ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
どうする?
ブレイク現象が起きた時の対処法として正しいとされているのは、即時にその場を離れることだ。
そして、一旦入り口のダンジョンポータルを封鎖する。
後日精鋭を集めて、ダンジョン内を再制圧するというのがブレイク現象対応のセオリーだ。
ただ、それはブレイク現象が起こるのが予兆発生から時間がかかるという前提の元組まれている。
目の前の空間のひび割れは、明らかに今すぐにでもダンジョン間が繋がろうとしている。
明らかに、異常事態だ。
「あ、あわわわわ」
「ブレイク現象っ!?」
この分だと後数十秒でブレイクする。
となると、避難しても間に合わない可能性が高い。
「引くべきか、やるべきか……」
こういう非常事態はダンジョン内ではつきものだ。
そういう時、私は自分の直感を信じるようにしている。
少なくとも、その直感が本日まで私を生かしてくれたのだから。
「やる、か」
覚悟を固める。
それに、さっきからずっと頭の中にイメージが流し込まれてるんだよね。
ステッキが言っている。私を使え、と。
「ちょうどいいと考えればいいか」
四人に手で少し下がる様に指示を出し、私は一歩前に出る。
「ちょっと! Cクラス一人でどうにかなるものじゃないわよ!」
「まあ、見てて。少しばかり――本気でやるから」
はてさて、今の私の限界値はどのぐらいかな?
緊急事態なのに、不思議と焦る気持ちはない。
これはこのステッキの影響か。それとも――。
「――割れる」
空間が割れた。
我先にとこちら側へ出てこようとするモンスターたち。
ぼとり、ぼとりとまるで穴から産まれ落ちるかのように地面についていく。
二足歩行、人型のモンスターだ。
隙間から落ちてくるだけあって小型のものが多い。
「一、二」
地面に落ちて、まだ態勢が不安定なうちに首を切り落とす。
「三、四、五」
中型大型が出てくる前に、小型はとにかく処理しておきたい。
この場で怖いのは中型大型ではなく、小型だ。
後から隙をつかれて、あの四人を狙われては堪ったものではない。
「……す、すごぉ~」
「これが、Cクラス?」
微細な音まで拾う感覚器は、四人の無事を確認しつつ、呟きまで拾ってしまう。
Cクラス? まさか。
Aクラス相当の動きだよ、今私がしているのは。
この魔法少女変身ステッキ、正直尋常じゃなく身体能力が上がってる。
それこそ、全盛期を越えてるぐらいに。
「六、七、八、九、十……」
隙間から漏れ出してきた連中はこれでおおよそ処理できた。
続きは、穴に詰まっているデカ物どもだ。
「ちょっとこれは困るかなぁ……」
続いて穴から落ちてきたのは、人型大の狼種モンスター。
洞窟内だからまだマシだけれど、これを相手にするのは骨が折れる。
にもかかわらず、つまりが解消されたのか、大型もこちら側へと足を踏み入れてきている。中には厄介な毒蛇タイプのモンスターや飛竜タイプも見える。
ちょーっとまずいかも。
私だけならともかく、あの子たちに被害を出さない自信がなくなってきた。
なんて思っていると、ステッキから指示が飛んでくる。
これをすれば目の前の敵を一網打尽にできると。
――本気で言ってる?
「成瀬さんの動きが止まった……?」
「何かまずいことでもあったのかにゃあ」
まずい、あの子たちに不審がられてる。
でも、目の前の連中を剣だけで対処できる?
あの子たちを守りながら? 一人ならともかく?
絶対に安全だって言えるのは……こっちの択だ。
「き、煌めく魔法は正義の証!」
「「「「!!!」」」」
こ、このステッキ。
一定以上の声量で発声しないと発動を拒否とか言ってくるんだけれどぉ!
背中にすっごい視線を感じる。感じてるよ!
「全てを星の光で包み込め、スターライトインクルージョン!!!」
もはや半ばヤケになりながら、口上と技名を叫ぶ。
くるくるとステッキを回しながら、踊りを踊り、技名と共にステッキをモンスター共へと向ける。
ただ、それだけの行為だった。
ステッキが光り出す。
ただの光ではなく、質量を持ち、奔流となって目の前のモンスターどもを吹き飛ばす。
単純に見れば、極太のレーザーのようだ。
それが……二桁はゆうに行くだけの数のモンスターを倒しながら、ブレイクのポータルへと突き進んでいく。
「エクセ、キュート!」
決め台詞とポーズもセットでやらされる。
左手を腰に、右手をピースの形にして目の横へ。キラッ! と。
ただし、敵が全滅のおまけつきで。ブレイクポータルすら、粉砕してしまった。
今では元通りの洞窟の風景が広がっているだけだ。
……いや、ふざけてるなこのステッキ。二重の意味で。
後で会長と要相談だ。
「ブレイクがあっという間に……っ」
「わぁお」
「嘘でしょ……」
「あり得ない……」
はっ。そうだ。
あの子たちに思いっきり見られてた。
やばいやばい。恥ずかしい恥ずかしい。
これしか方法がなかったとはいえ、冷静に我に返ると酷すぎる。
三十路手前の子持ち女性が? キラッキラの魔法少女の物まねを人前で?
どんな羞恥プレイですかねぇ!
ほら! あの子たちも言葉無くしてるじゃん!
「……比嘉。魔法側の人間として答えて。あんな魔法、簡単に使えるものなの?」
「そんなわけない。あれだけの剣の技量なのに、魔法も使えるなんて過去に例がない」
「スクールの話だと、探索者は肉体か、魔法かのどっちかに成長が分かれるって話だったもんねぇ」
まずい。今度は明らかに不審がられてる。
今すぐ弁解したいけれど、このステッキ、体を直接操ってきてるし。
決めポーズのまま動けないんだけど! 残心まで決めて魔法少女だってこと!?
誰だよこれ作った奴! これだから意味わからないんだよダンジョン産デバイスは!
十秒程度経って、ようやく動くようになった。
もはや後ろを振り向いて、彼女たちの様子を見るのが恐ろしい。
なんて言ってる余裕もない、か。
「すごい! すごいです成瀬さん!」
「うっ!」
振り返ると同時に、誰かに抱きしめられた。
声から判断して、兎島ちゃんかな?
「魔法型なのに、近接戦闘も収めているなんて!」
「あはは……。ここだけの話ね?」
「はい!」
兎島ちゃんの視線は、完全に尊敬のそれに染まっている。
先輩風吹かせすぎちゃったかな?
束村ちゃんも目をキラキラさせてる。
「先輩先輩! 今のってうちらも真似できます?」
「先輩っ!? いや、ちょっと難しいかな……」
「ちぇー。私もキラキラ魔法少女やってみたいんだけどなぁ」
衣装だけじゃなくて、魔法型に覚醒したらよかったのに。なんて。
束村ちゃん。ギャルっぽいって思ってたけれど。
ひょっとしてこの中で一番魔法少女好きだったりする?
だってほら、兎島ちゃんはともかく。
日比谷ちゃんや比嘉ちゃんは少し恥ずかしそうにしてるから。
「とにかく、ブレイクはスタンピードに直結するからね。この場で収められて良かったよ」
「はい! 録画用ドローンにもしっかり映像残ってるみたいです!」
「……」
存在を忘れてたぁ!
え、嘘でしょ。今のやつ、全部撮影されてたの?
いや待った。録画だよね。生配信じゃないよね。
てことは、ドローンを壊せば……。
いやいやいや、どう見ても高価な備品。
それに、どうせまた撮ってこいと言われるに決まってる。
え、嘘。終わったんだけれど。
「成瀬さん?」
「先輩?」
「――ふぅー。ううん、何でもないよ」
ここは堪えろ、久留実理子。
この子たちを無事に帰してからでもおかしくない。
「ミッション、コンプリートということで」
……ひとまず、リーダーとしての威厳は失われたかもしれないけれど。
各員の実力の把握と、宣材用動画を撮ることはできたかな。
いや、本当に。
帰ったら愛娘――
体は元気なのに、とっても疲れたよ。今日は。
とりあえず会長は後で一発殴る。
「それじゃ、帰ろう」
「ですね!」
「先輩先輩! あの掛け声もう一回やって見せて! 真似するから!」
「それは嫌です」
今回の収穫は、兎島ちゃんと束村ちゃんからの信頼。
ただ……日比谷ちゃんと比嘉ちゃんからの不信は強くなったみたいかな。
仕方がない、か。
無事に生きて帰れることを、喜ぼう。
◇ ◇ ◇
あり得ない。
私はスクールで探索者について学んできた。
それは歴史も、体系もだ。
探索者自体歴史がまだ浅いから不明点も多いってのは分かるけれど。
今、目の前で見たのは全く別物だ。
私をはるかに上回る体捌きに、比嘉を大きく上回る魔法火力。
Cランク、いやAランク。下手したらSランクに到達しててもおかしくない。
それに……あの体捌きを、私は見たことがある気がする。
彼女が弟子を取ったなんて知らない。
でも、もしもそうなら――実績がない無名でありながら、いきなりCランクに認定されるのも納得できる。
「日比谷、どうする?」
「決まってるでしょ」
比嘉も、彼女の異常性に気が付いてる。
素直な兎島と束村は懐柔されてるけれど、私たちはそうはいかない。
「絶対に、正体を暴いてみせるんだから」
成瀬ミルナ。彼女の背後には、絶対に大きな秘密がある。
秘密を抱えたままのリーダーなんて。
私は、信頼できない。