ダンジョン魔法少女、ただし子持ち   作:鉄板フライ

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第1話

 ダンジョン探索者とは危険な仕事だ。

 現代日本において、死者数行方不明者数が最も多い仕事と言っても過言ではない。

 ――私の夫も、ダンジョンが原因で消息不明となった。

 

「……私に話があるって。何のようですか、会長」

 

 私は、探索者協会、協会長である獅童(しどう)真村(まむら)によって、本部の一室に呼び出されていた。

 

 私は半ば引退した身。今は子育てに奔走しているただの母親だ。

 本格的な引退はしてないため、日の稼ぎのために時折ダンジョン探索はしているけれども。

 それは、あくまで補助的な収入目的のため。本格的な探索者業はもうしていない。

 

「よく来てくれた、久留実(くるみ)くん。忙しいだろうに」

「なら、用事を早く済ませてくれませんか? 娘を待たせているので」

「そういうな。古い知己じゃないか」

 

 ……ダンジョンが生まれたのは数年前。

 アラサー近くとなる私は、いわゆる初期組の探索者だ。

 まだあまりダンジョンについての知識が広まっていない中、早いところ適合した人間。

 

 ということは、必然的に探索者周りの人間とも付き合いが長いわけで。

 目の前の老人とも、長い付き合いとなるわけだ。

 

「昔はもっと愛嬌があったのになぁ。久留実くんも」

「アラサー捕まえて何を言いますか。昔話に花を咲かせたくて呼んだわけじゃないでしょう?」

「おお、そうだったそうだった」

 

 この爺さんは。まったく。

 気味が悪くて、昔からあまり好きじゃない。

 考えてることがあまりわからないんだよね。本当に。

 

「……時に、今の探索者たちの現状を見て、久留実くんはどう思う?」

「急ですね。どう思うか、ですか?」

「その通り。時代を切り開いてきた君に、所感を聞きたいのだよ」

 

 時代を切り開いてきた、ねぇ。

 言葉選びもここまで上手だと、才能だなと思える。

 それで飯を食っている人たちはやっぱり違うんだね。

 

「まあ、恵まれてるんじゃないですか? 講習を受けられるスクールもあって、探索者への道のりも舗装されてる。先駆者の知識もあるし、ギルドという互助組織もある」

 

 私の時はそんなものはなかった。

 いずれも、ダンジョンに社会が適応しようと発展した結果生まれた産物だ。

 ダンジョンがどこに現れるか、中がどのぐらいの脅威かなんてものもわからなかったからなぁ。当時は。

 

 ある日、突然何もない空間にダンジョンへの入り口が現れた日の事を、私は忘れていない。

 現代科学では解明できない物質、なぜ向こう側に繋がっているかも不明。

 抗えるのは選ばれたごく一部の人間のみ。

 まあ、当時は探索者になるかならないか、選ぶ権利なんてなかったよね。

 

 今の子は進路の一つとして選べる分、マシになったんじゃないかなと。

 

「恵まれている。そう見えるかね?」

「少なくとも、私はそう思いますね。適性があるならで戦場へ送られてた時代とは違うので」

「それを挙げられればその通りだろう。一本取られたな」

 

 何笑ってんだこの爺。

 

「本筋へ移ろう。実はだね、探索者の担い手が減ってきているのだよ」

「……へぇ、不思議な話ですね」

 

 肉体労働で危険な仕事であるけども、探索者の平均給金は悪くない。

 真っ当に働くよりもよほどの金額を稼げる。

 中には、一獲千金を夢見て探索者を志望する人間もいるぐらいだ。

 歩合制というのもあり、自分には才能があると夢見て探索者になる人は多いイメージだった。

 

「より正確には、若者を中心に探索者志望が減っていると言ったところか」

「才能による格差世界って言うのがバレましたか?」

「夢見る若者が減った、と言ってくれたまえ」

 

 一見夢がある様に見えて、実際のところ探索者は厳しい世界だ。

 絶対的な実力主義。弱者は強者に従うしかない縦社会。

 実入りこそいいものの、まあ、若い子はあまり好まないだろうなって感じはする。

 

「嘆かわしいよ。ダンジョンを開拓せずして、日本の未来はないというのに」

「愚痴を聞かせるために呼んだんですか?」

 

 なら帰りたい。

 かわいいかわいい娘との時間を削ってまで、こんな爺さんの相手をしたくはない。

 それに、もう探索者界隈ともあまり関係はないのだから。

 

「違うとも。君に聞かせたいのは儲け話だよ。久留実くん」

 

 思わず、一瞬だけ反応してしまった。

 その一瞬をこのじいさんが見逃してくれるはずもなく。

 我が意を得たりとばかりに笑ってみせる。

 

「聞くところに、娘さんの養育費で困っているみたいじゃないか」

 

 こいつ、まさか――。

 

「――私の娘に手ぇ出したら。幾らあんたでもただじゃおかないよ、爺」

 

 探索者として半ば引退したとはいえ、一時代を作った自信はある。

 今でも全力を出せば、まあ捕まりはするだろうけれど。

 一矢報いることはできるだろう。

 私の娘に手を出すということは、そういうことだ。

 

 ただ、私の圧に反して、爺さんはケロリと応対してくる。

 

「そうではない。力になりたいと思っているだけだよ」

 

 胡散臭いが、嘘ではなさそうだ。

 殺気を一旦は収める。

 

 でも、力になる?

 裏がありそうすぎて頷きたくない。

 

「普通に探索者をする時間はない。しかし、お金は足らない。旧知の仲が困っていると聞いたら、助けたくなるのが人の情だろう?」

「狸爺さんがよく言うよ。その言葉を真に受けるほど、私はあなたを信用してないからね」

「ほっほ! それでいい。契約とは対等だから、意味がある」

 

 本当に、この人は……。

 昔っからそうだ。何もかもを見通しているようで、こちらにちょっかいをかけてくる。

 これほど対応に困る存在はいない。

 毒にも薬にもなるのだから。

 

「――で、私に何をさせようって言うんですか」

「話が早い。通常よりも実入りがよく、それでいて実働時間も少なく済む。そんな探索者業務を紹介しようと思ってね」

 

 ただでさえ実入りが良い探索者業で、更に実入りが良い?

 確かに、それなら子供との時間を減らさずに、将来のための貯金ができるかもしれない。

 いいところの学校に入れてあげようと思うと、今ある貯金では少し心もとないのは事実なのだから。

 

「君が働いている間のシッター代もこちらが出そう。協会所属の質が良いシッターを紹介させてもらうよ」

「虫が良すぎて怪しい話すぎるけれど。本気で言ってます?」

「本気だとも。でなければ、君をここに呼んだりはしない」

 

 言いながら、彼はこれまで座ってた席を立つ。

 そして、彼の席の前にある、来客対応用の机へと移った。

 私には対面に座るように促す。

 

 ……これまでは、何があってもすぐに帰れるように立って対応していた。

 爺さんもそれが分かっていたから、応対用の席につかなかった。

 そこに移ったということは、じっくり話をしようの意思表示だ。

 

 これ以上の話を聞くか、聞かないか。選べと。

 

「……碌な死に方しませんよ、会長」

「むべなるかな。そういうものだと理解しているとも」

 

 私は、席に座った。

 正直将来に不安を抱えているのは事実だし、お金があれば大部分が解決するのもその通り。

 何よりも、この爺さんは人を食ったような真似はするけれど、取引で嘘を言うタイプの人ではないと信頼はしている。

 

「さて。では本題へ移ろう」

「ええ、後悔させないでくださいよ」

「それは君次第だとも」

 

 このっ……。

 ほんっとうにこういうところが嫌い。

 

「本筋が探索者が減ってきたことだということは覚えているね?」

「さっきの話ですよ。当然でしょう」

「そこで、我々は再び探索者志望者を増やすための施策を用意したんだ」

 

 言いながら、爺さんは一つの書類を見せてくる。

 私はそれを手に取って、眼を通す。

 

「なになに? 『広報用探索者アイドルグループ』?」

「その通り。探索者のうち、広報用活動を兼ねるアイドルとなりえる人員を集めて、グループを結成することにしたのだよ」

「客寄せパンダってことですか」

「その通り」

 

 もしもそのアイドルグループの人気が出れば、探索者志望が増えるかもって感じね。

 探索者やってれば同業だし、お近づきにはなれる可能性は出るか。

 

「随分短期思考な気はするけれど、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だとも。これを皮切りに、探索者のタレント化を進めていく予定だ」

「なるほど。探索者のイメージを変えていこうってことね」

 

 そういうことなら飲み込める。

 でも、それで声をかけられたのが私って言うのが納得できない。

 

「それで? 私は何をすればいいの?」

「そのアイドル探索者グループに入り、リーダーとなってもらいたい」

「は?」

 

 時間が止まった。

 あり得ない提案が聞こえた気がする。

 耳を疑う。目も疑った。

 私って薬物やってたっけ。いいや、そんな娘に悪影響が出るものに手を出すはずがない。

 

「……会長。私の年齢、ご存じですよね?」

「ふむ、そろそろ誕生日だったかね?」

「ではなくて、アラサーなんですよ! アラサー! 新規アイドルグループのリーダーにアラサー起用する間抜けがどこにいるっていうんです!」

 

 身長も百七十五と高めだし、到底アイドルなんて柄ではない。

 可愛い系のイメージも欠片もない。

 どこにアイドル適正を見出したんだ。

 ついに耄碌(もうろく)したのかこの爺さん。

 

「なあに、そのままやらせようというわけではないさ。時に、魔法少女というジャンルを知っているかね?」

「はぁ? 娘がアニメ見てるので、知ってますけれど」

「よろしい。では、君は魔法少女になってもらおうと思うのだ」

 

 今度こそ、時間が止まった。

 耳だけではなく、目の前の老人の頭も疑う羽目になった。

 

「はぁぁぁあああああああああああ???」

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