ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
「……さて、やりますか」
最も警戒していた、ゲートをくぐってすぐの襲撃はなかった。
ゲートをくぐってさえしまえば、外界からこっちの姿を視認することはできない。
さっさと済ませてしまおう。
「聞かれてないとはいえ、恥ずかしいなぁ……」
ステッキを手に取れば、自分を使えと言わんばかりに光出す。
脳内にはマジカルチェンジ☆ピュアハートと言えという指示が出ている。
「ま、あの子たちのためだからね。さっさと済ませて帰りますか」
そう考えればまだ気は楽だ。
「マジカルチェンジ☆ピュアハート!」
ステッキを掲げながら、叫ぶ。
光の帯が私の体を包み込み、その姿を成瀬のものへと変えていく。
改めて、入ってきたゲートの方を見る。
ゲートは新緑に包まれている。その向こうのテーマパークからも、こちらからも隔たれている。
「改めて、確認するとしますか」
目標はゲート発生源の撃破。
おそらく、強力なモンスターが発生しているはず。そいつの討伐、ということになる。
あの牛男がBランク相当だから、ゲート発生源はAランク相当と考えていいはず。
「ふぅー。幾らステッキの力があるからと言って、ソロだから油断は禁物だね」
自分に言い聞かせるためにわざわざ口に出す。
これは儀式のようなものだ。
ソロでもパーティでも、気を付けるべきことは口に出して共有する。
慣れ、というか染みついてしまった習慣と言うべきか。
「まずは周囲の再確認から」
ゲートを通った先は、森林型のフィールド。
この手のオープン型フィールドは探索に時間がかかる。同時に、来た道を正確に戻るのが困難だ。
ただし、今回は出来立てということもあって、おそらくドーム型の行動制限が課されている。
目標のモンスターは範囲内に必ずいる。
「モンスターは強いモンスターから逃げてくることがある。とりあえずモンスター見つけて、そいつが来た方向へ向かうとしようか」
そうと決めれば……さあ、ダンジョンアタックと行こうか。
森林型の特徴として、木々が密集している分動きが取りづらいというのがある。
さっきの牛男たちがいるダンジョンとしては随分と不釣り合いに感じる。
と、言うことはおそらく集落のようなスペースがあり、そこから追いやられたと考えるべきだろう。社会性があるのかはわからないけれど……。
周囲をざっくり見回した感じ、山脈がエリア内にあるようには見えなかった。
だから、そっちへ向かう必要はない。
耳を澄ませば、足音が聞こえる。
地面を踏みしめて揺らす音。
先ほども聞いた牛男たちの足音だ。
私はそっちへ真っすぐ向かう。
森林の枝葉をかき分け、走る。
時間との勝負であることを忘れてはならない。
牛男を視認した。三体いる。まだこちらには気が付いていない。
「『モードチェンジ、ソード』」
首を落とせば死ぬのはさっき確認できた。
なら、もう一度狙う。
「一」
不意打ちで一体目を撃破する。
二体目と三体目がこちらに気が付いた。
「二」
戦闘態勢を整え切る前に二体目の首を刈る。
やはり、成瀬の状態だと遥かに体が軽い。
思うがままに体が動く。必要なだけ世界が鮮明に見える。
不足と感じる要素が、何一つとしてない。
「三っ!」
棍棒を振り上げた両腕ごと、牛男の首を両断する。
首を失った死体が三つその場に崩れ去り、魔石へと姿を変える。
「……やっぱり規格外だね、成瀬状態は」
さっき生身で戦った時と比べて、明らかに動きの楽さが違う。
これが自分の実力だと勘違いしないように気を付けないと、ふとした拍子に死にそうだ。
初めて銃や弓を手に入れた人類ってこんな気持ちだったのかな。
そのぐらいの革命な気がする。
「足跡は……向こうか」
牛男たちがやってきた方向へは、ばっちり足跡が残っている。
これを辿って行こう。
この牛男たちが逃げるぐらいのモンスターかぁ。
正直、結構怖い。
怖いけれども。
この怖さを子供に背負わせるのは、違うと思うから。
「行こう。そして終わらせないと」
早いところ安心させてあげないとね。
待ってる側も大変なのはよく知っている。
道中、牛男たちに何度か遭遇した。
その都度、首を刈る。
彼らには悪いかもしれないけれど、こっちにも事情があるのだ。
「……見えた」
そこは里のような素朴な村だった。
そう、だった。
炎に包まれ、家々は壊され、跡形もない。
人間のものよりも一回り以上大きいそれらを壊したモンスターは、平然と村の真ん中に居座っている。
――口には、火炎を湛えて。
「竜種か」
竜種のグレードは低く見積もってもAランク。Sランク相当の可能性もある、とされている。
さてはて、この個体はどれ程のものか。
「いざ、尋常に……と行かせてもらおうか」
不意打ちしようと思ったけれど、向こうもこちらの存在に気が付いたらしい。
その長い首をこちらへ伸ばして、真っすぐ顔をこちらへと向ける。
――口が開き、光が見える。
咄嗟に横方向へ飛びのく。
寸前まで立っていた場所が、炎の渦に飲み込まれた。
木々が灰となり、その火力の高さを思い知らせてくれる。
まともに受けたら、成瀬状態でもただでは済まないだろう。
「怖いね。それじゃあ吐けないようにしてみようか」
一足飛びで距離を詰める。
すさまじい速度が出た。自分でも、これほどまでの速度が出るのかと驚くほどに。
としても、制御ははっきりとできる。
竜のすんでで急ブレーキをかけると地面にひびが入り、土が舞い上がる。
竜は反応している、顔はこちらを向いている。
が、この距離ではブレスは自分をも焼きかねない。
「まずは小手調べ!」
竜の右足首へ、剣を振りぬく。
鱗がパリンと砕け、その下の肉を切り裂く感触が伝わってくる。
咆哮、悲鳴。
成瀬は竜に通用することが分かった。
なら、手を止めることは悪手になる。
振りぬいた勢いを利用して、その場でターンする。
そのまま回転の勢いを付けて、もう一度同じ場所へ切りつける。
「グオオオオオオオオオオオ!」
足の一本がもげた。
血しぶきが飛び散る。血の匂いが周囲に充満し、鼻の奥まで鉄錆の香りで包まれる。
だとしても、それが行動を妨げる要因になってはならない。
なにせ、相手はまだ魔石になっていない!
「隙を見せたね!」
狙うべきは心臓か、頭。心臓は胴体の大きさから言って、剣で貫こうとしても届かない可能性が高い。
なら、頭を潰す!
はるか頭上にある頭を潰すためには、あれをやるしかない。
ステッキもそう言っている。叫べ、使え、魔法少女をしろ、と。
「煌めく魔法は正義の証!」
竜の頭がゆらゆら揺れる。
それすら関係ない。
「全てを星の光で包み込め!」
狙いを定める。
多少ぶれても問題ないほど、極太のそれで。
確実に、仕留め切る。
「スターライトインクルージョン!!!」
ステッキから、これまでの比ではない程の太いビームが出た。
光の奔流は竜の首から上を飲み込み――瞬く間に蒸発させていく。
空へ向かって突き進むそれは、上空の一点に当たってはじけた。
その事実は、まだダンジョンが固定化されていないことを示している。
「エクセッ、キュートッ!!!」
最後の決めポーズと同時に、竜の死体が地面に横たわり、霞となっていく。
残されたのは、拳大の魔石が一つ。宝石を見まがうかのように、美しい赤色に染まっていた。
「――これで、無事に終わりかな」
終わったという確信があった。
地響きが鳴り響く。これはゲートが閉じる前の前兆だ。
世界間の繋がりが閉ざされようとしている。
ここからは真っすぐゲートまで戻るだけだ。
変身も解いてしまおう。
成瀬の状態で戻ったら、言い訳のしようがなくなる。
「……変身解除」
ステッキが満足するまで残心した後、変身を解除する。
――終わった。という満足感で、私はあまりにも不注意だった。
成瀬なら、気が付けたはずなのに。
「理子さ、え、成瀬? え?」
「――は?」
声がした。
振り返る。
そこには、武装し身を固めた、日比谷ちゃんと比嘉ちゃんが呆然と立っていた。
「え? 今、え?」
「どういうこと、どういうこと?」
――二人の様子から見て、確実に見られた。
どうする? 口封じをするべきか?
いや、それよりもやるべきことがある。
「ゲートが閉じる! 二人とも、言いたいことはあるだろうけれど、まずは脱出!」
「っ! はい!」
強い声色で行動を宣言すれば、訓練されている彼女たちは即座に従う。
……これ、戻った後どうするべきかな。
困ったら全部会長に投げつけてやろう。
そう思いながら、私たちはゲートへ全力で走った