ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
今日は成瀬ではなく、久留実理子の姿で会長の部屋を訪れている。
そして、渡されたタブレットで配信の結果を確認しているところだ。
んで、結論から言うと。
ダンジョン内配信は大成功だった。
最終接続数はミリオン越え。私たちの配信チャンネルの登録者数も五十万人を超えた。
「わあ、圧巻の一言ですね」
民衆の娯楽としては大変刺激的だったらしい。
年頃の可愛い女の子がアニメの中で出てくるような敵と実写で戦っている姿は、様々な人を興奮させていた。
反響が日夜SNSに流れ、次の配信や倫理観についての議論などが積極的になされている。
動物愛護団体がうるさそうだなとか思ったけれど、彼らも死んだら魔石になる存在は中々生物として認めづらいところがあるようだ。
死体が残ってたらまた話は変わったんだろうなぁ……。
「これ、協会としてはどうなんです?」
「成功の部類とは言っていいだろう」
成功なのか。
世間的には賛否両論でも、結果的に探索者志望は増えたらしい。
「目的通り、このような女の子たちでもできるのなら。と志望者が増加しているのでな」
「相変わらずカスの理由ですね」
「言ってくれるな」
まあ探索者なんてカスの動機で結構。
大事なのは生きて魔石資源を持ち帰れる実力だ。
まあ、強すぎるカスが生まれた時は問題だけれど……。
そこら辺を対応するのは協会の役目なので、私が心配する問題ではない。
当事者意識が足りないとか言われるかもしれないけれど、実際その通り。
私にできることはあまりにも少ない。
私は所詮、最初期の探索者の一人でしかないんだから。
「で、今日は成瀬じゃなくて私に用事って、どういう了見なんです?」
そう、今回会長に呼び出されたのは成瀬ではなく、久留実理子の方なのだ。
つまり、今回は広告役以外の了見で呼び出されたことになる。
「なに、今回の施策が想像以上の成果を上げているのでな」
「ご褒美でもくれるんですか?」
「そのつもりだ」
自分で言っておいてなんだけれど、びっくりした。
いや、本当に。
「……私は何だと思われているのかね」
「けちんぼクソ爺」
「遠からず、と言ったところか」
自覚はあるのね。
ならまだましな方か。
これで心外とか言われてたらぶん殴ってたかもしれない。
「君も心労が多いと思ってな。その、十八回だのなんだの」
「あぁ?」
「いや、失礼。失言だった」
撮り直し十八回がなんぼのもんじゃい。
こちとら娘を撮るのなら誰にも負けないと自負してるんやぞ。
自分を撮るのは専門外じゃ。
こほん、と咳ばらいを一つして、会長は二枚の紙ペラを差し出してきた。
なんだろうと、受けとってみれば、その正体はすぐに分かる。
むっ。これは有名テーマパークの……。
「それでテーマパークの年間パスポートと引き換えられる。娘さんを連れて息抜きしてくるといい」
未里花もこの前行きたいって言ってたな。
プリンセスの衣装を着たいと。
最近は魔法少女の方が欲しいみたいだけれど。
最近の子供向け玩具、バリエーションが多いのなんの。
「臨時である程度口座に入金もしておいた。お金のことは気にせずに遊んでくるといい」
「ケチの癖に随分と羽振りがいいですね」
「ケチであることは否定しないが――」
なんて、前振りをされる。
「ケチというのは、必要以上の出費をしないことを言うのだ。これは必要経費というものだよ」
まあ、要するに私が嫌にならない程度に飴をくれるということなのだろう。
会長の目から見ても私の負担は大きいらしい。
……まあ、Fランク四人の子守りしながらのダンジョン探索だからね。
バックパッカー連れてのダンジョンアタックとはまた話が違う。
あっちは完全に戦闘には不参加な分守りやすいから。
「……ふーん。そういうことならありがたく貰っておきますね」
「そうしてくれると助かる」
そんなこんなで、私は娘と一緒にテーマパークへ行くチケットを手に入れたのだった。
因みに、エクスプラマギカのお仕事は少し休憩だ。
ダンジョン内での配信の影響が大きすぎて、次回の配信をどうしようかというのが企画部で紛糾しているらしい。
知ったことじゃないが、お休みが多い分には嬉しい話だ。
「と、いうわけで来ちゃったよ」
「来ちゃったよ!」
うーん、私の言ったことをオウム返しする未里花が可愛い。
さっそくもらった次の日に、年間パスポート引き換えチケットを使い、テーマパークへやってきました。
ここ数年は財政状況的に来れてなかったからねぇ。
……昔は、あの人とも何回か来てたんだけどな。
あっさり死ぬような人間じゃないから、どっかで生きてるんだろうけれど。
早く姿見せなよね、馬鹿野郎。
なんて、少しばかり湿っぽくなってしまったけれど。
今大事なのは未里花の笑顔だ。
久しぶりのテーマパークにウキウキで、眼を爛々と輝かせている。
「お城! お城登るの!」
「登るの!?」
「お馬さんに乗って登るの!」
子供の言うことはよくわからない。
多分、この前見てたお馬さんのアニメの影響だとは思うけれど。
あれでは虹を登ってたんだっけ?
「登るのは危ないからね。ほら、あっちの方に行けばお馬さんに乗れるよ」
メリーゴーランドに乗ろうね、と言外に誘導する。
その前にショップとか寄ろうかなと思ったけれど、未里花はいち早くも遊ぶ気満々だ。
「私お馬さん好き!」
「そうだねぇ」
うんうん。うっきうきだね。
これは帰りでぐっすり睡眠コースだ。
しかし、今日は平日なはずなんだけれど。
心なしか人が多い……?
もうちょい空いてるイメージがあったのだけれども。
「何か催し物でもやってるのかな?」
「あっ! ママ! あれ見て!」
未里花が突然人ごみの方を指差した。
何だろう。確かに、あっちの方に人だかりができている。
「ん? どうかした?」
「魔法少女さん!」
「……へ?」
この遊園地に魔法少女の演者さんなんていたっけ?
なんて思いながら人ごみを凝視する。
――人ごみの隙間からちらりと見えたのは、とても見知った四人組だった。
嘘でしょ。と思いつつ。
すぐに理解する。
あの爺、あの四人にも年間パスポート渡したんだな?
それで、さっそく遊びに来た。ということで行動が被ったんだ。
急いでネットで検索をする。
SNSの使い方も覚えた。
すると、やっぱりメンバーたちが今日このテーマパークに訪れることが呟かれてて、ネット上で話題になっている記事を発見した。
なんでオープンな場でそういう事言うの?
と思ったけれど、束村ちゃんが言い出しっぺのようだ。
あの子なら、まあ、しょうがないかと思ってしまう。
ネット上での活動も熱心にやってるみたいだし。
「人ごみは危ないから――」
成瀬の状態ならともかく、今の姿で彼女たちと鉢合わせる勇気はない。
正体ばれの恐怖もあるわけだし、ここは一刻も早く離れてしまおう。
「魔法少女さん握手してー!」
「あっ! こら、未里花!」
なんて思惑は、無邪気な子供の動きによって打ち砕かれる。
最近お熱の魔法少女を前に、我慢するなというのは無理があったのだ。
「……幾らなんでも人が多くないかしら!」
「あはは、ごめん」
「和紗ちゃんの拡散力、ちょっと私たちも舐めてたね」
困り気に談笑している四人組。
比嘉ちゃんは相変わらず無口だけれども。
「魔法少女さん! 握手してください!」
――そんな彼女たちの空間に。
我が愛しの娘は、突撃していった。