、最初から決めていたみたいな感じだった。

 

忘れられない思い出は?って質問、私悩み続けて書けてなかったよね。それでお泊まりに来てもらって。真緑ちゃんはスクールアイドルって書いて、いつまでも書けない私を不思議がっていた。そういえば結局なにを書いたのか真緑ちゃんに教えてなかったと思って。だから、ここで発表したいと思う。それはね・・・・。

結論から言うと私もスクールアイドルって書きました(笑)やっぱり書くとしたらこれしか思い付かなかったんだよ、あんなに悩んだのに(笑)今まで黙ってごめんね。でもね、それだけじゃないよって事を、ここで書きたくて。私ね、真緑ちゃんとスクールアイドル出来て嬉しかった。心からそう思う。

 

その1文を読んで、喉の奥がぎゅうっと締めつけられる感覚がした。心臓がドクンと大きく脈打つ。それらを出来るだけ感じないように、手紙を読み進める。

 

私ね、真緑ちゃんと一緒に何かしたいと思っていた。初めて出会ってからその瞬間を感じ取ってた。でも、真緑ちゃんと出会うまでの私は、体に重い病気を抱えていて、体を動かす事すら許されなかった。それが悔しかった。だから、高校生になって真緑ちゃんとスクールアイドルが出来て、本当に嬉しかった。ようやく一緒にやれるんだ、体を動かすのってこんなに素晴らしいんだって!だから、私の高校生活での忘れられない思い出はそれ。まあさすがに恥ずかしいから、アンケートには書けなかったんだけどね(笑)でもそれだけは真緑ちゃんにきちんと伝えたくてこう記した。

てか、たぶんこの話オーロラちゃんから聞いたことあるよね!今かよ!なんて思うかもだけど、そういえば直接言った事なかったなあって。本当は自分の口から伝えたかったけど、なんか恥ずかしいし伝えられないのでこうして手紙に書きました。それだけ。なんか長くなっちゃった。自分でもびっくりだよ。なので、そろそろ終わるね。真緑ちゃん、兵庫行ってもくじけないで頑張って下さい。夢に向かって、羽ばたいて!離れていても私達は、最高の友達だから。

 

ポタッと、手紙に水滴が落ちた。ポタ、ポタ、水滴がいくつか落ちて、手紙を侵食して、ゆくりちゃんの書いた字がにじむ。そのとき初めて、自分が泣いている事に気がついた。呼吸のリズムが崩れて息苦しい。無意識に手紙を掴む指が力んで、くしゃりと音がする。

はい。

私もです。そう言って今すぐにでもゆくりちゃんを抱きしめたかった。でも、ゆくりちゃんはここにはいない。きっと、今頃、東京の新居で新生活の準備をしている。もう、私達は一緒じゃないから。その事実が、急にズドンと胸を押しつける。

 

「わああああああああああん!」

 

声を上げて泣いた。涙が溢れて止まらなかった。そんな事なら、最初からもっと泣いてしまえばよかった。離れたくない、変わりたくなんてない、ずっとこのままがいい。そう言ってゆくりちゃんを困らせるくらい泣いてしまえば良かった。そうすれば、きっと今頃こんな気持ちにはなっていなかったはずだ。

会いたいです。

ゆくりちゃん、本当に会いたいです。

後悔してもしょうがない。つらいだけなんだから。知っていたからこそ、我慢していたんだ。どれぐらいそうしていただろうか。肌寒さを感じて体を起こすと、いつの間にか日が落ちかけて部屋の中はほんのりと薄暗くなっていた。いつまでも、こうしてはいられないと思って、手紙を手に取る。すると、最後の便箋の裏側に、何か書かれてる事に気がついた。

 

P.S.

真緑ちゃんの事だから、きっと今頃メソメソして淋しくて泣いていると思います。

真緑ちゃんってば、妙な所で律儀なんだから。親友なんだからそんな事お見通し(笑)

だから今度遊びに行くね。

真緑ちゃんの1番の親友 春宮ゆくりより

 

ああ、全部、見透かされていたんだ。

 

「ははっ、かっこ悪いですね私・・・・」

 

恥ずかしさで、体温が一気に上がって肌寒さは吹き飛んだ。部屋の中はほんのり薄暗いが、太陽はまだ見えている。私はそれを見てこう誓った。

私の家で、たくさんの思い出話を語り合いましょう。




これにてみどゆくによる卒業物語は完結しました。イキヅライブ!の卒業後をこうでありたいという想いを込めて書きました。見て下さって感謝です。
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