鬱ファンタジー官能小説世界に転生した俺は鬱展開をぶち殺す(予定) 作:散髪どっこいしょ野郎
短編から連載(完結)に変えました
「キミたちってどういう仲なの?」
「いきなり何を言うんだお前」
昼食時、暇をもてあましたレデュクシオンからそんな問いが飛び出した。
魔族は人を喰らうこともあるが、基本的に食事は必要ない。そんなわけだから毎食不思議がる目線を送られていた。
で、問題はその問い。俺とカシミヤが、どういう関係かという質問。
彼女から大切に思われてるのは分かる。俺もそんな彼女に惹かれている。
だが、俺はまだ一度も正式に告白していない。……いい加減腹括るか?
とは思えど、罪の意識が抜けない。こればっかりはどうしようもなかった。
「キミなら迷わず『相棒』って言うと思ったけど……違うの?」
カシミヤと目を合わせる。彼女は苦笑していた。
▫▫▫▫▫
「後はパターン構築だな」
無職でもやることはある。最近は新しい魔法の開発にハマっていた。
「…………」
四番目の魔王を倒してから、前世の情報が日に日に薄れていく。ここが鬱官能小説世界であることは分かっているが、詳細が思い出せなくなっていた。
忌々しい原作知識が無くなるのは嬉しい反面、怖くもある。いつか俺が取り返しのつかない過ちを犯してしまうのでは──なんて、とっくに俺は間違っていた。
俺はカシミヤを犯した。その記憶がある限り、俺は咎人のままだ。
「ロックさん、入っていいですか?」
「どうぞ」
魔王城はだだっ広い。誰に対して作られたのかも分からない客間や寝室が至る箇所にある。魔族の行き来は激しいが基本的にここに泊まっていくことは無い。
その中の二部屋を俺たちは借りており、カシミヤはよく俺の部屋を訪問する。
「失礼します……。……今日も魔法の開発ですか?」
「まあそんなところだな。時間は山ほどあるし……あ、今日の狩猟と採集当番俺だっけ?」
「いえ、私です」
ここに食べ物は無い。大抵魔王城付近の森から調達している。以前購入した食用の果実や魚などが載っている本を参考に、日々をしのいでいた。
「じゃあ今日は俺も付き合う。新しい魔法も試したいしな」
「では、二時間後に」
それだけ聞いてまた魔力を錬ったり発散したりしていたが、疑問が一つ残った。そういやカシミヤは何故俺の所へ来たのか。
「すまないカシミヤ、ここに来たってことは何か用事があるんだよな」
「いえ、さほど大したことではありませんが……」
……急に上目遣いになった。旅をしている時は気づかないフリをしていたけど、非常に可愛らしく、俺の欲望を刺激する──って、俺はなんて醜い思考をしているんだ。気持ち悪い。
「ロックさん、何かしてほしいことはありませんか?」
思えば、カシミヤは俺に一度もエゴをぶつけてきていない。まずは彼女の欲求を叶えるところから始めるか。
「お前のしたいことを教えてくれ。俺はそれが一番だ」
「……っ」
俺がそう返すと、彼女は言葉に詰まったように息を吸う。いつも俺は彼女に尽くされてばかりだったからな。ちょっとの無茶振りぐらいなら喜んでさせてもらおう。
「……また、同衾してほしいです」
「……そうか」
以来、以前のように俺たちは一緒のベッドで眠るようになった。
▫▫▫▫▫
私はロックさんが幸せでいてくれるのなら、他に何も望みはなかった。
私は空虚な人間だった。両親からの愛情を受けることなく、淡々と生きているだけの肉の塊。
そんな私を連れ出してくれたのが、ロックさん。ロックフォールさん。
ロックさんのためなら、命は惜しくありませんでした。それが今は全くの別で。
貴方と生きたい。愛されたい。どうか貴方に、振り向いてほしい。
でも私は施すことしか知らない。自分のしたいことなんて、考えてもこなかった。
それに、私は贅沢すぎる程に彼から施されている。あの日頂いた、温かな食事。柔らかな気遣い。
望むべくもない。けれど、もし、もし叶うのなら、私は、
また、彼と──
▫▫▫▫▫
俺はこの世界を舐めていた。精々一部の人間や魔族が狂っているだけだと、高をくくっていた。
何故そんなことを考えたのかというと、最近精神状態が良好になってからまた性欲がぶり返したのだ。流石官能小説世界。一日に何度も″発散″しているのに猛りは無くならない。
思い返されるのはサキュバスの瘴気に当てられた時のこと。
罪悪感に駆られながらも、性欲を吐き出すことがやめられない。自己嫌悪の坩堝にいた。
……だが、だが……!
──カシミヤが愛おしい!あの声も、視線も、性格も、俺の心を掴んで離さない!
でも俺は彼女を犯した。その事実を確かめる度に、冷水をかぶったような気持ちになる。
「ハァ……」
「どうしたのロックフォール。最近ため息ばっかじゃん」
「……レデュクシオン」
共闘してから、俺とレデュクシオンの間には信頼が少しずつ育まれていった。コイツなら俺の秘密を言いふらしたりはしないだろうという確信がある。
「……ちょっと相談乗ってもらっていいか」
「いいけど……ふふ、多分この世界で初めてだよ。人間が魔族にお悩み相談してもらうのって」
一切合切、包み隠さず全て話した。この世界が官能小説であることと俺が転生者であることは伏せたが、カシミヤを取り巻いていた悪環境と、旅路全てを。そして俺が犯した過ちも。
「なるほどなるほど……大体分かったけど、キミ、どうしてカシミヤに相談しないの?」
「できるわけないだろ。俺の所為で彼女は穢されたのに」
「向こうがそう思ってるんだったらもっと敵意むき出しにすると思うけどなー。それに、コトを運んじゃったんなら潔く責任取る方が男らしいとボクは思うよ」
責任を取る。その一言が俺の中に鋭く切り込んでいった。
思えば、俺は自分を責めるだけで彼女の心を慮っていなかった。それはただの自分勝手だ。
「……ありがとうレデュクシオン。少し気が晴れた」
「ならよし。このことは秘密にしておくから」
▫▫▫▫▫
「カシミヤ。少し話がしたい。入っていいか」
「はい。いいですよ」
日頃俺の方から彼女へ訪問することは無い。そんな資格は無いと思っていたから。だが今日は違う。俺は、俺の罪過にケリをつける。
「じゃあ失礼する」
ドアを開けて、中に入ると彼女はいつものように微笑んでいた。
「……早速だが、俺はずっと、お前が良い相手に結ばれてほしいと思っていた。少なくとも俺にお前を娶る資格は無いと思っていた」
「…………」
「だけど四番目の魔王を倒してから、考えが変わった。俺の全部を使ってでも、お前を幸せにし続けたいと」
「ロックさん……」
「サキュバスが支配していた村で俺がお前を犯してしまったという罪。これがずっと抜けない。今も刺さり続けている。……けど、だからこそ、俺は責任を取る。俺がお前を幸せにする」
「……!」
「だから、カシミヤ。……俺はどうも、お前が好きらしい」
その瞬間、彼女は今まで一度も見せなかった泣き顔になった。
「……っ、……っ……」
「……悪い、嫌なら拒んでくれていいから──」
「違う、違うんです。嬉しくて、私、嬉しくて……こんな幸せになっていいのかって思って……」
「じゃあこれからも俺がお前を幸せにする。お前の涙を、俺が受け止め続けるから」
「……私は、貴方から貰ってばかりだった。あの日あそこから連れ出してくれた貴方に、ずっと恩を返したかった」
「……俺はただ、お前を取り巻く運命が許せなかっただけで」
「だとしても、です。それなのに私は、あの村の宿屋で貴方に求められて、嬉しいと思ってしまいました。本当に、幸せだった……」
あの日、確かに彼女は喜んでいた。俺はそれから目を背けて、自罰に浸っていた。
「カシミヤ。もっと欲張ってくれ。俺が全部応えるから」
空気が一変した。いつもの彼女の微笑みが、より濃いものになる。
「■■■■■■」
彼女が何事かを詠唱する。一体何の魔法を──
「ごめんなさい、ロックさん」
「……何が、だ」
「この部屋は今、時間の流れがゆっくりになっています。外での一秒が、この部屋では一時間になります」
大二元高等魔法!?いつの間に習得してたのか……!?というか、何の目的でそれを……?
「私は卑しい人間です。貴方に、求められたかった。愛してほしかった」
そう言いながら、彼女はおもむろに自分の服へ手をかける。俺は生唾を飲んだ。
「ここにはベッドがあります。そして、私と貴方がいる」
お互いの空気が、溶けていく。交わり、原型を亡くす。
「私、ずっとロックさんが欲しかった。だから……いただきます♡」
「ちょ、ちょっと待っ──ああもう。優しくはしないぞ」
この後めちゃくちゃセックスした。
完