ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
後ろ姿からでも分かる、きらきらと瞳を輝かせている未里花。
ああなった子供を止めるのは不可能だ。
根本的なバイタリティが違う。
思わぬ来訪者に最初に反応したのは、やはり兎島ちゃんだった。
「わあ、可愛い!」
「お姉さん、魔法少女さんでしょ?」
見たもん! と叫ぶ未里花に対して、そっとその場にしゃがみこんで対応する兎島ちゃん。
凄い子供の扱いに慣れている感じがする。
小さな姉弟でもいるのかな。
「ふふふ、お嬢さん。見る目があるねぇ!」
束村ちゃんのテンションがおかしいことになってる。
魔法少女として認知されていることがそんなに嬉しいのかな。
嬉しそうだな。
はっ、それよりも見ている場合じゃない。
行かないと。
でも、今の私が彼女たちの前に出て大丈夫?
その躊躇いが、動き出すべき足を止める。
動き出さなければという思いと、動いて大丈夫かという迷い。
もしも知らない人相手なら、すぐに飛び出せただろうに。
なまじ知っている相手だからこそ、すぐには問題がないと思えてしまうばっかりに。
「お嬢さん。お母さんはどこ?」
「あっ」
兎島ちゃんが優しく問いかけたことで、未里花は自分が一人だということに気が付いたようだ。
そして、こちらへと視線を向けてくる。
つられて、周囲の視線もこちらへと向く。
「ママ! 魔法少女さん!」
爛々とこの上なく喜びを瞳に湛えている未里花の様子を見て、邪魔をするのはできやしない。
だから、私は周囲の視線を浴びて、静かに五人の方へ歩き出した。
「……ごめんなさい。私の娘が」
「――嘘」
私の姿を見たメンバーは、まんまると目を丸くしている。
信じられないものを見たかのように。
信じたくないのは、こっちの方だって言うのに。
「未里花。お姉さんたちが困ってるでしょ」
「あっ!」
私の問いかけで、未里花も自分がはしゃぎ過ぎたことに気が付いたみたい。
良かった。
「ごめんなさい! 魔法少女は秘密なんだもんね!」
……そういうわけではなかったみたい。
まあ、いいか。
彼女たちも笑ってくれてるし――日比谷ちゃんを除いて。
彼女だけは、呆然とこちらを見つめてきている。
バレた? いや、多分違う。私が違うと思いたいだけかもしれないけど。
「あの、間違ってたらごめんなさい」
切り出してきたのは、兎島ちゃんだった。
「ん、なあに?」
「ひょっとして、久留実理子さんですか?」
……ふぅ。
以前の日比谷ちゃんの語り口からして、私の事を知られてるだろうなとは思っていたけれど。
まさか見た目で一発とはね。
このまま未里花を連れて帰りたかったんだけれど……。
ちらりと様子を見ると、兎島ちゃんも束村ちゃんも、未里花みたいに目を輝かせている。
比嘉ちゃんですらびっくりした表情を浮かべている。
これは、嘘吐く意味もないな。
苦笑いして、言葉を返す。
「別に、有名人のつもりはないんだけれど」
「やっぱり! 理子さんだ!」
「本物! すごいすごい!」
兎島ちゃんたちを目的に集まっていたギャラリーからは、久留実理子って誰だ? って声が聞こえてきている。
やっぱり世間的には私はさして有名じゃないよねぇ。
「魔法少女さん、ママの事知ってるの?」
「あのね。私たちが魔法少女になろうと思ったきっかけの人なの」
あの、その紹介の仕方は語弊を生むんじゃない? 兎島ちゃん。
「ママ! 魔法少女さんだったの!?」
ほら、誤解を生んだ。
「違うよ。探索者っていうお仕事をしてただけ」
「私たちが探索者になろうと思えたのも、理子さんがかっこよかったからなんですよ」
普段からハキハキ喋るのが特徴的なのが兎島ちゃんだけれど、今日はひと際勢いがいい。
なんか、その、照れちゃうな。
それと、少しの罪悪感。
私の頃の探索者は、そんないいものではなかったから。
今は大分変わったけれどね。
認めたくはないけれど、あの爺のおかげで。
「えと、魔法少女さんは探索者さんなの? 探索者さんは魔法少女さんなの?」
「んんー。未里花にはちょっと難しいねぇ」
「難しいねぇ?」
オウム返ししつつ、こてんと首をかしげる未里花の姿が何とも愛らしい。
この間の探索者になる発言はすっかり忘れ去っているようだ。
まあ子供なんてそんなものだよね。
「可愛いー。未里花ちゃんって言うの?」
「言うの!」
兎島ちゃんたちもきゃいきゃいうちの娘の可愛さにはしゃいでいる。
「うんうん。偉いねー」
「ねー!」
子供特有のオウム返しに、みんなにっこにこだ。
兎島ちゃんが撫でてもいいかとアイサインを送ってきたので、頷いてあげる。
「可愛いー!」
撫でるどころか、おいでおいでしてぎゅっと抱きしめた。
距離感近いなぁ、今の子たちは。
……まあ、未里花も嬉しそうだからいっか。
憧れの魔法少女さんに抱きしめられてご満悦と言った様子だ。
しかし、今のところ成瀬が私だってバレてる様子はなさそう?
いや、あるか。
日比谷ちゃんが無言でずっとこっちを見つめてきている。
「……」
じっと。真剣な面持ちで。
日比谷ちゃーん。楽しい楽しいテーマパークでしていい顔じゃないよ?
てか険しすぎる。なに、私の事嫌いだったりする?
怖いよ。
「未里花ちゃん。お姉ちゃんとも遊ぼー!」
「遊んでくれるの?」
「うんうん。私は束村和紗って言うの。和紗ちゃんって呼んでね」
「かずさちゃん!」
束村ちゃんもきゃーきゃー言いながら参戦してきた。
我が娘は魔性の女だ。
あの比嘉ちゃんですら、積極的に触れあっている二人を羨ましそうな眼で見ている。
気がつけば、周りの観客たちもまばらになってきている。
残っているのは、うちの娘と兎島ちゃんたちが戯れているのを穏やかな目で見ている人ばかりだ。
流石にこの雰囲気に入るのは気まずいのか。子連れもいるが近づいてくる気配はない。
「未里花。そろそろ遊びに行かないと、遊ぶ時間なくなっちゃうよ」
そろそろ離れても違和感は持たれないと思う。
幸いにも、これだけ戯れれば未里花も満足……。
「うぅ……」
していないみたいだ。
「みーりーか」
未里花は頭では遊ぶ時間が減るとわかっていても、大好きなお姉ちゃんたちに会えて離れたくない様子だ。
うーん。本当に、私としては気が気じゃないんだけれど。
こんなところで成瀬の正体ばれだなんて洒落にならないよ。
「あの!」
どうやって未里花を彼女たちから引きはがそうか。
そんなことを考えているときに声を発したのは、驚くことに一言もしゃべってなかった日比谷ちゃんだった。
「もしよろしければ、私たちと一緒に遊んで回りませんか?」
「……へ?」
よりにもよって、君がそれを提案してくるの?
束村ちゃんや兎島ちゃんじゃなくて???