鬱ファンタジー官能小説世界に転生した俺は鬱展開をぶち殺す(予定) 作:鬱方はなんとかします
波の音が聞こえる。地面が絶えず揺らぐ感覚には慣れたが、眠ること、そして起きることが未だに怖い。
「ロックさん」
「んん……朝か?」
彼女の声は真正面の間近から。精神を病んでから、彼女と同衾するのがお決まりになっていた。念のために言っておくと『そういうこと』はしていない。
「お食事、摂れますか?」
「……大丈夫、だ」
未だにあの精神攻撃がフラッシュバックする。何度自刃しようとして耐えてきたことか。今となっては回数も覚えていない。
なんにせよ起きなければカシミヤに心配させてしまう。俺は重い体を起こした。
▫▫▫▫▫
「潮風が気持ちいいですね」
「……そうだな」
慢性的な眠気。それに身を任せようとすると、トラウマがフラッシュバックする。
日の光は温かいけれど、恐ろしい。俺の罪を丸ごと暴くように思えて。
この精神状態はカシミヤによる献身のお陰で回復方向には進んでいる。が、終わりはまだ見えない。
「……悪い、カシミヤ。少し寝てくる」
「はい」
『眠りすぎですよ』、と俺の中の意識が言う。だが、カシミヤはいつだって俺を尊重してくれて、お小言を貰ったことすらない。
「スー……ハァ……」
客室に戻っても浅い動悸が止まらない。とにかく今は眠りたいのに、蘇るあの光景がそれを許してくれない。
「ロックさん?開けますよ……」
瞼を閉じて、起き上がること一時間。カシミヤが俺の元へ足を運んだ。
「ん、ああ」
「……そのご様子だと、お眠りになれないようですね」
「……すまない」
「謝る必要などありません。ただ、私にも貴方の苦しみを背負わせてください」
ゆっくりと、確かめるように抱きしめられる。そうして俺は初めて夢へ落ちることができた。
▫▫▫▫▫
「英雄お二方!目的地に着いたぞ!」
「ロックさん、立てますか?」
「ああ。ちょっと待ってくれ──ふう。長かったな」
ちょくちょく魔物に遭遇するハプニングがありつつも長い船旅がようやく終わり、俺たちは新たな大地に足を踏み入れた。
「それでは。世話になりました」
「おう!機会があったらまた乗ってくれよ!」
気前が良い。あの原作からは考えられないぐらい爽やかな別れだった。
「まずは情報収集だな」
「お供します」
辿り着いた場所は、平凡だが活気溢れる港町だった。職人が闊歩し、子を連れた母親が買い物に勤しんでいる。
真っ昼間だが、酒場が開いてるといいなと思いながら俺たちは歩いていった。
▫▫▫▫▫
「魔王様のことを知りたい?ならここから北に200kmも進めば城に着きますよ」
「……え?魔王……魔王、様?」
距離の長さに辟易するより、魔王が『様』呼びされている衝撃が大きかった。
「カシミヤ」
「はい」
「ん?どうかしましたか?」
「いえ、なにも」
面と向かって行うには失礼すぎるため、不快にさせないようカシミヤにこっそり探査魔法を使用してもらう。それでなにかしらのイメージ操作があるか解き明かす。
素直に教えてくれた男性と別れてから、人気の無い場所でこれからの方策と予定を錬ることに。
「魔法の痕跡は一切見つかりませんでした」
「洗脳の類いではなさそうだな。しかし魔王の人望が厚いってのはどういうことなんだ?」
一体目や
「……とりあえず、行くか」
「はい」
▫▫▫▫▫
『魔王様ですか?いやー私たち人間とあまり関わりがありませんから、細かいことは知らないですね……ん?攻撃を受けている?まっさかぁ~!そんなこと一度もありませんよ!』
▫▫▫▫▫
『魔族の方々を魔王様が統括してくださっているお陰で僕たち騎士団は商売上がったりですよ。……いいことなんですけどね』
▫▫▫▫▫
魔王の元へ向かいながら様々な村や国に寄ったが、そのどこでも魔王は『様』呼びされていた。その都度探査魔法を使ったが、精神操作の傾向は全く確認できない。
ちなみに、俺は精神を病んだことで一ヶ所の宿屋に泊まると三日かけなければ旅立てなくなってしまった。動かなければという焦燥感に駆られながら、体が動いてくれない。金貨たくさん貰っといてよかった。
「ロックさん、まだ起きていますか」
そんな旅の途中、宿屋の寝室で彼女に抱きしめられながら目を閉じていると声をかけられた。
「どうした?何か忘れ物でもあったか?」
「……この大陸の魔王について、少々お話がしたいです」
情報交換は大切だ。俺は目を開く。そして、痛ましい過去を振り返った。
「あのサキュバスみたいに、人間に友好的な存在……だと、俺は判断している。カシミヤはどうだ」
「私も相違ありません」
例のサキュバスと違う部分は、エゴイスティックではないということ。この大陸に野生動物はいるが魔物が少ない。そしてなにより、魔族が襲ってこない。
「少し、嬉しいです」
「何がだ?」
「互いに争わずに済むのであれば、それが一番ですから」
「……お前は、やっぱり優しいな」
俺がそう言うと、彼女は俺を抱く腕に少しだけ力を加えた。
「……このまま、どこまでも逃げてしまいましょうか」
聞こえていた。
▫▫▫▫▫
「あれ?珍しいね、ここに人間が来るなんて」
「……魔王に謁見したい。頼めるか」
「うーん……少し待っててね」
とうとうやってきた魔王城。役職を与えられているらしい魔族に許可を願うと、随分フランクな返事が返ってきた。嘘の気配は無い。本当にこの大陸は魔族と人間が共存しているのか……。
「『暇だしいいよ』だって!じゃあ、アタシに着いてきて!」
「……では、失礼する」
最大限警戒はしている。集中は解かない。いざとなればカシミヤの転移魔法で逃げる予定だ。
「……ロックさん」
「なんだ」
「私が、お傍におりますから」
「……お前には敵わないな」
緊張がほんの少し霧散する。それと同時に、玉座の間に辿り着いていた。
「魔王様、二人の人間をお連れしました」
「うん。入っていいよ~」
扉がゆっくりと開かれる。中にいたのは、中性的な少年の姿をした魔王だった。
「はじめまして、だね。勇者クン。ああ、キミはもう下がっていいよ。ありがとね」
「はーい!失礼しましたー!」
俺たちを連れてきた魔族が下がる。部屋には俺たちと魔王のみとなった。
「キミたちでしょ?魔王を二体討伐したの」
「……何故分かる」
「ボクの部下に優秀な子がいてね。その子の魔法で、風が繋がる場所の情報は大体入ってくるんだよ」
「そりゃまた便利だな」
敵意は感じない。緊張感すらない。これが、魔族を束ねる者の姿なのか?
「ところでキミたちはどうしてここに?ボクを倒しに来た感じ?」
「お前が人間を害するようだったらすぐにでもそうしていた……けど、ここまで旅をしてきてお前の悪評判を聞いたことがない。とりあえず戦闘は保留だ」
「助かった~。自分の腕には自信あるけど、キミたちに勝てる確証は無いからね」
「……随分明け透けに話すな」
「そりゃお互い様。わざわざ戦闘は保留なんて言ってくれる相手には礼儀を欠けないよ」
「そうか。……質問をするが、お前は人間をどうするつもりだ」
「どうもしないよ。それにボクたち魔族と人間はどうしても相容れないからねー。こーやって住まいを分けてくしかないんだよ」
「共存を望んでいる、ということでいいのか?」
「うん」
「……そうか」
俺の中の緊張が解けると同時に倒れ込んだ。精神的に張り詰めてきた毎日が、この気絶という結果を招き寄せた。
「ロックさんっ!?」
彼女の動揺する声が聞こえて、そこでようやくどこか冷静に『ああ、俺無理してたんだ』と知った。
▫▫▫▫▫
「ロックさんっ!?」
咄嗟に抱き止めたことで頭を強打することは無かった。魔王は少し驚いたように目を見開いている。
「ちょ、ちょっと大丈夫?疲労の色が濃いけど」
「……魔王の貴方に。一つお願いがあります」
「ん、んん?何?それよりその彼を客間にでも運んで──」
「私たちを、ここに住まわせてください」
「……え?」
ロックさんの緊張は人間と接する時からそうでした。敵地の中央で気絶する程に、神経を摩耗させていたのですから。
ここに人はいない。誅殺を恐れる必要は無い。魔族はいるけど、いざとなれば私が命に代えても守る。
「……人間は色々見てきたけど、ここに住みたいって言われたのは初めてだなあ」
▫▫▫▫▫
気づけば魔王城で過ごすことになっていた。……。…………。………………??
空いてる部屋は山ほどあるから好きに使ってくれとのこと。食料は辺りの森からカシミヤが狩ることに。
『今はただ休みましょう』
彼女はそう言った。確かに俺は催眠薬ジュースを差し出されてから、どこに泊まっても人間を恐れていた。だからといって友好的とはいえ魔王城でプー太郎になるとは思わなかった。
「やっほー、人間クン。気分はどうかな?」
「……悪くない」
本当に悪くなかった。瘴気は無いし、空気が澄んでいる。魔族の本拠地とは思えない程に生きやすかった。
「今日はボードゲームでもしよーよ。ボク遊び相手がいなくてずっとつまらなかったんだよー」
「……お前な、人間と魔族はどうしても相容れないって言ってたじゃないか」
「キミたちが例外になるかもしれないじゃん」
俺の知ってる魔族は、カシミヤを犯し、辱めるクズ共。それが今は、なんだ?共に遊戯に興じようとしている。
俺の知ってる人間は、カシミヤを犯し、手篭めにするクズ共。そうだったのに、ここまで俺たちを歩かせてくれていた。
「人間だー」
「名前なんて言うのー?」
「肩車してー」
「あはは、モテモテだねぇ」
「言ってないで止めろ子煩悩魔王」
魔族の子供たちに群がられる。……温度がある。
なあ、俺。もう分かってるんじゃないのか?
「……」
「?キミの番だよ」
……旅をして分かったが、世界は腐ってなんかいなかった。ただ、カシミヤだけが致命的に恵まれていなかった。理不尽で不条理な運命の凶刃が、彼女に牙を剥いていたのだ。
「ロックさん、ただいま戻りました。お食事にしましょう」
「本妻のお帰りだー」
「どこで学ぶんだそんな言葉……」
カシミヤに寝かされ、カシミヤから食事を貰い、魔族と交流を深める。およそ人間的なそれとはかけ離れた生活だったが、確実に俺の心を癒していた。
そんな生活を送り数ヶ月、精神病はひとまず治まった。
▫▫▫▫▫
「いけ!シュートだ!」
「おりゃー!」
「だあっ!……ちくしょう、やるな……!」
サッカーをしながら酔狂な人間だ、と自嘲する。あれほど憎かった魔族相手に打ち解けるなど。
そして、それを悪くないと思う自分を、俺は認めたくなかった。
「お疲れ二人とも。はい水」
「……!」
「大丈夫ですよロックさん。毒は入っていません」
疑心暗鬼は変わらない。がしかし、ここの魔族たちには確かな信頼が培われつつある。
「……なあ、カシミヤ」
「はい」
「四体目の魔王、どうする?」
「…………」
俺の精神は大分回復した。これ以上ここのぬるま湯に浸かっていると剣が鈍ってしまう。
彼女に戦地へ向かわせたくない。だが、今度は俺が人々の犠牲を許せなくなっていた。
「……私は……」
「二人とももっと気楽にいこうよ!ボクたちはいつでもここにいるし、いつでも帰ってきていいんだよ?いやー、人間と関わるのがこんなに楽しいとは思わなかったなー」
「そういえば魔王。お前は四体目のことは知らないのか?」
「知ってるよ?えーっとね、彼は──」
『人間、そして魔族共よ』
「「「ッ!?」」」
脳内に声が響く。辺りを見回すと俺たち以外にも声は伝わっていた。
『我は真の魔王。この醜悪な世界に終焉を齎す者』
「まさか、この声の主が……!」
「……あー、とうとう目覚めちゃったか」
四体目の魔王。ソイツが、全ての生命体に語りかけている。
『我は五日後より、全人類を滅亡させる。手始めに、この国からだ』
「ここは……!」
「……っ!」
脳内に映し出されたのは、俺たちを裏切った王国。
『抵抗するも受け入れるも好きにするがいい。貴様らの滅亡に、変わりはないのだからな』
声が止み、俺たちは顔を見合わせる。
最後の戦いが、始まろうとしていた。
▫▫▫▫▫
「魔王。アイツの情報を教えてくれ」
「アレは元々神だよ。堕落して魔王に成り下がったんだ。だから全生命体に語りかけるなんて芸当もできる」
カシミヤは瞑目していたが、意を決したように瞬いた。
「ロックさん。行けますか」
「あの国は俺たちを裏切ったんだぞ……って言っても」
「そうだとしても、助けない理由にはなりません」
「って言うよな。しかしどうやって行くんだ?一日じゃ戻れないぞ」
「教官の自室に、転移魔法の印を付けています。いつか必要になるかもしれないと思い」
「……お前命知らずすぎるだろ」
「ボクも連れて行ってよ」
「いいのか?お前、魔族なんだろ?」
「彼はボクたちにも手が余る相手だからね。下手すれば友好的な魔族を滅ぼすなんて言いかねないし」
戦力は揃った。後は向こうが、俺たちを向かい入れてくれるかどうか……。
▫▫▫▫▫
ロックさんにこれ以上傷ついてほしくなかった。だけど、彼がいなければ、私は四体目の魔王に勝てない。
だから、全てが終わったら、私はこの人と幸せになりたい。……そんなワガママ、許されていいのでしょうか。
ああ、ごめんなさいロックさん。私は、貴方に求められて嬉しかった。こんなのいけないのに、私はそれでもどうしても──貴方に愛されたい。どうか、私を、愛して……
▫▫▫▫▫
久方ぶりに酒を飲む。軍の指導者になってから、随分と長い間禁酒生活を強いられていた。だが、それもじきに終わる。
魔王がこの国を滅ぼす。お偉い方は必死になって救援要請を発しているが、援護は来ない。それは私が誰よりも知っている。
国民を避難させる案は当然あったが、この国は敵を作りすぎた。頼れる場所は、無い。
……やれやれ、いよいよ私も年貢の納め時か?
酒の入ったグラスを弄ぶ。人生最後の飲酒だ。と思いながらも、とっておきのワインを空ける気にはなれなかった。
「……ん?」
酔いが回った……にしては不自然。部屋が光っている。この感じ、この魔法は──私が教え込んだもの。
「お久しぶりです、教官」
カシミヤ、ロックフォール、正体不明の魔族。
「……何をしに来た。貴様らは指名手配されているのだぞ」
「恩を、返しに来ました」
「……言うに事欠いて恩、か。いいだろう。便宜は私が図ってやる」
やれやれ、まだ仕事は無くなりそうにない。
▫▫▫▫▫
王国に帰った俺たちは捕縛されかけた──が、教官の鶴の一言によって共闘作戦を講じることになった。よかった。これ以上戦力を削ぎたくなかったから、仲裁してくれて非常に助かる。
それからは大忙しで防衛作戦を打ち立て、兵糧、装備、人員を用意。これだけで三日かかった。
そして迎えた五日目。俺たちは、最大の敵と戦うことになる。
「空が──黒い」
魔王がそこにいる、と分かる。遥か上方から、俺たちを見下ろしている。
きっと事前に話せるのはこれが最後だろう。俺は口を開いた。
「なあ魔王。……俺ら側の」
「なに?」
「名前、教えてくれよ」
「レデュクシオン。人間に名乗るのはこれが初めてだよ」
「じゃあ、レデュクシオン。俺たちと一緒に戦ってくれ」
「任された」
「なあカシミヤ。戦いが終わったら、どうしたい?」
「……幸せに、幸せになりたいです。ロックさんと一緒に」
「……ふ。そりゃ光栄だ」
一瞬、光る空。降ってきたのは──
「……はは、ヤベえな」
空から、国を丸ごと飲み込む程大きな火球が降ってきた。
「ロックさん、アレをやりましょう」
「アレか~……。ぶっつけ本番でいけるか?」
アレとは、魔力を融合させ放つ魔法。絶大な威力を誇るが詠唱、発動共に最難関。まあできなければ死ぬだけだ。
「「■■■■■■■!!」」
吹き荒れる魔力が火を貫き、空を割る。発動に成功したということだ。
「なんとかなるもんだな」
「来ます!」
後ろの方で「ひぃぃ……化け物だ……」みたいな声が聞こえる。おいそこ、聞こえているぞ。
「ほう?この一撃で終わるかと思えば、存外抗うではないか」
「勇者舐めんな」
火球が消えると、魔王と魔族たちが地面に向かって急加速する。俺たちは剣を構えた。
▫▫▫▫▫
戦況は混沌と化していた。レデュクシオンは俺たち並みに強かったが魔族たちの人海戦術を前に後手後手。
軍の仲間たちには雑魚共を相手してもらっている。魔王に向かわれても犬死にするだけなので俺とカシミヤが担当していたが──これがとにかくヤバい。
「■■■■!」
「■■■!」
「甘いッ!!」
魔法でかく乱しながら斬り付けても、まったく致命傷に繋がらない。魔力を融合させる魔法はコイツ相手に当たりそうになく、決定力に欠けている。
「ヌンッ!!」
「きゃ──」
「ぐっ、あ」
……強い。間違いなく過去最強の相手だ。
「ハァ……ハァ……カシミヤ、まだ行けるか」
「大、丈夫、です」
魔法を使い、レデュクシオンにテレパシーを送る。
『一瞬でいい。魔王にお前の最高威力をぶつけてくれ』
『無茶言ってくれるなぁ……!』
「……カシミヤ、ロックフォール」
「……!なんだよ、クソ魔王」
なんの気まぐれか言葉を投げかけてきた。ここがチャンス……!
「何故抗う?何故守る?そこの兵士共は、貴様たちを恐れているのだぞ?そんな現世でどうやって生きるというのだ」
「生憎、将来設計は決まってるんだ──レデュクシオン!!」
「一発限りだよっ!!」
「!ぬッ、ぐっ……!」
レデュクシオンによる魔力の弾丸で、魔王がバランスを崩した。今だ。
「今だカシミヤ!最大火力を!」
「ハァァァァッ!!」
「でりゃあっ!!」
剣に魔力を叩き込み斬り付ける。流石にこれなら効くはず……。……え。
「いい攻撃だ」
マズい。マズい、マズい!彼女が無防備だ!走れ──いや、間に合わな──
「え、きゃっ──」
「やめろッ!!!カシミヤッ!!」
魔王の一撃が、カシミヤの胸を貫いた。
▫▫▫▫▫
哄笑が聞こえる。それは俺の内と、外から。
──結局お前は、何も守れなかったな。
「ふははは!!勇者が、この程度か!!手ぬるい、児戯だぞ、人間!!」
──死ね。
なんだ、この感情。
──死ね。
ずっと前から知っている筈だ。俺は、何を思っている?何が俺を突き動かした?
──憎い。
誰が?
──そんなの、決まっている。
……怒りだ。この世界。何も守れない自分。全てが憎く、許せなかった。
「────」
全身から魔力が吹き出す。激情が、俺の魂を包み込む。
「……ほう。人間がその域に辿り着くとは」
俺は転生者だ。命の情報を二つ持っている。その片方を──焼べる。
「情緒解凍、共感性リブート、連綿プロテクト構築、呵責再設定、執着修正、■■■■関連情報棄却、感情システム全アップデート、ロックフォール、ロックフォールロックフォール──オールグリーン」
「御託はいい。かかってこい」
「────」
俺はまず、攻撃するより早く、カシミヤの体を比較的安全な場所に寝かせて魔法を使った。
「……ありえん。我の斬撃で負った傷は治せない筈だ」
俺が発動したのはただの回復魔法ではない。魂の残滓を接合させ、分け与える、絶対的な蘇生だ。
「そこの兵士」
「は、はいっ!?」
「カシミヤを頼む」
「わ、分かりました」
そして魔王に向き直り、俺は目を閉じた。
「余裕のつもりか?隙だらけだぞ、にんげ──ガハッ!?」
「視える」
視える。俺の攻撃が通じるサマ、魔王の巨躯、剣に流れていく魔力。
そして、目を見開くと同時に──
「魔殺し」
「ぐあああぁっ!?」
全ての枷を解放し、思うがまま剣を流れに添わせる。
「そん、な、我、が、我が、この神が──」
「神から堕ちたんだろ。妥協魔王」
「おのれ、おのれぇぇぇ……!」
もう何もさせない。俺は魔王の眉間に刃を刺した。
──状況終了。
▫▫▫▫▫
あれから、魔族の残党は弱体化したためレデュクシオンがまとめて一網打尽に。兵士たちも裏切らず戦い、四番目の魔王が遺したものは何一つとして無くなった。
調子のいいことに王国はサラッと指名手配を解除し、俺とカシミヤを煌びやかな賛辞で称えた。どうにもフラストレーションが抜けなかったため、その場でお偉い方をまとめてぶん殴った。教官は俺にだけ伝わるようにサムズアップ。
恐れられることは分かっていた。二番目に向かった国も、いずれ俺たちを持て余し恐れるだろう。世界を滅ぼせる力を持つものが人間の形をしているのだから。
というわけなので、俺たちが向かう場所は一つしかなかった。
「今日から無職ってことで。よろしくレデュクシオン」
「……確かに帰ってきていいとは言ったけどさぁ」
レデュクシオンの城で残りの人生を謳歌することにした。分かり合える魔族が欲しかったのもある。
▫▫▫▫▫
「カシミヤ」
「……今日はお早いですね」
一度は瀕死の重傷に追い込まれたカシミヤだが、咄嗟に魂を繋ぎ止め蘇生したため以前と変わらず動けるように。
「少し、散歩しないか」
「お供します」
広大な魔王城を、二人並んで歩いていく。しつこいが、彼女を穢してしまったという罪の意識は今も抜けていない。だからもっと傍に。
「ロックさん」
「ん」
「私、幸せです。今だけではなく、貴方と出会えた時から、ずっと」
「……そうか」
頬が緩む。そう言ってもらえると男冥利に尽きる。
いつだか俺は彼女にいい人と結ばれてほしいと願っていた。でもそれは間違いだった。
──カシミヤが好きなんだろう、
だから俺は、一生かけて、彼女を幸せに彩り続ける。それが俺の決意だった。
手を握ると、握り返される。その幸福を噛み締めながら俺たちは歩いていった。
次回エピローグですが私はイチャイチャを書くのが苦手なため話のボリュームはかなり短くなると思います