ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
「会長! どうしてこんなポッと出が私たちのリーダーなんですか! 私たちはスクールに通ってるんですよ!」
……なるほど。理解できてきた。
今の私は成瀬ミルナ。無名の探索者、ということになっているのだろう。
そんな名前も知らない奴が、スクールに通ってまで探索者になろうとしている自分たちを率いるのが気に入らないと。
ははぁ、若いと元気があってよろしい。
「日比谷ちゃん。とりあえずまずは自己紹介しないと」
「会長の前だしね」
「うぐっ」
日比谷ちゃんって言うのか。
そして、やっぱり四人とも知り合いみたい。
つまり、全員スクール生ってこと。
「
「私は
「……
「自己紹介の流れ~?
十人十色、この場合は四人四色?
まあ個性たっぷりな自己紹介をしてもらったところで、改めて自己紹介しよう。
「私は成瀬ミルナ。会長に頼まれて、あなたたちのリーダーをすることになったらしいのだけれど……」
「私は認めないからね!」
うんうん、日比谷ちゃんは元気がいいねぇ~。
ちらっと横目で会長に訴えかける。
これどうするんだよ、と。
視線で返される。
想定の範囲内だ、と。
爺さんは一回咳ばらいをして、その場の注目を集める。
「さて、私の口から説明をしよう」
「はい! よろしくお願いします!」
ひと際元気で真面目そうなのは兎島ちゃんだ。
アイドルと言えば元気枠、みたいなのあるけれど。この子がそうかな。
「まず、君たちはスクール出身の若手探索者である。そのため、認定ランクはF相当とさせてもらう」
まあスクール出たてならそんなものか。
探索者ランクってのは、ざっくりとその探索者がどのぐらい強いのかの指標。
私は全盛期のまま更新してないからAランク。
多分、今更新したら下がると思う。
探索者ランクの最高値はSランク。Sランク認定は殆どいないけれどね。
よほどの強さか、よほどの影響力が無いと認定はされない数値だ。
Fランクは……まあ見習いほやほやって感じ。
「それに対して、成瀬くんの認定ランクはCだ」
「「「「っ!?」」」」
……まあ年を取ったし、最前線を退いて久しいから、実際にはDランクぐらいかもしれない。
そこらへんも考慮して、会長なりに見栄を取ってくれたのかな。
でも、ひよっこたち相手には十分なインパクトだったみたい。
「信じられません! だって、見るからに私たちより若いし、名前も聞いたことないのにCランクだなんて……」
見るからに若い? 嘘でしょ、鏡が欲しい。
今の私の見た目はどうなってるの。
「会長の私が嘘を言っているとでも?」
「それは……」
ちらりと、会長がこちらを見る。
はぁ、この爺さんは本当に。
しょうがない。受けた仕事だし、やりますか。
「とりあえずダンジョンに行こうか。見た方が早いでしょ、お互いに」
◇ ◇ ◇
と、いうわけで手軽な近場の新宿にある初心者向けダンジョンにやってきた。
このダンジョンは洞窟型で、定期的に魔石が壁面に生えてくる。
ので、戦闘をしたくない初心者が採掘にきたりもする。
敵も動きが遅くそんな強くないので、初心者にはうってつけだ。
「さて、あんまり深くまでは行かないで、入り口のポータル付近で軽く戦ってみようか」
「成瀬さん! その前にいいですか!」
「ん? なあに、兎島さん」
礼儀正しく元気いっぱいなのは兎島さんだ。
おそらく、このアイドルメンバーの中でも顔役になってくれそうな雰囲気がある。
冴えない男の子ってこういう子好きだからねぇ。
分け隔てなく接してくれるタイプ。
「会長さんに持たせてもらった録画ドローンを起動したいんですけれど、いいですか?」
「録画ドローン? 何それ」
私知らないんだけれど。
そんなものを持たせてたの?
「これで戦ってるところを取って、PV用の素材にしたいと……」
あー、なるほど。
こんな女の子でも探索者できますよってアピールを動画でするのか。
理にかなってるね。
流石の狸爺。
「わかった。起動をお願い」
「ありがとうございます!」
「録画ドローン知らないとか、本当にCクラス探索者?」
日比谷ちゃんが突っかかってくる。
しょうがないじゃん。最近ずっとソロで軽くしか潜ってないし。
何より、私が現役バリバリの時はそんなものはなかったんだから。
「……はい! これで大丈夫なはずです」
「おー、動いてる動いてる」
兎島ちゃんが黒い塊を少しいじくると、ふいんと音を鳴らして宙に浮き始めた。
そして、私たちの方を認識すると、追従するような形でこちらをカメラに映している。
「それじゃあ準備もできたみたいだし、行こうか」
「はい!」
「は~い!」
返事を返してくれたのは兎島ちゃんと束村ちゃんの二人だけ、か。
日比谷ちゃんはもちろん、比嘉ちゃんも無言を貫いている。
前途多難だなぁ。
「それじゃあ、私が先頭で進むから、後からついて来てくれる?」
「なによ、どういう意味?」
「お互いに、お互いの実力を知っておいた方が今後やりやすいでしょ?」
そのためには、交互に戦ってみるのが一番だ。
私は一人で。彼女たちは……難易度的に四人全員でもいいかな?
そうやって腕前を見せれば、少しは不信感を失わせられるだろうから。
「ほら、ちょうどいいところにモンスターが出てきたね」
モンスター――ダンジョン内に出てくる生物の総称としてそう呼んでいる――は倒すと魔石だけを残して消える不思議な生物だ。
いや、学会では生物かどうかも議論中なんだっけ。詳しくないけど。
今回出てきたのは三体のアルマジロのような魔物。
見た目が似ているので、アーマージロと呼ばれている。
「三体か。それじゃあ、まずは見ててね」
とはいっても、どうやって戦おうか。
ステッキを強く握ってみる。
すると、私の望んだ答えが頭の中にイメージとして浮かんでくる。
これが、会長が言っていた何をすればよいのか頭に浮かんでくるという事か。
「『モードチェンジ、ソード』」
言いながら、ステッキの側面をなぞる。
すると、ハートの部分が少し横に広がり
よし、これなら戦える。
「ふっ」
アーマージロの金属質の装甲には、僅かながら隙間がある。
でなければ、丸まって攻撃ができないからだ。
よって、そこを狙う。
「まず一」
するりと装甲の隙間に刃を通して、一匹を真っ二つに切り裂く。
「二」
臨戦態勢に入っていないのなら、こいつらはただの鈍重な獣だ。
もう一匹も同様にして狩る。
「三」
あっという間に、三匹目も倒す。
動きが遅く、丸まられれると面倒だからこそ、速攻で倒すのがセオリーなモンスターだ。
先手さえ取れれば問題にならない。
「すごい。アーマージロの隙間を狙うの大変なのに」
「先生はひっくり返して倒せって言ってなかったっけぇ?」
「ふ、ふん。多少はやるみたいじゃない!」
「……」
……少しは信頼を得られたみたいかな?
このぐらいは探索者の基本だから、できてほしいけれども。
「――四」
影に隠れていたアーマージロが、丸まってこちらへ突撃してきていた。
それを、回転を見極め、装甲の間を縫って刺し殺す。
今剣を振るってみた感覚的に、変身時は通常時よりも身体能力が上がっていそう。
「……と、まあ私の方はこんな感じかな?」
「「「「…………」」」」
流石に、回転しているアーマージロを倒せるとは思ってなかったみたい。
固まってしまった。
「ここまでは要求しないよ。ただ、どのぐらいの強さなのか見たいから、次は戦ってみて」
「は、はい! 頑張ります!」
「凄い人じゃーん! 色々教えてー!」
兎島ちゃんと束村ちゃんはすごいこちらに親し気だ。
最初は疑わしい視線を向けてきてたけれど、実体が分かったからかな。
その一方、より疑いの視線を向けてきているのは比嘉ちゃん。
日比谷ちゃんは……まあずっと敵対心燃やしてるね。かわいいね。
「兎島! 束村! 私たちもできるってところ見せるのよ!」
「うん! 頑張るね!」
「流石に成瀬リーダーほど上手くはできないけどね~」
「リーダーと決まったわけじゃない!」
比嘉ちゃんは? と思ったら一人腕を上げてえいえいおーしていた。
……不思議ちゃんってやつなのかな?
と、いうわけで。次は四人組に戦わせてみることにした。
対象は再び見つけたアーマージロ二体。
一体少ないけれど、さてはてどうやって対処してくれるのか。
……ん?
彼女たちは一様にステッキを取り出した。
私の持ってる奴に良く似ているけれど……。
「マジカルチェンジ! フォーム!」
「セット! イン!」
彼女たちも掛け声を挙げて、ステッキを掲げる。
すると、彼女たちがそれまで纏っていた衣服が、魔法少女らしきそれへと変貌していく。
これは……私が持ってるオリジナルのコピー品?
衣装を変えるだけの能力しかないって感じかな。
女児用おもちゃとして売り出したら結構売れそう。そこまで見てそうだなあの爺さんは。
変身が完了すると、今度はそれぞれが各々の武装を取り出した。
兎島ちゃんは弓。日比谷ちゃんは槌、比嘉ちゃんは杖、束村ちゃんは剣と盾。
「兎島は注意を引いて! そしたら片方は私がやるから!」
「比嘉ちゃんは私とね~」
二体の敵と見るや否や、四人組を即座に二人二人の二つのパーティに分割した。
判断としては良い。これなら、二体を同時に叩ける。
「日比谷ちゃん!」
「どっ、せいっ!」
アーマージロの一体は、矢によって気を引いた瞬間、装甲ごと日比谷さんの槌で叩く。
装甲が硬い相手に対して、打撃攻撃は有効だ。
「比嘉ちゃん!」
「形よ見失え、『ブラインドミスト』」
もう片方は、比嘉ちゃんの魔法によって、視界を塞ぎ、その隙に束村ちゃんがアーマージロをい素早くひっくり返して、腹を突き刺して倒した。
「まあ、こんなもんよ!」
「そうだね。Fランクとは思えない手際だったわよ。――油断さえなければね」
「え?」
私はすっと四人の隙間を縫って走り、日比谷さんが倒し損ねていたアーマージロにとどめを刺す。
危うく、丸まって日比谷ちゃんに攻撃を仕掛けるところだった。
槌の一撃だけじゃ倒しきれなかったのだ。
「ちゃんととどめの確認はすること。これは、探索者の基本だよ」
「うっ……たまたま忘れただけよ!」
負けん気が強いが故の油断、かな。
これは前途多難そうだ。
「もうちょっと戦ってもいいけれど、おおよその実力は分かったかな?」
「はい。最低限、録画も撮れたと思います」
「なら、一旦帰還して再度――」
話し合いの場所を設けよう。
そう言おうとした瞬間だった。
「――四人とも集合。私の後ろへ」
「なによ急に」
「早くっ!」
ぴしり。と、私たちの目の前の空間に亀裂が入った。
それを認識した瞬間、勝利の余韻に浸っていた四人も、息をのんだ音が聞こえた。
これは、ダンジョン内で、別のダンジョンと繋がるブレイク現象の予兆だ。
そして得てしてブレイク現象で繋がる別ダンジョンは――現在潜っているダンジョンよりも難易度の高い、高位のダンジョンであることが多い。
しかも、向こうのダンジョンポータルからモンスターが溢れ出す。
スタンピードだ。しかも、そのダンジョンよりも格上のダンジョンからの。
私のステッキがきらりと、水色の光を放っていた。