ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
ダンジョン探索者とは危険な仕事だ。
現代日本において、死者数行方不明者数が最も多い仕事と言っても過言ではない。
――私の夫も、ダンジョンが原因で消息不明となった。
「……私に話があるって。何のようですか、会長」
私は、探索者協会、協会長である
私は半ば引退した身。今は子育てに奔走しているただの母親だ。
本格的な引退はしてないため、日の稼ぎのために時折ダンジョン探索はしているけれども。
それは、あくまで補助的な収入目的のため。本格的な探索者業はもうしていない。
「よく来てくれた、久留実くん。忙しいだろうに」
「なら、用事を早く済ませてくれませんか? 娘を待たせているので」
「そういうな。古い知己じゃないか」
……ダンジョンが生まれたのは十数年前。
アラサー近くとなる私は、いわゆる初期組の探索者だ。
まだあまりダンジョンについての知識が広まっていない中、早いところ適合した人間。
ということは、必然的に探索者周りの人間とも付き合いが長いわけで。
目の前の老人とも、長い付き合いとなるわけだ。
「君に依頼したいことがあってだね。同行者生存率最高値の称号を誇る、君にだ」
「……昔の話ですよ。今はただの探索者を副業にしている主婦です」
私が探索者として一時代を築いたのは昔の話だ。
三年前、子供が生まれてからは殆ど引退している。
……まあ、今は少しだけお金のために潜ってたりするけれど。
世間的には過去の人でいいでしょう。
「そう謙遜するべきではない。当時十パーセントを越えていた死亡率の中、君とパーティを組んだ人の生還率は百パーセントだった。素晴らしい記録じゃないか」
「運が良かっただけですよ」
本当に運が良かっただけだと思う。
当時基準にしても、私は特出して強い探索者ではなかった。
Aクラス探索者ではあったものの、戦闘能力は並み。汎用的にパラメータが伸びていたのか、特化していたBクラスに後れを取ることもままあった。
「それに、おだてて何をしようっていうんです? 今更、まともに探索者をやらなくなってから五年は経っている、この私を呼びつけて」
確かにタイトルホルダーではあるものの、探索者界隈では私はもう過去の人だ。
辞めて一年間は復活の誘いを受けていたものの、今やもう来なくなった。
「ふむ、もうそんな経つのか」
「そうですね。結婚と共に探索者業を辞めたので」
ただ、辞めなかった方が良かったのかもしれない。
もしも、夫が消息不明となった時、私が現場にいれば少しは何かが変わったのかもしれないから。
なんて、もしもに意味はない。
思わずにいられないのは、まだ彼が死んだと思えていないからだ。
「すまない、嫌なことを思い出させてしまったようだね」
「気にしないでください。あの人が消えてから三年。娘が生まれたのと同時でしたから」
お金を使っては捜索依頼は出しているものの、目ぼしい成果は得られていない。
なにせ、ダンジョンは分からないことの方が多いのだ。
入っていたダンジョンの入り口が閉ざされて取り残された、なんて、どう探せばいいものか。
「……本筋へ移ろう」
暗くなった話の流れを変えるように、咳ばらいをしてから会長は話題を変えた。
「実はだね、探索者の担い手が減ってきているのだよ」
「……へぇ、不思議な話ですね」
肉体労働で危険な仕事であるけども、探索者の平均給金は悪くない。というか良い。
真っ当に働くよりもよほどの金額を稼げる。
中には、一獲千金を夢見て探索者を志望する人間もいるぐらいだ。
歩合制というのもあり、自分には才能があると夢見て探索者になる人は多いイメージだった。
「より正確には、若者を中心に探索者志望が減っていると言ったところか」
「才能による格差世界って言うのがバレましたか?」
「夢見る若者が減った、と言ってくれたまえ」
一見夢がある様に見えて、実際のところ探索者は厳しい世界だ。
絶対的な実力主義。弱者は強者に従うしかない縦社会。
実入りこそいいものの、まあ、若い子はあまり好まないだろうなって感じはする。
「嘆かわしいよ。ダンジョンを開拓せずして、日本の未来はないというのに」
「――で、私に何をさせようって言うんですか」
「話が早い。通常よりも実入りがよく、それでいて実働時間も少なく済む。そんな探索者業務を紹介しようと思ってね」
ただでさえ実入りが良い探索者業で、更に実入りが良い?
確かに、それなら子供との時間を減らさずに、将来のための貯金ができるかもしれない。
いいところの学校に入れてあげようと思うと、今ある貯金では少し心もとないのは事実なのだから。
「君が働いている間のシッター代もこちらが出そう。協会所属の質が良いシッターを紹介させてもらうよ」
「虫が良すぎて怪しい話すぎるけれど。本気で言ってます?」
「本気だとも。でなければ、君をここに呼んだりはしない」
言いながら、彼はこれまで座ってた席を立つ。
そして、彼の席の前にある、来客対応用の机へと移った。
私には対面に座るように促す。
……これまでは、何があってもすぐに帰れるように立って対応していた。
爺さんもそれが分かっていたから、応対用の席につかなかった。
そこに移ったということは、じっくり話をしようの意思表示だ。
これ以上の話を聞くか、聞かないか。選べと。
「……碌な死に方しませんよ、会長」
「むべなるかな。そういうものだと理解しているとも」
私は、席に座った。
正直将来に不安を抱えているのは事実だし、お金があれば大部分が解決するのもその通り。
何よりも、この爺さんは人を食ったような真似はするけれど、取引で嘘を言うタイプの人ではないと信頼はしている。
「さて。では本題へ移ろう」
「ええ、後悔させないでくださいよ」
「それは君次第だとも」
このっ……。
ほんっとうにこういうところが嫌い。
「本筋が探索者が減ってきたことだということは覚えているね?」
「さっきの話ですよ。当然でしょう」
「そこで、我々は再び探索者志望者を増やすための施策を用意したんだ」
言いながら、爺さんは一つの書類を見せてくる。
私はそれを手に取って、眼を通す。
「なになに? 『広報用探索者アイドルグループ』?」
「その通り。探索者のうち、広報用活動を兼ねるアイドルとなりえる人員を集めて、グループを結成することにしたのだよ」
「客寄せパンダってことですか」
「その通り」
もしもそのアイドルグループの人気が出れば、探索者志望が増えるかもって感じね。
探索者やってれば同業だし、お近づきにはなれる可能性は出るか。
「随分短期思考な気はするけれど、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だとも。これを皮切りに、探索者のタレント化を進めていく予定だ」
「なるほど。探索者のイメージを変えていこうってことね」
そういうことなら飲み込める。
でも、それで声をかけられたのが私って言うのが納得できない。
「それで? 私は何をすればいいの?」
「そのアイドル探索者グループに入り、リーダーとなってもらいたい」
「は?」
時間が止まった。
あり得ない提案が聞こえた気がする。
耳を疑う。目も疑った。
私って薬物やってたっけ。いいや、そんな娘に悪影響が出るものに手を出すはずがない。
「……会長。私の年齢、ご存じですよね?」
「ふむ、そろそろ誕生日だったかね?」
「ではなくて、アラサーなんですよ! アラサー! 新規アイドルグループのリーダーにアラサー起用する間抜けがどこにいるっていうんです!」
身長も百七十五と高めだし、到底アイドルなんて柄ではない。
可愛い系のイメージも欠片もない。クール系とは言われたことあるけれど。
探索者をやっていた影響か、年齢の割に見た目は若いとは思うが、それだけだ。
一体私のどこにアイドル適正を見出したんだろうか。
ついに
「なあに、そのままやらせようというわけではないさ。時に、魔法少女というジャンルを知っているかね?」
「はぁ? 娘がアニメ見てるので、知ってますけれど」
「よろしい。では、君は魔法少女になってもらおうと思うのだ」
今度こそ、時間が止まった。
耳だけではなく、目の前の老人の頭も疑う羽目になった。
「はぁぁぁあああああああああああ???」