ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
はてさて、どうしたものか。
「あっそっぼー! あっそっぼー!」
「未里花ちゃん元気だねぇ!」
「うん! 元気だよ!」
断りの文句がまるで見つからなかった私は、四人と一緒にテーマパークを回ることになってしまった。
こうなるんだったら、成瀬の時にキャラづくりでもしておくんだった。
何の拍子にバレるかわかったもんじゃない。
「しかし、嬉しいです。理子さんが許可してくれて」
「えーと、どうしてかな?」
日比谷ちゃんはなぜか隣に来るし。
比嘉ちゃんも反対側に来るし。
兎島ちゃんと束村ちゃんは未里花に気に入られてしまって、それぞれの手で掴まれている。
私たちの前方で三人おてて繋いで仲良しこよしだ。
なので、兎島ちゃん、束村ちゃん、未里花。
私、日比谷ちゃん、比嘉ちゃんの三人と三人のグループみたいになって行動している。
肩身が狭いよー!
「ほら、一応私たち未成年の集まりじゃないですか」
「ああ、そっか」
「探索者スクール生って、その、あんまり家庭環境いい子少ないので……」
日比谷ちゃんが少しだけ、後ろ暗そうに頬を掻く。
ふうん。そういう問題もあるんだ。
まあ、実際問題、我が子を大事に思うなら探索者なんてやらせたくはない。
あまりにも危険が過ぎる。
私も未里花が探索者を本気で考えてるってなったら、かなり慎重になるぐらいには。
「まあまあ。私で良ければ付き添うよ。未里花——娘も楽しそうだし」
「ありがとうございます」
うーん、成瀬では絶対に見られないような表情だ。
安心しているというか、甘えているというか。
普段ツンツンされている側としては非常に新鮮ではある。
なんで初対面でこんなのなんかは分からないけれど。
そして、気が付くとまた険しい表情に戻ってるし。
比嘉ちゃんはその様子を楽しそうに眺めてるし。
「それで、どこか行きたいとかあるの?」
「そんなの未里花ちゃんにお任せでしょ!!!」
「お馬さん!」
我が娘はずっとお馬さんをご所望だ。
調子がいい時は三回ぐらい乗ったりもする。
「メリーゴーランドかぁ」
「メリーゴーランドって、正しくはメリーゴーラウンドって言うらしいよ?」
「お姉さん物知り!」
うーん、向こうの三人は実に平和的で楽しそうだ。
眺めていて安心できる。
比嘉ちゃんはちくちく日比谷ちゃんを突っついて何をしてるんだろうなー。
何かからかわれるようなことをしているのかな?
「あの、理子さんって探索者引退なされたんですよね?」
日比谷ちゃんが話しかけてきてくれた。
早く話しなよって合図だったのかな。
「半分ね。時々は潜ってるよ」
日比谷ちゃんはどこか恐る恐るとした様子。
怖がられてる? いやまさか。
だったら隣に来ないでしょ。
「あの、失礼ですが、旦那さんは……?」
「あー」
なるほど。探りに来たか。
成瀬の事をあの人だと思ってるんだもんなぁ。
うーん。隠すのも変か。
「……まあ、ちょっと行方不明で」
「行方不明!?」
「別に隠してることじゃないから話すけれど、ダンジョン探索中の事故でね」
ん? 世間的には話ちゃ駄目なんだっけ。流れで話ちゃったけれど。
あー、まあ、いっか。
迂闊に話すような子でもないし。
「……あの、その」
「気にしなくていいよ。もう三年前の話だから」
気まずくしちゃったな。
誤解を解いておきたかったってのはあるけれど。
これは私の失敗かもしれない。
「湿っぽくなっちゃったね。ほら、せっかくのテーマパークなんだから、楽しく遊ぼう?」
「……はい」
慌てて仕切り直ししたけれど、日比谷ちゃんはしょぼんとしている。
気にしてないんだけどなぁ。
本当に、成瀬の時にあれだけ突っかかられても気にならないのはこういうところなんだろうな。
仕方がないので、そっと抱き寄せてあげる。
「り、理子さん?」
腕の中で日比谷ちゃんが慌ててるのが分かる。
成瀬の時だと私の方が身長低いけれど、今は私の方が大きい。
だから、胸を貸してあげる。
「若い子は他人の顔色なんて一々気にしてなくていいの」
そういうのは大人の役割なんだから。
そう言いながら、優しく頭を撫でてあげる。
これは十五歳の当時、私が実際に言われたことだ。
探索者として最前線でダンジョンに潜らないといけない中で、抱え込んでしまった私にかけられた言葉。
私は探索者としてAランクに登れるだけの才能があった。だからこそ、やらなければと根を詰めてしまっていたのだ。
あの人は今何してるのかなぁ。私と同様に、探索者はやめたって聞いたけれど。
当時は地獄過ぎて、連絡先を気軽にとり合うって風習もなかったから。
だって、次の日には相手が死んでるかもしれない世界だったんだし。
「……はい」
ぎゅっと、顔を押し付けるように日比谷ちゃんが抱き着いてくる。
……よしよし。
十五歳だもんね。
全然大人に甘えて良い年頃なんだ。
「ママーっ! 迷子にならないでー!」
「すぐ行くからー!」
いつの間にかに離れてた向こうの三人が、人ごみの隙間に見える。
日比谷ちゃんをすっと宥めて、行こうかと笑いかければ。
もう、彼女も笑顔になっていた。
比嘉ちゃんも、どこか満足げだ。
「行こう。あの子たちが待ってるよ」
「はい!」
すっきりした表情になったね。
うんうん、私の知ってる真っすぐな日比谷ちゃんだ。
これで成瀬の正体についての誤解も解け……解け……。
解けても何も問題は解決していないのでは?
――今はテーマパークを楽しもう!
「未里花、今行——っ」
未里花たちの背後には、メリーゴーランドがある。
三人は笑顔でこっちを向いていて、後ろではカラフルなお馬さんが上下に動きながら周回運動をしている。
この感覚を、私はよく知っている。
「――三人とも! こっちへ来て!」
「……え?」
私が三人の方へ駆け出すのと同時に――空間が歪んだ。
ぐにゃりとねじれるようにして。
渦を描き、輪へと変貌していく。
この現象を見たことある人は少ない。
私も、これで目撃するのは二回目だ。
判断が早かったのは、束村ちゃん。
私の声と、視線を辿り、景色の異常を見てすぐにその場から離れるために駆けだした。
手をつないでいた未里花と、兎島ちゃんもそれに続く。
日比谷ちゃんが後ろで息を呑んだ音が聞こえた。
比嘉ちゃんの短い悲鳴が聞こえてくる。
――ああ、全く。
今日は楽しくテーマパークで遊ぶ予定だったのに。
空間に穴が開く。
飛び出してきたのは、二足歩行の――牛頭の大男と呼ぶべきモンスターだった。
「グオオオオッ!」
雄たけびが上がる。
悲鳴が響き渡る。
牛男の視線は、一直線に向かう私へと叩きつけられた。
そうだ、私を見ろ。
お前の敵は、ここにいる。
全力で殺意を放ちながら、素手ながら接近する。
武器はすっかり携帯する癖を無くしてしまっていた。
昔だったら――四六時中持ち歩いていたのに。
「はああああああっ!」
まずは拳を胴体部に叩きこむ。
硬い。殴りつけた素手の方が、痛む。
一方で、牛頭の方はまるでダメージを負った痕跡がない。
怯む様子もなく、牛男の拳が振りかざされる。
避ける? いや、下手に避けると周囲へ被害が出る。
咄嗟に周囲の様子を確認する。
牛男に怯えて、周囲から人は逃げ出している。
怯えて動けなくなっている人もいるが、距離はある。
私と牛男の戦闘場のような空間が出来上がっていた。
「ならっ」
私は拳を受けるのではなく、受け流す。
勢いをそのままに、合気の要領で。
くるりと牛男が宙を舞い、背中から地面にたたきつけられた。
地面のタイルがバキリと音を立てて割れる。破片は飛び散ったが、怪我した人はいなさそうだ。
……受けてみてわかった。直撃すると、粉々に骨が砕ける奴だ。
受け流しただけなのに腕が軽くしびれている。
こんなモンスターが出てくるとは。
このダンジョン、Bランクはあるだろうか。
「理子さんっ!」
有効打がないのをどうしようか迷っていたところ、束村ちゃんの声が聞こえた。
ちらりと様子を見ると、彼女たちは未里花を連れて無事に離れてくれていた。
だけではなく、束村ちゃんの剣がこちらへ飛んできている。
助かった。
彼女たちの装備は、危険が無いようにランク相応以上のものを使っているはずだから。
私が宙を舞う剣をつかみ取るのと、牛男が起き上がるのが同時だった。
ここで周囲へ狙いを変えられるのが厄介だったけれど、幸いなことに牛男は私へ怒り心頭なご様子だ。
決着までは付き合ってくれるだろう。
「……まあ、負ける気はしないけれど」
未里花が不安そうな表情をしていた。
今にも泣きだしそうだった。
なら、側に行ってあやしてあげないと。
そのために――お前は邪魔だ! 牛男!
踏み込んだ足は、驚くほどに軽かった。
自分でも驚くほどに、鮮明に世界が見えた。
写真のように、細部まで、鮮明に。
シャリン。
刃の通り抜ける音。続いて、ぼとりと重量ある何かが地面に落ちる音。
振り返れば、首を失った牛男が、その場に倒れ込む姿が見えた。
――今の感覚は、全盛期にも味わったことがなかった。
まさか、成長している? とっくの昔に、成長限界に達していたと思ったのに?
だとしたら、理由は何?
一瞬の静けさ。
牛男が倒れて、ダンジョンから出てくる後続はいない。
しかし、以前としてかの入り口はぽっかりと口を開けている。
「理子さん!」
「ママぁ!」
束村ちゃんは変身した姿だ。
彼女たちはテーマパークにもあのステッキ持ってきてたんだね。
というか、変身に装備の装着も含まれてるのか。
「ママ、ママ、怪我してない? 大丈夫?」
私の無事を確かめるように、ペタペタと未里花が触ってくる。
くすぐったい。
そんなことも気にならない程、未里花の瞳からはぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「大丈夫。ごめんね、怖かったよね」
「……うわあああああああああああん!」
安心して、堰を切ったように泣き出す。
合わせて、周りの子供たちからも泣き声が聞こえてくる。
――ダンジョンは、唐突に開くものだ。
しかし、ここまで人が多い場所に開いたのは、過去にも例がない。
けが人はいるだろうけれど、犠牲者がゼロ人で終われそうなのは運が良かった。
「あの、理子さん」
「うん」
日比谷ちゃんが話しかけてきた。
その瞳には、不安と、恐怖と。
年相応の、揺らぎがある。
他の三人も同じだ。
「会長へ電話して。今すぐに指示を仰いで」
ここは、私が仕切る。
大人として、それが私がやるべきことだから。