「自由」と「束縛」は、常に表裏一体だ。
オレがこの『高度育成高等学校』を選んだ理由は、ただ一つ。これまでの過去をすべてリセットし、誰の目にも留まらない「普通の高校生」として、静かに平穏な3年間を過ごすこと。
担任教師である茶柱先生から学校のルールについての説明が終わり、入学式が始まるまでの待ち時間。
教室内を支配しているのは、これから始まる新生活への期待と、まだ周りに知り合いがいないことへの緊張が混ざり合った、どこかソワソワとした空気だった。誰もが落ち着かない様子で、ちらちらと周囲の様子を気にしている。
──それにしても、とオレはこっそり周囲を見回した。
今朝のバスに乗っていた堀北や高円寺、さらには老人に席を譲ってもらおうと周囲に声をかけていた女子生徒。あの車内にいた面々が、全員同じクラスに集まっている。
偶然とは恐ろしいものだ。
「みんな、ちょっといいかな?」
そんな中、スッと手を挙げたのはいかにも好青年といった雰囲気の生徒だった。
「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行なって、一日も早くみんなが友達になれたらと思うんだ。まだ、入学式まで時間もあるし、どうかな?」
彼の言葉に女子生徒達からは「それ賛成!」と嬉しそうな声が上がる。そこから始まった自己紹介は、まず提案者である平田から、その後ろの席の井の頭、山内、櫛田といった席順で行われていく。
彼らの自己紹介を聞きながら、オレは自分の番が回ってきたらなんて言おうかと必死に悩んでいた。
(ウケを狙いで、超ハイテンションで自己紹介するのはどうだ?……いや、やったら周囲からドン引きされそうだ。これは無しで)
趣味なんてこれといってないし、目立つような特技もない。どう喋れば場を盛り下げずに、無難に終わらせられるのか。
そんなことをぐるぐると考えているうちに、自己紹介は進んでいき、次の番が回ってきた女子生徒が立ち上がった。
さらりと揺れる茶髪のロングヘアに、青いリボンを結んだ少女。オレを含めた男子たちの視線は、一斉に彼女へと吸い寄せられた。先ほどの櫛田に引けを取らない、誰もが目を奪われるほどの美少女。彼女は教室全体を見渡してから、にこりと親しみやすい笑顔を浮かべた。
「水城アキラです。中学の時は特定の部活には入っていませんでしたが、いろんな部活から助っ人として呼ばれて、あちこちの試合に出てました。体を動かすのが得意なので、いつでも気軽に声かけてください。この3年間、みんなで最高の思い出にしましょう。よろしくお願いします!」
明るく、ハキハキとした、自然と耳に届く声。
気取らないその佇まいは、クラスの緊張をすっと解きほぐす不思議な親しみやすさがあった。
あちこちの運動部から助っ人として声がかかるというエピソードからは、彼女の優れた身体能力だけでなく、誰からも頼られる人望の厚さがうかがえる。
「へえ、いろんな部活って例えばどんなのやってたの?」
クラスの女子——確か篠原だったか——が、興味津々といった様子で尋ねる。
「えーっと、テニスに陸上、ソフトボール、バレー、あとバスケとかかな。一応、球技も陸上競技も一通りはできるよ」
水城は指を折って数えながら、楽しそうに答えた。その幅広いジャンルに、周りの生徒たちから「おお」と感嘆の声が漏れる。
「すごっ! 体育祭とかマジ頼もしいじゃん。水城さん、これからよろしくねー!」
篠原が声を弾ませてそう言うと、周りの生徒たちからも「それな!」「アキラちゃん、よろしくー」といった声が上がった。
クラスが温かい拍手と歓迎の空気に包まれる。
水城アキラ。ただ可愛いだけではない、他者を自然と引き寄せ、頼りにされるカリスマ性の持ち主。オレの目には、彼女がそんな風に映った。
しかし、そんな温かい空気は一瞬で壊される。
「俺らはガキかよ。自己紹介なんて必要ねぇよ、やりたい奴だけでやれ」
そう吐き捨てたのは、赤髪の男子生徒だった。平田に向ける睨みは強烈で、今にも掴みかかりそうな勢いだ。
「僕に強制することは出来ない。でも、クラスで仲良くしていこうとすることは悪いことじゃないと思うんだ。不愉快な思いをさせたなら、謝りたい」
一触即発の不穏な空気を前にしても、平田は怯まなかった。赤髪の視線を真っ直ぐに見つめ返し、誠実に頭を下げる。
「チッ、こっちは別に、仲良しごっこするためにココに入ったんじゃねぇよ」
赤髪はそう言うと、乱暴に席を立った。それと同時に数人の生徒も後に続くようにして教室を出る。馴れ合うつもりはないと判断したらしい。
隣の席に座る堀北も同意見のようで、席を立つと一瞬だけこちらを見たが席から動く様子のないオレに、そのまま無言で教室を出て行った。
一気に冷めてしまった教室だが、残ったメンバーで引き続き自己紹介を続けていく。
「えーっと、次の人──そこの君、お願いできるかな?」
「え?」
完全に油断していた。いつの間にかクラス内の視線がオレに集中している。おいおい、そんな品定めするような目でオレを見るなよ。
ガタッっと勢いよく立ち上がる。
「えー…綾小路清隆です。その、えー……得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」
挨拶を終えて、静かに先に座る。
ああ、これは間違いなく……失敗した!!
思わず頭を抱え込む。他の生徒達の自己紹介を聞いていたはずなのに、いいのが全く思いつかなかった……!
オレの席は一番隅、つまりオレが最後なのだ。よりにもよって締めの自己紹介がこんなのとか、最悪すぎるだろ……。
猛烈な後悔に苛まれていると、静まり返った教室に、不意に拍手の音が聞こえてきた。
その音に思わず顔を上げると、拍手を送ってくれていたのは水城だった。
視線が交わった瞬間、彼女はオレに向けて、パッと晴れやかな笑顔を浮かべた。
「よろしくね、綾小路くん!」
その笑顔に、先程まであった後悔の気持ちが一気に吹き飛んだ。
彼女の拍手に引きずられるように、周りの生徒たちもパラパラと拍手をし始める。凍りついていた教室の空気が、彼女の自然な気遣いによって、少しずつ和らいでいく。
「……あ、ああ。よろしく」
てっきり、池みたいに女子にからかわれるか、白けた目を向けられるとばかり思っていたのに。
……そうか。こんな奴もいるんだな。
胸の奥に宿った温かさを抱えたまま、オレはこれから始まる学校生活に、期待を寄せるのだった。
◇
ピピピピッ、とアラームの音が部屋に鳴り響く。
その音で目を覚ました私は、重たい瞼を上げるとぼんやりと呟いた。
「……知らない天井だ」
そのままぱちぱちと瞬きを繰り返し、ようやく頭が働き始めた。
そうだった。昨日から、寮生活が始まったんだっけ。
ゆっくりと身体を起こし、ぐーっと伸びをする。端末の時間を見ると、時刻は6時30分。
登校時間まで、まだまだ余裕がある。
「まずは顔を洗って、朝ご飯だね」
朝食を済ませた私は、クローゼットから制服を取り出す。
まだ少し硬いブレザーに袖を通し、洗面台の前で、髪を整える。仕上げに青いリボンを結べば、準備完了。
「よし、これで完璧!」
鏡に映る自信満々な自分の姿に、ふふっと笑みがこぼれる。
昨日の男子の反応を見るに、クラスの中で1番可愛いのはこの私だ。今日も笑顔を振りまいて、男子たちの視線を釘付けにしちゃうぞ!
そう意気込んで鞄を手に取ると、私は元気よく部屋を出た。
「ふむふむ……」
登校中、私は周囲のあちこちに視線を向けて、思考する。客観的に見れば完全に変人だが、仕方ない。だって、確認することが沢山あるんだから。
やがて1年Dクラスの教室に入ると、待ってましたとばかりにたくさんの生徒たちが声をかけてきた。
「あ、アキラちゃん、おはよう!」
「おはよう、水城さん!」
「うん、みんなおはよう!」
私もとびきりの笑顔で挨拶を返し、自分の席につく。
すると、近くの席の女子達がさっそく私の方を振り返って話しかけてきた。
「ねえねえアキラちゃん、もらったポイントで何買った?」
「いきなり10万ポイントも貰えるなんて、ほんと太っ腹だよね〜」
目を輝かせる二人に向けて、私は苦笑交じりに応える。
「うーん、まだ初日だし、大きな買い物はしてないよ。とりあえず買ったのは生活に必要な日用品くらいかな」
「えーっ、アキラちゃん真面目! もったいなーい!」
「そうそう、毎月10万も入るんだよ? 私は昨日、ケヤキモールで欲しかったアクセサリーがあったから買っちゃった!」
「ほら見て!」と嬉しそうに突き出された彼女の手首には、新調されたばかりのブレスレットがキラキラと輝いていた。
「わあ、可愛いね! 前園さんにとっても似合ってる!」
私はすぐにとびきりの笑顔でそう返す。
いきなり手に入った10万という大金。みんながここまで浮かれてしまうのも、仕方ないといえば仕方ないけど……。
(うーん、やっぱり不安だ)
みんなの金銭感覚が狂ってしまう前に、早めに取り掛からなくては。
──この学校の内情を知るためには、やはり情報集めが大事。とはいえ、流石に一人じゃ限界があるし……私のサポートをしてくれる人間が必要だ。
誰かいないかなぁ、そんなことを内心で思いつつも、私は授業開始のチャイムが鳴るまで、彼女たちとの他愛のない話を続けた。
この学校に入学して二日目の授業初日。
主に勉強方針などの説明だけで終わった授業は、国からの支援を受けている学校だけに、もっと堅苦しいものを想像していたのだけれど、拍子抜けするほどユルい空気感が教室に漂っている。
例えば、昨日自己紹介の途中で抜け出した赤髪の男子──須藤健くんは、授業開始早々に寝始めた。教師は寝ている彼に気づいていたが、誰もそれを注意することはなかった。
私はその様子を観察しながら、授業のノートとは別のもう一冊のノートにメモを書いていく。
(教室内に監視カメラあり。数は、2……いや、左右前後に4かな?
それと、授業中の居眠りに、教師からの注意はなし)
寝てる須藤くんが注意されなかったのを見て、油断してお喋りする子も出てきそうだし、この調子で大丈夫かな?
ペンをくるくると回しながら、私はどこか不安を感じつつも、それとなく教室内の生徒たちへ視線を巡らせた。
◇
四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、教室は一気にお昼休みの賑やかな空気に包まれた。
水城のフォローがあったとはいえ、自己紹介に失敗したオレは友達作りにも失敗していた。
「哀れね」
そんなオレにもう一人のぼっちが、冷笑の視線を向けて来た。
「……何だよ。何が哀れなんだ?」
「誰かに誘って貰いたい。誰かとご飯を食べたい。そんな淡い考えが透けてみえたから」
「お前だって一人だろ。同じように考えてるんじゃないのか? それとも3年間友達も作らず一人でいるつもりか?」
「そうよ。私は一人の方が好きだもの」
堀北は迷わず、間髪いれず答える。見栄を張っているわけでなく、どうやら本心からそう言っているようだ。
「私に構ってないで、自分の状況をどうにかしたら?」
「まあ、な……」
満足に友達も作れていないオレが偉そうに言えたことじゃないのは確かだ。
正直このまま友達が出来なかったら、後々面倒なことになる。孤立もまた目立つ存在になるからだ。虐めの対象にでもなったらそれこそ目も当てられない。
「ねぇ、水城さん。よかったら一緒に食堂行かない?」
「私達、アキラちゃんと仲良くなりたくて……」
前方の席からそんな会話が聞こえ、視線を向けると水城に声をかける女子たちがいた。やはり、水城は人気者のようで、休み時間のたびに声をかけられているのを見かける。
オレも是非ともお近づきになりたいが、女子たちの壁を乗り越えてまで、話しかける勇気などオレにはなかった。
「ねぇ、食堂いくの?なら私達も混ぜて!」
声をかけてきたのは、ギャルっぽい雰囲気の軽井沢と佐藤だった。そこに篠原や前園も混ざり、水城の周りは一気に賑やかさを増していく。
「人気者ね、彼女って」
その賑やかな様子を冷ややかに眺めながら、隣の堀北が小さく呟いた。
「そうだな。あいつの優しい人柄にみんな惹かれてるんじゃないか?」
「出会ってまだ二日よ? そんな上辺の印象だけで仲良くなろうなんて、ずいぶん能天気ね。群れをなさなければ動けない人の心理なんて、私には理解できないわ」
相変わらず容赦のない毒舌だ。
「ねぇ、平田くんも一緒に行かない?」
「えっ、僕も?」
そんなオレたちのやり取りをよそに、盛り上がっていた女子グループの1人が平田を誘っていた。
その言葉に、他の女子たちも「いいね、それ!」「賛成!」と、賛同し始める。
流石、爽やかイケメンの平田だ。水城同様、たった二日で女子たちの心を掴んでいたようだ。
「あはは……僕1人だけじゃ、ちょっと緊張しちゃうな。他に誰か、一緒に食堂で食べる人はいないかな?」
女子ばかりのメンツに男1人で混ざるのは気が引けたのか、平田は困ったように苦笑しながら周囲に声をかけた。
その目が教室内を大きく動き、もちろん男子のオレとも目が合う。
──ここだ。ぼっち脱却への、願ってもないチャンスが巡ってきた。
ここで平田の誘いに乗ることができれば、一気にクラスの輪に入れるだけでなく、あわよくば同じグループにいる水城とも自然とお近づきになれるかもしれない。
(平田、気づいてくれ! お前に誘って貰いたいと願う哀れな男がここに居るぞ……!)
そんな熱烈な視線を受けた平田はオレの心の訴えを理解してくれたらしい。
「えーっと、綾小路──」
「早く行こ、平田くん」
それに答えるようにして、平田がオレの名前を呼ぼうと口を開いた、その瞬間。
こっちの訴えに気づくこともなく、軽井沢が平田の腕を掴んだ。
ああっ……平田の視線が女子に奪われてしまった。そして和気藹々と平田と女の子たちが教室の外へと行ってしまう。残されたのは、上げかけた宙ぶらりんな手と腰だけ。
水城とお近づきになる淡い妄想も、一瞬ではかなく散った。
(ああ……!千載一遇のチャンスが……)
折角の機会を無駄にして、本当にダメだなオレは。あの時、目で訴えるんじゃなくて、オレも行きたいと声に出していれば、今頃は……。
ショックが強すぎて、机に崩れ落ちたオレは周囲の会話も一切耳に入らなくなっていた。
「……ごめん、やっぱり今日は他の人と行くとこにするよ。埋め合わせはちゃんとするから」
「え!? アキラちゃん!?」
「ちょっと、あなた。いつまで落ち込んでいるつもり?」
呆れたような冷ややかな声とともに、コンコンと机を叩かれる。
「なんだ、堀北……。悪いが、今は放っておいてくれ」
「あら、いいの?そんな哀れなあなたに用がある人がいるみたいだけど」
「……?一体何の──」
──その瞬間、オレの頭上にすっと影が落ちた。
誰だ?わざわざオレを笑いに来たやつでもいるのか?と顔を上げると、そこには女子たちに囲まれ、とっくに食堂へ向かったと思われた水城の姿があった。
オレと目が合うと、彼女は昨日のようににこりと笑みを浮かべた。
「綾小路くん、一緒にご飯食べない?」
暗闇に突き落とされたオレの前に、突如として差し込んだ一筋の光。
優しく微笑みかけるその姿は、まるで──。
「天使……」
「え!? 綾小路くん、どうしたの!?」
どうやら、思っていた事が口に出てしまったらしい。大丈夫!?と、心配してくる水城に「ああ、平気だ」と、返す。
(ああ……心配してくれる水城は本当に天使だ。こんなダメなオレを一度ならず二度も救ってくれるなんて……!)
水城アキラと同じクラスになれて本当によかった。
心の底からそう思った。
◇
「ねぇ、よかったら一緒に食堂行かない?」
お昼休みに、クラスの子達から食堂に行こうと誘われた。元々、食堂の様子を見に行くつもりだったから、二つ返事で了承。
そこから、軽井沢さんや、佐藤さんといったギャル軍団も加わり、入学二日で早くも女子グループが出来上がりかけていた。
(やれやれ、人気者は困りますなぁ)
なんて思っていると、篠原さんが平田くんに声をかけた。
「ねぇ、平田くんも一緒に行かない?」
その言葉に、周りの女子たちも賛同し、一気に盛り上がり始めるが、平田くんは困り顔。
そりゃそうだ。こんな女子しかいないグループの中に喜んで入ろうとする奴なんて、よっぽどの女好きしかいないだろう。
しかし、女子たちの期待する眼差しに、断りきれなかったのか、平田くんは他の男子たちも来ないかと呼びかけた。
(ありぁ、気の強そうなメンツばかりだからか、ぜんぜん反応がない)
池くんあたりなら、気にせずこっちに来るだろうけど、残念なことに池くんは昼休みが始まると同時に山内くん、須藤くんの3人で教室を出てしまっていた。
ふと、周囲を見回していた平田くんの視線が止まったのを見て、視線の先に目を向けると綾小路くんがいた。綾小路くんも平田くんに何か訴えるような強い視線を送っているのを見て、私は納得した。
(綾小路くん、自分も一緒に行きたいって、平田くんに視線で気持ちを伝えてるんだね)
昨日の自己紹介では緊張してたのか、残念な結果になってしまっていたので正直、彼のことを心配していた。
綾小路くんは堀北さんとは普通に会話していたから、人見知りってわけじゃなさそうだけど、人とのコミュニケーションするのが苦手なのかな?
そして、平田くんも綾小路くんの視線の意味を察したのか、声をかけようとした、その時──。
「早く行こ、平田くん」
それを遮るように軽井沢さんが、平田くんの腕を強引に引っ張り、教室の外へと連れ出してしまった。
「……。」
その様子を見た私は、小さく目を細めた。
せっかくの友達作りのチャンスを、軽井沢さんが身勝手にも潰してしまったのだ。
(……これは見過ごせないな)
軽井沢さんも、悪気があってやったことじゃないとしても、それで傷ついた人はいるのだ。
彼なりに勇気を出して、アピールしていたのに、それを台無しにされたら、へこんでしまうのもしょうがない。机に突っ伏して落ち込んでいる綾小路くんを見て、私は予定を変更することにした。
(よし、決めた。お昼は彼と食べよう)
そうと決まれば、誘ってくれた彼女たちに断りを入れなければ。
私は教室を出ようとしていた二人に声をかける。
「ごめん、やっぱり今日は他の人と行くとこにするよ。埋め合わせはちゃんとするから」
「え!? アキラちゃん!?」
私を呼び止めようとする声に内心、謝りながら綾小路くんの席へと向かう。
これで、私の印象が悪くなっても構わない。だって、このまま彼から目を逸らしたら、私は絶対に後悔するから。
「あら、いいの? そんな哀れなあなたに用がある人がいるみたいだけど」
「……? 一体何の──」
怪訝そうに顔を上げた綾小路くんが、目の前に立つ私を捉えた瞬間、驚いたように目を見開いた。
何故私がここにいるのかと、驚き、固まっている彼ににこりと笑いかけた。
「綾小路くん、一緒にご飯食べない?」