ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
ダンジョン内で配信してほしいという意見は、急遽協会内で会議に回されることになった。
危険じゃないか。ダンジョン内ではスタッフが同行するのも困難だ。
撮影はドローンを回すしかないが、ダンジョン内までは有線で機材を設置する必要がある。
などなど。
なにせダンジョン内を生配信するなどと初めての試みなのだ。
途方もない量の試算がいる。
そのうえで探索者協会が下した判断は――十分に反響が望めるというものだった。
モンスターを倒すと死体は残らず魔石に変化するから、グロ的な要素にも引っ掛からない。
万が一私たち側が怪我をするのが放送事故要素だから、問題ない程度のダンジョンを選定する必要がある。
ダンジョンブレイクみたいなことが起きないように入念な下調べも必要だ。
……まあ、どれだけ調べても起きるときは起きるんだけれど。
そんなこんなで第二回エクスプラ・マギカ生放送は、急遽ダンジョン内配信ということになった。
なんでや。
「協会の設備班は優秀だねぇ」
なんてぼやきも、あまり意味をなさない。
なぜならば、もうすでにダンジョン内部で、撮影準備は整っているからだ。
「えーと、手順書によるとこれをこうして……」
「このタブレットで配信画面見れるんしょー?」
兎島ちゃんと束村ちゃんがせっせと配信準備をしている中、今日だけは仲良しの私と日比谷ちゃんがその様子を見守っている。
ダンジョン配信反対派の私たちは端っこで見守る係なのさ。
比嘉ちゃん? 彼女はいつだって別枠だから。
「ダンジョンで戦っている様子を生配信なんて、正気じゃないわ」
「だよねぇ」
「ダンジョンがどれほど危険か知らない一般人ならではの発想よね」
ダンジョンで人死には珍しくない。
会長によれば死亡率は一パーセント。
百人に一人は死ぬのだ。
もしも死者が出るシーンが映ったらと思うと気が気じゃない。
「なんか、芸人さんたちの苦悩を思い知るよ」
「怪我してもおかしくない芸で笑いとる奴? あれ昔から嫌いなのよね」
日比谷ちゃんは嫌いそうだなぁ。
良くも悪くも、この子は真っすぐな子だ。
……だから、私の正体を探るために扇動してるのが日比谷ちゃんだなんて思いたくないんだけれど。
「それで? 予定ではどうする予定なのよ」
「うーん。とりあえずは私が見守るから、みんなにダンジョン内のモンスター討伐の様子を中継しようと思ってるけれど」
「甘いわね」
一刀両断された。
ぐ。本当は私だってわかってる。
「本気で視聴率取りに行くなら、成瀬がそのオリジナルのステッキの機能使うべきよ」
「だよねぇ。あれ恥ずかしいからやりたくないんだけれど」
心からの本音だ。
残心まで決めさせられるのは本当に辛い。
なんというか、一時的にラジコンされてる感じ。
自分の意識はあるのに、自分の意志では体を動かせない。
それが、どれだけ恐ろしい経験なのかってのは筆舌には尽くしがたい。
「因みに、あれっていつでも打てるものなの?」
「うーん。ステッキに頼めば?」
多分、ステッキに使いたいと思えば使える。気がする。
気がするだけなので、実際にやってみなければわからないが、多分使えるだろう。
日比谷ちゃんが、うげっと嫌なものを見たような表情になる。
まるでおぞましいものを見るかのようだ。
「頼めばって、意思あるのそれ」
「どうすればいいのかは頭に直接伝わってくるね」
使い方は頭の中に自然と思い浮かぶ。
これは会長の説明通りだ。
今のところ不便した覚えはない。
「……そのオリジナル、呪いの品だったりしない?」
「割とそう」
私からすれば呪いの物品だ。
センターになるにはそれもたないといけないのか……。などと、日比谷ちゃんもドン引きだ。
別にセンターがオリジナルを持つわけじゃないと思うよ?
まあ裏事情知らないとそう思っても仕方がない。
「準備できましたー!」
「お、兎島ちゃんお疲れ様」
「いえいえ~。この中で一番弄り慣れてますから!」
「……この子の家、サーバーとか何に使うかわからない機械がいっぱいあるのよ」
日比谷ちゃんがこそっと耳打ちしてくれる。
兎島ちゃん。そんな趣味が……。
さてさて。機材のセッティングも終わって、撮影ドローンの起動も終わった。
後はタブレットから配信のボタンを押せば配信開始となる。
タブレットは私が持って、時刻を確認する。
ちょうど、配信予定の時間が近づいてきていた。
「それじゃあ、配信開始するよー!」
「「「はーい」」」
兎島ちゃんに教えてもらったように、配信開始のボタンを押す。
すると、画面に私たちの姿が映る。
当時に、嵐のような勢いでコメントが流れ始めた。
「うわっ! 凄いコメント量!」
「見せて見せて!」
「これはすごいですね……」
四人も集まってきて、タブレットを覗き込む。
始まったばかりなのに同時接続数五十万!?
この間の配信の数倍いってるじゃん!
『おっ、始まった』
『ここが噂のダンジョンかぁ』
『探索者じゃないと見る機会ないから新鮮だな』
『一見するとただの森みたいだな』
ただの森という指摘があったように、今回選定されたのは森林型のダンジョンだ。
サルや狼によく似たモンスターが登場する。動きがすばしっこい連中が多い。
動きが多い方が映えるだろうという判断で選ばれたらしい。
そういう意味では、この間のアーマージロは盛り上がりに欠ける見栄えだったからね……。
「そうだ、挨拶」
「みんなこんちわ~。エクスプラ・マギカだよ~」
「束村が一人でやってくれたわ」
『自由過ぎる』
『配信慣れしてるねぇ』
『リーダーは未だにぎくしゃくしてるのに』
『自己紹介撮り直し十八回に慣れを求めるな』
酷い言われようだ。
心に来る。
「さて、それじゃあダンジョンでの配信ってことだけれど……」
「とりあえず私たちがモンスター退治してるところ映すんでしょ?」
槌を肩に担いで、日比谷ちゃんはやる気満々だ。
……なんだかんだ楽しんでない?
「一応私が解説役としてみんなを見守りつつ、コメント拾うね」
『うおおお、十八回の実況だ!』
「その呼び方止めて!」
メンバー内で笑いが沸き起こる。
みんな、ネット上で成瀬が十八回って呼ばれてること知ってるな?
酷い話だよ。本当に。
「ま、気軽にやりましょ」
「ですね!」
「最悪十八回のリーダーがカバーしてくれるから!」
「束村ちゃんまで!」
まったく喋らない比嘉ちゃん以外の面々まで私を弄り始めた。
はぁ、と息を吐いて肩を落としていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
比嘉ちゃんだ。
「慰めてくれるの?」
「……撮り直し十八回は才能がないと思う」
「追い打ち!?」
『ひでぇw』
『天然キャラにも言われる始末』
『配信の才能はないよ(弄られる才能はあるよ)』
コメント欄が沸き上がる。
みんな酷いや。私の味方は未里花だけだね。
そんな悲しみを抱きつつ、私たちはダンジョンの奥へと進む。
このダンジョンの等級はEランク。
まあ、そんな危険ではない。
ダンジョンの等級は探索者ランクと同じだけある。
すなわち、FランクからSランクまで。
まあSランクのダンジョンはまだ確認されてないんだけれど。
基本的には自分と同じランクのダンジョンに入るのが推奨されている。
ただ、今回はみんなスクール上がりだからってだけで、私から見てEランクの実力はあると判断してこのダンジョンに入ることになっている。
安全面は全部私が保証だ。
何かあったら私のせい。
ま、その何かは起こさせないけれどね。
「束村ちゃんが相手しているのがゾンビウルフ。見ての通り肉体の一部が腐ってるから、攻撃を食らうと感染症が怖いね」
『普通に解説がえぐい』
『知ってはいたけれど殺意たけぇ』
『ダンジョンのモンスターこえーっ! 迫力が違うわ』
「でもほら、盾で防いで――日比谷ちゃんが横からとどめを刺した」
束村ちゃんは動きが機敏で、対応力が高い。
引き付ける立ち回りがとても上手だ。
日比谷ちゃんは一撃が強く、その振りどころを知っている。
兎島ちゃんも弓矢で機敏にけん制や足を狙って束村ちゃんを補助している。
比嘉ちゃんも魔法でのサポートが的確だ。
本当に仲がいいからこそできる、互いを信頼しているコンビネーション。
美しいと思う。
「ふぅ! これで何体目?」
「五体目かしら」
「集団で現れないのが救いですね」
四人で一体一体なら対処できる。
見てる感じ、一人一体だと辛そうかな?
二人で一体ぐらいなら何とかなりそうだ。
『探索者って毎日こんなことしてるのか』
『動きが十五歳の女の子とは思えねぇよ』
『てか魔法少女コンセプトなのに物理なのな』
そこらへんはご愛敬。
魔法は前衛がいないと扱いづらいのだ。
パーティに含めるにしても一人か二人が基本。
理由は、彼らはガス欠を起こしやすいから。
基本戦力にするにはよっぽど卓越した実力者じゃないと難しいんだよねー。
「まあまあ。みんな大好き日曜朝だって肉弾戦するでしょ?」
『それもそうか』
『十八回さんも日朝見てるんだな』
『ネットは見てないのにテレビは見る。本当は実年齢高いんじゃ?』
……みんな、鋭いねー。
女の子に年齢の話をすると嫌われるぞ?
もうそんな年でもないけどさ。
『そろそろ成瀬の動きも見たい』
『確かに、また魔法撃ってほしい』
「うぇ!?」
『あまりにも変な声』
『アイドルが出していい声か? これが……』
矛先が唐突にこっちに来た。
いや、要望来るのは分かってたけどさ。
けどさぁ……。
うーん。でも、このままだらだらと配信していても終わり時がないのも確かなんだよね。
しょうがない。ここは私が締めを作るか。
「しょうがないなぁ」
『おっ?』
『これはやってくれる流れ』
「じゃないと低評価入れるでしょ」
『ソンナコトナイヨ』
『高評価三回押しました!』
他の四人を集めて、さらりと役回りを交代する。
彼女たちを休ませる意味もある。
そして、私が向かうのはこの密林地帯にいる、とあるモンスター。
そいつから取れる魔石がこのダンジョンだと一番質がいいんだよね。
「わあ、でっかい……」
一言でそいつを表すのなら、人食いひまわり。
でかい花に口がついている。
その場から動けないから、魔法の狙う先としては十分だ。
因みに、ここまでに遭遇したモンスターは全部私が一人で対処した。
みんな疲れてるみたいだったからね。
コメントは確認できてないけれど、四人が楽しくコメントとおしゃべりしてたみたいだから大丈夫だと思う。
「それじゃあ、これが配信の締めだからね!」
宣言して、私はステッキに呼びかける。
必然、ステッキは答えてくれる。
私の体も、導かれるように、流れるようにポーズを決めた。
「煌めく魔法は正義の証!」
詠唱が始まれば、後は全自動だ。
人食いひまわりもこっちに気が付いたけれど、遠くて手が出せていない。
ステッキを回し、ポーズを取る。
その勢いのままステッキの先端を人食いひまわりへと向けると、青色の奔流が杖から放たれる。
「全てを星の光で包み込め、スターライトインクルージョン!!!」
青い奔流は、私の掛け声と共に太さを増し、人食いひまわりの全体の四割を吹き飛ばし――無残にも魔石がその場にころりと落ちることで、結果を表す。
「エクセ、キュート!」
私の決め台詞。残心ポーズと共に、配信は終了したという。
――これ、今後配信する度に同じことやらないと追われなかったりする?
何回やってもすっごい恥ずかしいんですけれども!?